『IS原作の妄想作品集』   作:ひきがやもとまち

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ハイドIS最新話。ノリと勢いだけで書いたためにメチャクチャな話になりましたが、気持ち良かったので今回はこれで良しとしておこうと思います。
元々そういう作品でもあることでしたしねぇ…。


『我が征くはIS学園成り!』第15章

 シュトロハイドからの意味不明で時代錯誤な挑発セリフから始まったIS学園学年別タッグトーナメントの第一試合は、プロではなく学生同士の試合に過ぎない代物でありながら、『ある意味ではIS史に一石を投じた注目すべき戦いだった』と後世のIS歴史家たちから高く評価される戦いである。

 ――もっとも、『“ある意味では”という枕詞が取られる日は永遠に来ない戦いだとも思うけど』と注釈がつくのが未来世界では常識となる戦いでもあったのだけれども。

 

 

 取りあえず・・・・・・それは置いておくとして!!

 未来じゃなくて現代のIS学園において現在進行形ではじまっていた学年別タッグトーナメントの試合内容は、開戦早々ハイドからのバーニアを全開させたフルバーニアな全力突撃から開始されていた。

 

 

「でぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッい!!!!」

「ふんッ! 開幕直後の先制攻撃とは、わかりやすいな!」

「でりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!」

「しかもイグニッション・ブーストも使わず、ただ全速力でまっすぐ突っ込んでくるだけでは、新兵のダンスにも劣るというもの! 少しぐらいは戦術というものを学ぶべきだろ――」

「ずえりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!!!!」

「人の話聞く気ないのかお前は!? マイペースすぎるのにも程があるだろうが!!」

 

 ハイドによる、どっかの国の亡霊みたいに人の話を聞かない聞く気がない悪夢のような突貫ぶりに、さしもの冷血非常と名高い『ドイツの氷水』も大声出してツッコまざるを得なくされて(それぐらいの声量出さなきゃ聞こえないほど相手がウルセー)

 それでもISは高速機動が基本のSFロボットであり、イグニッション・ブースト使ってない普通の全速突撃だからといって何もせずに喋りながら待ってるだけだと流石に斬られてダメージ受けさせられてしまうため、仕方なしにラウラはハイドの動きを止めるために右手を相手の機体が近づいてきている方に向けさせる。

 

「でぇぇぇぇぇぇぇッい!!! むむっ!? 機体の動きが鈍くなっただと!?」

「フッ! やはり第二世代のアンティークなど、私の敵ではないな! このシュヴァルツェア・レーゲンが持つ停止結界の前では、接近戦用武装しか持たぬ貴様の機体など時代遅れでしかないのだ!」

「動きを止めたか・・・なるほど! 《爆導索》という奴であるな! さすがはボーデヴィッヒ君!

 シュヴァルツというドイツ人名を持つ機体に乗りながら、連邦の機体が持つ武装さえ勝つために取り入れているとは・・・見事! 全くもって美事なりラウラ・ボーデヴィッヒ君ぅぅぅぅッッ!!!!」

「お前はさっきから一体、何を言っているのだ!?」

 

 今度はどっかの国の蜻蛉みたいなこと言い出したクラスメイトでルームメイトでもある女の子の言葉に、まったくワケガワカラナイと混乱しながら叫ぶしかなくなっちゃってるラウラちゃん。

 この世界に、連邦軍の白い悪魔伝説があるのかどうかは知らないけれど(ハイドは全話見てるので転生後はまだ見ていない)少なくともドイツ人でドイツ軍人のラウラちゃんには全くもって聞いた覚えのない意味不明な用語の連発に開幕直後から混乱させられっぱなし。

 

「だがしかし! 私の真に戦いを求める心は誰にも止められぬ・・・・・・止められぬのであぁぁぁぁぁぁぁッッる!!!!」

「なにッ!? ヤツの圧力が増大していくだと!? 一体なぜ――うぐおわぁッ!!?」

 

 ハイドの動きをAICで止めるため、前方に突き出していた右手に突然、猛烈な圧力がかけられて押し返されそうになったラウラは、慌てて左手を前に出し、右手を支える添え木代わりに使って圧力への抵抗になんとか成功することができた。

 

 だが押し返されこそしなかったとはいえ、動けなくした敵を左手で攻撃するシュヴァルツェア・レーゲンの必勝パターンが破られたことに変わりはない。どうするべきだろうか?

