『IS原作の妄想作品集』   作:ひきがやもとまち

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前回ようやくデュノア家の事情に区切りがつきましたので、今作キャラ総登場のお祭り回を書いてみました。フリーダーム!…とか思ってたら箒を出すの忘れてたことに今更気づいた作者でありましたとさ…。


IS学園のひねくれ少女 第15話

 六月も最終週に入り、IS学園は月曜から学年別トーナメント一色にと変わる。その慌ただしさは一年生全員が強制参加行事であることから予想よりも遙かにすごく、今こうして第一回戦が始まる直前まで全生徒が雑務や会場整理、来賓の案内などを行っていた。

 

 しかも俺たち男子組が例によって、だだっ広い更衣室を二人占めできるのに対して、女子は同じ敷地面積の更衣室に本来の倍数を収容した室内で着替えなきゃならない。思っていたより女尊男卑時代の女子は大変なのである。――そんな中だ。

 

 ・・・ソイツは男子組二人だけが使うはずの男子更衣室前で待ち構え、俺たち二人に・・・・・・いや。俺一人だけに向けて、こう宣言してきたのだった。

 

 

「ふはははは!、です! よく来たなですね変態さん! 待っていたですよ! お母様のために!!」

 

 

 ・・・・・・アリーナの男子更衣室へと続いている道のど真ん中で、お子様モードのラウラ・ボーデヴィッヒが小さな胸の前で大きく腕を組みながら、小さな背丈を精一杯デカく見せつけようと背伸びしながら、デカい態度の上から目線で最大限俺たちの顔を見上げてきながら罵倒(?)するため待ち構えていたのである・・・・・・。

 

 なんとなく周囲を見渡してみると、そこにはたぶん各国関係者とか研究員とか企業エージェントとかのVIPを含めたそれなりの人数がアリーナに向かっている途中で足を止めて彼女に視線を集めており、明らかに通行の邪魔をしているにもかかわらず何故だか彼ら彼女らの表情と視線は微笑ましさで満ちあふれていて邪念が一切感じられない。

 

 ――要するに、同類(特殊性癖持ち)だけが残っていると言うことなんだろう・・・日本の将来どころか、女尊男卑社会全体の将来が心配になってきそうな光景であった・・・。

 

 

「OH! ジャパニーズYesロリコンNOタッチ! 日本の伝統芸能というヤツですね! 流石はゴールデンの国、ジャパン・・・ニッポン恐ろしい国です・・・」

 

 ・・・ってオイ! 今変なヤツ混じってなかったか!? IS学園に絶対入れさせちゃダメそうなヤツが混じってた様な気がするのは俺だけなのか!? この学園の警備網は本当に信用していいんだよな千冬姉ぇぇぇっ!?

 

「ラウラはこの日が来るのをイチジツセンシューの思いで待ちくたびれてオネムだったですよ! 今日こそインロウを渡してあげますから、覚悟するです変態さん!

 ラウラがギッタンギッタンにのしてあげて、『ギャフン!』と言わせてあげるのです! そして! ・・・えっと、えっと・・・それからえっとぉー・・・・・・」

 

 「ふっ」と小さな笑みを漏らしながら始まった格好付けたポーズと言い回しによる宣戦布告が始まってから崩壊するまでのタイムわずか五秒。今では始まったときのポーズのまま空を見上げて「?」マークを何個も頭上に浮かべているお子様高校生が目の前で同じポーズをとり続けている。

 

 ・・・なんとなくだが、どこかで同じような光景を見た気がしなくもないのは気のせいだろうか・・・? 覚えはないはずなんだけど、もしかしてこれがデジャブって奴なのか?

 ――ラウラと一緒に渡ってきた異世界の俺の記憶とかだったら滅茶苦茶イヤなので帰ってください心から。

 

「・・・こんな所まできて、なにやってんだよボーデヴィッヒ・・・。すげぇ似合わねぇぞ・・・?」

「???? センセンフコクするときには、こういう風にやるものだって鈴お姉ちゃんが教えてくれたですが?」

「お前かセカンド幼馴染み―――――――ッ!?」

 

 

 驚愕の新事実が、当事者の口から大暴露! なんと俺を巻き込ませていたのは俺の幼馴染みで、目の前の強いだけなお子様は騙されて利用されてただけだった件について!

