敗者は辺境の地へと追いやられるのが宿命です。
「ちょっと、よろしくて?」
「へ?」
「む?」
二時間目の休み時間、俺とハイドは突然横合いから声をかけられた。
突然始まってしまった俺のIS学園生活で、はじめは俺も「自分以外が全員女子。それもクラスだけじゃなくて、学園全体がそう」と言う状況に置かれて相当に座り心地の悪い生活を余儀なくされるだろうと覚悟していたのだが。
ハッキリ言って、ぜんぜん全くこれっぽっちもそんな事はなかった。
「君は織斑君というのかね? はじめまして! 私の名はシュトロハイド・フォン・ローゼンバッハと言う! ハイドと呼んでくれたまえ!
ドイツの代表候補生で専用機持ちではあるが、同じ一年生であることに変わりはない! 同じ釜の飯を食しながら一年間を共に過ごす学友として仲良くしてくれるとありがたい! よろしく!」
ーー近くとは言い辛いが、遠いわけでもない席にいるチッコい女の子であるハイドが一時間目が終わった直後の休み時間から率先して話しかけにきてくれて、いきなり友達ができてしまったからである。
いや、正直ここまで初対面からぐいぐい来る女子っているとは思っていなかったから面食らったりはしたけど、中学時代に仲の良かった奴らと同じノリで話せる相手が近くにいるってすごくありがかった。
なんやかんやで出来た新しい友達との親睦を深めながら(途中いくつかのトラブルもあるにはあった。間違えて捨てしまった古い電話帳の事とかさ)二時間目の休み時間に突入した頃。
今度はさっきの箒とは違う別の女子生徒に話しかけてこられた。金髪ロールの、如何にもな高貴オーラを放っている女子で、気が強いというよりかは刺々しさを感じさせる態度と口調が悪い意味で印象的な白人の少女だった。
「む!? 何奴! 曲者か!?」
曲者て。ハイドよ、お前はいったい、いつの時代にどの国から来たドイツさんなんだよ・・・。
「えっと・・・俺たちになにか用件でもあるのかな?」
席を並べて話してた相方が失礼を働いてしまったときには、隣にいる奴が少しだけでも我慢する。これ友情の基本。忘れるべからず。
「まあ! なんですの、そのお返事。わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら?」
「???? そうだったのかね? 私は寡聞にして聞いたことがない文化なのだが・・・参考までにお聞きしたい。どこの国の文化なのだね?」
「イギリスですわよ! 我が祖国にして偉大なる大英帝国、グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合国!」
「ああ! ケルト人か! ケルト人の文化か! なにはなくとも、とにかく戦えケルト人!」
「そこまで古い時代に戻らなくていいですわよーーーーーーーっ!!!!!」
天井めがけて叫ぶイギリス人。
IS時代に生きる古代の珍獣ゲルマニアン・ハイドンに、地位だの名誉だのは関係なかったらしい。子供らしい自由って、少しだけ羨ましくなる時もあるよな・・・。
「えっと・・・ところで君、誰? コイツはともかく俺は君のこと知らないんだけど・・・」
「わたくしを知らないですって!? このセシリア・オルコットを? イギリスの代表候補生にして、入試主席のこのわたくしを?」
「ほほぅ。そう言う名前だったのだね。なるほど、ようやく覚えられたよありがとう」
「同じ代表候補生なのに覚えられてなかったんですの、わたくし!? 直ぐ目の前にある国の、しかも欧州統合計画で協力しあってる国の代表候補でもあるんですけれども!?」
「いや、名字は覚えていたんだが、名前が思い出せなくてなぁー田中君」
「それ、角栄! 日本の元首相の田中角栄にまつわる逸話なんて、誇りあるイギリスの代表候補にしてエリートでもある、このわたくしが知る由もない事柄ですわよ!」
言ってる言ってる、言っちゃってるぞイギリス貴族エリート娘よ。
「し、信じられない。信じられませんわ。極東の島国というのは、こうまで未開の地なのかしら。常識ですわよ、常識。テレビがないのかしら・・・・・・」
失礼な、テレビくらいあるぞ。見ないけど。
「・・・驚いた。まさか北西の外れにあるチッコい島国ブリタニアにまでテレビが普及していようとは! 世はまさに大航海時代!!」
「「遅いよ!?(遅いですわよ!?)とっくの昔に始まって終わってるよそれ!?(終わってますわよそれ!?)」」
「あの狭い島国で、寝ても覚めても互いに殺し合うことしかしなかった蛮族たちに文化というものを理解できる頭が手に入る日がこようとは!」
「ガリアから来た侵略者の皆様方にだけは言われたくない言葉の数々なのですけれど!?」
「あ、ちなみに私はテレビよりもスマホ派でな。コンパクトサイズがなかなかにグッドだ。やはり機器類を買うなら日本製に限るな!」
「今までの会話ぜんぶ台無し!」
フリーダムだなぁー、ハイドの奴は本当に・・・。
「とにかく! とーにーかーく! わたくしは国家代表IS操縦者の候補生に選ばれたエリート! そう! エリートなのですわ!」
おお!? 勢いだけで復活して立ち上がりやがった!
