『IS原作の妄想作品集』   作:ひきがやもとまち

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久々の更新になる、一夏の初恋相手の話。つばめさんIS3話目です。
今回は鈴が登場する回となっております。


織斑一夏のファースト初恋少女 第3話

「ふぅ、ようやく到着したわ。ここがそうなんだ・・・」

 

 夜のIS学園校舎前で、小柄な体躯の少女が一人ボストンバッグとともに立っていた。

 四月の夜風になびく髪は、肩に掛かるぐらいのツインテール。

 

「えーと、受付ってどこにあるんだっけ? 本校舎一階総合受付ってパンフには書いてあったけど・・・だからそれはどこにあんのって話でしょうが。まったく役立たないわね」

 

 イライラしながらぶつくさ言って、歩き回って探した方が早いと歩み出す。

 考えるより行動することを好む少女だった。とはいえ、土地勘がまったくない純粋な外国人と違って、彼女にはチャイニーズでありながら日本で暮らしていた実績がある。最低限度のことは他人に聞くまでもなく承知していた。

 

 彼女の名前は凰鈴音。中国のIS操縦者であり、国家代表候補生兼専用機持ち。

 そして、受付について登録した瞬間からIS学園1年生の一員となることが確定している少女。

 

「・・・ふふ・・・、アイツ驚いてくれるかなぁ・・・」

 

 学園内を進んでいくうちに第二の故郷に帰ってきたという郷愁を感じて、過去の思い出に一時浸る。

 中国で鍛練を積み、代表候補にまで成長した彼女が日本のIS学園に転校してきた理由は単純明快だ。恋慕である。

 

 中学時代に同じクラスだった男子生徒の織斑一夏がIS学園に入学したのをテレビで知って、軍を脅して追いかけてきた。ただそれだけのこと。国家の主戦力を担う身として無責任極まりない行動ではあるが、ティーンエイジャーの少女としては何も間違っていない行動でもある。

 だから浸れる。初恋相手との思い出と未来をともに過ごせる可能性に。

 

「・・・そう言えば・・・」

 

 好きな男つながりで中学校関連の記憶を掘り起こしていく中で、一人の人物に思い当たり、鈴はいったん自己陶酔を中断する。

 二年時の終わりに転校していった鈴に元クラスメイトが気を利かせて送ってくれた、一夏が写っている一枚の写真。

 その中で、彼の隣に写っていた美人顔なのに印象の薄い眠そうな目をした女。

 

「確か、葉月つばめって言うんだったっけ?

 ・・・なぁ~んか、一夏の見ている視線が気になる女だったけど、もしかしてアイツまでIS学園に来ているなんて偶然あるわけないわよねぇ・・・?」

 

 不吉な想像に襲われた鈴は身震いし、何の根拠もない被害妄想をすぐさま振り払う。

 IS適正は希少な素質だ。さらにIS学園は国家を代表するVIPクラスが集まってくるエリート校である。単なる私立高校のよくある恋愛小説じゃあるまいし、そんな物語じみた偶然あるわきゃない、絶対にないと心の中で断言しながら鈴は、ようやく見つけた総合受付の入り口へと入っていく。

 

 四月の夜。暖かな風が吹き始めた春の中旬。

 第三の女、凰鈴音が織斑一夏の恋物語に参入してくる一日前の夜に起きた出来事だった・・・。

 

 

 

 

 

「お前のせいだ!」

「あなたのせいですわ!」

 

 昼休みに入るなり早々、俺は箒とセシリアから身に覚えのないバッシングを受けて白い目を返すしかなくなっていた。

 

「・・・いきなりなんなんだよ、藪から棒に・・・」

 

 言いつつ俺は、今日の午前中いっぱい続いた二人の凡ミスと千冬姉に叩かれまくっていた直近の過去を思い出して、あれは痛そうだったからなぁと同情的な気分になり、ひとまずは時間もあるので場所を変えることを提案する。

 

「まあ、話ならメシ食いながら聞くから。とりあえず学食行こうぜ」

「む・・・・・・。ま、まあお前がそう言うのなら、いいだろう」

「そ、そうですわね。行って差し上げないこともなくってよ」

 

 二人からオーケーをもらい、つばめさんにも声かけようとした俺だったが、やめておいた。

 ――寝てたからである。昼休みになってから数分も経たないうちに寝るって言うのは一種の才能な気もするんだけど、つばめさんは日常的にこれをやるから俺はもう慣らされてしまっていて驚けない。