 定番展開のはずなのに、俺全然怒り沸いてこれないんですけど、これを一体どう接しろと!?

 

「とにかく!です! 変態さんはラウラと出会ったころからナニヒトツ変わってなくて、最初からずっと変態さんは変態さんのままで、それはえっちたしか、ジュウネンヒトヨのランプ魔神さんみたいな感じで、えーと、えーと、ん~~~~んとぉ・・・?」

 

 ラウラの演説(?)が続いている・・・。

 本当だったら白けるところだし、無視する所なんだけど相手子供だしお子様メンタルだし。どうすりゃいいのか分からずに俺は判断が決められず、周りの連中は生暖かい目で見ているだけでバカにはしてないけど助けてもくれなくて。

 仕方なしに、こういうときのお母さんスキル持ち、優しく相手に合わせてくれるシャルル女神に降臨願うしかないわけで。

 

「えっとね、ラウラ? もうすぐ大会が始まるから君も更衣室にいって着替えたほうがいいと思うよ? 時間に遅れちゃうからね。お母さんからも『待ち合わせ時間には遅れちゃいけません』って言われてるでしょ?」

 

 優しい笑顔で、子供に視線の高さを合わせて柔らかく諭すように言ってあげるシャルル。

 流石だ・・・流石だぜシャルル! 俺にはやはり君が女神に見えてきそうになるぜ・・・!

 

「大丈夫ですお父様! ラウラ、そこのところもちゃんと準備してきたですから!!」

「いや、そういう意味じゃなくてね? ・・・って、え? お父様? ちょっと、ラウラ、そこの所をもう少しだけ詳しく聞かせて―――」

 

 

「ラウラ、出かける前にセーフクの下にISスーツ着てきたですからお着替えしなくても大丈夫なんです! だから大丈夫なのですお父様♪」

 

 

『子供か!? 小学生か!? あと、ここって確か国立の高等学校だったはずだよな!?』

 

 

 

 ・・・流石にこれには見物人たちも盛大にツッコんでくれて、そのお陰で終わらせられた戦う前の無駄会話。

 本当に・・・無駄で不毛で消耗だけが激しい舌戦(?)だったぜ・・・・・・。

 

「では、試合会場でまってるですよー♪ 必ず来ないとダメですからね変態さーん!? 逃げたら絶好ですもん! それじゃ試合までバイバ~イ♪です☆」

 

 ブンブン手を振りながら背を向けて去って行き、途中で振り向いてまた手を振り、そして去る。また振る。

 

「・・・なんていうかこう・・・・・・嵐みたいな子だよね、あの子って・・・・・・」

「・・・そうだな・・・。嵐っていうか、嵐を呼ぶ小学生とか、そんな感じの単語が昔あったことを思い出す試合相手だわ・・・」

 

 シャルルの将来がかかった大事なトーナメントの前に、いきなり気勢をくじかれまくりながら、ノロノロとした動作で俺たち二人は更衣室に入って着替えを済ませ対戦相手が発表されるまでの間に精神消耗の回復に充てることにする。・・・本当疲れた・・・。

 

 

 ところがだ。

 

 

 

 

「――あ、やばッ!!」

 

 試合中はトイレに行けないからと、用を足しに行った先で先ほどの真犯人を発見! 俺は全力でソイツを捕まえて説教してやるため全速力で追いかけ始める!!

 精神的に疲れてるとか言ってられるか! コッチはいい迷惑かけさせられたんだ! 一言言ってやらなきゃ気が済まん!

