1話目となっていますが、プロローグが前にありますので実質2話目です。
最初から読みたい方は1話前までお戻りください。
――セシリア・オルコット。
イギリスの貴族令嬢にして代表候補生。専用機持ち。
プライドが高くて素直じゃない。
『・・・と、こんなん出ましたけど?』
そうですかい・・・。
私は内心だけで溜息をつき、頭の中に直接語りかけてきている原作知識供与システム、つまりはリムル様の『大賢者』私版的存在に返事をしました。声は出さずに、でしたけども。
転生特典として与えられた物なのか何なのかよく分かりませんけれど、とにかく彼だか彼女だかの名前は『アカシック・レコード』さん。
何かと頭の中に直接語りかけてきて補足説明してくれるナビゲートシステム。どうして名称がクトゥルー神話から来ているのかは不明。・・・前世から今生までの間に何かあったのかな?
まぁ、とにかくそう言うもんだと思っといてください。
ちなみにですが彼(彼女?)が、私にISについて資料提供してくれてた『とある伝手』ではありません。別の人間として実在してる方が其れです。
アカシック・レコードさんは気紛れらしく、呼んでもないのに出てくるときは出てきますし、出てこないときは返事すらしてくれません。なので困ったときに使えるとは限らないから信頼性に欠ける欠陥品なのです。利便性も微妙ですしね。
求めたときに必ず持ってそうな人が側にいるなら、その人と仲良くしておいた方が便利で頼りになり安心も出来る。
つまりは所詮、人が最後に頼れるのは己の努力で培ってきた技術のみと言うことなのでしょうね。特別な力とかリスク有りの高性能機とかそんなんじゃなくて、今まで自分を助けてくれた技術のみ。
――そんなことを前世で読んだ小説の中で見たものですからね~。『モ・マーダー』さんはあの本の中で今でも元気に過ごしては・・・おられませんよね、彼の死が物語り上けっこう重要なんだし当然かぁ-。
「訊いてます? お返事は?」
うわっ、ボーッとしてたら怒られました! これは完全無欠に私が悪いので謝っといた方がいいですよね?
「あ、ああ。訊いてるけど・・・どういう用件だ?」
「まあ! なんですの、そのお返事。わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら?」
ああ、なんだ。私じゃなくて話しかけてきてたのは、織斑さんの方だけでしたか。ああ良かった・・・良いのかな? 相手の意図はともかく、返事しないで沈思黙考したまま結果的に無視してたのは事実なのですし、謝っとくのが人の道のような気が・・・うぅむ~・・・。
「悪いな。俺、君が誰かしらないんだ」
「わたくしを知らない? このセシリア・オルコットを? イギリスの代表候補生にして、入試主席のこのわたくしを!?」
そんな風に私が一人で考え込んでいる間に会話が進んじゃってたみたいですね。なんか話題の雲行きが怪しくなってきてるみたいですし。
「あ、質問いいか?」
「ふん。下々のものの要求に応えるのも貴族の務めですわ。よろしくてよ」
「代表候補生って、何?」
がたたっ。・・・またしても話が聞こえてたらしいクラスの女子数名がずっこける音が聞こえてきました。今度のはさすがに私もフォローし切れそうにありませんな・・・」
「・・・織斑さん、代表候補とは読んで字のごとく代表選手の候補を指す意味での言葉です。その前にイギリスが付いているのですから、イギリス代表の候補のことですよ。ちょっと考えれば分かることでしょう?」
「そう言われればそうだ。簡単なことほど見落としやすいって本当なんだな」
こりゃウッカリだ、とでも言い足しそうな横顔で告げる織斑さんに、今度は私まで冷たい目を向けてしまいます。
「織斑さん? 考えれば分かることを知らなかったのに、開き直ったりしちゃダメです。無知は罪ではないと思いますけど、知ろうとする努力を貶めるような言い方は悪です。貴方のためにもなりません。出来れば今後はお控えのほどを・・・」
「お、おう。・・・なんか気を遣わせちまったみたいで、すまんな? セレニア」
「いえまぁ、別にいいんですけども・・・」
つか、一番謝らないといけないのは目の前で無視されて雑談されてしまったオルコットさんなのでね?
