「僕はね、一夏。愛人の子供なんだよ・・・・・・」
――そう言って語られ始めた、シャルルが抱え続けてきた実家の秘密。
世界第三位を誇るIS企業デュノア社の経営難と、娘に命じられた企業スパイの任務、シャルルの実母の病死と、再会したばかりの父親から冷たい仕打ち、娘の中でわだかまる様々な感情・・・・・・
それら『彼』だと思っていた『彼女』の口から語られる内容は、普通に世間一般を知っている十五歳の少年でしかなかった一夏を絶句させるに充分すぎるものであり、世の中の矛盾や不合理さを一般的な十五歳の日本人少年レベルでしか感じたことがないまま判った気になっていた自分自身の甘さを再確認するには過剰すぎるほど負の熱量に満ちたものだった。
「とまぁ、そんなところかな。――ああ、なんだか話したら楽になったよ。聞いてくれてありがとう。それと、今まで嘘ついていてゴメン」
「・・・・・・いいのか、それで?」
深々と頭を下げてくるシャルルの肩を掴んで顔を上げさせながら、思わず一夏は問いたださずにはいられない。
「え・・・?」
「それでいいのか? いいはずないだろ。親がなんだって言うんだ。どうして親だからってだけで子供の自由を奪う権利がある。おかしいだろう、そんなのは!」
驚き戸惑う相手を前にして織斑一夏の激情は止まらないし、止まれない。
彼は幼い頃に金銭的な理由から両親に捨てられており、姉の千冬が働きながら女手一つで育ててもらってきた過去を持つ。
借金を残して子供たちを捨て、自分たちだけが幸せになろうとする両親という存在には条件反射と言っていいレベルで嫌悪感と怒りを同時に抱かざるを得ない精神的土壌を持って育てられてきているのである。
――が、しかし。
今の彼らは誰一人として知る由もないことだが、それら全ては姉の千冬の創作話であり、ハッキリ言って出任せである。
確かに自分たち織斑姉弟が、創造主たちの勝手な都合で生み出された最強新人類なのは確かなのだが、別に彼らは親でもなければ血の繋がりもなく、人工的にヒトを造り出そうとしたMAD集団でしかなかったため世間一般の親のエゴとは別格の邪悪さを誇る極悪人共だったため、彼らとデュノア家の親たちを同類扱いするのは後々になって考えてみると酷い事しているように見えなくもないし、一方で研究者たちの犯した罪悪を軽減させてしまっているという見方もできてしまう。
だが、そんな真実は今の一夏は知らない。知らないから関係ない。ただ目の前で語られた事実に対して怒りを抱いて、会ったこともないデュノア父を自分たちを捨てた両親と同類と思い込んで激しい怒りを抱いて罵倒するだけである。
「親がいなけりゃ子は生まれない。そりゃそうだろうよ。でも、だからって、親が子供に何をしてもいいなんて、そんな馬鹿なことがあるか! 生き方を選ぶ権利は誰にだってあるはずだ。それを、親なんかに邪魔されるいわれなんて無いはずだ!」
・・・ちなみにだが彼の姉は、今の彼と同じ理屈で自分たちを生み出した親たちの研究者どもから、どのような手段で自由に生き方を選ぶ権利を勝ち取ったのか・・・・・・今の彼は知りません。
人は今の自分が知ってることでしか善悪を計れない生き物である。○か罰か?
