結局一番短めのを選んだ次第です。よければどうぞ~♪
「あら、逃げずに来ましたのね。
専用機も当日までに間に合ったようで何よりですわ」
セシリアがふふんと鼻を鳴らして、腰に手を当てたポーズを決めながら俺を見下ろしてくる。
場所はIS学園内にある施設の一つ、第三アリーナ。
日時は月曜。コイツとの対決が決まってから一週間が過ぎた、よく晴れた日の対戦当日だ。
「機体とのフィッティングは違和感なく適合できまして? 山田先生が授業で言っていましたとおりISには操縦者をサポートする機能がありますが、相性によっては機体との間に摩擦が生じて動きを阻害してしまうこともあるのです。不具合がある場合には試合前に申告しておくことをお薦めして差し上げます」
「・・・ご親切にどーも。そんな情報を聞き出して何に使う気かは知らないが、これから戦って勝とうとしている相手に情報をくれてやるほど俺も衰えちゃいないんだぜ?」
箒に指摘されたことを思い出しながら俺は、剣を構えながら相手の挑発的な言葉を軽く流す。
「まさか。そのような姑息な手を使うつもりは毛頭ありません。
ただ、わたくしはIS操縦の先駆者として、先輩として、乗り慣れていない機体で戦う後輩に『ハンデはどれくらい必要か?』と問いかけているだけですわ」
「!! ・・・意趣返しかよ、ガキ臭ぇ・・・」
「これで案配はよい分でしょう? わたくしは本来、試合に怨恨や恨み辛みを持ち込むのは嫌いな性質なので。フェア・スポーツマン精神こそが英国貴族の嗜みというものです」
「・・・・・・ちっ」
つばめさんがもたらす仲介の効能の内、出会ったときからずっと苦手に感じているものがある。
それが“これ”だ。相手に冷静さが戻ってくるから、怒りを向けてたときと印象が百八十度変わっちまう場合が以前からも多々あった。それに慣らされちまってる今の俺にとってこういうタイプはちと、やり難い・・・。
ピ――――
そうこうしている間に試合開始の鐘が鳴り響き、敵IS操縦者の左目が射撃モードに移行したことを、俺は届いたばかりの専用機《白式》から警戒音とともに知らされる。
「では、始めましょう! わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる戦場の円舞曲を!」
「ちぃっ!?」
初撃を躱しきれなかった俺は、白式に装備されていた唯一の武装《近接ブレード》を引き抜くと、全速力で加速をかけながら敵機目掛けて加速をはじめる。
(気にくわなくても、嫌いじゃなくなっても、試合そのものは勝ちに行く! それが男ってもんだろう!)
そして、俺にとって初めてのIS戦闘となるセシリア戦が開始される。
「はぁぁ・・・すごいですねぇ、織斑くん。
オルコットさんの射撃を三回に一回は躱せてますよ」
ピット内でコーヒーを飲みながら試合を観察していた私、織斑千冬は隣に経つ山田真耶の言葉に、思わず相手の顔を見直していた。
「まだ二回しかISを起動したことがないとは思えないほどの健闘ぶりです。やっぱり織斑先生の弟さんというのは伊達じゃないんですね」
「・・・・・・ふん」
言ってる内容そのものは間違っていないのだが、私としては立場的に、今少し上からの視点で客観的評価をしてもらいたいなとも思ってしまう。
「一夏に天性の操縦センスがあるのは認めるが、今の状態はオルコットが教えてやる目的で敢えて狙いをズラして撃ってやっている事も大きい。必ずしも奴一人の力で出せている結果ではないさ」
「え!? ちょ、ちょっと待ってください・・・あ! 本当だ! コンピューターの計測でもコンマ一桁の誤差で狙いを正確に外しています! ・・・でもどうして・・・?」
意図が読めずに混乱しているらしい山田先生に、私は内心でため息をつく。
『世界初の男性IS操縦者』という肩書きと、一夏の女好きする容姿と性格に惹かれてしまう女連中には昔事欠かなかったが、副とはいえ担任教師が性別で生徒を測ってしまっていることにかんして遺憾に思わざるを得ない。