・・・やっぱりスゲェんだな、ブリタニアのケルト人って。
「本来ならわたくしのような選ばれた人間とは、クラスを同じくするだけでも奇跡・・・・・・幸運なのよ。その現実をもう少し理解していただける?」
「そうは言うけどさぁ・・・・・・ここにも一人、国家代表候補生って名乗ってるアホがいるんだが・・・」
「ふっ!(意味もなく前髪をかきあげてポーズを取る)」
「・・・これと一緒のクラスになれる幸運を喜べって無理だと思うんだが・・・・・・」
「ーーなんにだって例外は存在しますわよ!」
あ、誤魔化した。額に一瞬汗マークが浮かんでたのを見逃さなかったぞ俺は。
「大体、あなたISについて何も知らないくせに、よくこの学園に入れましたわね。唯一男でISを操縦できると聞いてましたから、少しくらい知的さを感じさせてくれるかと思ってましたけど、期待はずれですわね」
「安心したまえオルコット君! 私もISについてはほぼ何も知らない! 女で専用機持ちでもこんなものだから、男だの女だのは気にしなくても大丈夫だ! 生きていける!
他の代表候補を飛び入りで叩きのめせる強ささえあれば、専用機乗りにも代表候補にも簡単になれる世の中だから大丈夫だ!」
「あなたさっきからわたくしに喧嘩売っておりません!? 買いますわよ!? 売る気がなくても大枚はたいて買いますわよ! あなたとの喧嘩なら大喜びで大安売りの出血大サービス大バーゲン価格で爆買いしてあげてもよろしいんですことよ!?」
「おーい、落ち着けーイギリス貴族令嬢ー。言ってること支離滅裂になっちゃってるぞー」
もはや売りたいのか買いたいのか、安いのか高いのか訳分からん。
「あー、もう! こうなったら仕方がありませんわ! 決闘です! わたくしとあなたたちで決闘して決着をつけますわよ!」
「え、俺も?」
完全に巻き込まれてとばっちりを受けさせられた訳だが・・・まぁ、四の五の言うより分かり易くていい。俺好みな展開だ。
「いいぜ、受けてやるよ、その勝負! 負けた後で吠え面かかないように気をつけるんだな!」
「はん! 言いましたわね・・・大言壮語に伴う責任は重いですわよ!」
バンッと机を叩いてから手袋を脱いで投げつけてくるセシリア。これはアレか? 中世騎士の決闘挑戦状で、受け取ったら了承を意味してたんだったっけか?
俺は普通に体で受け止めて、ハイドは動くことなく手袋が当たるのを待ってーーいなかった!
