では、再び執筆とネタ集めのためのゲームプレイに戻らせていただきますね~。
「――よしっ、出来た! 次、一夏の番だよ!!」
「応ッ!!」
シャルルから呼びかけられた俺は、即座に彼女の背中へ瞬時加速。ぶつかる瞬間、くるりと宙返りをしてお互いの場所を入れ替えて選手交代。
ラビット・スイッチで取り出したばかりだったアサルトライフルをしまった彼女はショットガンへと武器を持ち替え、俺は白式唯一の武装である雪片弐型による斬撃をためらうことなく突撃しながら繰り出していく!
そして! ・・・・・・一連の流れを終えた俺たちは、たがいに腕時計に視線を落とし合ってタイムを確認した。
「・・・開始から完了まで1,3秒・・・。あと、0コンマ何秒かは縮められるかな?」
「わからない。だが、他にやり様はないんだ。とにかく残り一週間、できるところまで縮められるよう努力しようぜ」
「・・・・・・うんっ、そうだね一夏。がんばろう!」
やや堅さを残しながらも笑顔で返してくれたシャルルの健気に応え、俺は俺でやる気を振り絞ると残り僅かとなった今日の訓練時間ギリギリまで特訓に全力を尽くすことを決意する。
――シャルルから彼女の性別と出生の秘密に関して驚愕の事実を聞かされてから一週間が過ぎていた。
今、俺たちはIS学園第三アリーナで一週間後に迫った学年別トーナメントでボーデヴィッヒに勝つためシャルルとのコンビネーション攻撃の特訓をするためである。
では何故、彼女の出生にまつわる秘密を知らされて動き出したはずの俺たちが公式試合のために全力を尽くしているかと言えば・・・・・・ぶっちゃけ、『他に出来ることが何もないから』だったりする・・・・・・。
セレニア曰く。
「しょうがないでしょう? 校則の特記事項を守って生徒を守り抜くのはIS学園側がやる仕事ですし、私たち生徒はこの件に関してできることは何もない身分なわけですし。
なにしろ『IS学園の生徒を在学中あらゆる外的介入から守り抜く義務が学園にはある』って意味合いの校則特記事項な訳ですからね。
学園生徒だったけど、問題起こして退学処分受けたりした元生徒の権利と自由まで守ってあげる義理も理由も義務さえも学園側にはありません」
「な、なるほど・・・・・・」
相変わらず手厳しすぎる我が級友は、後頭部に片手をおいて髪をかき回す、たまに見せる仕草を今回もやって見せながら続きを口にしてくれた。
「むしろ今は、真面目に授業を受けて訓練をして、余計なことは何もしないで処分されないことが一番の支援になる状況なんじゃないですかね?
学園が生徒を守る義務があるとするなら当然、態度の悪い生徒よりも模範的な生徒の方がやる気がわきますし、結果が伴っているなら外部からの協力も得やすくなる。
国家代表候補生から正式に代表に昇格することが叶えば、父親も実家も格下の存在になって意向もなにもかんも気にしなくて良くなりますしねぇ~。
真面目にやって得はあっても、損はない時期です。規則を守って処分されず結果を残す、問題を起こさないのが一番ですよ。普通にね?
・・・・・・義務教育じゃあるまいし、自分で起こした問題のせいで守ってもらえる権利失ったアホ生徒が裁かれるのは自己責任じゃなく自業自得です。自分のしたことぐらい自分で責任持ちなさいって感じですよ、フン」
なにか途中からイヤなことでも思い出したのか、妙に不機嫌そうな表情と口調で説明し終えていたけど、まぁ事実として今回は全面的にセレニアが正しいのだろう。
付け加えると、シャルルを気分転換に付き合わせるよう頼まれている。『一人だけで考えてるとドツボに嵌まりやすいから』がその理由だそうである。
「自分一人で塞ぎ込んであって解決する問題でもありませんし、適度に気分転換しながら別視点を入れることも重要ですよ。考えるだけで問題が解決するなら苦労しません」
とのことである。・・・なんて言うかアイツって相変わらず色々考えてるよな。それでいて妙に自虐的だし・・・自分の方が疲れないもんかね? あの生き方って。
まっ、今はセレニアのことよりもシャルルの立場を改善する方を優先するようセレニアからも頼まれてるから全力を尽くすことにしたわけなんだが、生憎と俺は男だ。年頃女子にとって気分転換になりそうな遊び方など知らんわけだし、レクリエーションとして出来そうなものと言ったらスポーツぐらいなもの。
なので折角だからと、実益もかねた学年別タッグトーナメントでボーデヴィッヒに勝つ方法を考えて、その作戦の特訓に当てることにしたという次第だ。
おそらく現時点で、一年生の最強は彼女だろうとシャルルは予測している。それは裏を返せば、ボーデヴィッヒを倒すことが出来ればシャルル個人の価値が相対的に高まって守られやすくなるという結果をもたらすと言うこと。
セシリアには悪いが、今回はイグニッション・プラン参加国のイギリス代表候補の彼女より、現時点で一年最強と目されているドイツのボーデヴィッヒに勝った方が得るものが大きい。
だから、すまないセシリア! 俺は今回お前との全力決着は目指さないぜ!
