――暗闇の中で見知らぬ爺さんに、こう言われた。
『お主の勇気は最低レベルじゃ』
――と。
学校からの帰宅途中で交通事故に遭い、ごく普通に何のドラマもないまま死んでしまった俺が、気がついたときに暗闇の世界にいて爺さんが前に現れてきて、言われた台詞が先の一言。
これはアレだ。なんと言うかその~・・・・・・。
「・・・ブレイブ・ストーリー?」
「うむ、近い」
近いのかよ。
「じゃが、事実じゃ。お主には勇気がない。全くない、全然ない、これっぽっちもない。
特に! 許す勇気がない。力でもって罰する事しか考えておらん。鍛えた力を振るわない事こそ勇気じゃというのに、攻撃する武器としてしか己を鍛えようとしないお主に勇気など欠片ほどもあるものかい!!」
「ふむ・・・」
言われて考え、これまで過ごした俺の人生について思い出す。
そして思う。――その通りかも知れないなぁ~、と。
「確かに、言われてみたらそうかも知れない。
俺は、自分で選んだ道が望んでたのと違うからとグダグダ言う奴らが嫌いだ。殴りたくなる。正義正義と叫きながらストレス発散したいだけのクズは死んでいいと思ってるし、ケンカしかけて石持ち出されたら卑怯だとかほざく阿呆には殴って治してやる以外の治療法は必要ないと確信してる」
「あと、他の何よりアカが嫌いだ。死ぬほど嫌いだ。とゆーか、殺しまくりたいほど大嫌いだ。皆殺しにしていいなら今すぐ皆殺しにしたいと思いながら日々を生きてきた。
・・・そういえばアンタって、アカだったりする? もしそうだったら殺してもいい?」
「ダメに決まっとんじゃろうが!? このド阿呆!!」
ダメらしい。残念だ。
まぁ、確かにこの性格じゃあ許す勇気とか無縁すぎだよな~、俺って。
・・・・・・ん?
「あれ? 身体が縮んでる・・・?」
気づいたら身長が低くなってた。あと腰とか細くなってるし、微妙に身体も柔らかくなってきてるような気が・・・?
「どうじゃ! それがお主の心の強さを目で見える形で現してやった正しき姿じゃ。
か弱く、幼く、小さくて無力な女の子。それがお主の心の有り様。生まれ持った才能を抜きにすれば、お主が持っておる強さなどその程度に過ぎんということなのじゃよ」
「見るがよい。肉体以外にも分かり易いよう数値として、お主のステータスを映し出してやったぞ。それを見る事で自らの無力さ、愚かさ、傲慢さを思い知り、今まで如何に間違った生き方をしてきたかを知って悔い改めるのじゃ」
言われて横を見ると、RPGのステータス欄みたいなのが宙に浮かび上がってた。
えーと、なになに? 俺の心の強さを現すステータスは・・・っと。
「力:9999。
パワー:9999。
ストレングス:9999・・・・・・」
「なんでじゃねん!?」
いや、知らんし。俺なんもやってないし出来ないし。
てゆーか、この三つは全部同じもんじゃないんかい。
「あ、ありえん! 絶対にありえん! なにかの間違いじゃーっ!
やり直しを! やり直しを要求する――――っ!!!!」
勝手にやってくれ。いや、マジで本当に。
「こ、これは何かの間違いじゃ! 間違いなのじゃ! 間違いじゃから正式に再スタートさせれば正常な状態に戻っているに違いない! だからお主を転生させてやるじゃ――っ!!」
俺の人格って、そんなレトロゲームみたいな方法で直るものだったんだな~。
そんな事を思いながら俺の意識は遠ざかっていき、暗闇の底へ底へと落ちていったのだった・・・・・・。
チュン、チュン。チュン、チュン。
「起きなさい、起きなさい。私のかわいい、ルデール・・・・・・」
雀の鳴き声が聞こえてきた後、誰かが誰かを呼ぶ声も聞こえて俺は目を覚ます。
「起きたのね、ルデール。今日はあなたがIS学園に入学する日・・・この日のためにあなたを男の子に勝るとも劣らない猛者に育ててきたつもりよ。
さぁ、早く着替えて高校にいきなさい。今日からクラスメイトになるお友達があなたを待っているはずよ」
なんかよく分からんが、高校生として俺の人生は再スタートさせられたらしい。
つーか、俺の新しい名前ルデールかい。
最初っからゴールが見えてそうなネーミングだなぁオイ。
「ま、いいや。とりあえず飯食って学校とやらに行ってみるとしようか」
「はじめまして、ドイツから来た留学生のルデール・タイタニアです。
趣味はバンジージャンプと言えればいいのですが、身長が足りず参加させてもらえた事ないので、仮に紐なしバンジージャンプと覚えておいてください。今日からよろしくお願いします」
