ーーー夢を見ていた。長い夢だ。
本当に・・・長い、長い、良い夢だった・・・・・・。
子供の頃に起きた『白騎士事件』。
それによって台頭した女尊男卑で衰退していく男尊女卑。
それは大きな混乱こそ起きなかったけど、小さな混乱は無数に引き起こされていた。
その無数にある混乱の中で身の程知らずな子供が、リストラされたばかりの中年男に襲われたぐらいじゃ世の中は変わらない。世の中が変わろうとしているときに、そんな些事なんか誰も気にしない。見向きもしてくれない。幼い子供ごと切り捨てられて見捨てられる。
それが社会というシステムが守るべき『正義』だったからーーー。
ーーーーそれでも助けてくれる人がいた。癖のある笑顔で笑って去っていった『正義の味方』がいた。
だから憧れた。憧れたから目指した。努力した。成果を出した。
強くなって、悪を倒した。弱者を守った。どんな時でも正義を貫いて生きてきた。
IS適正が見つかった。IS操縦者への道が開けた。正義の味方になれると思った。
夢は叶う! 実現できる! 私の夢見た理想に・・・世界最強ブリュンヒルデに、もう少しで手が届くーーーー!
「・・・・・・だが、それは・・・・・・夢でしかなかったようだな・・・・・・・・・」
長い、長い、夢が覚め。現実へと帰還してきた私の視界には地獄が広がっていた。
私の成してきた正義により犠牲となった者たちの躯たち。成長して大きくなった私が、幼く弱かった頃の私を踏みつけ強さと正しさを説教している。
私の正義(今まで)が、像を成して展開されている。
正義という美辞麗句で飾り付けられた邪悪が視界一杯に繰り広げられている。
見たくなくて、目を逸らしたくなる醜悪すぎる光景が私の貫き通してきた正義。
ーーその犠牲となった者たちが落とされ、苦しめられている地獄が此処にある・・・・・・。
『醜いでしょう・・・? あなたの夢は』
気配を感じ、声が聞こえたので振り向くと、そこには“私が立っていた”。
私と瓜二つの形をした、もう一人の私。
いつだって私の正義に中にいた闇の側面。正しさの象徴としての最強戦力。
蒼氷の双眸をたずさえた「正義の味方の私」がそこにいた。
「これが、あなたの叶えてきた夢。
私が叶えてあげてきた、あなたの夢・・・その実体。
自分と異なるものを認めず、自らの正義だけを絶対と信じ、それ以外の可能性すべてを否定する。自分が認めたものだけが正しいかどうか試される価値を持つ」
「傲慢、独善、虚栄。敵を作り、倒すことでのみ証明される正義の正しさ。
口汚く他人をののしる、自分自身の悪口雑言。
正義を語り、悪を否定し、敵を倒すことのみしか行えていない自分への自画自賛」
「報酬はいらない、誰かが笑ってくれればそれでいいからと無償で行う、親切の押し売り。
悪を切り裂く剣への愛情と感謝。卑怯だと訴えた敵より優位になった途端に語り出す正攻法の正当性。
周囲から孤立する自分を正当化し、他人の悪は許さず、自らの悪は認めない」
「正義を貫けない味方へ向ける哀れみと慈愛・・・それによって得られる優越感。
自らは法で裁けぬ悪を裁いておきながら、他人の礼儀知らずぶりには呆れてみせる。
親ならば子に、子ならば親に、大人ならば子供たちに対する義務を果たせ。・・・どれもこれも自分自身が果たす必要のない義務ばかり・・・・・・。
自分がやらなくていいなら、誰にだって同じ事が言えるのに、言うこと自体に意義があるからと自分の行動だけを特別視する」
「自分のしていることを客観視することもなく、その場その場で自らの正しさだけを優先し、痛みは悪に屈せず信念を貫いたためだと自己陶酔に直結し、自分の友が傷つけば泣き、敵を殺せば涙を流し、自らが戦争を行う一個のマシーンであることだけは否定する」
『ーー詰まるところ、あなたのしてきた正義はそういうものだったのよ、△×□・・・。
あなたが正義を信じて貫くことが悪だった訳じゃない。美徳が悪だった訳でもない。
ただ、正義を成してきたあなた自身が悪だったと言うだけのこと。
あなたの心が、正義が、信じて成してきた行動、その全てが正義を真似して形ばかり再現してきただけの、醜悪すぎるカリカチュアでしかなかったという事。ただそれだけよ』
「・・・・・・・・・・・・・・・」
『辛いでしょう? 苦しいでしょう? 目を背けたくて仕方がなくなる醜さでしょう?
だから・・・ね? 目をつぶって意識の海に沈みましょう△×□・・・。
どうせあなたは、逃げられはしない・・・。綺麗なつもりでいた自分自身の醜さからは、誰一人逃れられはしない。逃げられないからこそ、閉じこもることに意味があるの。快感なのよ。
堕落とは、墜ちるとは、怠惰とはーーーとてもとても気持ちのいいことなのよ・・・?』
「・・・・・・・・・・・・・・・」
『だから私が代わってあげる。綺麗な正義だけを行いたいあなたの代わりに、醜悪な正義の実行者になってあげる。そしたらあなた、はーーーーーガッ!?』
突如として声が途切れ、もう一人の私が苦悶の声を上げ始めている。
何事かと思って顔の下に目を向けるとーーー私の右手が、もう一人の私の首を掴んで宙に足を浮かしていた。
それを見た瞬間。私はついに発見したことを知る。
倒すべき悪を。戦うべき悪を。殺すべき悪を。
生涯にわたって戦い続けなければならない悪は、死ぬまで殺し続けなければならない世界最悪の絶対悪はーーーーここ(自分の心の中)に居た。
「・・・・・・虚栄心、自尊心、優越感、自己憐憫、見栄、怯懦・・・・・・つまりはプライド。
それこそが私が最初に立ち向かわなければならない敵だったというわけか・・・ずいぶんと遠回りをしてきた気分だよ・・・・・・」
「ぐ・・・あ・・・・・・かはっ!?」
「考えてみれば直ぐに分かることだった・・・。一人の悪を倒しても、その悪の背後には組織があって、悪人一人を倒したところで世の中は変えられなくて、ならば組織を倒しに行けば組織は国ともつながっていて悪が悪とは言い切れなくなって、それでも正義を貫こうと思えば国そのものを倒すしかなくなる・・・。
それがフィクションにおける悪と正義の関係性。最終的に勝つからいいものの、負けてしまえば普通に反逆者でクーデターの首謀者でしかない危ない奴だな。見せかけの綺麗さに騙されてしまっていたようだーーー。まったく、まだまだ私も修行が足りないな」
「ぐ・・・ぅぐぅぁ・・・・・・っ!!?」
「正義は正しくて、尊い。だが、戦う悪が強大になり、悪の組織が巨大化してくると正義の戦いによる被害が大きくなり、正義の勝利が破壊活動でしかなくなってしまう。要するにそう言うことなのだろう?」