「・・・つまり、お前の話を総合すると・・・」
私こと、織斑千冬は言いかけた言葉を途中でとめて周囲を見回す。
室内の左右に教頭先生と私が配され、部屋の奥の学園長が使う執務机には表向き本人ということになっている代理の女性が穏やかな表情で椅子に座り、唯一の出入り口である扉の前には室内でただ一人の“子供”である銀髪青眼の報告者が立たされていた。
この光景を見ても尚、「IS学園の教員は生徒を尋問したことなどない」という公式発言を信じ切れる者がいるとしたら、ソイツは脳にウジが沸いているに違いない。
IS学園警備主任兼1年1組担任教師の私でさえそう思えるのだ。間違いない。
「…ボーデヴィッヒには、この世界とは似て非なる歴史を綴ったパラレルワールドに生きる、別のラウラ・ボーデヴィッヒの記憶があり、その世界での彼女はお前と同姓同名を持つ赤の他人を母だと思い込んで慕っていた。
そして、お前を見た瞬間に別世界で生きていた頃の記憶を思い出し、心がソイツと完全に一体化してしまった・・・と。そう言うことでいいのか? 異住セレニア」
「・・・はい・・・そうみたいです。多分ですけれども・・・」
自信なさそうに答えを返してくる私の教え子、銀髪青眼のIS学園生、異住セレニア。
まぁ、当然と言えば当然の反応ではあった。
今朝方に起きて、もうすぐ夕方になる今になっても解決の目途が立たない一大珍事、『ラウラ・ボーデヴィッヒ、なんかよく分からない事件(仮称・実際よく分からないので便宜上そう言う名前になってしまっている・・・)』の当事者でもある彼女だが、巻き込まれた被害者としての側面も併せ持っている面倒くさい立場にいる者なのだから、答えなど明確に返せるはずもない。
「そんな話を私たちに信じろと、貴女はおっしゃるのですか異住さん?」
耳障りな声で教頭先生が聞いた。
中学時代に生徒がミスをすると目を輝かせ、これとそっくりな猫がネズミをいたぶる姿を連想させてくる声と口調で詰問してくる先生がいて、当時の私の人格はその頃に陶冶されたものである。
あの頃は一夏にも気遣われてしまうほど、酷い目つきをしていたと我ながら反省の念を禁じ得ない。
一夏はよく私のことを『鬼』と評しているらしいと風の噂で耳にしたが、とんでもないことだ。本当の鬼は彼女のように弱い者イジメを嬉々として行う地獄の獄卒のような者のことを言う。
私など正々堂々、拳で鉄拳制裁しているだけなのだから優しい部類に入ることだろう。
そんな性格から生徒たちに「鬼ババア」と陰口をたたかれている教頭先生から、逆三角形の眼鏡を光らせながら詰問された異住だが、
「そう言われましてもねぇー・・・」
と、頭をかきながら適当な口調で質問への答えを返すのみ。萎縮した様子も見せぬ代わりに、反発心からくる隔意ある態度も取ろうとはしない。あくまで自然体を貫くいつも通りの彼女に内心で感心しながら別の疑問を抱かなくもない。
(普段は中流家庭出身のわりに、お嬢様っぽい仕草や言動が多いコイツにしては珍しくはすっぱな仕草をしたものだな・・・)
そんな私の声に出さなかった疑問に答えてくれるはずもなく、異住は教頭先生からの質問に対して礼儀正しく返答を返していく。
「私はボーデヴィッヒさんから聞き出せた情報を、そのままお伝えしただけですのでね。内容の信憑性についてまでは責任を持てる立場にありません。
これ以上の詳しい情報をお求めの場合には、私からではなく直接本人から聞き出していただくより他ないのではと言わざるを得ないのですが・・・」
「ぐ・・・」
呻くように言って、教頭先生は目を伏せると黙り込む。
反論する余地を見いだせない、完全無欠の正論だったのだから彼女としても黙り込むしかあるまい。