 

「待ちなやがれ、鈴! テメェさっきはよくも俺を巻き込んでくれたな! 少しぐらいは反省しろや! この駄幼なじみ!?」

「ち、違うのよ一夏! あれは・・・そう! 正当防衛よ!!」

「何がだ!?」

 

 なんか俺のセカンド幼なじみまで小学生みたいな言い訳しだしたぞオイ!? 最近では女子たちの間でそういうのが流行なのか!? 古くさいのは俺だけじゃなくなってるのか!? 答えろぉぉぉ鈴!!

 

「ちょ、ちょっと待って落ち着いて一夏! 落ち着いてあたしの話も聞いてちょうだい! あたしは決してあんたに迷惑をかけたくてラウラにあんなことを教えたわけじゃないの! 本当よ! 信じてちょうだい!」

「・・・・・・じゃあ、なんでだ? 何であんな訳わかんないこと教えて俺を巻き込んだんだよ?」

 

 相手の目が嘘をついてない、澄んだ瞳の色だったから一先ず殴るのは保留にして話を聞いてやることにする俺。

 たしかに俺は男で、鈴は女だ。俺にはわからない女ならではの止むを得ない事情という奴があるのかもしれない。少なくとも・・・殴るのは何時だってできるのだけは間違いない。話を聞いてからでも遅くはないのだから・・・。

 

「あたしは・・・あたしはただ! “本当にカッコいいと思って”教えただけよ! ああなったのは結果だわ! だから、あたしのせいじゃない!」

「子供か!? 子供の屁理屈か!? あと、好みと趣向がお子様すぎるわ!?」

 

 子供みたいなナリしてても心は女子高生なはずのセカンド幼なじみまで、子供みたいなこと言い出しちまったんだけど!? 俺たちがコンビネーションの特訓している間に一体何があったんだコイツらは!?

 俺のセカンド幼なじみと当面ライバルの言うことが子供すぎる!!

 

 

「・・・おや、デュノアさんを探しに来たら織斑さんがツッコんでいましたか。こんにちは~」

「本当ですわね、それに鈴さんもいますわ。もうすぐトーナメントが始まるみたいですし、早く移動してくださいな。一緒に遅刻で不参加はゴメンですわよ?」

 

 そうこうしてる内に通路の向こうから、セシリアとセレニアの二人組が出てきて声をかけてきた。

 さらに続いて、俺の帰りが遅いのを気にしたらしいシャルルまでもが遠くから近づいてきてる姿を見つけたから、狙ったわけでもないけど結果的に俺のIS学園における知人がほぼ全員集合してしまった形になる。

 

 いないのはファースト幼なじみの箒だけか。・・・考えてみるとアイツって、あんまし誰かと一緒に出てくることって少ないよな。

 もしも、ぼっち化してた場合には久しぶりに再会した幼なじみとしてどう接すれば良いのだろう・・・?

 

「おう、セシリア。それにセレニアも一緒か。今日はお互い全力を尽くそうぜ」

「ええ、もちろんです。わたくしも二度続いてビギナーに後れを取るわけにはいきませんので、今回は最初から全力で行かせていただくつもりです。覚悟してくださいましね? 織斑さん」

「ふっ、そいつは楽しみだ。返り討ちにしてやるぜ」

 

 ニヤリと不適に笑い合って、「コツン」と拳をぶつけ合う俺たち。友達と呼ぶには微妙に距離があるままだけど、IS操縦者として競い合うライバルとしちゃいい関係が築けてきたみたいでなによりだぜ。

 

「・・・そう言えば、セシリアは鈴と組んで出場するんだよな? だとするとセレニアは誰と組む予定なんだ? あらかた知り合いは出尽くしちまった気がするんだけど・・・」

「ご心配いただいてどーも。私は布仏さん・・・・・・織斑さんにもわかりやすく呼び方で言うところの、のほほんさんとペアを組んで参加登録だけはさせて頂きましたよ」

「おう、のほほんさんか。そりゃまた相性良さそうなタッグで何よりだ」

 