クラスメイトの前で自己紹介して、ペコリと頭を下げるとまばらに拍手が聞こえてきたので、この対応に関する知識が合っていたのと知れてホッとした。
生まれ変わりという超常現象故によるものなのか、俺の記憶には知らなかったはずなのに知っている事が大量にプラスされており、それらのどこからどこまでが真実なのか全く分からない状況に今の俺は置かれてしまってる。
たとえば、この学校『IS学園』についての知識とかだ。
この世界には《IS》、正式名称インフィニット・ストラトスとかゆう機械の鎧が実在していて、十年と少し前にISが起こした最初の事件『白騎士事件』で世の中が変わり男尊女卑から女性中心の女尊男卑に変わってしまったらしい。
IS学園は、その女尊男卑社会の中心近くに位置する存在のようだった。
ISを操る者たちの事をIS操縦者と呼ぶらしいのだが、IS操縦者を育成する教育機関は世界中で唯一IS学園だけなのだとかで、世界各国にとっても無視できない影響力を持つ学校のようだった。
そして当然ながら、その学校に生徒として入学した俺もIS操縦者の卵にして、IS学園生徒。
ピッカピッカの~♪ 一年生♪
ピッカピッカの~♪ インフィニット・ストラトス♪ ・・・語呂ワル。
「では、諸君。私が担任の織斑千冬だ。君たち新人を一年で使い物になる操縦者に育て上げるのが仕事だ。私の言うことはよく聴き、よく理解しろ。出来ない者には出来るまで指導してやる。私の仕事は弱冠十五歳を十六歳までに鍛え抜くことだ。逆らってもいいが、私の言うことは聞け。いいな」
自己紹介が終わってしばらくして、担任教師を名乗る目つきの悪い黒髪美人が壇上へと上がり、自分は担任教師であることを宣言してきた。
そして響き渡る女生徒立ちから織斑教諭へのラブコール。
「キャ―――ッ! 千冬様、本物の千冬様よ!」
「ずっとファンでした!」
「私、お姉様に憧れてこの学園に来たんです! 北九州から!」
「あの千冬様にご指導いただけるなんて嬉しいです!」
「私、お姉様のためなら死ねます!」
きゃいきゃいと騒ぎ出す女子たち。
やはり女子というものは姦しい井戸端会議が好きな生き物なのだなぁと思い、なんとはなしに織斑教諭を見ると「おや?」と思わされた。すごく鬱陶しそうな顔をしていたからである。
「・・・・・・毎年、よくもこれだけ馬鹿者があつまるものだ。感心させられる。それとも何か? 私のクラスにだけ馬鹿を集中させてるのか?」
どうやら嘘や格好付けのポーズとしてではなく、本当に本心から鬱陶しがっているらしい。
だが、残念ながらその発言は不適切だな。生徒の側には教室と担任を選ぶ権利など与えられていないのだから、職員室か校長室かで口に出すべき疑問だったと言うべきだろう。
言うべき時に言わず、質問すべき時に質問しないで、責任を抵抗できない部下にばかりなすりつけたがるのは無能の極地と習ったことがあるのだがね?
「さあ、SHRは終わりだ。諸君らにはこれからISの基礎知識を半月で覚えてもらう。その後実習だが、基本動作は半月で身体に染みこませろ。いいか、いいなら返事をしろ。よくなくても返事をしろ、私の言葉には返事をしろ」
「ジーク・ハイル。
ハイル・オリムラー」
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言われたとおり返事をしたところ、どういうわけだか教室内に沈黙が満たされた。
一体何があったのだろうか? 学校側の対応と説明が待たれるところである。
「・・・おい、確かお前はタイタニアだったな。――今さっきの返事は一体なんだったのだ?」
「返事であります」
「そんなもの、聞けば誰にでも分かる。私が聞きたいのは、どういう意図を持って選ばれた返事だったのかと言うことが一つと、返事に選択基準が何であったのかが二つ目だ。さぁ、答えろ。直ぐ答えろ。今すぐにだ」
「全く完全にお答え出来ません」
「・・・・・・」
「冗談です。単に思いつきで使ってみた返事だったので、意図について聞かれても答えようがなかったから茶化しただけです。邪魔したようでしたら謝罪します。どうぞ、授業をお続けください」
「・・・・・・・・・」
やや不機嫌そうになりながらも織斑先生は特に何も言わずにSHRを締めて、次の授業に移っていった。
「・・・む?」
二時間目の休み時間に、トイレから戻ってきた私は前の席の方で揉め事が起きているところを目撃した。
ISとは空飛ぶ機動兵器であり、IS操縦者はISをまとって空を飛んでる間はISスーツ一丁になるのが当たり前の職業なのだ。