事実として異住は今回、ラウラから聞き出せた情報を我々教員に伝えるメッセンジャーとしての役割を果たしただけであって、彼女個人の見解を述べた発言は先ほどの報告の中に存在していなかった。聞いたとおりの話を丸暗記して私たちに伝えてよこしただけの情報の真偽など、伝言板でしかないメッセンジャーに求める方が本来ならおかしいのだからな。
教頭先生もその程度のことは理解していたのだろうが、教師が生徒に対して接するときの一般的セオリーに則って訊いてしまったのが不味かった。あるいは一般論を持ち出した相手が不味すぎたと言うべきなのか。
とにかく、『世間一般のお約束ガン無視』常習犯である異住に対するときに採用する手法でなかったのは間違いなかったことだろう。
・・・今朝に起きた突然の異常事態以降、幼児化したラウラは異住の側から離れようとせず、他の者が引き離そうとすれば相手が誰だろうと泣きじゃくってしまう完全なお子様状態に成り果ててしまっており、状況確認さえ困難を極めた。
やむを得ず一端彼女を隔離して情報を聞き出すため、唯一今のラウラが心を許しているらしい異住に一任してマジックミラーに四方を取り囲まれた別室で事情聴取を行わせ集音マイクで会話内容を録音し、異住立ち会いのもとバイタルチェックや脳の検査を保健室でおこなわせて報告待ちの状況に下校時間を過ぎた今ではなっている。
その頃になるとラウラも落ち着きを取り戻したのか、異住が側にいなくなっても泣き出すことはなくなり、むしろ普段通りに年齢相応の態度と口調に改まって非礼を詫びてくる始末。
おかげで余計に対応が難しくなっていた。
これが完全に脳の異常でIS操縦者として使い物にならなくなったというのなら、彼女には気の毒だが学園側としての対応は難しくない。
どう考えても門外漢なので、専門施設に預けて委ねるしか他に選択肢は取りようがないだろう。
ラウラを精神異常者だ、などとは個人的にも断じて思いたくないが、だからといって私にどうこうできる問題とは余計に思えん。彼女のためを思うなら、泣く泣く専門施設に委ねるしか道はない。
だが、現実は物語より遙かに奇妙な展開を見せていた。
なんとラウラの心には、別世界に生きて天寿を全うして死んだIS操縦者ラウラ・ボーデヴィッヒの記憶が受け継がれており、幼少時から少しずつ覚醒していたらしいその記憶が、前世で母と慕った人と瓜二つの容姿と同じ姓名をもつらしい異住と出会ったことで一挙に目覚め、現在の人格と完全融合してしまい子供状態の時と軍人状態の時とで記憶を共有しながらも意識は棲み分け現象を起こしているというのだから、教頭先生でなくても納得できる訳もない。
――が、しかし。
もう一度言わせてもらうなら、異住はメッセンジャーでしかなく、ラウラから聞いた話を又聞きの伝聞形式で伝えに来てるだけなので、ラウラの事情について彼女に何を訊いても無駄である。と言うか何を答えられても無意味である。
当事者でもなく、出会ったばかりの赤の他人による推測を聞かされたところで教頭先生はどうするつもりなのか気になるところだが、これも先ほど言ったとおり彼女もその程度のことは承知済み。セオリー通りに訊いただけなので問題定義するほどのことでもない。
そう、問題ないのだ。彼女自身がこれ以上余計なことを言って、藪蛇にさえしてくれなければ問題はな―――
「な、なんですか教師に対してその態度と言い草は! 生徒のくせに失礼ですよ!」
・・・問題なしで済んだはずだったのに鬼ババア――――――っっ!!!!!
「・・・?? 何か問題がありましたでしょうか? 不覚にも気がつけませんでしたが・・・先生方を不快にさせてしまっていたのだとしたら謝罪いたします。申し訳ありませんでした」
「ぐ・・・っ! そ、そもそもですね! あなたは任せられて引き受けた身であり、現状においてボーデヴィッヒさんから情報を引き出せる唯一の人間なのですよ?