「・・・・・・悪い、つい熱くなってしまって。俺は――俺と千冬姉は両親に捨てられたからさ・・・」
「あ・・・、その・・・・・・ゴメン」
「気にしなくていい。俺の家族は千冬姉だけだから、別に両親なんて今さら会いたいとも思わない」
注:たぶん会いたかったとしても物理的に会えません。主に姉が原因で。
「それより今は、シャルルがこれからどうするかが問題なんだが・・・・・・」
そこまで勢いよく言葉を続けてきた一夏だったが、流石にそろそろ“不気味さ”を感じ始めざるを得なくなってきてしまったため、少しだけ勢い緩めてチラリと自分たちから少し離れた場所に座って同席している少女に対して視線を向けて。
「・・・ハイド、お前はどう思うか聞いていいか? ――ってゆーか、シャルルの話ちゃんと聞いてんだよな? お前って・・・」
少しだけ信頼しきれないナニカが混ざった疑問形で質問して、一夏は自分とシャルルのクラスメイトにして、ワケガワカラナイ理由で同席することになってしまったデュノア家の秘密暴を聞かされた者の三番目に選ばれていた少女、シュトロハイドに向かって問いかける。
ハイドは両目をつむったまま一言も発することなくシャルルの話を聞き続け、一夏の自室にあった座布団の上に座って座禅を組んだ姿勢のまま微動だにすることなく、ただジッと何かを待っているかのように見えなくもないポーズを維持して、この場に居合わせ続けていたのである。
ショージキな話として、『秘密の話するから』と部屋から追い出しても追い出さなくても、受ける被害はあんまし変わりそうになさそうだなーと思ったから同席を許可していたのだが・・・(要するに被害を受けさせられること前提になっちゃってる思考方)
シャルルの話が始まってからず~~~~っと黙りこくったまま目も開かず、ジ―――ッとし続けているため、いい加減ちょっとだけ不気味さを感じざるを得なくなってきた次第です。
(・・・って言うか、コイツって一応はドイツ人じゃなかったっけ・・・? なんで座布団? そして座禅って・・・。つくづく国籍不明感満載すぎるヤツだなおい・・・)
そんなことを思わざるを得ない、ハイドが前世で日本人少年だった過去を知らない織斑一夏だったが、普通の日本人少年でも座布団座って座禅しながら人の秘密の話暴露は聞かないため、知ってたところで似たような別の疑問を思っただけのシーンだったかもしれないけれども。
やがてハイドは「すぅ・・・」と瞼を開いて一夏たちを見つめ直すと、厳かな口調でこう答えを返したのである。
「聞いていた。
デュノア君が『フランス版シンデレラみたいな家族設定の持ち主』で、『親に命じられたのが犯行動機だけど実行犯は彼女だから法律的にヤバい』『法的にはともかく人情論で見た場合には悪くない彼女の非合法行為を無罪放免させる方法はないだろうか?』
―――という話であろう?」
「身も蓋もねぇなオイ!?」
驚愕のあまり一夏は叫び、シャルルは落ち込み一瞬だけだけど身投げを考える。
・・・いやまぁ、ハイドの言うとおりの事情と状況ではあるんだけれども・・・。
人の気持ちとかを問題にした場合には一夏の方が正しくて、文章にしたら3ページぐらいは書き終えるのに必要そうな量の家族事情を話し終えてしまった後のシャルルとしてはもっとダメージでかいので辞めてあげてください本当に。
「たしかにデュノア君のやったことは、褒められるべきことでは決してない。法とは守る為にあり、守らねば秩序は失われよう。
金がなかったから、飢えていたから、犯人が子供だったからと言って、他国の学校に偽の身分で入学して良いことにはならず、人を殺すことができる強力な兵器の情報を不正取得することを正当化する理由にもなるまい」
「うっ、ぐ・・・・・・そ、それは・・・」
「――が、しかし。しかしである!!」
カッ!と両目を見開いてシャルルを見つめ、つい先刻まで考え続けて導き出すことがようやく出来た結論を、ハイドは自信を持って笑顔と共に口にする。
「私はドイツの代表候補生とやらいう身分らしいのでな! フランスの問題を耳にしたところで密告しなければならぬ義務もあるまい!
日本人少年が保有する専用機のデータが盗まれそうになったからといって目くじら立てるべき理由も持たぬ! まして治外法権の地であるIS学園に義理立てすべき理由は何一つ無し!!