 俺は頭の中でクラスメイトの一人を思い浮かべると、納得してうなずいて了解の意を示した。

 二人ともちっこくて、運動神経はあまり良くなさそうで、部分的に出るところは大きく突き出している者同士、仲良くやってる姿は結構よく見かけてる。

 性格的には水と油ってぐらい違う者同士だけど、案外そっちの方が上手くいくのが人間関係なのかもしれなかった。俺とシャルルがそうであるみたいにさ。

 

 ・・・とは言え。

 

「・・・・・・一応聞いておくだけだけど、大丈夫なのか? いや、相性の問題とかじゃなくてその――体力面とかの問題が、さ・・・?」

 

 少し気まずい思いをしながらも、俺は級友に確認を取る。

 セレニアは見た目通り体力がなくて、スポーツに関係することでは全般的に完全無欠に無能になることを自他共に公認してきた奴である。のほほんさんだって決めつけるつもりはないけど、運動神経抜群ってタイプではない可能性が高そうな見た目をしている。

 

 もちろん学校行事なんだし、かならず結果を残さなくちゃいけないってものではないけど、怪我とかそういうのを心配してしまうのは男として以前に人として、そして友達として当然の義務だと俺は思っている。

 

 本人も言われる程度しかない自分の脆弱さには割り切りがついているのか肩をすくめて「ご心配なく」と答えてきながら。

 

「傷つけないよう気を遣って頂いて感謝しますけどね。自分の欠点にかんすることですから割り切りは済んでますし、対処法は考案してあります。織斑さんが案じているような事態にだけはならないことをお約束いたしましょう」

「・・・そっか。それならまぁ安心していいのk―――」

「ちゃんとトーナメントが開始した直後に、『体調が悪くなる予定』で病欠することは内定もらってますのでご安心くださいませ。普通に私は参加しませんのでトーナメント中は安全ですよ」

「安心できねぇぞ!? お前までなに子供みたいなことやっちゃってるわけ!?」

 

 学校主催のスポーツ大会で、堂々とサボりを公言して恥じらいも見せない女子高生という驚異のお子様振りを発揮してくれた級友に、俺は全力全開でツッコミを入れる!

 なんで今日に限って俺の周囲にはガキしかいなくなってるんだよ!? なんかの呪いか!? お子様ラウラ病が伝染してるのか!? それとも異世界の俺の知人はみんな中身はこんなだったりするのかコンチクショー!!!

 

 が、しかし。大声を出して怒鳴る俺とは別に、別の視点で過去を見ている奴もいたらしい。

 

「あー・・・、でもそれ最良の手段かもしれないわね・・・。また『第二次ストックホルムの悲劇』を繰り返されたら酷すぎることになるかもしれないし・・・」

「うぐ・・・、あ、あの事件か・・・。確かにあの悲劇は二度と起きて欲しくないとは正直思わなくもないからなぁ・・・」

『あの事件?』

 

 遠くを見るような視線で鈴が口にした単語に、俺がイヤな顔して反応を返して、セシリアとシャルルが不思議そうな顔して小首をかしげる。

 ・・・そうか・・・この二人は知らなくて当然の立場だったんだよな・・・。じゃあ、説明するのは仕方がないのか、クソゥッ! せっかく中学を卒業して忌まわしい悲劇の記憶から逃れられると確信していた矢先だったのに!!

 

 

「あれは、中学一年の時のことだった・・・その頃からセレニアは今みたいな理屈でスポーツ関連の行事すべてを病欠してたんだが、先生たちからみれば面白いはずがない。

 何度かのやり取りを経た秋頃に体育教師の一人がブチ切れて、『登校してきたときに参加できる体調だったら病欠は認めない!』と言って、マラソン大会にセレニアが参加せざるを得なくしてしまったんだよ。そしたら――」

「そしたら、どうなりましたの?」

「周囲の見物人とか先生たちから『頑張れ!』とか『諦めるな!』とか言われまくってる中でも平然と一定のペースを守りながらセレニアはゴールを目指し歩き続けて、必要だと判断したら自主的に休憩を取り、休んで体力回復してから歩くのを再開する・・・・・・こうしてセレニアの参加した年のマラソン大会は、開催史上最長の競技時間を記録することになったんだ・・・」