 理屈は分からないながらも、相手がAICを破りかけた事実は変えようがない以上、ラウラにとっては思案の為所だった。

 

「ウォォォォォ!!! 気合い気合い気合い!!! 根性ぉぉぉぉぉぉぉッッ!!!!」

「って、お前ただの根性論でAICを破ってたのか!? なんの理屈も理論もなく根性論だけで!?」

「私は今! モーレツに爆熱激熱瞬殺抹殺熱血しているぅぅぅぅぅぅぅッッ!!!!!」

「アホだぁぁぁぁッ!! ただのアホだ! やっぱアホだ! お前はただのアホでいいんだぁぁぁぁぁッ!!!!」

 

 ノリに乗っている今のハイドに理屈が通じない事実へと、遅まきながらに気づいたラウラだったけど、だからといって彼女が有利になるわけでも相手が弱くなってくれるわけでもない。

 ただ『何考えてんのか分からん敵』が『何も考えてなかったから何考えてんのか分からないのは当然の敵だった』と判っただけの変化である。

 ・・・本気で何の意味もない答えに気づいただけだった!!

 

「ローゼンバッハ! 私を忘れてもらっては困るな!!」

「シノノノ!?」

 

 突如として横から割り込んできた、名目上ではパートナーということで大会には登録してやっていた日本人女による突撃に気づいて、正直ラウラは内心で激しく葛藤させられる。

 

 本音を言えば、自分一人だけで戦って、独力で勝ちたい。味方など邪魔なだけだと、ワイヤーブレードで掴んでアリーナ脇まで遠心力で投げ飛ばしてやりたい。

 だが、ハイドは予想以上に強敵だった。というよりかは真性のバケモノだった。人じゃない。

 今までも散々に、模擬戦や訓練で人外ぶりを見せつけられてきたラウラであったが、実際に戦場と訓練用のアリーナは別だと高をくくって敵を過小評価していた事実を今となっては認めざるを得ない状況にまで追い詰められていた。

 

 ここは恥を忍んでシノノノホウキとの共同戦線を張るべきだろうか?

 それとも独力による勝利に固執し、本命である怨敵・織斑教官の愚弟を完膚なきまでにブチのめして教官をドイツに連れて帰るという本来の主目的を放棄する道を選ぶべきなのだろうか?

 

「・・・行け! シノノノ! 敵の動きはを封じる役目は私が担ってやる! 奴を倒すのだ!!」

「ボーデヴィッヒ・・・ッ!!」

 

 短いが深刻な葛藤の末、ラウラは目的達成のため我を張るのを諦めて、大事の前の小事を受け入れる度量を手にし、今まで相手にもしてもらえたことすらなかった箒は、成長した彼女の言葉と度量の拡大に深く感銘を受ける。

 

「――心得た! 奴への止めは私に任せるがいい! はぁぁぁッ!! チェストォォォッ!!」

「むぅぅぅっ!!!」

 

 その心意気に打たれるままにハイドに向かって突撃して、必勝の信念と共に振りかぶった刀を未だ自由を回復できないでいる敵機に向かって全力で振り下ろす!

 

 ドガバキボガゴキバキンバキン!!!!