 いつも通り後ろにクラスの女子生徒数名が付いてきて、ぞろぞろと学食へと移動した俺たちは券売機で食券を購入して列へ並びに行く。

 

 そこで問題が起きた、って言うか待っていた。

 

「待ってたわよ、一夏!」

 

 どどーん、と背後に津波でも背負っているかのように立ち塞がってきたのは、今朝から教室に押しかけてきてクラスメイトたちの話題をかっ攫っていった噂の転入生、凰鈴音。俺と中学時代をともに過ごしたセカンド幼馴染みだった。

 

「まあ、とりあえずそこどいてくれ。食券出せないし、普通に通行の邪魔だぞ」

「う、うるさいわね。わかってるわよ」

 

 ツッコんでやると存外素直に身を退く鈴。根はいい奴なのを知ってる俺としては、普段からそうしとけば恋人の一人や二人ぐらい問題なく作れる程度にはかわいい顔してるのになと思わなくもない。

 いや、恋人が二人もいる時点で大問題すぎるな。しかも俺の考える内容じゃなかったし。・・・五反田の悪影響か、碌でもない考えをしちまったぜ。マジで恥ずかしい。

 

「て言うか、お前が頼んだやつラーメンじゃねぇか。のんびり突っ立ってたら伸びるぞ」

「わ、わかってるわよ! 大体、アンタを待ってやってたんでしょうが! なんで早く来ないのよ!」

 

 早く来いって言われてないからだし、食堂で待ってるとも教えられていないからだが、こいつは昔からこういうヤツだった。真面目に取り合おうとするとかえってぶつかり合うだけだから、適当にいなしておいた方が結果的にはいいことを俺は経験則から学んでいた。

 とりあえず食券をおばちゃんに渡して日替わりランチを注文するのを優先することにした。

 

「それにしても久しぶりだな。ちょうど丸一年ぶりになるのか。元気にしてたか?」

「げ、元気にしてたわよ。アンタこそ、たまには怪我病気しなさいよね」

「どういう希望だ、そりゃ・・・・・・」

「あー、ゴホンゴホン!」

「ンンンッ!」

 

 今朝再会したばかりの旧友と、久しぶりの世間話を楽しんでいたところに横合いから咳払いが入る。

 見ると、箒とセシリアが大変ご立腹な不満顔で立っていた。ヤベェ、忘れてた。結果的に放置しちまったことを怒ってんのかな? とりあえず今は二人の怒気を鎮めることを優先しておくか。

 

「一夏さん? 注文の品、出来てましてよ?」

「おう、サンキューなセシリア。向こうのテーブルが空いてるみたいだし、行こうぜ」

 

 そしてまたゾロゾロと移動。これだけ大人数だと座れる席の確保は結構難しいなオイ。

 

「一夏、そろそろお前とこの女がどういう関係か説明して欲しいのだが」

「そうですわ! 一夏さん、まさかこちらの方とお付き合いしてらっしゃるの!?」

 

 疎外感を感じさせられ我慢できなくなったのか、箒とセシリアが多少棘のある声で訊いてくる。他のクラスメイトたちも興味津々とばかりに頷いてるから、まあ素直に答えといた方が無難かな。

 

「べ、べべ、別にあたしは付き合ってるわけじゃ・・・・・・」

「そうだぞ。なんでそんな話になるんだ。ただの幼なじみだよ・・・って、鈴。何睨んできてんだよ?」

「なんでもないわよっ!」

 

 キチンと説明してたら鈴が怒り出す。一体なんなんだ? 変なヤツ。

 

「幼なじみ・・・・・・?」

「あー、えっとだな箒。お前が引っ越していったのは小四の終わりごろだったろ? 鈴が転校してきたのは小五の頭だよ。で、つばめさんと出会う寸前の中二の終わりに国に帰ってったから、会うのは一年ちょっとぶりだな」

 

 自分で説明してみて、そっかと思う。箒と鈴とつばめさんって、三人そろって面識ないんだよな。意識したことなかったけど、ちょうど入れ替わる時期に引っ越しと進級がニアミスしてるから。

 

「で、こっちが箒。前に話したろ? 小学校からの幼なじみで、俺の通ってた剣術道場の娘」

「ふうん、そうなんだ。――初めまして。これからよろしくね」

「ああ。こちらこそ」

 