「・・・・・・はぁ」

「歩いてるとは言え、一応は生徒の女の子がゴールを目指し続けてるわけだから、さすがに審判役とかゴール地点で到着をゴールテープもちながら待ってる先生たちだけ先に帰宅するわけにも行かない。

 秋の寒空の中、いつ到着するともしれない生徒のゴールを待ち続け、夕方頃になってようやく完走できた生徒を迎えたとき、先生たちの半数は風邪を引いていて、翌週の日曜明け月曜日から数日後まで先生不足の状態が俺たちの学校では続いてしまったんだ・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「そして、とどめとしてセレニアも風邪を引いて、しかも他の誰より悪化して救急車呼ばれて病院に担ぎ込まれるまでに至り、アイツの言っている『体調が悪くなる予定』という主張が正しかったことが証明されてしまい、果たして誰が悪かったのか、誰の責任として責めればいいのかと、学校中はしばらく揉め続けたんだ・・・・・・。

 その事件以来、うちの中学校ではセレニアのスポーツ関連行事の参加を自主的に病欠させることは被害を押さえるため必要悪と判断され、新入生や新任教師が赴任してくるたびに事前説明がされるようになっていった・・・・・・それが『第二次ストックホルムの悲劇』と、誰が言い出したのかよくわからない名前で呼ばれてる事件の全容だよ・・・・・・」

 

「あれは悲劇だったわよねぇ・・・・・・、一番責められるべき奴が一番被害受けてたから責められないし、病院に責任追及しに行くわけにも行かないし・・・・・・まさに悲劇というか、悲喜劇だったわ・・・」

「それは本当に悲劇ですわね・・・・・・他人からみたら笑い話でしかない内容なのに、実害を受けた規模が大きすぎますから当事者たちは笑えませんもの。喜劇的な悲劇すぎて泣けてきそうですわ本当に・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・コホン」

 

 口々に過去の黒歴史を突かれまくって、さすがに気まずい思いをさせられてきたのかセレニアが一つ咳払いをすると、俺の後ろで苦笑しながら状況を見守っていてくれたシャルルに対して「おいでおいで」をしながら、少しだけ赤く染まった頬のままで声をかけ、話題を変えてくる。

 

「まぁ、そういう変えることのできなくなった過去の出来事は、今は置いておくとしまして。――デュノアさん、織斑先生がお呼びです。第二連絡室まで来て欲しいとのことでしたよ?」

「僕を? 織斑先生が? ・・・なんの用だろう・・・? いまいち呼ばれる内容に心当たりがないんだけど・・・」

 

 シャルルが首をかしげながらオウム返しに問い返して、セレニアも「さぁ?」と首をかしげながら返事を返す。

 実際、呼ばれる理由は俺にもよく分からない。たしかにシャルルの正体のことは千冬姉に伝えてあるけど、そのことで今呼ばれる必要があるかって言うと何もない・・・と、俺は思う。

 それとも何か変化が起きたのかな? 俺も行った方がいいかもしれないけど、でも今回は千冬姉が名指しでシャルルだけを呼んでるみたいだしなー・・・。う~ん、判断に迷うぜ。

 

「私も、『デュノアを呼んでくるように』としか言われてませんのでね。内容まではサッパリなのですよ。まぁ、それほど急いではいなさそうでしたので今みたいに駄弁ってからお伝えしたわけですし、難しい要件ではないと考えていいのではないですかね? 多分ですけども」

「そっか・・・そうだね。うん、わかった。行ってきます」

「はい、行ってらっしゃい」

 

 そう言ってセレニアには返事を、俺たちにはすぐ返ってくる旨を告げて連絡室に向かうシャルル。

 まぁ、セレニアの言ったとおり急いでなかったって言うなら、本当に大した用事ではないんだろう。千冬姉だったら生徒のことで重大事がおこってたら急がせるだろうしな。

 俺たちはシャルルがいつ帰ってきてもいいように、試合の準備を万全にしとけばそれでいっか。

 