 

 ・・・そして、滅多打ちである。動けない相手に侍が一方的に乱打していいのかなんて理屈は、惚れた男が素手であっても真剣でブッ刺して貫き殺そうとしまくった殺人未遂常習犯の箒には一切存在していない。

 勝ったらもらえるご褒美が一夏の勝負に限り、彼女が信じ貫く武士道は、高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対処して適用範囲を変えていく行き当たりばったりな信念に変わることができる、自由度の高い代物だったため今だけは問題なく乱打できたからである。

 

(大事の前の小事! 大事を生まんとする者が小事にこだわることこそ武士として恥ずべき心の弱さ! 屈辱を乗り越えてこそ得ることのできる栄光をこの手に掴むまで私は負けるわけにはいかないのだから! 人徳の人である西郷隆盛も【勝てば官軍】という言葉を残しているではないか!!)

 

 なんかひどい考え方をしているが、実際問題ブシドーとはそんなもんである。

 役人相手に鉄砲で脅して逃げ出すのが坂本龍馬の戦い方であり、騙し討ちと奇襲とルール無視で一方的に敵を殺すのが源義経の勝ち方であり、待ち合わせ時間に遅れまくって相手を焦らせ「お前は既に敗れている!」と揺さぶりかけてから脳天たたき割るのが宮本武蔵の殺し方である。

 正々堂々と戦って苦戦しまくってから勝った侍が、英雄として人気がある話はあんまし聞かないので、人々が愛する武士道とは大体そんなもんなんだろうと勝手に想像してみたりする。

 

 ちなみにだが、この時ラウラちゃんが抱いていた胸の内の心境変化の度合いはと言うと。

 

(所詮ハイドは本命のまえのオードブルに過ぎん前座なのだ! 前座の相手は前座に任せて、主役は出番が来るまで舞台の袖で待機していればいい者なのだ! 主役は常に最後に出番が回ってくる者と決まっているのだからな・・・・・・。

 この戦いに勝利した後に訪れる真なる戦いのためにも、今は屈辱に耐えしのぐ時! 私の真の目的が達成されるその戦いまでは、貴様に戦いを預けてやる! ありがたく思うがいい! ザコIS操縦者ホウキ・シノノノ!!)

 

 とまぁ、この程度の微細な変化でしかなったことを当の本人自身と箒は知らないし気づいてもいない。

 車も人も、急に方向転換しようとしたところで余りカーブできないし、出来たときには逆走しちゃって来た道を戻ってるだけの人たちが多いのがフィクション展開であり現実の定番でもありまッす。

 

「うぉぉぉぉぉ!! 覚悟するがいいハイド―――ッ!!!!」

「むぅぅぅ・・・・・・ッ!! この私をここまで追い詰めるとは! 流石は篠ノ之君! 私に相応しいターゲットである!!」

 

 動きをラウラに封じられたまま、防御力高いけど攻撃力は大したことない打鉄の刀でボコボコ殴られまくってISエネルギーを大幅に削り取られながらハイドが呻き声を上げている。

 無論ハイドは、拳で山を砕いて地を裂いて、足で蹴ったソニックブームで海を割れる人間超え過ぎちゃってる人間なので打鉄のポン刀で殴られたくらいじゃ掠り傷一つ負わないしダメージも0なのだけど、ISバトルは人間同士が生身と生身でぶつかり合って倒れた方が負けとするガチンコ勝負なんかじゃない。先にISエネルギーが0になった方が負けとなる正々堂々とした点数形式のスポーツバトルである。

 したがって、ISを纏っている生身の肉体が無傷のままであろうとも、肉体の外側をよろっている側の部分のIS装甲が維持できなくなるまでダメージ与えて粒子化させたら勝ちになる勝負なのだ。

 

 本人の肉体が持つ桁外れなスペックや強さなど関係ない。本人の肉体が纏っているISの強さとスペックとエネルギー残量だけが勝敗を分ける戦いなのである。

 そのような戦いとあっては、如何な超人間ハイドとて数値通りの圧勝するというわけにはいかなかったのだ!

