「やっぱりハヅキ社製のがいいなぁ」
「え? そう? ハヅキのってデザインだけって感じがしない?」
「そのデザインがいいの!」
六月頭の月曜日。今日も俺以外は女子ばかりのIS学園は姦しくも平和な日常を過ごしていた。
先月に起きた謎の無人IS乱入事件はうやむやのまま中止され、今月の終わり頃には学年別個人トーナメントが開催される運びとなっている。
・・・入学直後から操縦系のイベント目白押しだなオイ。少しはズブの素人にも配慮して欲しいと思わなくもないぞ、俺しかいないけどな。
そんなこんなで我らがIS学園一年一組の生徒たちもトーナメントに備えてのものか、出場時に着ていくISスーツ選びに余念がない。服よりも機体選びに集中しろよと言う人もいるかも知れないが、実質ラファールと打鉄しか持ってないIS学園で選び余地はあんまりないし、女子としては服の方が大事なんじゃねーのかな? いや、知らんけど。
「どうしたね? 織斑君。タオル右手に『エウレーカ!』と叫びながら、全裸でローマ中を駆け回りたそうな、物思いに耽っているかの如き難しい顔をしているが」
「誰が風呂好きのマッパ爺さんだ!? そこまで俺は爺くさい顔をしちゃいねぇっ!」
いきなり出てきて失礼極まりないことを言ってきた相手に怒鳴り返しながら、俺は発言者の相手を見つめる・・・って言うか、“見下ろす”。
高校生の平均を遙かに下回る、ちびっ子女子高生IS操縦者がそこにいた。
黒くて長い髪を長すぎるぐらいにまで伸ばしまくって、下手したら踝の辺りまで達しちまってる其れをポニーテールにしているとか言うイカレタ髪型の持ち主であるドイツ人少女。
黒くて大きな瞳に、象牙色の肌をしていて胸はペッタンコ。って言うより、裸になっても多分あるのかないのか解らんレベルの超洗濯板スタイル。
いつでもどこでもマイペースに爽やかすぎる笑顔が、時にムカつく俺の友人。
シュトロハイド・フォン・ローゼンバッハが、彼女の名前だ。
「いや、なにやら目を細めて思索に耽っていたようだったのでね。てっきり若さ溢れる情熱を抑えきれずに走り出したいのだとばかり思ってしまったのだよ」
「俺は若さ故の過ちで、バイクを盗んで走り出す趣味はないんだけどな・・・」
「ハッハッハ! すまない、私としたことが君のことを見誤っていたらしい! 次からは気をつけよう。ハ――ッハッハッハ!!!」
相変わらず、何でもかんでも、どんな時でも心から楽しそうに笑いまくるハイド。箸が転んでも地球が回ってなくても楽しくて笑い出すと評判の笑顔は今日も健在なようだ。
人間、笑顔が多いと老けないって聞くけど・・・・・・こいつの成長不良は笑いすぎてるのが原因なんじゃないだろうな? 笑い続けてたら子供のまま体が大人になれないなんてオカルトは、ネバーランド以外で需要ないと思うぞ。多分だけどな。
「いやはや、今日も平和で善きかな善きかな。はっはっはっはっ」
楽しそうに笑い続けるドイツ人。
――余談だが、先日の一件でコイツがISを素手でブッ倒した件については、特に箝口令が敷かれることもなく、ごく普通になかったこととして処理されてしまっている。
目撃者である俺とセシリアと鈴も、ハイドに関することでは特に何の制約も誓わされていない。
言っても誰も信じないだろうし、そもそもどうやってやったかなんて誰にも説明できないし。あと、ハイド自身が特に大したことしてないみたいな顔して日常生活に戻っちゃったから、なぁなぁの内に「まぁいいか」で終わらせることにしてしまったようだった。
実際、重箱の隅をつついても誰一人得をしない話題だった上に、下手に藪をつついてドラゴンでも出てきた日には世界が滅ぼされかねん。
そんな誰にとっても不幸な事態を回避するため、ハイドは今まで通りごく普通のIS学園生徒として学園生活を送らせてもらっている。
俺としても助けてくれた友達を非難する気は少しもない。・・・出来れば最低限度の説明ぐらいは欲しいところだけど、聞いて教えてくれて理解できる自信がねぇ。流すより他ないのが現時点での俺たちIS学園生とハイドとの関係なのだった。
「そういえば聞いたかね織斑君。このクラスに新たなる戦士が送られてくるそうだぞ? それも二人もだ!
これは新たなる戦いを予感させるオーヴァチュアが奏でられると見て間違いないと思うのだが、如何に?」
「戦士じゃなくて転校生だと思うんだが・・・まぁ、それはともかくクラスメイトが増えるって言うのは素直にいいことだと俺も思うぞ? 仲良くなれたらもっと良いだろうし」
「うむ。ぶつかることで深く結びつく友情と言う奴であるな。拳と拳を交え合うことで生まれる男同士の絆は美しい」
「殴り合う前提なのかよ。あと、男同士無理だろ。俺以外いないだろ男が一人もIS学園に。ここ事実上の女子校だからな? わかってるか? 女しか扱えないISのドイツ代表候補で専用機持ちのハイドちゃん?」
「私の拳が光って唸って轟き叫ぶ! その雄叫びに海は割れ、大地は戦いた!」
「聞いちゃいねぇ・・・・・・」
別に、いつものことだからいいんだけどな。コイツって一度自分の世界に没入すると帰ってくるまでに時間かかりすぎる奴だから。
「諸君、おはよう」
「お、おはようございます!」
ハイドが自分の世界に没入する中、教室の扉が開かれて外から千冬姉が入室すると、それまでザワザワと騒がしかった教室が一瞬でぴっと礼儀正しく軍隊整列に変わるように秩序を手に入れる。今日も一組担任織斑千冬先生の威光は健在である。
――ちなみに、ハイドが没入したまま宝塚っぽい仕草でドラゴンボールみたいなセリフを吐き続けているのに関しては、千冬姉も完全無視を決め込む方向で割り切れたようだった。
殴っても蹴っても、終わるまでは戻ってこないから無視するしかないハイドの異常性には、授業時間の方が着いていけなくなるので無視するのが一番正しい選択だと判断したらしいのだが。
こればっかりは職務怠慢だとか言い出す奴いないだろうな~。だって本当にどうしようもないもんなー、コイツって。
「では山田先生、ホームルームを」
「は、はいっ。ええとですね・・・?