ほら、頭から湯気が出そうになってますし、ここは恐縮して見せながら謝罪して「どうぞ続きを」と会話の主導権をお返しすることで矛を収めていただいた次第。
自分に非があるときは素直に謝っとくのが一番効率的な人の道です。
「すみません、オルコットさん。お話の邪魔しちゃって・・・どうぞ続きを」
「・・・コホン。まあいいでしょう」
とりあえず謝罪は受け入れてもらえたみたいです。
「そう! 国家代表候補生は国家代表IS操縦者の候補生として選出されるエリートのことですわ! エリートなのですわよ!」
エリート自慢。なんとなくジェリド中尉を思い出して、佐々木只三郎さんには結びつかない辺りは自分の中の偏りを意識させられざるを得ない今日の私です。
「本来ならわたくしのような選ばれた人間とは、クラスを同じくすることだけでも奇跡・・・幸運なのよ。その現実をもう少し理解していただける?」
「そうか。それはラッキーだ」
「・・・・・・馬鹿にしてますの?」
うん。それは私も思いました。って、ゆーか絶対バカにされてましたよね? 今の言い方だと。
「大体、あなたISについて何も知らないくせに、よくこの学園に入れましたわね。唯一男で操縦できると聞いてましたから、少しくらい知的さを感じさせるかと思っていましたけど期待外れですわね」
そして、オルコットさんはオルコットさんで挑発台詞としか思えない言い方を選んで来やがってきますし・・・。
つか、彼が強制入学させられた身であることは、先の授業で織斑先生とのやりとりを訊いてれば分かるような気がしますし、才能のあるなしに知性が関係してくるとは思えません。
「人格と能力とを混同するのは一番愚劣な行為」と、シェーンコップ准将もおっしゃってましたからねぇ~。
『まさか人格が優れてた方が、トマホークの振り回し合いで勝つなんて思ってやしないだろうな?』
・・・いい言葉でしたよねぇ。感動しました。――それからしばらくは大河ドラマとか見るのが苦手になったほどに。正しけりゃいいってもんじゃないと思い知らされた中二の夜。
「俺に何かを期待されても困るんだが」
「ふん。まあでも? わたくしは優秀ですから、あなたのような人間にも優しくしてあげますわよ。
――ISのことでわからないことがあれば、まあ・・・泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ。何せわたくし、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから」
ああ、なんだ。そういうことですか。なるほど、これは確かに『プライドが高くて素直じゃない』ですね。アカシック・レコードさん?
――Yes!
・・・なんで『問題児たちが異世界から来るそうですよ?』の黒ウサギさん風に・・・まぁ、いいでしょう。大した影響が出るものでもないでしょうからね。
要するにこの方、初心者へのレクチャーを買って出てくれただけみたいですね、単直に言って。ただ、『素直じゃなくてプライドが高いから』こういう言い方しか出来ないってだけで。
あと、先ほどから妙に『唯一』と『エリート』の二つを連呼なさってますけど、何かしら事情を抱えておいでの方なのでしょうか? それはそれでちょっとだけ気になりましたが、訊くより先に織斑さんの方が声を上げられました。・・・最悪の形と気づかぬままに・・・。
「入試って、あれか? ISを動かして戦うってやつ?」
「それ以外に入試などありませんわ」
――ここに一名、ペーパーテストで入試合格した転生者が現実世界から来ているようですよ?
・・・って、うるさいですよアカシックーっ!!
「あれ? 俺も倒したぞ、教官」
「は・・・・・・?」
ポカンとされるオルコットさん。・・・プライドの根拠にしてたんでしょうからなぁー。普通の声音で普通のことのように言われたから地味にキツい。そんなところですかね。
「わ、わたくしだけと聞きましたが?」
「女子ではってオチじゃないのか?」
ピシッと、何か嫌な音が響いた気がしました。おそらくオルコットさんのプライドにヒビが入ったことを示す効果音か何かによる演出でしょう。さすがはフィクションが現実になった世界。芸が細かい。
「いや、知らないけど」
「あなた! あなたも教官を倒したって言うの!?」
「うん、まあ。たぶん」
「たぶん!? たぶんってどういう意味かしら!?」
「えーと、落ち着けよ。な?」
「こ、これが落ち着いていられ――」
キーンコーンカーンコーン。
・・・タイミング悪く、タイムオーバー。時間切れです。休み時間が終了してしまいました。話し始めるのが遅すぎましたね。意図してないとはいえ私のせいでもあるので、罪悪感で胃が痛いです。
織斑さんには福音に聞こえたようで「ホッ」とした表情をしてらっしゃいますけど・・・この方はこういう事態に出くわしたことがないのでしょうか?
