・・・夏。それは恋の季節と人は言います。
乙女の素肌を焦がす太陽のイタズラか、アスファルトに揺蕩う陽炎の幻惑か。
少年少女の心を裸にし、男女の関係を次のステップへと誘う。
そんな夏休みが幕を開ける僅かばかり前の臨海学校。
そこに私たちIS学園1年女子生徒全員は今、やってきたのです・・・・・・。
「まぁ、普通に考えて年齢=彼氏いない歴の喪女である私たち今時のIS学園女子高生には関係のない話なのでしょうけどね・・・・・・」
『『『『喪女言うなっっ!!!!!!!』』』』
その場にいる方々全員(原作ヒロイン勢含む)から盛大にツッコミを入れられ、現代日本からIS世界にやってきたTS転生者である私、異住セレニア・ショートの夏は幕を開けるのでした。
自分でやっといて何ですが・・・混沌としてますよね。始めた瞬間からいきなりに。言う資格ないのが判りきれる程度ぐらいには。
「わ、わたくしは今まで一夏さんに対して本気を出さなかっただけですわ! 夏は乙女を女に変える季節と言いますし、夏こそ本気出して見せましょう!」
「あたしなんか新しい水着買って臨海学校に備えてきたんだからね! 一夏の一人や二人ぐらいお色気ポーズで夏の海にフィーッシュ!して見せてやるわよ!」
「そうですか。頑張ってくださいお二人とも。応援しておりますよ。骨は拾ってあげますからね?」
『試合が始まる前からゲームが終わった後の用意を保証されて、どう頑張れと!?』
いやまぁ、ほら。アレですよあれ。後顧の憂いなく突撃できるというヤツです、たぶんですけれども。
「・・・う、ううぅぅ・・・あたしだって好きこのんで十六まで独り身でいたわけじゃないのにー・・・」
「・・・わ、わたくしの乙女のハートとプライドがズタズタのボロボロですわ・・・。かき集めて再構築しないと一夏さんの前に出られる状態に戻れない状態にまで辱められてしまいましたわぁぁぁ・・・・・・」
「人聞きの悪いこと言わんでくださいよ・・・いや本気のマジなお話として」
血涙のようにも錯覚させられそうな涙の滝を流しつつ、砕けたガラスを手でかき集めるような仕草をしてみせる凰さんとオルコットさん。
どうでもいいんですが、砕かれたプライドって甲子園球児がグラウンドの砂を集めて瓶に入れるのと同じ仕草で直せるものなんでしょうか・・・? 自分自身がわりとプライド持つ資格のないクズだと自覚している私にはこういうの苦手分野なんで本気でわかりませんね・・・。
「まぁ、それはそれとして。お二人はああ言っておられますし、私たちだけでも先に行きましょうか? ボーデヴィッヒさん」
「あい!」
愛らしい返事とともに体当たりタックルで抱きついてくる原作ヒロインのボーデヴィッヒさん(お子様精神バージョン)。
あの事件でVTシステムが暴走し、記憶の錯乱した状態で目覚めて最初に見た私を『母親』だと勘違いしたまま今に至るまで、通常モードとお子様モードの落差に頭痛を感じさせられながらもなんとか上手くやっていけてる彼女と私。
ドイツ代表候補にして正規軍少佐のタックルであろうと、どんと来いです。
――受け身ぐらいは取れるようになりましたからね。フローリングの床がアスファルトの地面に変わったぐらいではダメージ倍増ぐらいで抑えられますよ。被害甚大ですが航行に問題なし。・・・でも痛い・・・(T_T)
「ふっふっふ~、夏の魔力は女の子を魔性の女の子に変えちゃうのだよセレり~ん」
「貴女はいつも、どっから沸いて出てるんですか本音さん・・・」
衝撃から立ち直り、物理的にも立ち上がった私の背後からニュッと生えるように出てくるマブダチの布仏本音さん。相変わらず神出鬼没なお方ですねぇ。
「ふっふっふ~ん♪ のほほんさんは、のほほんさんがいたいと思った場所にいられるものなのだ~」
「ルネ・デカルトもビックリすること間違いなしな異能力ですね・・・」
宝具《コギト・エルゴ・スム(我思う故に我あり)》を実装したサーヴァントバージョンとしてなら、本人も使えそうな能力ですけれども。それはそれとして。
「それにしても、なんなんですか? その着ぐるみ姿は・・・まさかその格好で海行くつもりではないでしょうね・・・?」
「ざっつ・ら~いと♪ これがのほほんさん自慢の水着姿なのだぁ~」
のほほん笑顔で、のほほんと言ってくる其れは誰がどう見てもキツネの着ぐるみ。耳まで付いてて、彼女の全身をスッポリ覆ってしまっております。
「・・・・・・沈みませんか? それで海入ったら確実に・・・」
「にゃははは~☆ そもそものほほんさんは泳げないから海に入ることを気にしなくて良いのだよセレりーん。これぞ布仏流忍法『どぼーん』の術なのだ~♪」
正確には、土遁の術ね。
あと、『どぼーん』だと普通に沈んで溺れちゃってますからね?