何も持たぬが故に個人的感情のみで行動してよい身分にある者として、喜んで協力させてもらうぞシャルル・デュノア君! すべては個人的主観という名の正義の為にである!!」
「あ、うん・・・。ハイド、ありがと、う・・・?」
堂々と宣言されてしまった「関係ない赤の他人だから気にしないで罪の罰逃れに協力するぜ説」を聞かされて、なんとなく釈然としないながらも一応はお礼を言っておくシャルルちゃん。いい子ですね。
「・・・・・・何故だろうか・・・。協力してもらえると言われたのに、なんだか無性に腹が立つ言い分だったように感じてしまうのは俺が狭量だからなんだろうか・・・? 教えてくれ、千冬姉・・・俺に人の正しい姿を教えて導いてくれ・・・」
そして、釈然としない思いをプルプル震える拳にぶつけ、行き場のない激情を発散させようと試みている織斑一夏君。微妙にいい子ですね。これからも真面目に生きていきましょう。
「さて、あらためて『第一回デュノア君の違法行為を裁かせないにはどうすればいいか会議』を開催することになったわけであるが・・・」
体勢とメンバーの配置を変えて仕切り直した一夏たちは、何故かは知らねど座長各に昇格してしまっているハイドに一々ツッコミ入れるの面倒になってきたから一旦無視して話を進めさせ、それぞれに考え出した解決策を提案していこうという運びとなっていた。
所謂、ブレインストーミングによる無礼講で、円卓の会議である。
そして円卓の騎士たちはアーサー王に仕える騎士たちの集団なので、座る机が円形ってだけで序列はあるし座長は常に国王様である。当たり前~。
「では、私から先に述べさせてもらおう。私の考えた解決策は三つだ。まず一つ目。
『これから一緒に父親を殴りに行こうかヤーヤーヤー・ヘルコマンダール作戦(IS使ってバージョン)』だ。
デュノア君の専用機ラファール・リヴァイブがあれば、デュノア社の本社ごとき父親もろとも、あっという間に叩き潰してみせようぞ!!」
「いや、ダメだろ!? いきなりダメだろ! 犯罪じゃん!?」
一夏、いきなりツッコミ入れて全力否定。ブレインストーミングだからって、否定しちゃいけない提案と、否定していい提案があることは普通の会議と変わりありません。
さすがに初っぱなから親殺しを提案してくるヤツの意見を、無礼講だからって許してたら過激派の集会になってしまいかねん。
「む? それがどうかしたのかね? どのみちデュノア君は牢屋に入る覚悟を決めているように見えたのだが・・・違ったかね?」
「う゛! そ、それは・・・・・・」
「親も会社もどうなってもよいと言うのであれば、いっそ今までの全てを返して思い知らせてから罰を受けるというのも一案だと思うのだがな。思い残すことのないように、と」
「う、うぐぐぅ・・・・・・」
特に悪気もなく、罪悪感や敵意もないままデュノアパパへの復讐計画を社長令嬢に推奨してくるシュトロハイド。
それに対して歯切れ悪く、反応も鈍くならざるを得ないシャルルちゃん。彼女としては恨み骨髄な相手であり、どうなってもいいと思っている父親だし、自分の未来も捨てる覚悟をした後だけど、さすがに『じゃあ殺してスッキリしてから死のう☆』を躊躇うことなく実行できるほど割り切れているわけではなかったりもする。
人としてどうかとも思うしね?
・・・とは言え、父殺し子殺しも一応は人類の伝統ではあったりするのも確かではある。
権力者や金持ちの相続争いばかりがクローズアップされる昨今であるが、別に金や地位のない庶民が家族を利己的な理由で殺せないという道理もあるまい。
余談だが、『ジャックと豆の木』の原本において、ジャックが手に入れた豆は、妹を売り払った代金の金貨五枚で購入したと記されていたという。
ところ変われば品変わり、時代と国が変われば倫理と道徳も変わる。人の歴史とはかくも難しい。
「まぁ、最初の案はあくまで牢屋行きENDが確定しそうになった寸前においてのみ選択すべき、究極のリセットボタンとして用意しただけのものだからな。押さずに済むならそれが一番良かろう。それゆえ、次に提案する作戦からが本命である」
再び仕切り直して、ハイドも一夏もシャルルも気持ちを切り替えて会議に臨み直す。・・・内二人の参加者が先ほどよりも表情に真面目さを欠いてしまっているのは当人の責任ではないので見過ごすように。
「では二つ目の案。『自分の安全を買うため父親と会社と専用機を売り払う作戦』である!
所謂、司法取引というヤツであるな! 今の流行である!! 王は流行に敏感でなくはならないものだからな!!