 箒と鈴を紹介してやると、なぜだか火花散らして睨み返し合っていた。

 同じ学校で学ぶ学友同士なんだから、仲良くした方が得だと思うんだけど。

 

「ンンンッ! わたくしの存在を忘れてもらっては困りますわ。中国代表候補生、凰鈴音さん?」

「・・・・・・誰?」

「なっ!? わ、わたくしはイギリス代表候補生、セシリア・オルコットでしてよ!? まさかご存じないの!?」

「うん。あたし他の国とか興味ないし」

「な、な、なっ・・・・・・!?」

 

 俺の時と同様、相手が自分の名前を知らなかったことで大いに狼狽え、怒りで顔を染め上げるセシリア。

 

「い、い、言っておきますけど、わたくしあなたのような方には負けませんわ!」

「そ。でも戦ったらあたしが勝つよ。悪いけど強いもん」

 

 ふふんといった調子の鈴。相変わらず自信満々だな。妙に確信じみてるのに、嫌味がない。素でこう思っているのが伝わってくる。

 ――けどまぁ、嫌味でない分、怒る人って言うのもいるわけだけど・・・。

 

「・・・・・・」

「い、言ってくれますわね・・・・・・」

 

 無言で箸を止める箒と、拳を握ってわなわなと震え出すセシリア。この二人はそういうタイプだから、鈴にはもう少しオブラートに包んだ対応をお願いしたかったんだけど覆水盆に返らないようである。

 

 そんな彼女たちの反応を知ってか知らずか、鈴は何食わぬ顔でラーメンをすすり「・・・ところで、さ」と話題を変え、今度は俺に向かって問いかけてきた。

 

「ん? なんだ? なにか俺に訊きたいことでもあるのか?」

「・・・アンタさっき、妙なこと言ってたじゃん? ほら、あれよあれ。たしか、私が引っ越したのが、つばささんだかつばくろさんだかと出会う寸前だとかなんとか」

「つばさ・・・? つばくろ・・・? ――ああっ、つばめさんの事か!」

「・・・・・・っ!! そ、そう。そんな名前だったのね。今初めて知ったわ。その人についてちょっとアンタに訊いときたい事があるんだけど―――」

 

 

「・・・えっと・・・私になにかご用か・・・な・・・?」

 

 

 食堂の喧噪の中、か細い声が俺たちみんなの耳に届いてきて全員がそちらを向くと、今さっき鈴が話題にあげた当の本人が眠そうな瞳を眠たそうに細めてボンヤリ突っ立っていた。

 その手にあるのは、缶コーヒーとコンビニおにぎり。

 

 食堂が急いでる人用に用意してある、不人気商品ダントツでナンバー1の品物なんだけど・・・つばめさん、そんな食事ばかりしているから毎日毎日不健康そうで眠そうにしてるんじゃないのかなーと思わなくもない。

 

「つばめさん・・・昼食ぐらいしっかり食べましょうよ・・・。まぁ、朝食さえしっかりしてるならギリギリありですけども・・・」

「・・・あんまり面倒だ、と・・・食べる気力さえなくなっちゃうか・・・ら・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 

 ――論外だった。今度俺がつばめさんでも腹一杯食べる気になる健康的な食事を作りに行ってあげよう。絶対だ。

 出ないと本気で死んでしまいかねん、この人。

 

「ちょ、ちょっと一夏! 横からしゃしゃり出てきて邪魔しないでよね! 今はあたしと葉月が話をしようとしてたとこだったんだから!」

「お、おうスマン。邪魔して悪かったな鈴、続けてくれ」

 

 あまりの食事事情に思わず口を突っ込んじまったが、確かに鈴の言うとおりコイツはつばめさんについて訊きたい事があると言っていた。

 訊かれたのは俺だけど、本人が目の前にきてるんだから直接本人に訊いた方が絶対にいい。友達でしかない俺に訊くより遙かに正確だし、間違いや誤解も少ないしで一石二鳥以上だ。織斑家の家計を預かる者として、このお得さは奪っちゃいけないものだったかもしれない。すまなかった鈴。俺はもう余計な口は差し挟まないぞ。

 

「え。あ、いや、そのあのえーと・・・・・・」

 

 だと言うのに鈴はなぜだか慌てだして挙動不審に陥る。・・・ひょっとして突然振られたから、驚いてしまって考えがまとまらないのかな?

