ただ、完成してみたら悪意が結構出ちゃってましたので書き直そうと思い、折角なのでこちらに出しました。暇潰しにでもどうぞ。
「異住セレニアです。都内にある○○中から来ました。一年間どうぞよろしく」
私は型どおりの挨拶を終え、席に着き視線を前へと戻します。
自己紹介した相手である今日からクラスメイトとなった女子生徒たちから儀礼的にまばらな拍手が送られ、それで終わり。
ま、特に注目される謂われのない普通の新入生の自己紹介なんてこんなものです。こんなもので十分なんでね。
「え~と~、私の名前は井上美香でぇー、趣味はハムスターの飼育とぉ、株取引ぃ? みたいなー♪」
次の番に自己紹介始めた後ろの席の人が盛大に受け狙って、盛大に滑りまくっているのを実感しながら、私は今の自分と今までの自分が歩んできた『第二の人生』を振り返る作業で暇潰しをしておりました。
――失礼、皆様方には自己紹介が遅れましたね。
私の名前は『異住セレニア』。ライトノベル《インフィニット・ストラトス》の世界に生まれ変わった転生者であり、元は現代日本で男子高校生をしていた元男のTS転生者でもあります。
交通事故で死んだ後、転生の神様に会ったのか会ってないのかよくは分からないまま、気がついたらこの世界で一人の女児としてオギャーオギャーと泣いておりました。当時のことはあんまり覚えてませんが、前世の記憶だけは鮮明です。転生者のミステリー。
なにはともあれ、私は十六歳になる今日まで優しい父と母に育てられた後、物語の舞台となるIS学園―――世界で唯一のIS操縦者育成学校へと入学してきて、今は入学式が終わった直後。割り振られた教室で自己紹介の真っ最中なのです。
IS。作品タイトルにも使われている正式名称は《インフィミット・ストラトス》。
十年と少し前に開発されたパワード・スーツで、この世界観では世の中をひっくり返した大事件の中心にあったことで知られる機械の鎧。
このIS学園は、そのISを纏って敵と戦い競い合う、戦争ではなくスポーツとしてのISバトル選手育成機関として設立された日本にある国立高校。
私がこの学園に来たのは、転生者故のチートを活かすため・・・ではなくて、原作知識を活用した救済目的・・・でもなくて。
ぶっちゃけ、学費無料なエリート国立高校っていう博付けとお金目的だけだったりしましてね? タダですむなら親が楽できていいなと。
どのみちIS操縦者になるには高い適正値が必要不可欠で、私は中でも特段に低い『Eランク』。極めて珍しく世界初でもあるらしいのですが、珍しいだけじゃねぇ。
入学許可が下りるには足りないことは分かってましたから、私が学んだのは整備課関係の科目。
日の当たる操縦者に憧れて日陰者扱いされてる整備課志望の人は少ないので、入学直後から目指してくれるのは有り難いらしく、普通にペーパーテストだけで合格決めてもらえました。実機の操縦は「動かせりゃ資格的には問題ない」とのことでした。・・・ISの絶対数が限られてるせいか、競争は思ったよりも激しそうな学校だな。
ISに関する資料は、『とある伝手』を通じて早期から入手できていたというのも大きかったのでしょう。「筆記では」という前提条件がつきますけど、私の成績は概ね高水準には達していられたようで一安心です。ふう。
「えー・・・・・・っと、織斑一夏です。よろしくお願いします」
そんなことを考えていた私の耳に、隣に座る生徒が立ち上がって自己紹介する声が届いてきたので顔を向けます。
端正な顔立ちをした少年が、困ったような笑顔を浮かべて立っています。
基本、女性しか動かせないはずのISを起動させたことから、特例で完全女子校制のIS学園に入学してきた男子生徒――パワード・スーツ物の定番ですよね。
この物語本来の主人公、織斑一夏さん。彼がその人、本人でした。
「――以上です」
がたたっ。・・・織斑さんによる期待外れの挨拶に数人の女子がずっこける音が教室内に響いて、私は一人こっそりとため息。
――この人たちは、一体何を期待してたんでしょうかね・・・? 特別な地位に就く人には、普通とは違う特別な何かを持っているだろうと実物と会う前から決めつける権威主義的思考が苦手な私は、こういう場面だと困るぐらいしかできないんですよねー。
特別だろうと天才だろうと、所詮は同じ人間です。そこまで自分たちと比べて異なるナニカを期待する方がどうかしてると私なら思って当然なのですが・・・つくづくよく分からん。
「・・・・・・(に、にこっ)」
「・・・・・・(ぺこり)」
挨拶が終わって席に着いた織斑さんと目が合ったので、とりあえず互いに目礼と一礼。
相手はぎこちない笑顔で微笑し、私は生まれ変わって以来どうにも変化が乏しくなった顔の表情筋は動かすことなく頭を下げます。
パアンッ!