 

 ・・・・・・なんか色々とおかしい気もするけれど、システム的には一応そうなっている。ヒトの形をしたバケモノがISまとって戦った場合には多分そうなる。・・・と思う。多分だけれども。嘘はついてないぞ嘘は。インディアンと日本人嘘つかない(それが嘘だろうが!とノリツッコミ)

 

 

 ――如何に本人がバケモノスペックを誇ろうと、第二世代の機体をまとって、動きを止められたままではどうしようもない。

 ハイドでさえ、機体の性能を生かせないままでは敗れるしかないのが、荒野のように過酷な数字のリアリズムが支配する戦場。それがISバトルである以上は是非もなし・・・・・・!!!

 

 

 

 ・・・・・・・・・だが。

 

 

 

「だが! しかぁぁぁぁぁぁぁッッし!!!!!」

「なにッ!? う、うわぁぁぁぁぁッ!?」

「シノノノ!? ――って、ぐはッ!?」

 

 気合い一閃! ハイドの中でナニカが目覚めて覚醒して、彼女の中で眠っていた真のナニカの力で波動が周囲に扇状へ放射され、近くに立ってボコり続けていた箒が吹っ飛ばされてラウラに当たって二人まとめて転倒する!

 

 土壇場で目覚めたナニカの力でパワーアップしたらしいナニカによって成し得た結果っぽいけども、そのナニカってのが何なのかはよく分からない!

 たぶん、怒りの感情がどーのこーのとか、オーラの力でどーのこーのとか、体内で眠り続けていた先祖の血がどーのこーのとか、なんかそういう本人の努力とか積み重ねとか物理現象とかとは完全無欠に無関係な生まれついて持ってた何かの力が原因で起きてるものなんだろうきっと。

 どのみち原因なんか気にしたところで、あんまし意味はないので深く考えることなく適当に好みだった理由付けで納得しておけばよい問題である。

 原因がどれだろうとも、事実としてパワーアップしたという結果は変わらないのだから、同じなのだから。

 戦いの場において結果だけが重要である。原因究明は戦いが終わった後にしましょう。

 

 

「我は退かぬ・・・、我は落ちぬ・・・、ハイド帝国安全保障局の初代局長として、世界人民の安心と安全と平和を守ることは私の義務なのだぁぁぁぁぁぁッ!!!! この様なところで負けてなどいられるものかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「だからお前はさっきから何の話をしているのだと聞いている!? まったく訳が分からんぞさっきからず―――っと、一言たりとも何一つとして全く全然これっぽっちも!!」

「君も戦士であろうが!? 戦士ならば細かい理屈など気にすることなく、己の剣と力のみを信じて我を通し抜いてみせるがいいィィィィィッ!!!!」

「ぐぅ・・・ッ!? 意味不明だが有無を言わせぬ説得力があるような気にさせられそうになってきている、だとー!?」

 

 ついにラウラまでハイドの雰囲気に飲まれはじめて、戦場が混沌としていく中。

 篠ノ之箒は驚くべき事実に気づいて驚愕の悲鳴を上げ、相方のパートナーに驚き慌てながらも事実を報告する。

 

「ぼ、ボーデヴィッヒ! 奴のエネルギー残量を見てみれ!」

「なに・・・? 今更そんなもの見て何にな―――なんだとォォォォッ!?」

 

 箒に促され、ラウラも目にしたモニターの数字に驚愕の悲鳴を上げさせられる。

 観客にも見える用にと、モニターに表示されている互いのISのエネルギー残量が、自分たちは元のまんま、相手の方だけ全回復してしまっている。むしろ前より上がっているようにまで見える。

 フォームシフトした訳でもないのに、一体全体何が起きたのか? 彼女たちには全く分からない。

 ・・・・・・だが、しかし!!