なぜなら俺はただの意地だけど、シャルルは立場的に負けちゃいけないからだ。彼女を守るためにも俺は絶対勝たなくちゃいけないんだからな!!
「・・・いや、勝ち負けに関係なく在学中の少なくとも三年間、IS学園にいる間は大丈夫な校則を見つけてきたのは貴方だったはずなのでは・・・?
試合の勝ち負けで校則無視して彼女の立場が危うくなる程度の安全性なら、あの特記校則自体に効力期待できなくなっちゃうんですけれども・・・」
・・・・・・なんか昨晩に級友から告げられた、やる気をそがれる真実が一瞬頭をかすめた気がするけど、気のせいだ!! 俺は絶対トーナメントで負けないよう全力を尽くすぞ!!
「ふぅ・・・時間にもなったし、今日の特訓はここまでにしとくかシャルル?」
「ふぅ、ふぅ・・・。うん、そうだね一夏。今日もいっぱい頑張ったし、明日もいっぱい頑張ろう!」
満面の笑顔を浮かべて応えてくれるシャルル。
彼女と俺がコンビネーション攻撃を特訓することにした理由は、彼女がもたらしてくれてセシリアが補填してくれた情報によるところが大きい。
《AIC》の特性、つまりはボーデヴィッヒの専用機シュヴァルツェア・レーゲンが持つ第三世代兵器の長所と欠点。そして彼女自身の性格を鑑みて、この『二人で一人の戦い方』がボーデヴィッヒに勝つためには最も有効だと俺は考えたからだ。
「よし、シャルル。くどいようだが、お復習いしていくぞ? まずはラウラの戦い方の特徴についてからだ」
特訓を終えて自室に戻ってから俺たちは、軽い今日の特訓の反省会をおこなってから、今までの復習をする。
「まず、大前提としてラウラの戦い方は『一対多に特化している』
つまりそれは、『自分側が複数の状態での戦いを想定していない』ということだ。
アイツは一対多の状況で戦えるだけの能力と強さを持っている。――けれど、そこが落とし穴だ。二人組というのは一足す一だが、答えが二とは限らない」
たとえ、一人が倒されても残る一人が生き残っていたら勝利になる。タッグマッチとはそういう形式だ。一対一の決闘とは違うのだから、なにも自分一人の力だけで勝つ必要はない。
俺たちは同じ戦場で一人ずつ戦うわけじゃない。俺たちのタッグは二人組なんだからな!
「――そんな風に、この前で訓練時に使用許可が下りたアサルトライフルを使わせてもらって、残弾ありの状態でシャルルが銃を捨てて俺が拾って撃つ、二段構えの作戦だ。
これならAICに対抗できるし、ボーデヴィッヒの意表も突ける。俺たちがアイツに勝つにはこれしかないと俺は思う」
一週間前に同じ事を説明したときのように、確信を込めて俺は言い切ると逆にシャルルは一週間前とは微妙に違い「・・・う~~ん・・・・・・」と、反対とは言わないまでも微妙に鈍い反応を返してきた。
あれ? 一週間前に説明したときには納得してもらえたんだけど・・・なんか気づいた間違いでもあったのかな?