「いっ―――!?」
「馬鹿者。おまえは挨拶も満足にできんのか」
そして、織斑さんの実姉という設定を持つ美人教師の織斑千冬先生が登場し、挨拶が下手だった弟さん主人公に愛のある修正ツッコミ。親にも殴られたことない坊やを殴った木馬の艦長さんよりかは随分とお優しい対応です。やはり戦時下の軍人と平時の鬼教師役とでは桁が違うのかもしれませんね。
「さあ、SHRは終わりだ。諸君らにはこれからISの基礎知識を半月で覚えてもらう。その後実習だが、基本動作は半月で体に染みこませろ。いいか、いいなら返事をしろ。よくなくても返事をしろ、私の言葉には返事をしろ。わかったな?」
織斑先生のによる根性論的趣旨でのホームルーム終了の挨拶が終わり、次の授業開始へと進むことが宣言されました。
「自分の命令だからやれ」と言われましてもねぇ・・・。機械相手ならともかく、生物相手にその手のゴリ押しは却って出来なくするだけで意味ないんですけども。
もしやるとしたら徹底的に疲れても倒れても壊れても走らせるぐらいがちょうどいい、米陸軍みたいな訓練のやり方じゃなければ半端に終わるだけだと思います。
思いますが、言いません。人それぞれの正義、人それぞれの主張、人それぞれが信じる信念です。好きにすればよろしい。従う方は出来る範囲でやるだけです。
徹底しないと、こういう生意気なガキが生まれるだけなので、この手の手法は用法用量を学んで正しく使いましょう。以上です。
「あの、異住。ちょっといいか?」
「・・・?? はい、構いませんが、何のご用でしょう? 織斑さん」
二時間目の授業が終わって、教室を出てお手洗いに行こうかなと席を立った私に声がかけられ、視線を向けた先にいたのはなんと織斑さん。原作主人公が、無能極まる転生少女にいったい何の用があるのでしょうね?
「さっきはサンキューな? おかげで助かったわ」
「・・・ああ、“アレ”のことですか」
私は納得したようにうなずきながら、それでも多少の不快さを顔に出さないよう注意深くならざるを得ません。それぐらい嫌な記憶を思い出させられてしまい、相手が悪くないのに不機嫌になる寸前にまでなってしまったのですから、まだまだ私も未熟者だと言うことですかねぇ。
――先の授業中、(内容はISに関係する法律上の問題その他についてです)彼は周囲が当たり前について来れてた授業内容を全く理解することが出来ずに、副担任の山田先生に向かって「全部分からない」胸を正直に白状しました。
そこまではまぁ、彼の能力面の問題でしたので不満も怒りもなかったのですが、問題はここから。
彼の発言を聞いたクラスの女子一同が全員ずっこけて、織斑先生は立ち上がり、「入学前に渡した参考書は読んだのか?」と聞き、「古い電話帳と間違えて捨てた」と答えた弟さんを殴り、説教をはじめられたのですが、ここで私が待ったをかけたのです。
「今日のところは私が教えながら資料を一緒に見ます。その方が早いですし、先達としては後進に教えるのは義務みたいなものですから」
と、適当なこと言って場を納めたことについて礼を言われているのでしょう、たぶん。
「別に気にすることではありません。あの場では貴方だけが悪いとされる道理がなかった、只それだけが私の動いた動機でしたから」
そう、彼“だけが悪い訳じゃない”。あの場の状況は、全員の対応にいささか問題がありすぎていた。それだけです。
――ISは十年と少し前に起きた『白騎士事件』で世の中をひっくり返した超兵器であり、女性しか動かせない今作世界風のパワードスーツでもあります。
そのため、ISを扱える者たちは一種の特権階級扱いされており、この学園にしたところで入学に必要となる倍率は1万倍以上。エリート中のエリートばかりが入学してくることが前提にある学校。