実はなんと転校生を紹介します! しかも二名です!」
「え・・・・・・」
「「「えええええええっ!?」」」
いきなりの転校生紹介に騒ぎ出すクラス内。
あらかじめ聞かされていた俺と(どこで聞いてきたのか情報源がよく分からんかったけど)千冬姉たち先生方二人、あとハイドだけが落ち着き払って山田先生から説明の続きを待っている。
いや、ゴメン。ハイドだけは落ち着いてないわ。相変わらずアッチの世界で暴れ回ってるわ。「ヒィィィィィィト・フィンガァァァァァァッ!!!!!!」・・・なんか必殺技出してるっぽいしな。
「では、お二人共。どうぞ入ってきてください」
「失礼します」
「・・・・・・」
山田先生の言葉と同時に教室の向こうから声が聞こえて、扉が開かれ二人の人物が入室してくる。
その内の一人を見て、ざわめきが一斉にピタリとやんだ。
そりゃそうだ。
だって、その一人って言うのが――――男子だったんだから。
「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします」
転校生の一人、シャルルはにこやかな笑顔でそう告げて頭を下げる。
呆気にとられたのは俺を含めたクラス全員(-1名)みんながそうだった。
「お、男・・・?」
「はい。こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて本国より転入を――」
その自己紹介は、最後まで聞くことが出来なかった。
ソニックウェーブにも似た女子生徒たちの黄色い叫び声が教室を満たし、シャルルの声を掻き消して鼓膜に届くことがなかったからだった。
「きゃああああああ―――っ!!!」
「男子! 二人目の男子!」
「しかも美形がうちのクラスに!」
「地球に生まれて良かった~~~!」
つくづく元気だね、うちのクラスの女子一同は。ちょっと残念そうな子が混じってたみたいだけどね。
「あ~、騒ぐな。静かにしろ」
「そ、そうですよ皆さんお静かに! まだ自己紹介は終わっていません! もう一人残っているんですから~~っ!」
そう言えばと、騒いでいた皆の意識がもう一人の転校生の方にようやく向いて、静けさと落ち着きを取り戻す。
忘れてたわけではないのだが――むしろ、そいつの見た目を意識外へ追いやるのが難しいほど特徴的で、逆にキツさから無意識にシャルルの方へ逃げていたのかも知れない。
輝くような銀髪を腰まで伸ばし、左目には戦争映画の大佐が付けてそうなガチな眼帯を付けていて、開いている右目の印象はただただ『冷たい』。
その印象は言うまでもなく『軍人』。身長はシャルルと比べて明らかに小さいのに、その全身から放たれる冷たく鋭い雰囲気がまるで同じ背丈であるかのように錯覚させられそうになる。
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
それが彼女の自己紹介だった。それだけが彼女の自己紹介のすべてだった。
素っ気なく、飾り気もなく、誰かと馴れ合う気が些かも感じさせない絶対的な拒絶を込めた声音をまえにして、山田先生も思わず及び腰になっている。
「あ、あの、以上・・・・・・ですか?」
「以上だ」
にべもない、そう評するしかない無慈悲な即答で山田先生を泣かせそうになってから、ソイツと俺はばっちり目が合ってしまった。
「! 貴様が――――」
うん? なんだ?
訳が分からずポカンとするしかない俺に、つかつかと歩み寄ってきたボーデヴィッヒは右手を振り上げ、一切無駄のない平手打ちを俺にかまそうとして
「危ない! 織斑君! とおりゃ―――――っ!!!!!」
ズバコン!!!
「ぐはぁぁぁっ!?」
・・・・・・跳び蹴り食らって、壁まで吹っ飛ばされていった。
妄想世界から帰還してきた、ISを素手で倒すドイツ人少女の跳び蹴りを食らわされ、なんかよく分からん眼帯軍人少女は黒板の下で、痛みに藻掻き苦しみのたうちまくっている。
「うぐぉぉぉぉぉぉっ!? 頭蓋骨が陥没したように痛いぃぃぃぃぃぃっ!?」
「ふぅ・・・危ないところだったな織斑君。
まさか町中で『片目に眼帯を付けた山賊』に襲われるとは、君もよくよく運のない男だな。気をつけたまえよ?
昔から伝わる格言によると“日本男児たるもの一歩でも外に出たら七匹の山賊ウルフに襲われることを覚悟せよ”と言うからな」
「・・・言わねぇし、いねぇよ山賊になったオオカミなんて・・・いつの時代のどこの国に出てきて人を襲ってたんだよ、その山賊オオカミたちはさぁ・・・・・・」
「ところで、転校生君たちはまだ来ていないのかね? いずれは世界の覇権をかけて争い合う宿命のライバル同士として、是非にも挨拶しておきたいのだが・・・・・・今どこにいるか知らんかね織斑君」
「・・・・・・・・・」
うん、まぁ。
―――もはや何も言うまい・・・・・・。
つづく