はじめまして、私の名前は異住セレニア・ショート。
交通事故で死んで、気づいたときには《インフィニット・ストラトス》の世界に生まれ変わっていた転生者です。
あと、前世では男で、今は恥じらう女子高生なTS転生者でもあります。・・・うん、気持ち悪いですね。二度と使わん、この言い方だけは絶対にだ(断言)
原作開始の高校一年生まで約十六年。長い待ち時間がようやく終わり、私は晴れて原作の舞台であるIS学園入学が決まり、転生者という主人公っぽいポジション補正によるモノなのか原作主人公と同じクラスに配属されて仲良くなって、昨日は彼と原作ヒロインの一人セシリア・オルコットさんとの口論にまで居合わせることが出来ました。・・・一言も口出ししないまま他人事を貫いた私は正しく腐った現代日本人ぅぅ・・・。
・・・ま、それはそれとして原作は開始され、私は何一つ介入しないまま、あんま読んだことない原作ストーリー展開を横でボンヤリ見ていた訳なのですが。
――――いったい何をどうすれば、入学数日後の放課後に原作主人公が私の家きてカレー食ってる展開になるのでしょうかね・・・・・・? 教えてオカリーン。
「と言うわけで、異住。友達になって早々で悪いんだけど、俺にIS関連の基礎知識を教えてくれないか?」
「はあ・・・」
席正面に座った彼――原作主人公の織斑一夏さんはそう言って頭を下げてこられました。・・・右手にスプーンを持ち、放そうとしないままで。
供してあげた賄いのカレーを、話し終わると同時に食べ始めて、冷ますことなく無駄にしないために。
「このままだと一週間後の試合でヤバい。
箒にも頼んでみたんだが、なぜかISじゃなく剣道のやり方しか教えてくれないし――いや、アレはアレで役に立つとは思うんだが、基礎は基礎で習っとけるもんなら習っといた方がいいだろ? だから頭良さそうなお前に頼んでみようと思ったんだ」
「なるほど」
拒否でも了承でもなく「納得」を意味する単語で曖昧に返事をかえした私は、次の言葉を見つかるまでの時間稼ぎのため周囲を見渡し、店内の内装を検めます。
中世ヨーロッパ風の調度品で統一されたレトロな喫茶店。
今生の母が祖父から譲られ店長をやっている、今時珍しい古風なお店。
格式高そうな見た目とは裏腹に、意外とリーズナブルな料金設定と、なんで喫茶店に置いてあるのか理解不能なメニューが羅列した二次元世界らしい特徴を持つ、たぶん学園ラブコメの世界じゃ標準的で平凡な喫茶店なんでしょう。たぶん、おそらく何となく。
ちなみに店の名前は、喫茶『コスモ・バビロニア』。・・・うん。もう何も言うまい。
「・・・この前織斑先生から再発行された参考書を読まれた方が確実なのでは?」
私は記憶巣から引っ張り出してきた適当な出来事、入学一日目で織斑さん自身が『古い電話帳と間違えて捨てたから怒られた末に再発行された』という黒歴史まがいな逸話持ちIS学園入学者必読の参考書を話に持ち出します。
彼は「おう、それなんだけどな」と言って、鞄に手を入れ目当てのモノ――件の参考書を引っ張り出してきてテーブルの上に置きました。
それは、最新科学の塊であるISの扱い方を学ぶ場所『IS学園』らしいアルファベット表記とカタカナばかりで記されている、新入生用の真新しい参考書。
何度見ても・・・古い電話帳と見間違える要素がどこにも見当たらない代物でした。ホントなんだってコレを間違えられたんでしょうかね、この人は・・・。
「千冬姉にこれ以上負担掛けるのは嫌だったから、俺なりにも1からきちんと読み初めてみて、専門用語も意味を調べられながら真面目に取り組んでみたんだが・・・」
ちょっとだけ脳外科と眼科のパンフレットを渡した方がいいかなと、本気で悩み始めていた私の耳に織斑さんの声が届き意識が現実に引き戻されて正面を見て、相手の真剣な表情と向き合ったまま次の言葉を待つ私。
「・・・正直言って、なに書いてあんのかサッパリ分からん。専門用語の説明の部分に別の専門用語が使われていて、その専門用語の意味を調べようとしたら別の専門用語が載っている負の連鎖でな・・・・・・説明が説明になってねぇんだよ・・・・・・。
初心者が基礎を習うための参考書に、初心者向けの基礎知識が一切載ってないってのはどういうことなのか、誰か俺に説明して欲しい気持ちでいっぱいな状態だぜ・・・」
「あ~・・・・・・」
私は思わず『まぁ、そうだよなぁー』と言いたい気分で参考書を見下ろし、内心で少しだけ溜息を吐くのでした。
――彼と私が通うことになった学園、原作の舞台にもなっているIS学園は、日本にある世界で唯一のIS操縦者育成機関です。
十年と少し前『白騎士事件』で世に登場し、世界を変えた存在《IS》の扱い方を学ぶ場所であると同時に、建前上だけでも国家権力が介入できない治外法権の地でもあります。
法制度上、日本の物ではありませんが日本の地に設立され、経営は日本政府が、責任者は日本人中年が、教員の大半は日本人で、生徒の大多数は日本人という、事実上日本式の学校ではあるエリート国立高校。
ISは動かす際に必ずしも専門知識が必須な類いのパワードスーツではありませんが、そこは日本のエリートたちが通う名門国立学校の事情と言うことなんでしょうかね。
教育方針とシステムとテスト問題の出し方とかが完全に日本式の詰め込み方式で埋め尽くされています。
暗記科目が無駄に多い上に『繰り返し学習』が基本となっているため、織斑さんのようなズブの素人が必要に駆られてから遅まきに初めても結果が出るのは数ヶ月近く先はほぼ確実という、初心者には使いづらいことこの上ない参考書もどき。
むしろ、IS学園入学を目指して自習自得を繰り返してきた私たちと違い、巻き込まれたから仕方なく勉強した織斑さんが学校卒業までには一定以上の成果出しているのが原作なんですよねぇ-、たしか。主人公補正マジパネェ~。
「とりあえず、私が受験の時に使ってた中学生向けの参考書でも読みますか? 注釈の落書きがしてあったり、自分なりの見解なんかを記してありますので見づらいかもしれませんが・・・」
「サンキュー! 助かるよ異住!」
「・・・・・・どーいたしまして」
率直な笑顔でお礼を言われ、微妙な心地で返礼を返す私。
いや、悪い気がしている訳ではないんですけどね? 人の為になるのは良いことですし。
・・・ただ、転生者が原作主人公と出合って最初にした手伝いが、中学時代に使っていた受験用の教科書を貸すだけだったという現実に『異世界転生モノって、こんなんだったっけ?』と自分の第二の人生に疑問を抱いただけです。いや、ホント。割と本当にその程度のものでして。
こうして、『ハイスピード学園バトルラブコメディ《インフィニット・ストラトス》』の世界に生まれ変わってから十六年後、私の原作生活数日目がスタートしたのでした。
日数から見て、まだ日常パートでしょうし言うのは早いのかもしれませんが・・・・・・・・・
――――このIS世界への異世界転生生活、地味だなぁオイ!(微怒!!)