こういう時、下手に曖昧なまま終わらせてしまえば禍根だけが残って後々まで後顧の憂いになり続けるのは常識だと思うんですけども・・・。
ノブさんじゃないですけど、『半端にやるから恨み辛みばかり買うことになる』んですよねぇ。こういう場合の定番展開って。
「っ・・・! またあとで来ますわ! 逃げないことね! よくって!?」
そう捨て台詞を残して自分の席へと、忙しなく戻っていくオルコットさん。
対する織斑さんは曖昧な表情でうなずき返しただけ。・・・かんっぜんに迷惑がってるだけですね、この表情では・・・。
・・・はぁ、仕方がありませんか。次の休み時間にフォローしに行っときましょう。彼だけでなく自分にも責任がある問題ですし、これで何か事件でも起きたときには目覚めが悪い。
『半端にやると』の中には“半端な救済”だって含まれているとみて間違いないでしょうからねぇ。相手の問題に自分基準だけを持って望むわけにはいかないものです。
なにより彼女も同じ人間。彼女なりにプライドがあそこまで高くなった理由なり原因なりがあるのは当然のことなのですから・・・。
――そのつもりだったんですけども。
「それではこの時間は実践で使用する各種装備の特性について説明する。
・・・ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな。自薦他薦は問わないから、誰かなりたい奴か、なってほしい奴はいるか?」
・・・三時間目の授業が終わったらと思っていたところに、織斑(姉)―――っ!!!(怒)
アンタ、なんばしてくれとんじゃい!? んな選び方したら同じクラスの世界で唯一他薦するに決まっているでしょうが!? 面倒ごとを素人で目立つ肩書き持ちの織斑さんに押しつけようとするのは火を見るより明らかじゃないですか!?
決を採るシステム欠陥の典型的失敗例を、教師自身が演じてどするんじゃコラーっ!?
「はいっ! 織斑くんを推薦します!」
「私もそれがいいと思います!」
「ふむ。その根拠は?」
『世界で唯一の男子が同じクラスにいるんですから、持ち上げなきゃ損です!
私たちは貴重な経験が積めて、他のクラスの子に情報が売れる。一粒で二度おいしい織斑くんを、是非とも私たちのクラス代表に!』
ほらね! やっぱりこうなった! だから私は思ったんですよ! 心の中で! 心の中だけで!
言っても無駄だと分かっていたから言わなかったですけど、言っときゃ良かった! 後の祭り!
誰も声をあげて責任者の責任を追及しないままだと状況が改善した例はない説実証完了! うれしくねーっ!!!
「・・・お前ら・・・学生が教師の前で堂々と金稼ぎに利用する宣言ぶちかますなよ・・・。少年法に引っかかっても知らんぞ・・・」
『治外法権の学園内限定です!』
「・・・・・・そうだったな・・・」
はぁ、と盛大に溜息をつく織斑先生。――と、私。
終わったぁ~・・・。これ絶対修復不可能なレベルで絡んできますよ、オルコットさんが。
IS操縦者としての実績とプライドに異常なほど固執している彼女が、こんな適当な理由で決められた人間を『自分たちの』代表に据えることを了承するはずございません! 絶対に絡んできますって!絶対に!
「待ってください! 納得がいきませんわ! そのような選出は認められません!
物珍しいからと極東の猿を、わたくしたちクラスの代表にされては困ります!」
ほら、やっぱりーっ!!
「大体、男がクラス代表なんていい恥さらしですわ! わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間も味わえとおっしゃるのですか!?