「ところでセレりんの水着姿はどういうのなの~? 人のだけ見させておいて、自分のは恥ずかしいから見せたくないなんてヘリクツは通らないのだよー。
ほらほら、脱げ脱げ、良いではないか~♪ 良いではないか~♪」
「わ、分かりましたよ。脱ぎます、脱ぎますから上に着たシャツ引っ張らないでください。伸びちゃいますから」
直射日光避け対策にと着てきたTシャツを、いきなり脱ぐ羽目になってしまいましたが、まぁいいでしょう。今日は温度の割にそれほど日差しは強くなさそうですし、シャツぐらいなら脱いでも大丈夫なはず・・・・・・んしょ、っと。
「ほら、脱ぎましたよ。これで問題ないのでしょう?」
「・・・・・・・・・」
「・・・どうしました? 本音さん。呆然っていうか、唖然としちゃって・・・もしもーし?」
私が脱いで見せた途端にフリーズしたように固まる本音さん。
手の平を顔の前でヒラヒラさせてみますが、まるで反応なし。
・・・おかしいですね。百合系漫画の登場キャラクターじゃあるまいし、同性の水着姿見て見惚れる趣味趣向を持ってる方とも思えませんが・・・。つか元男の私にそんな摩訶不思議現象起こす魅力はねぇ。
「・・・なんで・・・・・・」
「ん? どうしましたか? 今なんて・・・・・・」
「なんでセレりん、海に普通の服を着て着ちゃってるのかな!?」
珍しく真顔の本音さんに怒られてしまいました。
いや、しかし普通の服って。これ一応、水着ですよ?
「最近では素材も進化してますからね。水着も形にとらわれなくなってきてますし、水泳用というよりレジャー用という感じのが増えてきてもいますから、別におかしくないのではないですか?」
「夏だよ!? 海だよ!? 女子高生で臨海学校なんだよ!? もっとこう、可愛らしくてエッチィ水着とか着てくるものなんじゃないのかな!? 女子高生美少女として!!」
「オヤジですか貴女は。てゆーか、漫画とかで描かれ続けてる水着が昔基準過ぎるんです。ビキニなんて今時着るのはちょっと・・・・・・恥ずかしいというかなんと言いましょうか・・・ゴニョゴニョ・・・」
「ちょっ、セレりん!? 最後の部分でいろいろと正論台無しにしちゃってるからこのお話やめよーね! なんか今のセレりんは女の子から見ててもかなり危なかったからね!」
危ないって何ですか、失礼な。
――ま、水着談義から抜けられるのであれば別に問題はないのですが・・・・・・
『『ぐはぁっ!?』』
あ、問題あったらしい女子高生水着美少女ヒロイン二人(ビキニ装備)が宙を舞ってます。
「うっ、うううぅぅ・・・まさか・・・まさか極東の辺境に浮かぶ島国で年齢=初恋の喪女扱いをされた上、挙げ句の果てには殿方の目を引くため勇気を出したビキニ姿で痴女呼ばわりされるだなんて・・・もうわたくしお嫁にいけませんわぁ・・・・・・」
「あ、あたしなんて・・・あたしなんて・・・ビキニじゃなくてタンキニなのに! 露出度的にはビキニとあんまり変わらないから、なんとなくダメージ受けた気になっちゃってるじゃない! どうしてくれんのよ異住ぃ!?」
知りません。そもそも、更衣室の向こう側からいつ海側に来てたんですか貴女たちは。
「くそぅ・・・くそぅ・・・言葉だけで乙女二人をハートを打ち砕くなんて・・・日本とイギリスのハーフは化け物か!?」
人間です。あと、私ハーフじゃなくてクォーターです。
似ているようで法律的には色々違う部分もありますから間違えないでくださいね?
「お母様! そんなところで遊んでないでラウラと遊んでください! ラウラ、お母様と一緒に海で遊んでみたいです!」
ボーデヴィッヒさんだけは普段通りに可愛らしい反応を返してくれますねぇ。思わず周囲との対比で頬がほころんでしまう気分になりますよ。
――もっとも、気分だけで実際には動かないんですけどね。この身体、顔面筋肉筋は鉄仮面並みに感情が表に出てくれませんから・・・。
別に、感情を制御できない輩はゴミだと教わった記憶は前世ではないはずなのですが・・・原因は今以て謎のままです。
「お母様! お母様! 見てください! カニさんです! クラゲさんです! クラーケンさんをいっぱい見つけちゃいました!!」
「良かったですね、ボーデヴィッヒさん。でも、クラゲさんはクラーケンさんとは語感が似ているだけで別の生き物ですからね?」
具体的にはクラーケンとクラーゲさんぐらい違っております。烏賊とクラゲなので、多分見た目以外は少しも似てないのではないかなと。海洋生物興味ないんで知りませんけども。
あと、クラーケンは神話上の生物なので生物学的に見るとどうなのか全く分からないという欠点もある論理なので、適当に聞き流して頂けるとありがたいですかね。
「お母様! お母様! ラウラと一緒に砂のお城をつくりましょう!
ラウラ、お母様と一緒にお砂遊びがしてみたいです!」
「はいはい、ではどんなお城が作ってみたいですかボーデヴィッヒさん? リクエストはあったりしますか?」
「ラウラ、ノイシュヴァンシュタイン城が作ってみたいです!」
「・・・・・・それはスゴく素敵ですけど、ちょっとだけ難しそうなので他に作ってみたいお城があればそちらに・・・・・・」
「じゃあラウラ、ビッテルスヴァッハ城が作ってみたいです!」
「・・・・・・・・・とりあえず作りながら、制作状況に応じて柔軟に完成予想図を変化させていきましょうか。何事も計画通りにはいかせてもらえないのが制作工程と言うものですからね・・・」
「あい!」