その貴女が、子供の精神となっている今の彼女から聞いた話を鵜呑みにしてしまっていたのでは解決の糸口を見いだすことができません! 漠然とした情報ではなく、もっと具体性のある内容の話は聞き出せないのですか!?」
「それにつきましては、言い訳のしようもありません・・・。私の能力不足により先生方に多大なご迷惑をおかけしてしまっていること誠に申し訳なく思っております。無能非才の身を恥じ入るばかりです」
「え。あ、う・・・そ、そうですか・・・」
「・・・ですが情けない話、これ以上の情報を引き出す能力は現在の私にはないようです。引き受けておいて無責任だと自分でも思いますけど、これ以上のことは私以上の能力をお持ちの方に引き受けていただくより他ありそうにないのです・・・。申し訳ありません・・・」
「あ、う、え、あ・・・・・・」
・・・うむ、いつも通りの光景だな。我が1年1組だったらの話ではあるが。
土台、異住相手に『生徒に言い負かされて面目を失った教師によるプライド奪還口論』を挑んだところで勝てるはずもない。妥当な結果と呼ぶべきであろう。
教頭先生にしても、『教師が生徒にする一般的対応』が思わぬ形で通じなかったせいで頭に血が上ってしまっただけのようにも見える。・・・無理もない話ではあるが。
普通の学生なら、目上の大人たちに三方を囲まれた学園長室に呼び出され、上から目線で説明を要求される立場に立たされた時の対応は、萎縮するか反発するかのどちらかだろう。
そのどちらでもなく、ごく普通に対応して礼儀正しく報告してくる異住の方が例外なのだから無理はない。
「こ、怖いのですか? 一度は引き受けた任務を達成できずに非難されるのが・・・?」
「はい。なにしろ整備科志望でIS適性の低い凡人ですから、失敗の悪評は怖すぎるのです」
異住セレニア、堂々とした態度で嘘八百を口にするの段。
私のクラスの姦しい女子どもが聞いたら『嘘つけ―――っ!!』の大合唱がとどろきそうなセリフだったが、初対面の教頭には有効だったらしい。挑発を受け入れられてしまい動揺している。
一夏とかオルコットとか凰とかになら有効かもしれんが・・・コイツ相手にはなぁ・・・。無理だろう、どう考えても。
「えーと・・・ですね。つまりあれでこうなってそのあのえ~と・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
自ら泥沼にはまり込んだらしい教頭と、面倒くさくなってきたらしい異住とが(表情変わらないから分かりづらかったが今のセリフで判明した)互いの目的のために言葉探しと沈黙とを武器にして『有耶無耶というゴール』に辿り着いたようなので、私は学園長代理とアイコンタクトを交わし合い仲裁に入ろうとしたまさにそのとき。
「ちわーす、三河屋からお届け物でーす。嘘だけどね。
ボーデヴィッヒさんの頭の中に関する診断結果でましたんで持ってきてあげましたー」
学園長室の扉が開いて、一人の女性が横柄な態度と変な口調で紙束片手に入室してきた。
異住とよく似た銀色の長髪を、異住とよく似た長いポニーテールの髪型にして、異住とよく似た巨大な胸部を強調するかのような服装をした私とほぼ同年齢の若い女性教師。
名を『クレシア・クレッシェント』。
IS学園の教師であり、ISを非展開時に素手で敵と戦う術を生徒たちに教え込む『白兵戦指導教官』の役割を担っている私の同僚だ。
「・・・あっ! セレニアじゃん! やっぱり学園長室に残ってたんだ! こうなると運命を感じざるを得ないよね! と言うわけで今すぐ結婚するため婚姻届に判を押そう! 大丈夫! 判子だったらお姉ちゃん毎日学校に持ってきてるからね!」
「・・・・・・姉さん・・・、じゃなかったクレッシェント先生。学校では先生として、私のことは異住と呼んでくださいと何度言ったら分かってくれるのですかね・・・?」
「え~? お姉ちゃん、ちゃんと分かってるよ? 単に実行する気がないだけで」
「分かってるだけで出来てないことは、分かってないのと同じだと何度か言った記憶もあるのですけどね?」
グサグサグサ。私、織斑千冬の弟に対する信頼が痛恨の一撃を食らった。ダメージは甚大だ。
・・・私でなければ死んでいたな、精神的に・・・。
まぁ、今のやりとりで分かると思うが、この女クレシアは名字こそ違うが、異住にとって実の姉だ。
名字は母方の姓を名乗っているらしいのだが、家は普通に家族と暮らす実家住まいだとも言っていた。・・・あまりにも性格が違いすぎてたせいで、本人から直接教えてもらうまでは気づかなかったがな・・・。
『異住』なんて名字がそうそうあるとも思えんし、たぶん『織斑』よりも少ないだろうから気づけたとしても不思議ではなかったのだがな。迂闊だったと反省している。
改めて見ると、二人には似ている部分が多く存在してもいた。
ごく自然に自分のマイペース振りを貫き通すところとか、目上に対しても全く萎縮する気がないところとか、一芸特化な能力とかが・・・・・・完全に血の繋がった姉妹そのものだったな。出力タイプが違うだけで中身はなにも変わらなかった。なぜ気づかなかった私・・・?