わたくしはこのような島国までIS技術の修練にきているのであって、サーカスをする気は毛頭ございません!」
・・・あぁ、悪化させてってますねぇオルコットさん。まぁ仕方のない部分もあるんですけども。
前世でも何度か見かけたことがあるシーンです。体育の授業中に『本気で勝ちを狙いに行く派』と『楽しくやるのが一番派』との意見衝突は。
基本的に端から見てると『本気で勝ちにいく派』が正しいように見える場合が多かったシーンですが、今回のを見れば分かるように必ずしも両派閥の戦いはわかりやすい勧善懲悪の体はなしておりません。質量共に、どちらも同じぐらいの主張です。
だって、実際問題体育の授業で本気出して勝っても疲れるだけですし、運動が嫌いな子だってクラス内には含まれている。
成績に格差が生じ過ぎないよう日本の学校は生徒の割り振りでバランス調整して平均値を競わせたがる欠点があるとどこかで聞いたことがありますけど、この学園でどうか知りません。ただし断言できます。
『本気で勝ちたい派』も、『適当に楽しみたい派』も被害者側であると。
だって、そうでしょう? 本来スポーツは『人間形成』を学ぶべきものであり、誰かが誰かを攻撃したり否定し合ったりするためのものでは断じてない。
にも関わらず争いが生じてしまうのは『やる気のある生徒』と『ない生徒』とを学年だけ見てごった煮して、一緒のクラスという鍋に放り込んで、一人の鍋奉行教師にかき混ぜ役を一任してしまうシステム自体が欠陥を抱えているからです。
なにかに本気で挑もうとする気持ちが間違っているはずはなく、だからと言ってスポーツが苦手だったり嫌いだったりする子にまで『勝つこと』を求めるのはフェアプレイ精神どころかスポーツマン失格の武力弾圧に近い。
自分たちが主張を通す自由を求めるなら、相手にもそれを拒む自由を認めなければならないのが道理。一方的に『自分たちが正しくて相手が間違ってる』と責める心は戦争に近く、スポーツとも平和とも掛け離れすぎている。なので私は大の苦手です。反吐が出る。
・・・ただなぁ-。
「大体、文化としても後進国な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐えがたい苦痛でしたのに、どうして実力トップのわたくしがなるべきクラス代表にお猿さんが―――」
「(カチン)イギリスだって大したお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ」
「な―――っ!?」
あー、やっぱりこうなってくかー。前世で経験したとおりでも気が重いなぁ-。
『嫌だと言うだけなら誰でもできる。だが、それじゃあ戦いは終わらない』でしたかね? 昔プレイした『タクティクス・オウガ』でヴァイス・ボゼックさんが述べた主張は。
あれも確か、『勝つためにやったこと』が原因で道が逸れるストーリーだったんですよね。今思うと含蓄があるゲームだったと思います。・・・この世界でも売ってたら買い直しましょう。
それはさておき、嫌だと“言う”だけでは終わらない戦いで、“言うことさえしていない”私が与えられる影響などチリ一つ分ほどもなく。
エスカレートする双方のお国否定(もう完全に論点ズレまくっちゃって原形とどめていませんね)。感情論で激化した争いに理屈でできることなどありません。正しさやら正義やら言う理屈だけで人の心は動かせやしないのですよ。
なので私は見ているだけです。最初の初動で失敗した以上は、ここでの挽回は諦めました。
次です次。次の昼休み休憩でオルコットさんとお話ししてみます。・・・苦手ですけどね、彼女がではなく人と話すのが。
私って言う言葉が『攻撃的だ』『悪意がある』って、よく言われるんですよねー。基準がよく分からないんで流してきましたが、今思うとちゃんと聞いておけば良かったと心底から思います。
ですが、これもまた後のお祭り。『あの時こうしておけば』なんて、「世界で一番無意味な後悔」・・・そんな言葉がありましたね。
「決闘ですわ!」
「おう。いいぜ。四の五の言うよりわかりやすい」
はい、決定。オルコットさんが挑んで、織斑さんが受けたことにより決闘自体は予定調和で成立してしまいました。
成立しましたので、後に続く「負けたら一生わたくしの奴隷」云々やら「真剣勝負で手を抜くほど腐っちゃいない」やら「このわたくしの実力を示すまたとない機会ですわ!」やらのお約束会話は省略しちゃいます。絶対実行されないバトルもの最初の対戦者が決めた「負けた方が奴隷宣言」なんて聞く価値ないですし。どーでもいいー。
「さて、話はまとまったな。それでは勝負は一週間後の月曜。放課後、第三アリーナで行う。織斑とオルコットはそれぞれ用意をしておくように」
二人の決定に後追いの形で許可を出される織斑先生。・・・てゆーか、この人は今の会話中に何やってたんだ? 黙って見ているだけの傍観者であり続けてたんか? 教師なんでしょう? 一応は・・・。
――と、自分ができなかったことを他人のせいにしようとする自分の卑劣さは相変わらず嫌いな私。そのせいで今の騒ぎでも役にたてんかったとです・・・休み時間こそ頑張りましょう。
「それでは授業を始める」
はぁ・・・。
生まれ変わっても自分の卑劣さと無能さに足を引っ張られ続ける私。
プライスレスでいいんで、誰かもらってくれませんかねぇー? この要らない卑小さを。
つづく