 

 

 

 

 

 『第二連絡室』と、書かれたネームプレートのかかる部屋の前で僕は大きく息を吸って吐いてから戸を叩き、自分の入室と来訪目的を告げてから中へと入る。

 

「1年1組、シャルル・デュノアです。担任の織斑千冬先生に呼ばれて参りましたので、入らせて頂きます」

 

 やや丁寧すぎる口調で言いながら、僕は室内へと入る。

 理由は言うまでもなく、一夏たちが色々やってくれた今回の処置を、僕一人の軽率な行動で無駄にするのを避けるためだ。

 礼儀正しすぎるぐらいで丁度いいのが今の僕の立場なんだから、目上が相手の時には可能な限り低調な態度を意識しないとね。部屋に入るとき、頭を下げながら入室するのだって基本だよ。

 

「・・・来たかデュノア。顔を上げろ」

「はい、先生。失礼しま・・・・・・ッ!?」

 

 顔を上げた瞬間、僕は正直『謀られた!』って、思わざるを得ない心境に立たされていた。『連絡室』と言う名前にもう少し気をつけておくべきだったかもしれない・・・。

 なぜなら、織斑先生がたたずんでいるスクリーンの大画面に映し出されている人の名と顔と表情とを、今では僕が他の誰より知ってしまっている立場にある人のそれだったのだから・・・。

 

「本来ならば、詳しい事情を説明してやるべきところだし、私の方も聞きたいことが山のようにある事案だが――トーナメント開始まで時間がない。お前一人のために割いてやれる時間は多くない以上、今はなにも問わん。すべてはトーナメントが終わるまで学園側はこの件について一切の介入をする気はない。これが学園長の下した決定であることを伝えておく。

 ―――あとはトーナメントの時間まで、自分たちだけで好きにやるといい・・・」

「・・・・・・・・・・・・はい・・・・・・・・・」

 

 一方的に告げるだけ告げて、僕の横を通り過ぎ、背後の扉へと向かって歩み去って行こうとする織斑先生は、最後に「ぽん」と僕の肩を叩いてくれながら耳元に口を近づけると。

 

「・・・たとえ親が原因だとしても、子がやってしまったことは自分が責任を負わされるものだ。

 どんな結果になっても自分以外のせいにはしなくて済むよう、言いたいことは言えるときに言っておけ。以上だ」

「・・・!! は、はい・・・・・・」

 

 小声でそう言ってくれてから退室して、扉が閉まる。

 二人きりしかいない室内に僕と父だけ――いや、所詮この人は画面の向こう側から話しかけてきてるだけで、僕は今も部屋に一人だけでいる。今も昔も、この人は僕のことなんて見てはいない・・・。

 

「・・・おと――」

『私は会社のことで忙しい。お前に与えた任務のことで割ける時間は二分だけだ』

「―――っ」

 

 実に機嫌が悪そうに僕の言葉を切って捨てて、『仕事の話』を娘に向かって一方的に通達してくる僕の父――デュノア社社長のアルベール・デュノア。

 

 しょせん、この人はこういう人だ。今さら失望なんかする余地は残ってない。

 僕はこの人にとって道具でしかないし、会社を維持するために便利だから使い捨てる程度の価値しかない愛人の娘で、デュノア社社長の地位から見たら汚点でしかないのだから・・・・・・

 

 

『お前に与えた任務とは別に、今日のトーナメント結果は我が社にとって重要事たり得る。

 よって、社長である私自らお前の試合を見定めることになるだろう』

「・・・・・・はい」

 

 それは当然のことだ。デュノア社がフランス政府から融資を得られなくなった直接原因はイグニッション・プランのコンペに新型機を開発して発表できなかったことだけど、そうなった原因はIS開発技術力で他国の企業に差をつけられてることにある。