「コホン。・・・クレッシェント先生、家族仲がいいのは悪いことではありませんが公私混同は控えてください。生徒たちに示しがつきません」
「え~? 別にいいじゃんかチーフー。私とセレニアの仲じゃんかよ~」
「・・・貴女と異住の仲だからこそ言ってるんです! あと、チーフー呼びはやめろと何度も言ってるだろうが、この駄後輩!」
思わず叫び声を上げて叱責してしまう私。
・・・今晒してしまった醜態を見ても分かるとおり、コイツと私とは学生時代の先輩後輩の仲だった間柄だ。
付け加えるなら私の方が一学年上の先輩で、コイツの方が後輩だったりもする。
だが言うまでもなく一目瞭然なように、コイツは真耶と違って先輩である私に対して敬語など使ってきた例しがなく、出会った当初からタメ口ききまくってくる生意気な後輩であり、束もコイツのことだけはやたらと苦手意識を持っていた。
なんか似たもの同士な気がしてきて、同族嫌悪というか鏡を見ているようで嫌なんだそうである。訳が分からん。
「まっ、姉妹の間で愛情を確かめ合うのは、家に帰ってベッドの中に入った後でゆっくりやればよいとして・・・・・・今はお仕事こなしましょうかね」
家に帰ってから今の続きをやる気満々なのかコイツは・・・普段は家庭内の問題に不介入が基本の私だが、お前にだけは一言いってやりたいことが山のようにあるのだけどな。
「とゆーか、なんで保健室の先生に頼んでおいた診断結果の報告をお前が持ってきているのだ? どうせ分からんだろ、お前には診断結果として何が書かれていようと専門知識なんて」
「ふふ~ん♪ チーフーはまだまだ青いな~。私は保健体育の先生でもあるんだよ? 当然、保険医の資格だって持っているのだよホレホレ~♪」
そう言って胸の谷間から取り出した(どこに入れとるんだ貴様は!)保険医の免許証を見せびらかすように突きつけてくるクレシア。・・・人は見かけによらんとはこの事だな。
「ふっ・・・青いねぇチーフー。青すぎるよ。
よろしいかな? 格闘技を知るって事は、身体を知ることでもあるんだよ。どこをどうすれば痛みを与えれて、この部位はどこまでの痛みに耐えられるのか? それを見極めるためには人体に関する知識は保険医レベルは持ってて当然! いや、持ってなくてどうするのかっ!てレベルだね」
「ふむ、なるほど。一理あ――」
「そして! 痛みを知ることとは苦痛を知ることであり、苦痛と快楽は表裏一体!
痛気持ちいいレベルで愛する妹に嬲られてみたい姉の愛の現れであり、愛しい妹には気持ちいいだけで苦痛のない初体験を通過させてあげたいと願うのもまた姉の愛・・・」
「よし、お前は今すぐ腹を下せ」
「どんな罵倒よソレは!?」
あまりの変態姉っぷりに、同じ姉として一言罵倒したくなったので罵倒した。反省はしてやる気がない。
「・・・織斑先生・・・。あの、できれば私的な会話は仕事の後にして、報告のほうを優先していただけませんでしょうかね・・・?」
「――ハッ!? す、すまん異住。私としたことがウッカリしていた・・・ほら! クレッシェント先生も早く謝罪して仕事に戻らんか!」
「うぇ~い。了解しましったー、織斑センセー」
・・・クッ! この妹以上に可愛げのない生意気な後輩教師めがぁぁぁ・・・・・・っ!!!