 出来ればこういうときこそつばめさんのコミュニケーション能力に期待したいところなんだけど・・・。

 

「えっと・・・凰鈴音さん、でいいのか・・・な? 中学の時一緒だった、クラスの違う〇組に所属していた・・・」

「あ、アンタあたしの事知ってたの!?」

「うん・・・。と言うより、結構有名人だった・・・よ? いろいろと話題性があった・・・し」

 

 つばめさんから婉曲な言い回しで自分で思っていた以上に名が知られていた事を教えられた鈴は、途端に今さっきまでの不機嫌さを忘れ去って鼻高々に平べったい胸を張る。

 

「そ、そうだったんだ・・・。――まぁ当然よね! だってあたしだもの! 有名になるのが当たり前の逸材よ! 知らない奴らが物知らずなだけなのよ! 世界はあたしのためにあり!」

「・・・くぅっ!」

 

 褒められて調子づく鈴と、有名人願望でもあるっぽいセシリアの反応が対照的で面白かった。

 つばめさんは鈴の反応に「そうだ・・・ね・・・」とだけ呟いて、それ以上の情報提供はしなかったけど、それが彼女一流のコミュニケーション術である事実を俺は知っていた。

 

 鈴はあまりそういうことに興味がなかったし、俺も別に自分から調べようとしたわけでもなかったけど、五反田や他の一部男子生徒から『鈴と一番一緒にいる男』として忠告された事は一度や二度ではなかったからだ。

 

 鈴は良くも悪くもハッキリと思いを口に出しすぎてしまう。

 それが清々しいというヤツもいれば、生意気と感じる人たちもいる。それは仕方ない事だと思うけど、中には鈴の言い方が基で傷ついてしまった被害者がいる事を、俺はつばめさん絡みの情報で知らされていた。

 

 

『鈴のヤツは見た目がかわいいのに、口が悪いところがあるだろ? しかも悪いと思っても素直に謝ることが出来ないヤツだ。

 だから誤解されやすいし、その誤解で傷つかなくてもいい人たちまで傷つけちまってるのはアイツには悪いけど確かなんだよな。

 別に鈴が悪いって言いたいわけじゃないんだが・・・傷ついちまったヤツが悪いわけじゃ絶対にない。なんとかしてやれとまでは言えねぇが、気にかけるだけはしといてやってくれ。これはお前ら二人共通の友人として、俺からたっての頼みだよ』

 

 

 ・・・珍しく真面目な顔して、五反田のヤツがそう言っていたのを思い出し、俺は少し仏頂面になる。

 考えてみると、俺はあの忠告をまったく活かせた記憶がない。もう少し鈴のために気を裂いといてやるべきだったかと、中学時代を振り返っていた俺に当人は気楽な口調で「そういえば・・・」と、再び話題転換。

 つばめさんには何も訊いてないみたいだけど、それでいいのか鈴さんよ・・・。

 

「アンタ、クラス代表になったんだって?」

「お、おう。成り行きでな」

「ふーん・・・」

 

 鈴は最後に残ったどんぶりの底のスープをごくごく飲み干し、俺から顔を逸らして、視線だけをこっちに向けながら、コイツにしては珍しいことに小さな声で言葉を伝えてくる。

 

「あ、あのさぁ。ISの操縦、見てあげてもいいけど?」

「お、本当か? そりゃ助か――」

 

 る、と続けようとした矢先。

 目の前のテーブルが大きな音を立てて叩かれ、二人の少女が勢いそのままに立ち上がる。

 

「一夏に教えるのは私の役目だ。頼まれたのは、私だ」

「あなたは二組でしょう!? 敵の施しは受けませんわ!」

 

 箒とセシリアが、怒髪天を衝く勢いで怒りに顔を染め燃え上がっている。

 こ、怖いな二人とも。よほどクラス対抗戦に燃えているんだな。俺も少しは見習わないと。

 

「・・・はぁ」

 

 そう決意を新たにしてたら、なぜかつばめさんにため息を吐かれてしまった。・・・なんでだ?