親でも国でも会社であろうと、売れるものは全て売りたまえ! ただし! できるだけ高い金額で!! それこそ商業国家の生きる道!!」
「だからダメだっつってんだろ!? どうしてお前の提案は過激なのばっかなんだ!? もっと穏便に! 平和的な方法で! できる限り人が傷つかずに済むように考えろよ少しぐらいはさぁ!!」
再び全力否定の織斑一夏。・・・ただし今度のはちょっとだけシャルルの心が動いたっぽく見えたけど、踏みとどまって戻ってきたようである。やっぱり、いい子ですね。
一夏の価値観から見れば、それは相手がやったことと全く同じことを自分もしてしまうだけであり、自分が否定している相手と同類になってしまうことを意味している。絶対に選びたくない選択肢だったし、友人に選んで欲しくもない選択肢でもあった。
第一そんなことを許すヤツは男ではない。信じた仲間は裏切らず、どんなに嫌なヤツでも親は親で、売り払って身の安全を買おうとまでは思わない。それが織斑一夏という現代武士の生き様である。
・・・ちなみにだが、戦国武士の場合『主替え』はけっこう頻繁に行われており、別に卑怯なことでも恥知らずな行為でもなんでもない、裏切られたくない主が裏切られないよう努力すればよいだけの話でしかなく、一度仕えた主を裏切らないのが武士道とされるのは武士が支配者階級として平和を守り国を統治する戦争反対派に格上げされた江戸時代に作られた伝統である。
ところ変わらずとも時代が変われば品変わり、正しさの基準も変化する。やはり人類史は難しい。
「ふ~む・・・これもダメか。では最後の提案である。『法の網をかいくぐり、制度の矛盾を利用して非合法行為を合法化してしまおう作戦』」
「・・・なんで一番平和的な提案が一番最後で、しかもスッゲェ嫌な作戦名つけられるんだよ・・・。・・・それでいて言ってること自体は間違ってないから微妙に怒りづらいし・・・」
ハイドからの最後の提案『妥協案』に対して、一夏はうめくように反応を返すが反対というわけではないらしく、ネーミングだけが気にくわなかっただけらしい。
まぁ人それぞれ好みはあるし、自分と違うものが好きだからといって否定すべき理由はどこにもないのでハイドは気にせず、代わりとして手番を次の人へと回すのみ。
「――だが、しかし! この方法は私には荷が重い! 重すぎるのだ! 馬鹿だからな!!
それ故ここは、この中だと一番ふさわしい適任者の織斑君に一任したい! 後は任せたぞ織斑君! 私は先に休憩に行く! はい、タッチ」
「俺かよ!? このタイミングで話題の振り方で俺なのかよ!? スッゲェ嫌な振られかたしたうえに、俺がこれで答えちゃったら俺がルール無視して合法化しまくるプロみたいに見えちまうじゃねぇか!?」
一夏、最悪のタイミングで最悪のバトン回しをされてしまったせいで大いに焦りまくるの図。
挙げ句の果てに、思いついていた解決策アイデアが“まさにソレ”だったせいで、余計に印象が悪くなりそうで怖すぎる。
なので焦り、何かしら場つなぎのため話題を提供してお茶を濁さざるを得なくなってしまっていく。
「大体なんで俺なんだよ!? 俺別にルール違反とか普段してないだろ!?
俺はこれでも千冬姉の生活を収入源から手助けするため、学校法人の関連企業目指してたんだから学校の決まり事を破るなんてそんな事は! ・・・そんな事は・・・。そんな事・・・・・・は・・・・・・」
理不尽な言いがかりをつけてくるクラスメイトで友人の間違った認識をあらためさせるため、大声で叫びながら自分の主張を正当性を記憶の内から呼び覚まそうとし記録をあさり。
そして思い出されるIS学園での日常。日常、日常・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
やがて黙り込んで沈黙し、シャルル以上に「ズーン・・・」と落ち込んでしまう織斑一夏、壮絶なる自爆の図。日本の若者が今も昔も自爆に美学を見いだしたがるのも日本の伝統芸能。
「うむ! なにやら沈思黙考して無我の境地へとたどり着き、真理の扉という名の答えを見つけ出せたようだな織斑君! では、君の意見をどうぞ!!」
「鬼かお前は!? それか悪魔か!?」
一夏、あまりにも容赦なく悪意もない、善意だけで満ち満ちた主観の権化シュトロハイドの空気読めなさ過ぎな推薦に涙目で絶叫しながら大抗議。
ちなみにこの時の一夏は、本人のあずかり知らぬところでニアピンの答えにたどり着いていたりする。
ハイドは地獄の征服王であり統一王であり支配者でもあった少女。もしくは未だに現役支配者の地位が残っている少女である。
地獄の全てが彼女の支配していた王国なので、地獄に住む者たちは鬼だろうと悪魔だろうとケルベロスだろうと関係なく、すべてはハイドの臣下であり守り慈しむべき民たちである。兵として率いて他国へ攻め込むための兵士たちである。
なのでハイドは『鬼』ではないが、『鬼たちの王』であり。
『悪魔』ではなくとも、『悪魔の軍勢を率いて戦う支配者』ではある。
・・・要するに、もっと性質の悪い存在ってだけではあったが、その事実を知らなくて済んだ分だけ一夏にとってはまだマシだったかもしれない。結果はあんまし変わんなかったかもしれんけれども。
「あー、もう! わかったよ! 言うよ、言いますよ! 特記事項だ! IS学園校則第二十一!