「あいつらの証言を聞いた限りではの話ではあるが、もともとオルコットの側に一夏を攻撃する意図があったようには見受けられない。むしろ貴族特有の上から目線ではあるが、『教えてやろうという』という親切心から来ていると思しき言動が散見されていた。
大方、あの愚弟が悪癖の一つになりつつある“女尊男卑嫌い”を発症させて、無自覚に挑発してしまい事態を悪化させてしまった・・・そんなところなのだろうさ。
「な、なるほど・・・」
「対するオルコットの側に、この試合で勝つことで得られるものは何もない。実績と評価を得ている専用機持ちが、昨日今日ISに乗ったばかりのド素人と戦っているのだからな。
勝ったとしても“大人げない”と言われるだけだろうし、万が一負けでもしたら評価がダダ下がりするのは避けられない。
ならば先輩として、ベビーフェイスにヒール役で教導してやった試合後に謝って見せた方が印象も良くなるし禍根も残さなくてすむ。その程度の計算は出来る奴だと言うことくらい入学者の個人データだけで予測できる事柄だぞ? 山田先生」
「す、すみません・・・精進するよう努力します・・・・・・」
小さくなって引き下がっていく山田先生を見送った後、私は視線をモニターに戻して一夏の“左手”を見つめる。
何度も開かれたり閉じたりしている、この仕草は一夏が浮ついているときにミスしやすくなる前兆だった。
まぁ、無理もないことではあるし白式には“隠し球”も仕込んである。ただ一方的に負けるだけで終わりはしないだろう。良い教師に恵まれて短気に成長することを期待だな。
「一夏・・・くん。左手を閉じたり開いたりしてる・・・ね?」
「・・・・・・ああ」
私は離れたところで交わされ合っている山田先生と千冬さんの会話は気にかけないように意識しながら、ずっとモニターに映る一夏の姿を凝視し続けていた。
それは一夏の一挙手一投足を見逃すことなく見続けたいという想いから来る行動ではあったが、隣に立って私と同じく一夏を見続けている眠そうな目をしたクラスメイトから目を逸らしたいという後ろ向きな想いと無関係だとは断言できない心境に今の私は置かれている。
「あれをする時って一夏君、決まって簡単なミスを犯しちゃうんだよ・・・ね」
「・・・・・・」
「現に今もセシリアちゃんの意図を読み違えちゃって・・・る。一度こうだと思い込んだ、ら、なかなか相手の印象を変えられない辺り、男の子だよ・・・ね?」
「・・・・・・・・・」
私は答えることなく、モニターをジッと見つめ続ける。
自分でも表情が険しくなっていることは自覚しているが、どうにも自分では直しようがなかった。
どうしても彼女の言葉を聞くと思ってしまうのだ。
“たった一年しか一緒にいなかったお前がどうして!”――と。
「・・・お前はどちらだと思っているのだ?」
「ん・・・?」
解っている。自分でも解っているのだ。
「この試合、一夏が勝つか。それとも負けるのか・・・どちらだと、お前は思っているのだ?」
解っていた。頭では理解していたし、理屈の上では納得していた。
――これは、『自分だけが知っていると思っていた男の情報を、自分以外の女が知っていた』ことに対する醜い嫉妬心でしかないのだと・・・・・・。
「う、ん・・・。普通に負けると思ってる・・・よ?」
「・・・・・・っ!?」
「と言うより、も、この試合で一夏君は負けた方がいいと思って・・・る。
だって、この試合は勝つことが彼のためにならない勝負だか・・・ら」
「どうして!?」
私は場所もわきまえずに、声を荒げて叫んでいた。
それは私が、『女であるなら惚れた男の勝利を願うべきだ』と信じていたから、彼女に自分の信念を否定されたように感じてしまった故なのだろう。
その日の夜になって考える時間を得られた後なら解る程度のことであったが、目の前で行われている一夏の勝負と、想定外過ぎる恋敵の出現に焦りの色を濃くしていたこのときの私に解せるほどには簡単に割り切れる心の問題ではなかったのだ。
「一夏君は・・・ね。ISについて何も知らない・・・の。知らない物を使うことは出来ない、し、使えない武器を持っても戦うことは出来ないよ・・・ね?