 

「あたしは一夏に言ってんの。関係ない人は引っ込んでてよ」

「か、関係ならあるぞ。私が一夏にどうしてもと頼まれているのだ」

「一組の代表ですから、一組の人間が教えるのは当然のですわ。あなたこそ、後から出てきて図々しいことを」

「後からじゃないけどね。あたしの方が付き合い長いんだし」

「そ、それを言うなら私の方が早いぞ! それに、一夏は何度もうちで食事をしている間柄だ。付き合いはそれなりに深い」

「うちで食事? それならあたしもそうだけど?」

 

 喧々囂々。女子ばかりで姦しいのが日常のIS学園でも、ここまで騒がしいのは珍しい。

 

「なっ!? い、一夏っ! どういうことだ!? 聞いていないぞ私は!」

「わたくしもですわ! 一夏さん、納得のいく説明を要求いたします!」

 

 しかもなぜだか、俺まで巻き込まれてしまった・・・。

 

「説明も何も・・・幼なじみで、よく鈴の実家の中華料理屋に行ってた関係だ」

 

 嘘偽りなく正直に答えると二人の表情が和らぎ、「ほっ」としたような顔をして、さっきまで余裕の表情を見せていた鈴は対照的に「むすっ」と不満顔になる。なんなんだよ、本当に。

 

「な、何? 店なのか?」

「あら、そうでしたの。お店なら別に不自然なことは何一つありませんわね」

 

 二人が安堵して言葉の勢いを緩め、鈴は不満顔でなにか言いたそうに俺を見つめてきて、俺は久しぶりに再会した幼なじみの家族の現状についても話を広げていこうとした丁度その時。

 

 

「うん・・・じゃあ、みんな納得したところで昼休みの食事会終了だ・・・ね・・・」

 

 

 静かな声で割って入られ、鈴もセシリアも箒も瞬時に言葉が出せなくなる。

 その隙間に錐をねじ込むようにつばめさんは、急ぐわけでもないゆっくりとした声音としゃべり方で静かに、だけど無視するのがなんとなく躊躇われる声でもって『場のお開き』を宣言してくる。

 

「一夏君のコーチ役、は・・・一夏君自身とよく話し合って決めればいいし、教えられる人の意見を聞かずに教える側だけで決めるのはダメだから・・・ね? 夜にでも時間があるときに寮の部屋で話し合ってみるといいと思う・・・よ?」

「う。わ、わかってるわよ、それくらいのことは。あたしは言ってみただけじゃないの、いいじゃないそれくらい言ったって、久しぶりに再会した幼なじみなんだから・・・」

「うん・・・それは解るけ、ど・・・大勢の人が共同で使ってる食堂でやることじゃないよ・・・ね?」

「・・・うぐ。わ、悪かったわね。今度から控えるようにするわ・・・」

 

「それから、箒ちゃんとセシリアさん、も・・・一夏君の意思を無視しちゃダメだ・・・よ? 教える人だけじゃ指導なんて成り立たないものだか、ら・・・よく話し合った上で彼に最適な人間が教えてあげるようにしてあげて・・・ね?」

「くっ・・・! し、承知いたしましたわ。可能な限り善処させていただきます」

「わ、私もだ。譲れるところは譲り、譲歩できる範囲で譲歩するとしよう」

 

「うん・・・それじゃあ最後に一夏・・・くん」

「は、はい? なんですかつばめさん、俺にもなにか問題がありましたか?」

「問題って言うか・・・ね?」

 

 彼女は少しだけ困ったように微笑むと、『苦手な分野だ』と言いたげな曖昧な表情を浮かべて俺にこう言って終わりの句に変えた。

 

 

「少しだけでいいか・・・ら、女の子たちの側に立って相手の気持ちを考えてみることもしてあげ・・・て? 今のままだと君も彼女たちもきっと不幸になっちゃう・・・よ?」

「・・・??? はい・・・わかりました・・・?」

 

 訳がわからないながらも、一応俺は頷いておいた。つばめさんが『やった方がいい』と言ったことで、やらなくて良かったことは一つもないから多分今回も意味があるんだろう、きっと。俺は友達の善意を信じてる。

 

「うん・・・まぁ、今はそれでいいか・・・な? それより先、は・・・たぶん痛みを覚えないと進めないと思うか・・・ら・・・」

「・・・・・・???」

 

 いくつもの?マークを乱舞させる光景をイメージした俺の頭上から、本物の音がリアルに流れてくるのが聞こえた。

 

 ――昼休み終了の十分前を告げるチャイムの音色だ。

 俺たちは慌てて残っていた料理を口にかっ込み、トレーを下げて教室へ向かう。

 

 その夜俺は、彼女の言葉の意味について考えさせられる出来事を経験することになるのであったが・・・・・・実際に理解するのはまだまだ遠い仮定の未来の話になってしまう。

 今日あったことはそれぐらい。

 

つづく

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