 イグニッション・プランの有力候補である、《ドイツのレーゲン型》、《イギリスのディアーズ型》この二機種を基にコスト度外視で開発した専用機がラウラの《シュヴァルツェア・レーゲン》で、セシリアさんの《ブルー・ディアーズ》。

 

 技術力で勝っているはずのライバル社が開発した第三世代機が、第二世代のカスタム機に敗北させられるか、少なくとも技術力の面で弱点を露呈させることさえできれば『他国の企業よりIS開発技術が低い』というフランス政府がデュノア社を責める大義名分を奪うことになるし、最悪の場合イタリアの《テンペスト型》だけが一人勝ちするなんて事態にもなりかねないからドイツやイギリスの開発元だって対岸の火事と笑ってみているわけにはいかなくなるだろう。

 

 その程度のことは言われなくても僕にも分かる。分かり切っていることでしかない。いちいち命令する必要も説明されるまでもない。

 だから本命はここからだ。命令があるのは今からなんだ。今度はなにを自分の娘にやらせるつもりなのか、僕は諦めきった心に衝撃に備えたフィールドを張りながら、来たるべき酷い言葉を待ち続け・・・・・・。

 

 

『・・・新たな通達事項は以上だ』

「え・・・?」

 

 思わず顔を上げて画面を見上げ、画面に映る相手の顔を見つめがら『嘘だ』と思って続く言葉を待ち続ける僕と、伝えるべき命令を伝え終えて『これ以上の時間を割く必要がなくなった娘』を黙ったまま見下ろし続けているデュノア社長。

 お互いに黙り込んだまま、十秒が過ぎて、二十秒が過ぎて、三十秒が経過して。

 

 いつしか、画面の左下に表示されている時間が通告していた二分に達して、今まで二回しか会ったことはなく、会話も数回しかしたことがない疎遠な父親と娘とが二人きり、同じ部屋で過ごした時間の最長記録を更新した頃。

 

『時間だ。切るぞ。――試合の成果を楽しみにしている』

 

 と、話し始めたときと同じで一方的に話を終えて、向こうから通信は切られる。・・・最後の会社社長として『成果を上げろ』と命令してきただけの部分を、わざわざ言い淀んでから不機嫌そうな表情で言ってから通信は父の方から切られたのだった・・・。

 

「ふふふ・・・・・・」

 

 思わず僕は笑ってしまった。自分の単純バカさ加減がおかしくなったのだ。

 こんな良くある出来事で。三流ドラマのお涙ちょうだい展開で。普通の家族と比べたらできない方がおかしいと罵倒されて当然のことしかしてもらっていないと分かっているのに。それなのに―――。

 

 

 許したがってる自分がいる。許せないと思わないと怒りを維持できない自分がいる。

 二度と希望なんか持ってやるものかって決めていた父と娘の関係に、懲りることなく希望を持ってしまってる自分がわずかに、でも確実に生じてしまった自分自身の心の内側を僕は今、確かに実感させられていたからだ・・・・・・。

 

 

「・・・自分で思っていたより、ずっとチョロかったんだなぁ僕って・・・・・・。

 これじゃあ将来、ダメな男の人に引っかかって身を持ち崩しちゃいそうで、怖くて怖くて仕方がないね本当に・・・・・・」

 

 

 たとえるなら、あんな安っぽいセリフで娘を口説き落とせる父親に口説かれ落とされた自分の母親のような未来が待ってるみたいで、怖くて怖くて仕方がなくて。

 ――思わず笑っちゃいそうで困るよね? お母さん・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・で? これで良かったのか異住」

 

 私は『第二連絡室』の扉の前で壁に寄りかかりながら腕を組み、傍らに立っている弟と同年齢でありながら妙に達観している銀髪青眼で低身長な少女の頭頂部を見下ろしながら問いかける。

 

 相手の少女は「さぁ?」と、適当な仕草で肩をすくめて応えを返す。

 