でも、現に今彼は戦えて・・・る。これは一夏君がISを使って戦って“いない”から出来ることなんだ・・・よ」
「――あ」
彼女の言葉が胸の内にストンと落ちてきて納得する。――納得してしまう。
それを納得することは今回の試合に際して、発端になった言い合いの中で一夏の言い分により多くの非があったことを認めてしまうことだと分かっていながら、私は思わず彼女の言葉に納得してしまって振り上げかけた拳を降ろしてしまっていた。
「専用機・・・は、量産機と違って学んでなくても動かし方が解るようになる機能がついて・・・る。だから今の動かし方を知らない一夏君でもISを使って、セシリアちゃんと戦えて・・・る。
白式、が普段の一夏君が手足を動かすときと同じ要領で自分のことも動かせるようにしてあげてるだ・・・け。今の一夏君、は今まで勝ってきた力だけでISを相手に戦わせて“もらってる”・・・の
でもそれは、一夏君が自分で手に入れた力でも強さでも、勝利でさえないよ・・・ね?」
「・・・・・・」
「一夏君は一度、負けなきゃダメな・・・子。負けるまでは自分を貫いてしまうけ・・・ど、負けてしまえば色んな人に頭を下げて色々と学んで強くなれる男の・・・子。
場所がIS学園に移って・・・も、きっとそう。周り中が女の子の中、で、自分一人だけ男の子だか、ら、無理に我を張ると今日みたいな事が次も起きちゃうと思う・・・の」
「・・・・・・・・・」
「だから一夏君、は、今日の試合で勝っちゃダ、メ。負けて今まで過ごしてた学園外の自分にサヨナラして、IS学園で過ごす一夏君を創っていくためにIS学園を学ぼうと思ってもらえるようにならないと・・・ね?」
「・・・・・・・・・」
私は黙ったまま答えを返せずにいる。
今初めて解った。この一週間、彼女がどうして一夏にIS操縦のノウハウを詳しく教えようとしなかったのか。なんやかやと理由をつけて、私がおこなっていた放課後の剣道練習にさえも見に来ようとはしなかったのか。その理由が。
一週間でオルコットに勝てるようになるための訓練。
――それは、主観を度外視して効果だけを散文的に表現するなら『何も知らない素人が一週間で強くなれる方法はないだろうか?』と、辛く苦しい修練を嫌がり、楽して強くなる方法を教えて欲しいとねだる甘ったれたガキの思考となんら代わり映えしなかったからなのだ。
・・・今ならハッキリと解る。
学園で再会した元級友が熟練の国家代表候補からの挑戦を受けてしまったとき。
間違いなく彼女は一夏に・・・・・・『失望させられていた』のだと・・・・・・。
「・・・だが、それでも私は・・・・・・」
震えそうになる両腕を力を込めて抑え付けようとして、不自然に身体を揺らしてしまいながら。
それでもと、私は断言する。
「私は一夏に勝って欲しいと思っている。他の誰のためでもない。もしかしたら一夏のためでさえないかもしれないけれど、それでも私は一夏に勝って欲しいのだ。勝って欲しいと誰よりも強く願う自分を抑えられそうにないから・・・・・・」
情けないことを言っている自覚がある私は顔を伏せて、周囲の視線から見られないようにする。こんな顔を他人に見られたくない。情けない弱音を晒す自分の顔など自分の顔とは思いたくない!