「はぁ。では邪魔者が黙ってくれましたんで報告させてもらいますが・・・・・・前世ウンヌンとか異世界ウンチャラの話は別として。
この子、ラウラちゃんでしたっけ? 結構やばいですねー、この子の身体は。これなら確かに彼女自身が言ってたとおりのことが起こったとしても不思議じゃないかなーってレベルで酷い状態であることが判明いたしました」
「酷いと言いますと、具体的には?」
それまで黙って話を聞くだけだった学園長代理が質問する
「遺伝子改造です。それもかなり深いところまで弄くられてました」
その一言に、場が一気に静まりかえる。
ある事情から他の者たちよりラウラの身体のことを詳しく知っている私でさえ黙り込まざるを得ないほど、それは具体的でエグい表現だったが、彼女の話には続きがあった。
「どうも設計者のMADは、未完成の技術で無理やり完成形を目指そうとしていたらしくて、人生始まる前に割り振れる初期ボーナスポイントが戦闘力と戦闘スキルに極振りされまくった挙げ句、数撃ちゃ当たる方式で彼女みたいなのを沢山作って成功例が一つ出来ればいいやみたいなテキトー方針だったせいなのか、妙にアンバランスな遺伝子配列で構成されていて、今の彼女に至れたのは偶然と言うより奇跡に近い感じでしょうかね?
穴だらけの設計図を元に隙間だらけの歪な積み木細工を作ったら、一つだけ偶然にも上手く合致して嵌まったのが出来てくれただけなんだけど、成功は成功ってことで失敗ではないんだし壊すの勿体ないから使っちゃえーなノリで今まで育成してきたらしく、体中のいろんな場所でエラーが起きやすくなっちゃってますね-。
いや~、今までよく無事で生きてこられたねー。運がいいわ~、羨ましい。
――おや? どったのチーフー? 顔色悪いけど保健室行く?」
「・・・・・・気にするな、大丈夫だ、問題ない・・・・・・」
正直、これっぽっちも大丈夫ではなかったが、それでも無理して大丈夫と言っておく。
相手に悪意はないと分かっていても、今のはキツかったぞクレシアよ・・・。本気で死ぬかと思ったわ。てゆーか、本気で死んで詫びたくなってしまったわ。
私を産みだした研究は、本気でなんて行為をしてしまってたんだアイツらはぁぁ・・・っ!!
「・・・??? ま、いいや。チーフーの死亡フラグ台詞は無視しとくとして、次いくねー」
私の心の苦悩など気にもかけずに、我が一応の友は我道を行くつもりらしい。うん、やっぱりお前たちは姉妹だ。死後は地獄に落ちて改心した方がいいと私は思うぞ。
「まず、脳に発達障害が見られるね。
キレやすくて空気が読めなくて社会性がないんだけど、非常にピュアな精神の持ち主で気持ちが純真で純朴で表と裏がなくて建て前と本音を使い分けない。
思ったことを口にしたり、行動に移したりとかが周囲から理解を得られ辛くして誤解されて孤立しやすいタイプだよね。
こういう人って胎児の時に記憶を司る海馬の片方が通常通りに成長できなくて、普通の人とはことなる形で脳内のネットワークを繋げちゃう分、人より能力的には優秀な結果を出しやすい傾向にあることは医学の世界だと常識でしかない。
個人としての強さを重視するなら、弱さ故に群れないといられない人間らしい社会性なんて邪魔なだけって人が造った技術が使われてるんだとしたら、まぁこうなるのも宜なるかなって感じかな」
「ぐ・・・、うぬぅ・・・・・・」
「次に肉体面。見た目通りの発育不良なんだけど、そのわりに筋肉がしっかり付きすぎてる。普通の人間だったらコレだけしっかりした筋肉付けるためにはいっぱい食べなきゃ出来ないし、健全な食生活が健全な身体的成長を妨げるって言うのはいまいち聞いたことがない。
そっから推測すると、もともとは老化防止のための措置だった可能性が高い。人間どんなに強くても老いには勝てないから、最盛期の肉体を維持できるに越したことはない。最強の肉体を手に入れたらそれ以降は年取らずに若いままでいた方が最強っぽい。
そのための措置が取られてたせいで、戦闘するには最高の状態に達した今の肉体を最盛期だと勘違いしちゃって成長止めた可能性が微レ存かな? こっちは既存の技術じゃ存在してないから推測しか出来ないけど不完全な技術じゃあり得なくもない・・・かもしれないね」
「う・・・ぐぐぐぅ・・・・・・」
「あと、付け足すなら遺伝子的に強化して無理やり最強に押し上げようとしちゃってるせいで精神が常にバランス性を欠いていて情緒不安定に陥りやすく、特定の誰かに対する依存性が高いみたいだよ?