「良いか悪いかは本人たちの決めることですからねぇ。他人がどうこう言うことでも、決めることでもありません。なにしろ、自分たち家族の問題ですからね。

 他人ができることなんて意固地になってる双方に、きっかけを与える程度が関の山です。

 なので良いか悪いか未来のことは、私にゃなんとも言えません」

「・・・世の責任問題にうるさそうな連中が聞いたら眉をひそめそうな考え方だ、相変わらず・・・」

 

 私もまた肩をすくめて、今回の脚本家兼演出家兼裏方兼、すべての黒幕だったとしても不思議ではなさそうな弟の級友を見下ろしながら、思いを馳せるのは別のヤツの存在。

 今回の一女子高生がやるにしては大きすぎる規模の解決手段を、提供できそうなヤツに心当たりがある私としては、ヤツとコイツとの関係について聞きたいことが山ほどあったが、聞いたところで答えてくれるヤツだとも思っていないし、下手に答えられた方が情報に振り回されそうな気もしてなかなか決断できずにアンニュイとしていると。

 

「――対戦表」

「・・・なに?」

「トーナメントの対戦表が発表されたみたいですよ。今画面に映し出されたところです」

 

 言われて目をやると、たしかにここからでも見える小さな画面にトーナメント第一回戦の対戦者チームが表示されていた。

 機械による完全ランダム制の組み合わせで選ばれたのは―――

 

 

「デュノア・織斑ペアVSラウラ・篠ノ之ペアか・・・・・・おあつらえ向きな組み合わせになったな」

「そうですね。まるで誰が仕組んでくれたみたいに、ご都合主義的なタイミングの良い組み合わせです。偶然なのはわかっていますけれども」

「・・・・・・」

「それでは私はラウラさんの方に戻るとしましょう。あんまり放置し続けてるとよくないのは、あの人も似たようなレベルですのでね」

「・・・デュノアには言ってやらなくていいのか・・・?」

「なにか言っておいた方がいいと思われるのなら、言いますが?」

 

 意地の悪い質問に、意地の悪い返しをされて私は肩をすくめるだけで答えとし、相手もまたペコリと一例だけ残して去って行ってしまう。

 

 ・・・あんにゃろう・・・いつか絶対、あの鉄面皮を崩させてみせるから覚悟しておけよ――などと私怨を抱くほど子供ではない私はデュノアに対戦表について知らせてやるため連絡室に戻り、何食わぬ顔で用件を伝えてから部屋を追い出す。

 

 祭りが始まろうとしていた。新入生たちにとってIS学園最初のお祭りイベントが・・・・・・

 

 

つづく

 

 

 

オマケ『今作における《VTシステム》の使い道』

 

束「頑張って! 頑張ってクロエちゃん! その調子で強く思えば、キミの身体が黒く染まって、勝利を寄越せとちーちゃんみたいに強くなれるよきっと! たぶん! おそらくはだけど!!」

 

クロエ「ぜぇ、ぜぇ・・・い、いや流石にこれは無理ですから、不可能ですから・・・ぜぇ、ぜぇ・・・」

 

束「そんなことないよクロエちゃん! 信じればきっと夢は叶う! 自分を信じて! イエス・ウィ・キャン!!」

 

クロエ「・・・と言うか、なぜ私の《黒鍵》に犯人から未然に奪っておいた《VTシステム》を搭載させて使ってみるようご命令されたのですか束様・・・。変質したラウラ・ボーデヴィッヒに代わって、私が担うべき役割とお考えになっていることは分かるのですが、そもそも何に使うおつもりなのかがサッパリでして・・・」

 

束「え? いや、そんなこと考えてないよ? ただ、『“クロ”エ』で、《“黒”鍵》で、黒い泥に染まったISになる《シュヴァルツェア・レーゲン》繋がりでいけるかなーって、思ってただけで」

 

クロエ「それだけ!? ――だったのですか!?」

 

束「うん、それだけ(ケロリ)」

 

クロエ「・・・・・・(゚_゚;)」

 

 

*今作の束さんは色々な黒い感情と無縁なため結構フリーダムこそジャスティスな人となっております。

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