「どうかしたかシャルル? なにか作戦に穴でも見つけたのか?」
「いや・・・そういうのじゃない・・・と、言えなくもないんだけど・・・」
「??? よく分からないが、なにか気になることがあったら言ってくれ。俺も勝つためには最大限シャルルの意見を聞かせてほしいと思っているから」
「・・・いやその、え~と・・・意見って言うほどのものじゃないかもしれないんだけどさ・・・」
ポリポリと、困ったような笑顔を浮かべて頬をかきながらシャルルは、言葉を探すように周囲を見渡す。
「・・・今のラウラって、僕たちの住むこの世界とは違う世界で生きて死んだラウラの記憶を引き継いでるって、話だったよね?」
「ん? ああ、そうらしいな」
俺は彼女の確認質問にうなずいて答える。
それは秘密事項でありながら、今やIS学園の誰もが知っている公然の秘密であり、少し前まで話題沸騰しまくっていた驚愕の現象。
なんと、この世界には俺たちの住んでいる地球と同じようでどこか違う、異なる歴史を歩んだ別の地球世界があるらしい。そこでも織斑一夏やラウラ・ボーデヴィッヒは存在していて、IS学園で生徒として共に生活しながら戦ってもいたらしい。
大昔に書かれたっていう空想科学小説みたいな話だけど、いくつかの分析の結果、事実であることが科学的にも証明されたって言うのだからもっと驚きだ。
混乱を防ぐため世間に公表するのは大分先のことになるらしいけど・・・世の中不思議なことがまだまだいっぱいあるのだなと実感させられた出来事だった。現実は小説より奇なり。
「そして、その世界のラウラはセレニアのことをお母さんと思い込んでいて、あっちの世界のセレニアからも可愛がられていた・・・そういう話で合ってたよね?」
「合ってるな。・・・むしろ、俺的には間違っていて欲しいこと山の如しだが・・・」
そもそもにおいて、それが原因で俺は因縁をつけられた挙げ句、二度も殴られてしまったわけだから間違いようがないし、できればホントーに間違っていてほしくて仕方がない。
何故なら、こことは違う世界の地球だと俺たち個人個人も違う生き方をしていて、時には大きく性格まで変化してしまっているらしいそうで。
俺こと織斑一夏は、『人斬り侍』な上に『オッパイ星人』でしかも『未来のセレニア夫』になってしまってるそうである。――別人になるにも限度ってものがあるだろう、違う世界の俺よ・・・。
そして、そのせいで俺は違う界の俺が犯していた様々な変質的セクハラ行為を償わさせるため、違う世界ではマザコンになっちまってたらしいお子様ラウラに恨みを抱かれて学年トーナメントで叩きのめしてやる宣言を受けさせられてしまったというわけだった。
――なんて、正当な怒りで理不尽な怒りでもある複雑事情! ラウラとしちゃ怒りたくなるのも分かるほど酷いヤツな織斑一夏だと俺も思うんだけど、大前提として俺別人だからね!? 住んでる世界が違うからね!? でも脳ミソが子供に戻ってる相手に理屈で納得させるとか不可能だからなぁー! コンチクショー!!
とまぁ、こんな事情に巻き込まれている俺のため、この件に関しては他よりかは詳しい。・・・できれば詳しくなりたくなかったけれども・・・。
「うん、まぁ・・・一夏の気持ちはわかるんだけど・・・問題はそこじゃなくてさ・・・」
「・・・・・・???」
「ラウラがセレニアをお母さんって思っていて、セレニアもラウラのことを娘のように可愛がっていたなら、その場合には――――」
「・・・可愛い娘のそんな初歩的な弱点を放置しておくセレニアだったりするのかなぁ~って、ちょっと思っただけなんだけど、ね・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
・・・ほんの一瞬だけ、俺の思考は遙か遠い銀河の海の彼方まで旅立ってから戻ってきて、現実の地球に帰還してから爽やかな青い風に吹かれたような清々しい気持ちになると、確信を込めて俺はうなずきと共にシャルルに向かって返事をする。
「安心しろ、シャルル。完全無欠のヒーローみたいなヤツなんて現実にはいない。いくらセレニアだって、弱さの一つや二つか三つぐらい持っているさ当然。人間なんだから」
「あ、うん・・・。なんかマズいこと指摘しちゃったみたいでゴメンね一夏・・・?」
「はっはっは。なにを謝ってるんだシャルル。お前はなにも間違ってないじゃないか、気にしすぎるなんてバカだなぁ~」
俺は空元気かもしれない笑いを満面に浮かべつつ彼女の肩をたたき、励ますように声をかけ続ける。
「だいたい完全無欠のヒーローなんて奴らはな、泣きもしなけりゃ笑いもしない、自分より圧倒的に強い強敵にも恐れることなく平然と立ち向かっていって、当然のように勝って帰ってきて誇りもせずに帰って行く。
そんな人間らしい弱さとか小ささとかを持ち合わせていない、強い人間のこと・・・で・・・・・・」
段々と自分の声が小さくなっていくのを自覚しながら俺は話し続けて、やがて途切れ、しばらくのあいだ沈黙が続き。
ボソリと、シャルルが苦笑交じりに致命的な一言を口にする。“口にしてしまった”・・・。
「だいたい全部セレニアに当てはまっちゃってるね、完全無欠のヒーローの条件が」
「うぉぉぉぉっい!? 人がせっかく目を逸らしていた持論の矛盾点を指摘しないでくれませんかシャルルさ―――んッ!?」
俺、絶叫!! 驚愕の真相再びである! もしくはリターンズだ!