 

「フハハハハッ!!! その程度の機体では、私のゴールデンバウムと勝負にすらならん!! 鎧袖一触とはまさにこの事! 機体の性能を生かせぬまま、怯え竦めながら負けていくがいい! うつけ者どもよ!!」

「くっ・・・! ISエネルギー測定機械が故障しただけで調子に乗るな! もう一度動きを止めてしまえば結果は同じになる! 食らうがいい!《AIC》!!」

 

 再び右手を前にかざして、ハイドの動きを今一度拘束してやろうとしたラウラであったが、同じてを二度も食らう地獄の征服王ハイドではない。

 

「笑止ぃぃぃぃぃッ!!!」

 

 バサァァッ!と、別に何の意味もない無駄に大きすぎるモーションをつけてラウラと同じく右手を掲げ、マントを翻す時みたいな仕草をしてみせただけでシュヴァルチェア・レーゲンのコンピューターは、

 

『報告イタシマス。AICガ無効化サレマシタ。一切ノ効果ガ感知デキマセン』

「な、なにぃぃぃぃぃッ!?」

 

 ラウラ、今度こそ本気の本気で驚愕。

 一体どういう理屈によってか、あの意味がないとしか思えない仕草によって、ホントーにAICが無効化されてしまったのだ!

 一体これはどういうことなのか・・・? ラウラは訳の分からない事態を前にして説明を求め、目の前でこの現象のすべてを起こしている元凶に向かって問い詰めざるを得ない!

 

「き、貴様・・・一体何をした!? なぜAICは無効化されたのだ!! 答えろ! ハイドぉぉぉぉッ!!!」

「君などに話す舌は持たぬ! 戦う意味すら解せぬ子供に、戦いの真実を語ったところで無意味というもの!」

 

 断言してハイドは、「そしてぇぇぇぇッ!!!」と続け。

 

「なにより私自身が知らんのでなんも答えられん! ISとは全くもって摩訶不思議、奇想天外おもしろビックリからくり人形であることよな! ふはははははは~ッ♪♪♪」

「笑い話で済ますところかその話は!? お前それ私に語る舌を持っていないのではなく、お前自身が語るべき答えを持ってないだけではないか!

 てゆーかお前、もしかしなくても戦う意味どころか、特に何も考えずにノリと勢いで戦っているだけだろう!? どう見てどう考えても確実に!?」

「無論!! 当たり前であろうがぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」

 

 断言されてしまった。しかも否定じゃなく、肯定で。

 間違いや矛盾を糾弾したつもりが全肯定した断言で返されちゃうと、その後になんて言っていいのか本気でわからなくなるよね。こーいう時ってさ。

 

「だが、それが何だというのかね!? ここは戦場で、今は戦闘中なのだぞ!! 戦いの場においては強い者が正しい、それだけでよかろう!!」

「ぐぅ・・・ッ!? ま、またしても理屈無用な説得力によるプレッシャーが・・・・・・ッ」

 

 徐々に徐々に追い詰められてきちゃったラウラちゃん。

 今まで理屈で生きてきて、織斑教官という絶対の神こそ最強だと信じて、彼女から教わった答えこそが世界の真理であると確信しながら生きてきたのに・・・ッ。

 

(わ、私は・・・こんなところで負けてしまうのか・・・? 織斑教官を愚弟から取り戻すための戦いの場にさえ赴けないまま、こんな訳の分からない奴に敗れて負けてしまうしかないのか・・・? この、私が・・・?}

 

 それら全てを、『なんとなくのノリと勢いだけ』で全てを蹂躙し尽くして完全否定し、あろうことか本人にその意思もなければ自覚もなく悪意すらもない、究極のKYを前にしてラウラのアイデンティティーは崩壊寸前のところにまで追い詰められつつあった。

 

(い、イヤだ! 負けられない・・・こんなところで負ける訳にはいかない! 私はまだ負ける訳にはいかないのだから・・・!!)