それと、ちなみにだけど幼児性の高さは元から持ってたっぽい。生み出された目的自体が『強さ』を追求するためだけに造られていて、そのために邪魔な要素は育みづらく出来ちゃってるみたいだし、見た目ほど普通の子として生きていけそうにないよ、この子って。
・・・ある意味では織斑一夏以上に軍による生体実験の被験者サンプルとしては、数少ない成功例として希少価値があ――どしたのチーフー、そんな今にも飛び降り自殺したがってそうな顔して黙りこくって。なんかあったん?」
「・・・・・・まぁ、色々とな・・・・・・」
と言うか、お前の言うとおりなんだよ! 殺せよ! 私を殺せよ! 殺してくれよ!
私は一体なんてことをラウラにさせてしまう技術の実験台として造られて成功してしまってたんだ――――っ!!!!!
「・・・?? まぁ、チーフーが頭おかしい行動取るのはターネーと友達だっただけで一目瞭然として。
――この件、一体どうします? 調べれば調べるほど厄介ごとなネタが埃のように出てきまくってんですけども?」
「・・・どうするとは、どういう意味なんだクレシア・・・」
力ない声で私は後輩に尋ねる。もう考えることさえ嫌になってきていた私にとって、聞くことさえ面倒だったから気づかなかった事柄だが、考えてみれば当たり前のことだったためクレシアより先に私の教え子から答えを教えてもらう羽目になってしまった。
「・・・このまま何も知らず気づかず見て見ぬフリするか、責任を取らせるため何かするかのお話じゃないですかね? 多分ですけども・・・」
「・・・・・・っ!!!」
・・・愕然とさせられた・・・。
そうだった、ラウラはドイツ正規軍に所属する軍人であり、私はIS学園の教員。互いの立場を守りながら彼女にされてしまった責任を犯人に取らせることは出来ない立場にある二人なのだ!
くそう! どうすればいい!? 一夏の誘拐事件の時みたいに突っ込むか!?