全く、なんてことだろうか! 俺たちが一週間後に戦う相手は完全無欠のヒーローの弟子だったのである! これは舐めてかかると痛い目に遭わされそうだぜ!! 注意しないとな!?
「・・・しっかし、今まであんまし深く考えてきたわけじゃないけど・・・俺の考えてたヒーロー像って、よく考えてみると、あんまりヒーローって感じがしないな・・・。むしろ悪役って感じがしてこなくもない」
「たしかにね。なんて言うかこう・・・聞いてた限りだと、『悪の帝国に仕える冷酷非情な軍師』って役柄の方が似合ってる気が僕にもしたかな・・・?」
「だな。なんつーか具体的には・・・『理屈としては完全に正しい意見しか口にしない、人の心なんか利用することしか考えない、光に付き従う影として汚れ仕事は全部引き受けて平然としているような人間味の欠片もない冷徹氷の総参謀長』みたいな感じの人にピッタリだった気がしなくもな―――ひッ!?」
な、なんだ!? 今後ろから千冬姉にも勝る、すさまじい氷のプレッシャーを感じさせられたような気がしたけど、なんかいたのか!? 壁しか見えないけど、なんかいたような気がしたぞ今!
一瞬だけのことだったけど、首筋に絶対零度のカミソリが宇宙の彼方から伸ばされてきて無造作に刈り取られていった幻覚を、一瞬だけ見せられたような・・・・・・そんな気がする!?
「ど、どうしたの一夏? 顔色悪いけど・・・なにか怖い物でも後ろに見つけたのかな?」
「い、いや・・・なんでもない。とりあえず俺の中でヒーロー像はもう一度よく考え直した方が良さそうだなって思ってただけだよ・・・・・・」
「・・・・・・????」
なにかよく分からない得体の知れない恐怖の余波、が宇宙の彼方から伸ばされてきて巻き込まれちまっただけの被害者の一人になったような気にさせられながら、残り一瞬間の日数は過ぎていく。
そして早い物で、試合当日まで後・・・・・・一日!!