 

 ・・・・・・もはや彼女に残されている、信じて縋るべき一本の藁は、信じてついて行くと決めた人の教えのみ。その人に与えてもらった強さのみ。

 

(だって私は敗北させると決めたのだ、あれを! あの男を! 私の力で完膚なきまでに叩き伏せると! それなのに、それなのに! こんなところで負けるなどと言うことは許されない!)

 

 心の底から負けたくない! 勝ちたい!という思いを沸いてこさせて、敵に向かって挑みかかろうとするラウラであったが、現実の戦いは過酷だ。

 相手より力で劣るラウラに、AICを無効化された今となってはハイドに立ち向かう術など残されていようはずがない。

 相手に突っ込んでいって手玉にとられ、箒も倒されアリーナの障壁まで吹っ飛ばされた後、ヨロヨロと立ち上がろうとしていたラウラの目前で、巨大な大剣を振り上げて止めを刺そうとしてきている憎むべき恐ろしい敵の姿が目に映る。

 

「とどめ!!!」

 

 ・・・・・・しかも、わざわざ口に出して宣言されてから止め差しに来るし。

 コイツ本気で殺したい。コイツ殺せるんだったら命すらあげてもいいってぐらいに憎たらしい。憎たらしすぎる。

 

 そんな時だ。

 ドクン・・・・・・と、ラウラの胸の奥底でナニカが蠢く音がした。

 

『―――願うか・・・? 汝、自らの変革を望むか・・・? より強い力を欲するか・・・・・・?

 望むなら、比類なき最強を、唯一無二の絶対を汝に貸し与えてやろ―――』

 

 ポチッと。

 ラウラはそいつの声の中から『最強』という言葉が出た瞬間に、頭の中で「Yesボタン」を指でクリックする自分の姿をイメージして契約書に迷うことなくサインした。

 なんか最後にそいつの声で、『―――最後まで言わせてほしかった・・・』とかなんとか言ってたような気もするけど、力さえもらえりゃソイツに用はなく、価値もないので無視してよろしい。

 

 欲しいのは、ただ力だけ!! 比類なき絶対最強の唯一無二を、この私に!!!

 

 

 

 

「う、あ、あ・・・・・・ああああああああっ!!!!!!!」

『ラウラ!?』

 

 俺とシャルルは、モニター内で展開されてた、いつも通りっちゃいつも通りなハイドの滅茶くちゃっぷりに頭痛を覚えながら、シャルルに至っては「僕はこれから、あれに勝ったことにされちゃうんだよね・・・」と別の意味で頭を抱え込まざるを得なくなりながら、割とのほほんとした気持ちでノンビリ観戦してたんだけど、どうやらそういう訳にもいかなくなったみたいだ!

 

「行くぜ! シャルル!!」

「うん! わかってるよ一夏!!」

 

 打てば響く反応の良さで、走り出す俺の後ろからシャルルが付いてきてくれる!

 こんな光景を見せられて、黙って見ていられる俺じゃあない! 俺たちじゃないんだよ! 舐めるんじゃねぇ!

 

「ハイド!!」

 

 緊急事態でシャッターが閉じる寸前に、フィールド内へと飛び出すことに成功した俺とシャルルは、ハイドと、黒い泥みたいなのにに染まって先ほどまでとは似ても似つかない姿に変貌してしまっているラウラとの間の空間に降り立つと、背後に回ってもらったハイドを振り返りながら譲れない俺の思いについて、出番と戦いを奪っちまった友人に対する謝罪を込めながら俺は語る。

 

「悪いがハイド、選手交代だ。コイツの相手は俺がやらせてもらう。

 ・・・コイツは俺にとって許せない物を持っていやがるから・・・っ。あれは千冬姉だけのものなのに、それをあいつは・・・クソォッ!!」

 

 普段から口が上手い方って訳じゃない俺には、自分の気持ちをハッキリと具体的には表現できる言い方が見つからないし、わからない。でもこれだけは断言できる。

 