「・・・クレッシェント先生。ボーデヴィッヒさんの精神的幼児化と異常行動は、異住さんと一緒にいるときのみ起こることは確認しているのですよね?」
学園長代理が穏やかな声でクレシアに尋ねる声が聞こえてくる。返事は「Yes」だったようだ。
「では、幼児化していないときの彼女は今まで通りISを使って戦っても問題ないのですよね?」
この質問にも答えは「Yes」だ。
「むしろ前世の記憶だかなんだかが蘇って、強くなってるかもしれませんね。向こうの世界でセレニアに娘として鍛えられてるなら尚更でしょう。主に精神面とかが」
「・・・姉さん、じゃなくってクレッシェント先生。それ一体どういう意味で――」
「では、問題ありませんね。彼女には一時的な記憶の混乱が見られますけど、それは脳と直接つなげて動かすISを操る操縦者ならではの弊害。時として起きうる可能性のある出来事としてIS委員会には報告を上げておくといたしましょう。
――今日の議題は以上ですね?」
「え? あ、あの・・・学園長先生・・・?」
教頭先生が茫然自失からようやく立ち直って、弱々しい声で抗弁しようと・・・というか明らかに反対しようとしていたが、学園長は断固とした口調で相手の意思を完全拒絶する。
「問題ありません。ISはまだまだ判明している部分の方が少ない未知の世界最高戦力。命に関わる大事件に発展していた可能性を思えば、この程度の被害は雀の涙というものです」
・・・いやまぁ、そうかもしれんのだが。それ言い出したらどんなことでも大したことなくなってしまう気がするのですが? 学園長代理先生殿。
「さて、異住さん。偶然とはいえ、ここまで詳しい事情を聞いてしまった以上、貴女も今回の件では一蓮托生。黙って口をつぐんでボーデヴィッヒさんを預かってもらえるよう協力していただきますが、よろしいですね?」
「・・・室内で唯一の出入り口を姉さんに占領されたまま始められた会話の内容を、どうやって『偶然聞かされたこと』になるのか疑問で仕方がありませんが、聞いたところで結果が変わるわけでもないでしょうし、お引き受けいたします。仕方がなさそうですからね・・・」
「フフフ・・・なんとでも仰ってくれてかまいませんよ?
私はあの人の・・・愛する夫を妙な厄介ごとに巻き込まないで済むのであれば、後はなんだって構わないのですからね・・・うふふふふふふフフフフフフフフ・・・・・・♡♡♡♡」
『・・・・・・・・・』
こうして、ボーデヴィッヒの変な変質に始まる今日の事件は、なぜだか愛情うずまく悪意のない、愛だけに満ち満ちた混沌の世界に足を突っ込ませた状態で終わりを告げる。
・・・よし、明日も頑張って真面目に働くぞー。エイエイオー(現実逃避)
そして今日起こったこともまた、IS学園の闇に飲まれて忘れ去れて消えてゆく・・・。
すべての真実を納めたラウラの診断結果とともにIS学園深層部にある禁断のファイルの中で眠りにつかされるのである。
いつの日か真相が明るみに出て、すべてが白日の下に照らされることになるその日まで―――。
【IXファイル】完(笑)
つづく
おまけ『チーフー先生とクレシアさん』
千冬「そう言えば、クレシア。お前は異住とボーデヴィッヒが同室になったことに思うところはないのか? お前は実の妹を性的な意味で愛している変態だったはずだろう?」
クレシア「ふっ・・・正確な論評ね・・・。でもまぁ、安心しなさんな。私があのラウラちゃんって子に手を出すことは絶対ないし、そのつもりもないわ。約束する。絶対によ?」
千冬「ほう? そこまで覚悟する根拠は? ようやく妹離れする気にでもなったのか?」
クレシア「・・・いや、だってさ・・・あの子ってセレニアの娘な訳なんでしょ? つまりそれって私とセレニアの愛の結晶があのラウラちゃんって子な訳じゃん? さすがの私も自分たちの間に生まれた娘にまでは嫉妬しないわよ絶対に! ・・・多分だけれども」
千冬「いや、その理屈はおかしい。今更でしかないけれども。・・・あと、その関係性でさえ多分が付くのだな・・・。それもまた今更でしかないのに、何故だかドッと疲れたぞクレシアよ・・・」
クレシア「よし、じゃあ今日は久々に飲みに行きましょう。級友同士で朝まで飲み明かすぞ-! オーッ!」
千冬「それは構わんが、もう一度だけ言っておくぞ? お・ま・え・は・後輩だ!!」
クレシア「え~? 別にいいじゃん。どうせチーフーもターネーも同期で酒飲みに行けるほど仲いい友達なんていなかったんだし、せいぜいが後輩の私とマーヤーぐらいなものだったんだし、同格扱いでよくね? 優秀さが恋人のボッチ同盟入ろうゼヨ千冬さんよぉ~」
千冬「・・・・・・それを言ってくれるなよ、悲しさで飲む前に泣けてくるから・・・(T-T)」