・・・・・・そんな一週間が過ぎ去る中。某国の某社、某社長室において、こんな会話が交わされていたことを俺はついに知らされることなく、この事件の終わりを迎えることになる。
それは深夜12時の出来事だった。
仕事時間を終え、部下を帰し、世界三位のシェアを誇る大手IS企業デュノア社社長アルベール・デュノアが、心身共に疲れた身体をデスクの社長椅子に投げ出した次の瞬間。
――私的連絡用に設置してある専用回線が、突然鳴り響く音が室内にこだました。
「・・・・・・・・・」
一瞬、逡巡を見せたアルベールだったが、そこは彼も歴戦の強者だ。この回線の存在を察知している時点で居留守など無駄な相手であることは自明。
正面から受けて立つことこそが最善手となる相手だと、即座に見抜いてボタンを押して回線を開く。
「・・・夜分に社長室へいきなり直通回線を入れてくるとはな・・・。どこの誰かは知らんが、最近の若者は礼儀も心得ぬと見え―――」
『こちらは無礼にして、大人に対する守るべき礼儀も知らないIS学園の若造生徒、異住セレニアと申します。
シャルロット・デュノア嬢の友人、と言えば少しは身に覚えのあるお話かと思いましたのでご連絡させていただきました。脅迫の内容をお話しさせていただいてもよろしいでしょうかね?』
「・・・・・・・・・」
平然と、こちらが言い終わるのも待たずに一方的に語り始める画面に映った銀髪青眼のIS学園制服を着た女子生徒。
話を聞く気はない、自分の話だけを聞けと、いきなり態度で示されてしまったアルベールとしては不愉快の極地な態度だったが、初手からジョーカーを切られてしまっては応じるより他に道はない。
反論するのはいつでも出来るが、まずは相手の出方を見極める以外にやりようがない窮状に最初から追い込まれてしまったわけなのだから、彼としては他にどうすることも出来なかったのである。
『では、我々子供が尊敬すべき大企業社長のアルベールさんに、敬意と礼節をもって脅迫の文言をお伝えさせていただきます。
二度は言ってあげませんので耳の穴かっぽじって聞いて、忘れたくなければメモするように。ただし録音は無駄ですので辞めておいた方がいいでしょうね。レコーダーが無駄になります』
チッと、口の中で小さく舌打ちしながらアルベール社長は手元にある、録音ボタンに見せかけた外部連絡用のスイッチからさり気なく手を離した。
この回線をハッキングできる時点で相手はプロだ、相手に録音されることを前提として脅迫してきていることはわかりきっていたから別のことに利用するつもりだったのだが、ここは素直に録音するだけに留めておいた方が安全そうである。
録音した後に手を出す手段があるとは思わないが、不確定な安全性のために支払うほどのメリットがある手段でもない。
『結構です。では、お伝えしましょう。―――つまらない見栄張ってないで、とっとと娘さんに頭下げて謝って和解しちゃいなさい。
そうしたらデュノア社が潰されずに済んで、フランス政府から力尽くで融資を受けられるようにさせてしまえるジョーカーを恵んでさしあげます。
理由はどうあれ、自分の会社を傾けてしまった失態の責任は全て社長が負うべきなのが当然のこと。
だというのに、男としてか親としてか、はたまた一度は成功を納めた者のプライド故なのか、娘に対してつまらない意地を張り、プライベートで頭を下げることも、亡きお母さんの葬式に出られなかったことを謝罪することも出来ない臆病者にプライドなんて持つ資格はありません。
内実のないプライドなんか捨てて、とっとと娘に謝れ役立たず。社長としての責任がどうとか言うつもりなら、まずは失敗を認めて娘に謝ってからにしろ。
それすら出来ない臆病者なら政府より先に私の法で処断してあげますけど、どうされますか? シャルロットさんのお父さん?』
つづく
オマケ『セレニアがアルベール社長の真の目的に気づいた理由説明』
セレニア「世界第三位の大手IS企業の経営が傾いていて、社長には隠し子がいて、隠し子は母親を失ったばかりで家は貧乏で、非公式でも国家代表候補に選ばれるほどの高IS適正保持者で、しかも性格外見ともに掛け値なしの美少女・・・・・・これだけ利用価値と利用方法がある人を社長直属の場所に置き続けてから、外部勢力の介入できない日本のIS学園に男装させて送りつける。状況証拠だけで真相の仮説を立てるには十分すぎると思われますが?」
アルベール「ぐ、ぐぬぬぅ・・・・・・(けっこう頑張って考え出した案だったので、意向を汲んでもらえてても悔しい)」
*必要ないかもしれませんが、一応のご説明です。
今話の中で一夏が、別世界の自分とセレニアが結婚してたと聞かされても動じていない理由の大半はセレニアの方にあり、彼女の側が気にすることを許さない雰囲気を発散しちゃっているため意識し辛い状況にあるのが主な原因です。
別世界に生きる同姓同名で同じような人生を送ってきた、この世界の自分たちが一度も会ったことのない赤の他人の話を一方通行で聞かされて、自分たちの方が勝手に意識し過ぎて振り回されるのはセレニアが最も嫌うバカバカしい状況の一つ。
違う世界の会ったこともない自分たちが結婚してたからと、この世界の自分たちまで結婚してやらなきゃいけない道理もなし。
他人の事情を気にし過ぎて、意識しないといけないような気分にさせられる思考法をやたらと嫌悪しまくっているのが今作セレニアの特徴だったりしております。
ひねくれ少女なのでね?(苦笑)