「決闘の申し込みを受諾した。ーー先手必勝! カイザー・ナッコゥゥッル!!」
「ふべっ!?」
手袋が体に当たった瞬間には移動を開始しており、目にも留まらぬ早さで次の瞬間にはセシリアの間合いの内側に入り込んでからアッパーカットって、オイ。その技は昇竜なんとかかタイガーなんとかだろ、どう見たってバーンなんとかじゃないだろ、パクった上にパチるなよ。変なとこだけ日本人的な部分がある奴だなぁ、本当に。
「ふ、不意打ちだなんて卑怯ですわよ・・・・・・(ぼたぼた:鼻血が止まらない音)」
「ふっ。決闘を申し込んでおいて油断していた君が悪いのだよ・・・」
格好付けてるハイドと、床にうずくまりながらハンカチで鼻押さえてるセシリア。
絵に描いたような勝者と負け犬の図柄である。
「まぁ、宮本武蔵も決闘を申し込まれて受けた時から試合は始まっているんだって言ってたそうだし、間違いではない・・・のかな?」
「大間違いだ、ド阿呆と愚弟ども」
ゴギッ! ドガッ! バギッ!
「い、痛いぜ千冬ねえ・・・」
「ううう・・・なんでわたくしまで・・・泣きっ面に蜂状態ですわ~(T-T)」
背後から振り下ろされてきた突然の衝撃に頭を押さえてうずくまる俺とセシリア。
そして後ろには仁王を背負った千冬ねえ。
・・・・・・よく見たら、とっくに授業開始時間を過ぎてたよ。こりゃウッカリだ。
ごちん。
「・・・まじめに反省しろ」
「・・・・・・はい・・・」
完全におっしゃられるとおりです、お姉様。返す言葉もございません。
「まったく、お前たちは・・・再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めさせるつもりだった私の予定が大幅に繰り上げられてしまったではないか。これだから血の気の多いガキは嫌なんだ。殴ってやるから少しは頭から血を下げさせろ」
「「え、遠慮しておきます・・・」」
「よし、それではーー」
「おお!? ここはどこだ!? 私はどこのドイツだ!? 私はなぜ私なのだっ!?」
「変な記憶喪失ゴッコはやらんでいい!」
千冬ねえ大激怒。手に持っていた出席簿を手裏剣のように投げつけて、ヒラリと蝶のように舞って躱してしまうハイド。・・・コイツって思ってた以上に人間離れしてたんだな・・・。
「ああ、クソ! 避けるな躱すな! 私の放った攻撃は全て当たれ! 教師命令だ!」
そして今日も今日とて暴君な俺の姉。
やっぱり千冬ねえには関羽よりも劉備よりも董卓が一番似合っていると俺的には思っているんだ。
「なにやら面倒くさい事態になっているようだから、一週間後の月曜の放課後、第三アリーナでお前ら三人でクラス代表をかけた試合を行え。それで決着と言うことにしろ。変わりに試合の日まで一切の私闘を禁じる。ISを用いない、拳であってもだ。いいか? わかったな? 返事はYesかラジャーのどちらかだけだ。ーー返答は?」
「い、いやそれ、実質選ぶ自由の存在しないタイプの選択肢パターンなんじゃあ・・・」
「総統閣下万歳! ハイル・オリムラーー‼」
「どこの誰がナチスのちょび髭独裁者だと言いたいのだ貴様はぁぁぁぁぁぁぁっっ‼」
スパコーーーーーーーーーーーーッン!!!!!!!
・・・片手を高々と掲げたポーズで吹き飛ばされていくハイド。
つくづく自由のない世界でも自由に生きることの出来るフリーダム精神の持ち主だよなぁアイツって。あー、本当に子供に憧れてしまいそうでなんだかなー。
*指摘されたのを受け「尤もだ」と感じましたため一部台詞を変更させていただきました。
元の文章↓
「ヤー、ヘル・コマンダール!」
「私はドイツのちょび髭独裁者の親衛隊かナニカか!?」
変更後の文章
「総統閣下万歳! ハイル・オリムラー‼」
「どこの誰がナチスのちょび髭独裁者だと言いたいのだ貴様はぁぁぁぁぁぁぁっっ‼」