『本校における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする』――つまり、これを使えば少なくとも三年間シャルルの身柄は大丈夫ってことだろ?」
一夏が、シャルルから実家の事情を聞かれた瞬間、ふと暗記していたテキストの文章が気持ち悪いくらいスラスラと冷えた頭に思い出してきて、これは使えると思ったのだった。
それはシャルルも目を丸くして驚きを示すほど、見事なマイナールールによる法の抜け穴を発見した瞬間の出来事。
「一夏・・・良く覚えられてたね。特記事項って五十五個もあるに」
「・・・勤勉なんだよ、俺h―――」
「見えたぞ! 私にも答えが見えた!!」
「なんだいきなり今度は一体!?」
ようやく笑ってくれた、同性として付き合ってきて実は美少女だったクラスメイトの屈託のない笑い顔にドキリとさせられ、思わず照れ隠しで素っ気ない返事をしてしまった直後の言い終わる寸前に、またしても横から空気読めないクラスメイトの合法ロリ少女が大声出してきて邪魔されてしまい、大声でツッコミ返すパターンを繰り返してしまう一夏。
しかし、通じない。ハイドは感慨深げに拳を握って空を見上げ(屋内だから天井しか見えないけれども)涙をこらえながら感動を露わにし、一夏の素晴らしすぎるアイデアを絶賛してくる。
「・・・素晴らしい・・・素晴らしいぞ織斑君・・・見事なアイデアであり意外すぎる盲点の発見ぶりである・・・。
単なるその場の即興思いつきで、ルール違反を合法化して処罰されない方法を見つけ出す君の頭脳は、まさにルールを破るためにあると言っても過言ではあるまい・・・ッ。
見事! まっこと美事成り織斑一夏君! 君こそまさにルール破りの英雄!
ルール・ブレイクの王者ドラゴンに勝るとも劣らぬルール・ブレイカー織斑一夏とは君のことである!!」
「喧嘩売ってる? いい加減、喧嘩売ってるんだったら本気で買うぞこの野ろ――」
「あれほどの詭弁を友の口から聞かされて、大人しく聞くだけにとどまることなど出来ようか!? 否! 断じて否だ! そのように非人道的な行いをする者に織斑一夏の友人を名乗る資格はない!
そして私もまた閃いたのだ! ルール・ブレイクを正当化するための手段を! その正当化方法を!!」
――聞いちゃいねぇ・・・。だけど、何時ものことなのでどうでもいいっちゃどうでもいい。それもまた、何時ものことである。
今はとりあえずシャルルを救う方が大事なので、話だけでも聞いてやるとしよう。馬鹿とハサミは使いようと言うし、大馬鹿でも何かしらの使い道ぐらいはあるかもしれないし。
少なくとも、馬鹿の考え出したアイデア自体に罪はない。そう思って一夏は問う。ハイドの考え出したシャルルを救うための方法とやらを。
「で? どうするんだ? なにをどうやればシャルルを守ってやることが出来るんだ?」
「うむ・・・・・・」
大きくうなずいて、ハイドは説明を開始する。
そして、それは確かに大きな謀。シャルルを救うため、守るために世界を騙す壮大な嘘。
一人の少女を救うために、少女と少年は世界を相手に二人だけの戦いを仕掛けるための、壮絶なる命がけのトリック。
――其れ即ち。
「今度行われると耳にした学年別トーナメントとやらで、私が先にラウラ君と戦って圧勝し、然る後にデュノア君と戦って完膚なきまでにボロ負けする。
さすればラウラ君を倒した私に勝利したデュノア君はラウラ君よりも強いということになり、自分より強い相手の機体が自分の専用機よりも技術力が低くて性能が低かったはずなどというデマを流されたラウラ君はデュノア君をフォローせざるをえなくなるはずである!
そうしてラウラ君は我々と共に共犯者という名の仲間となり、やがて絆が芽生え、友情が育まれていく・・・・・・まさに学園青春者の超王道ウソを正当化する作業ストーリー!!
名付けて! 『友を助けるための優しいウソは八百長ではなく人助けである作戦』!!
誰の心も痛まずに友を救える、いい作戦である!! これぞまさに人助けという名の大いなる虚偽!! 信じたい真実は、いつも一人に一つずつ!!!!」
「台無しだよ!? 色々と全部が台無しだよ!?
あと、お前は本気でお子様名探偵に土下座してこい!!」
・・・・・・この後、怒鳴りはしたけど他に妙案は思いつかなかった一夏は結局ハイドの策に乗っかりましたとさ。
現実の『非合法行為を正当化イベント』の終わりは、いつも虚しい。
つづく