当然、トイレに行くため地上に降りるバカなどいない以上、用は足せるときに足してノンカフェインを常備しておくことを忘れてはならない。
知らないはずなのに知ってた知識の中には含まれてなかったが、空飛ぶ者、飛行士として空を目指すのであるならば知っていて当然の常識として前世の時点で既に俺の頭の中には存在していた。
「訊いてます? お返事は?」
「あ、ああ。訊いてるけど・・・どういう用件だ?」
「まあ! なんですの、そのお返事。わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら?」
事情はよく分からんが、一人の女が一人の男に絡んでいる様だった。
本来、女性しか起動出来ないはずのISを動かした男として、世界中で只一人だけの男性IS学園生徒の身分で入学させられた少年、織斑一夏と・・・・・・もう一人は知らん。絡んでる方のお嬢様っぽい人は、ドリルヘアーが特徴的だったんで一先ずはドリルさん。または『デスワさん』と名付けるとしよう。
「本来ならわたくしのような選ばれた人間とは、クラスを同じくするだけでも奇跡・・・幸運なのよ。その現実をもう少し理解していただける?」
「そうか。それはラッキーだ」
「・・・・・・馬鹿にしてますの?」
――うむ。まぁ、そのなんだ。要するにだ。
「とっとと用件を言いたまえ、ドリルヘアーの少女よ。相手の彼が困っているぞ」
「ドっ!? このわたくしイギリス代表候補生にして専用機を与えられた誇り高き英国貴族の一員でもあるセシリア・オルコットの髪型をドリルヘアーですってぇ!?」
怒り顔もあらわに叫び返し、振り返ってくるドリルヘアーの少女――セシリア・オルコットが秀麗な顔を朱に染め上げ、俺の顔を睨み付けてくる。
「あっ、あっ、あなたねぇ! わたくしの髪型を侮辱するつもりですの!?」
「髪のことは知らん。君の長ったらしい無駄話をまとめて相手に分かり易く伝えてやれと言っているだけだ。
大体、自分から話しかけておいて自慢話しかしないなど失礼きわまりないし、恥ずかしい行為だとは思わなかったのかね?」
「うぐ!? ぐ、ぐ、ぐぬぬぬぬぬ・・・・・・」
狂眼で睨み付けてくるオルコット嬢から目を離すと、彼女の隣に座る織斑少年が「いいぞー、もっと言ってやれ―」と言った他力本願な手法で面倒ごとの種を排除しているように見えるが、気のせいだと信じ込みたい。
キーンコーンカーンカ-ン。
その時、タイミング良く授業開始の鐘が鳴り響いてきた。
「時間切れだな。君が無駄話に時間を使いすぎた結果として、こんな結末しか迎えられなかったのだから、少しは反省して次回に活かしたまえよ」
「ま、待ちなさい!」
そして彼女の口から、
「決闘ですわ!」
とんでもない言葉が飛び出すのを、確かに俺は耳にした。してしまっていた。
「・・・決闘?」
「そうですわ! わたくしとあなた、どちらの方が強くて正しいか決着を以て証明してご覧に入れましょう。そうすれば誰が見ても一目瞭然なほどわたくしの方が強くて正しかったのだと理解できるはず」
「強さと正しさとの間に関連性が見えんのだが・・・まぁいい。今はいい。それより今は君に確認しておきたいことがある」
「ふん? いいですわよ別に。わたくしは優秀ですから、あなたのように無礼な人間にも優しくしてあげます。・・・で? 確認したいことと言うのは?」
「うむ」
「先程まで行われていた授業で聞かされたばかりの事で恐縮ではあるのだが。
ISって、私的目的で勝手に使用すると刑法によって罰せられると教科書に書いてあるはずなのだが? その決闘宣言は当然のように、国家の認証は取得済みと解釈してよろしいのかな? イギリスの代表候補で、専用機を与えられている、誇り高き英国貴族のご令嬢よ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
青ざめた表情で虚ろな目を浮かべ、幽鬼のような瞳で私を見つめるセシリア・オルコット君。そんなに見つめても出せるものは何一つ持ち合わせていないんだがね?
そんな彼女に私がしてやれることは只ひとつだけ。
パァンッ!!
「とっとと席に着け、織斑」
「・・・・・・ご指導ありがとうございます、織斑先生」
いつの間にかやってきて、騒いでいた二人を無視して実弟だけを殴りつけて修正しようとする、いまいち責任感の感じられない公私混同しそうな見た目だけ立派教師に分類されそうな織斑先生から彼女と私の試合の許可を取り付けられるよう尽力する。
只それだけなのだろう。残念ながらな。