・・・そう願ってしまったからだったが、そんな私に彼女が寄越したのは意外なことに『賞賛』だった。
「それは良いことだ・・・ね」
「え・・・?」
思わず顔を上げてしまい、見られたくないと望んだ自分の顔を彼女の方に向けたとき。
彼女の顔は私の顔を見ておらず、こちらの晒した醜態など気にもかけていない様子で、眠たそうに欠伸をしながらモニターをジッと見つめているだけだった。
「ここで私たち・・・が、どんな理由や思いを抱こうと・・・も、勝ったり負けたりするのは一夏君一人だ・・・け。
どちらかが訪れ・・・て、何かを得て、何かを失ったとしても、一夏君独りだけの問題。私たちには関係ないし、関係できないこ・・・と。
そしてそれは、一夏君の側も同様。私たちの思惑なん、て、一夏君が超越しちゃうときは超越しちゃうも・・・の。
人への思いやり、は、必ずしも受け手の人が応えなくちゃいけないものじゃないから・・・ね」
「・・・・・・・・・」
「だから箒ちゃん、が、一夏君が勝って欲しいって願うことは、今の試合中も試合が終わった後もずっと続く良い想いだと思う・・・よ?」
「・・・・・・本当にそうだろうか? もしこの試合で一夏が勝つと、ダメになる結果につながるのだと解っていながら勝利を願ってしまうのは、一夏がダメになって欲しいと願うのと同じなのではないだろうか?」
「勝つこと・・・が、どうしてダメになることに直結してる・・・の?」
「え・・・?」
驚きのあまり一瞬だけだが、悲しみとか情けなさとか色々吹っ飛んでいってポカンとなる自分の顔を、このときの私は自覚できたがそれどころではなくなっていた。
「い、いやだってさっきお前自身が・・・」
「う・・・ん。私はそうなると思ってるし、信じてもいるけ、ど・・・。でも所詮それ、は、私が信じて考えてる結果に過ぎないか・・・ら。そんなものに一夏君が振り回されなきゃいけない義務はないと思ってるか・・・ら。
だから箒ちゃん、も、自分の信じたい自分の考えを信じちゃっていいと思う・・・よ?」
「・・・・・・」
「私・・・は、自分が正しい答えを出すつもりで考え、て、出した答えを信じてはいるけれ・・・ど。だからって自分以外の人まで自分の考えた正しさを共有しなくてもいいと思ってはいる・・・よ?」
「・・・・・・・・・」
「だから、箒ちゃんが一夏君が強くて勝てると信じているなら、それを信じてあげて欲しいか・・・な。誰かに信じてもらえるのは勝ち負けよりも大きく一夏君、が、ダメになるかならないかを決めてくれるスゴイ力を持ってると思うか・・・ら」
私は返事を返せぬままに涙を拭わず、モニターへ視線を戻して試合終了まで見続けていた。
結局、この試合で一夏はオルコットに勝てなかった。負けてしまった。
試合中にファースト・シフトする予想の斜め上いく演出で場を沸かしてくれたが、その直後に使おうとしたファースト・シフトして武装が変更された《白式》の専用武器《零落白夜》を使おうとしてエネルギー切れを起こしたために敗北条件を満たしてしまったからだった。
説明欄にある武器の作用だけはチラ見したらしいが、下の方にある『副作用』についてまでは詳しく見ようとさえしなかったらしい。
『知ってさえいたら避けられた敗因』で負けた一夏は、だが翌日にオルコットから正式に謝罪されて、クラス代表にも推薦されて決定されてしまった辺りから、昨日までの試合に勝ちたいと願っていた執念が嘘であったかのように、わだかまりなくオルコットにもISに関するレクチャーを教えてもらいに行くようになり、私たち以外の女子たちとも急速に親睦を深めて行っていった。
何もかもが“彼女”の予言通りに的中されていく様を、私はジッと横から見ていた。見ていることしか出来なかった。
姉弟である千冬さん以外で、一夏と誰よりも長く一緒にいた私ではなく『たったの一年間しか一夏と過ごした時間を持たない別の女』が、私よりも未来の一夏のことを理解している。
その事実が私を苛立たせる。心穏やかずにはいられなくなる。
人との繋がりの深さは時間の長さに比例しないという一般論を、彼女は事実によって実証させていく。
私の信じてきた大切な思い出を、その意図もなく言葉も使わず結果という事実によって砕け散らせていく。自分の中での優位性が消滅させられていくのを思い知らされていく。
ああ、認めたくない。
認めたくないのに、目を逸らして気づかないフリをするには事実の痛みと辛さが大きすぎて、視線を逸らした先まで覆い尽くされてしまう。
「ふぁ~あ・・・・・・」
私は彼女に『劣等感』と『敗北感』から嫉妬心を抱かされる日々を送り続けている・・・・・・。
つづく
説明:
いくつも書いた会話パターンの中で使いすぎて今話での使った気になっていた、書き忘れの部分を説明させて頂きます。
主人公が言ってる専用機だけが持つ特徴とは、『白式に座っただけで操縦方法が脳に直接伝わってきた1巻目の起動シーン』から来ている言葉です。