当然、そこに通う者たちは初めからIS学園入学を目指していた者たちばかりであり、それに必要となる知識や教養も結構深く詳しく時間をかけて勉強してきた者たちばかりしかいません。
・・・要するにIS学園の教科書は、それぐらい知ってて当然の努力量をした超エリートが使うこと前提で作られた物。
強制入学が決まってから一ヶ月も経ってないド素人が理解してないからと、経験者たちが『え? これぐらいのことも分からないの?』的な視線で見ていいほど、簡単な内容では決してない。
自分にとって当たり前のことだからと、相手がそれを出来ないのはおかしい、バカだと言うかのような目で見下す行為が私は嫌いです。大嫌いです、吐き気がするし反吐が出る。
――何よりも前世の自分がやった愚行を思い出す・・・。
あんな醜い所業をする薄汚い生き物になんて戻りたくありませんでした。だから庇ったのです。ほかに他意はありません。
とはいえ。
「ですが、織斑さんも織斑先生から改めて次に渡された分は、丁寧に扱ってください。電話帳と見間違えたからとか言って捨てたりしちゃダメです。人からもらった物は大事にしましょうね?」
「う。は、反省しております・・・」
「よろしい」
私は鷹揚にうなずいて、矛を収めます。
――本当は「いや、表紙のタイトル見ただけで一目瞭然なんですから電話帳と間違えたって嘘でしょ?」とか、「そもそも1ページでも開けば子供でも電話帳でないことは明白なので、見ることさえせずに捨てたのでしょう?」とか、「ぶっちゃけ、分厚かったから読む着なくして捨てたとしか思えない」などの弾劾をぶつけてみようかなとも思ったのですが・・・・・・悪口になっちゃいますからねぇ、ここまでいくと。
間違いは誰にでもあり得る問題で、最初の一回目は注意と反省を促すもの。二回目からは怒るのが基本。三回目になったら少々きつめに叱り、四回目は無視していい。
三回も間違いを指摘されて治さなかった奴は、四回目に注意すると殺されるだけだから見捨ててよいのだと、前世で大好きだった小説『銀河英雄伝説』に書いてありましたからね。
「ちょっと、よろしくて?」
「へ?」
「・・・おや」
会話が長引き、もうすぐ休み時間が終わるなーとか思い始めた頃に横合いから鈴の鳴るような声一つ。
視線を向けるとそこにいたのは、『ゴージャス』という単語がよく似合いそうなお嬢様風の金髪美人。
彼女を見た私の脳内で、原作知識が囁きます。
――バトル物の定番、主人公の初陣相手のお嬢様優等生が現れた!
『セシリア・オルコット』が絡んできた!!――
・・・・・・何年付き合っても慣れることの出来ない、ゲーム風の状況解説原作知識供与。
これって本当にバージョンアップとかできませんか? もしくはクーリングオフでも可。
ぶっちゃけ、割と本気で超ウザったいのでね?
つづく
『オマケ』
セレニア「そういえば織斑先生、質問があるんですけども?」
千冬「ほう、お前が質問とは珍しいな。なんだ? 言ってみるがいい」
セレニア「では、お言葉に甘えて。――IS学園の席順ってどういう基準で決められてるんですか? 点呼するときは出席番号順でしたけど、『お』の織斑さんが真ん中の最前列に位置してたり、『し』の篠ノ之さんが窓際の席にいたりして規則性がいまいち見いだせないのですが・・・」
みんな『あっ!?』
千冬「・・・・・・えー、その件についてはだな・・・私は知らん! 学園執行部に聞け!!」
みんな『やだ、スゴく格好いい言い方! でも言ってる内容は説明責任の放棄だわ!?』
セレニア「・・・・・・(ロックウェル大将~(ToT))」
*千冬の発言によりIS世界の日本と自由惑星同盟がダブって見えて落ち込むセレニア。
実は自由惑星同盟が日本の未来っぽくて少しだけ苦手な今作主人公です。