「それになにより、あんなわけわかんねえ力に振り回されてるラウラも気に入らねぇ。ISとラウラ、どっちも一発ぶっ叩いてやらねぇと気がすまねぇんだよ。

 とにかく俺はあいつをぶん殴る。そのためにはまず正気に戻させてからだ。その後にお前がラウラと決着をつけるって言うなら、俺はそれを止める気は少しもな――」

「逢いわかった。了解したぞ織斑君。君の思い、たしかにこのシュトロハイド・ローゼンバッハの胸には言葉とともに届いていたのだよ・・・・・・ッ!!!」

 

 感極まったような声が背後から聞こえてきて、俺はチラリと後ろを見ると、涙を浮かべて感動し、共感の眼で俺を見ているハイドの瞳と目線が重なり合うと、俺は一つ頷いてから前を向いて刀を構え直した。

 

 思いは伝わった。共感も得た。ならば後は征くのみ。倒すのみ。

 ラウラを助け出して、一発ぶん殴ってから、あらためて正しく千冬姉に教えてもらったコイツとならいい勝負ができるような気がしながら――――参る!!

 

「行くぞ!! てぇぇぇぇぇやぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」

 

 

 

「つまり、一番おいしいところを横から割って入って掠め取っていき、最後のシーンで皆から感謝感激雨あられの集中声援を送られまくることこそ、主人公らしい生き様だと君は確信しているということであるな織斑君!

 そう! それはさながら金パッつぁん先生のごとく! ラストシーンでは『ハイル金!』『ハイル金!』と、自分を神のごとく慕い絶対の忠誠を誓ったクラス内の自分以外全員から親衛隊として志願され、やがては彼らを先兵として自らの思想を広め、この国を征服してみせるのだという心意気! ・・・・・・見事! 全くもって美事なり織斑君!

 君こそまさに現代によみがえったハイルヒトラーにしてアドルフ金パっつぁん先生! 私は君の思いに深く感動し、共感して場を譲るものである!! 頑張ってくれたまえ我が同胞! 征服者の朋友よ! ハイル・オリムラー!!である!!!」

 

 

「違うよ!? 全然違うよ! 全く違っているからな!? いつもいつもトンデモナイ方向に俺を勘違いさせて巻き込もうとしてくるんじゃねぇぇぇぇぇ!!

 あとお前は、3年B組の先生と生徒たち全員にたいして土下座して謝ってこ――――――ッッい!!!!」

 

 できればラウラとISより先に、この善意での世界征服バンザイ思想持ち女子高生を本気出してぶっ飛ばしてやりたくなってしまった俺は、友人として薄情な男ではないと信じたい。

 

つづく

 

 

オマケ『ハイドが謎のパワーアップをした理由説明』

 今話の中で、ハイドが謎のパワーアップを遂げた理由はナニカではなく存在してたりする。

 

 ISには操縦者の願望を実現する機能が備わっており、その願望は持ち主の実現を願う気持ちの強さに反比例して肥大化していくが、あくまでIS機能のため、ISを纏っている操縦者本人とIS本体の中でしか効果はない仕組みになっている。

 

 そしてハイドの叶えて欲しかった願望とは・・・・・・ガンダムが好きだったのである。大好きだったのでやってみたかったのである。

 だからピンチになったり、追い詰められてから全回復したりと色々とできた。本人自身に自覚はないし、自作自演では面白くないので一生気づくことはない真実だが、実際のところは最初の時点でラウラのAICは普通に無視できたりする。

 

 何故ならば・・・・・・場の空間ごと相手を拘束する系の特殊能力は珍しくもなく、地獄征服戦争では何度も使われてた破ってきた能力だったし、ぶっちゃけ動き止めるだけで攻撃機能がないAICは、空間支配系の能力の中では比較的弱い部類に該当してたりしたからである・・・。

 なんというか、ファンタジーな世界観を経由してやってきているチート転生者って、現地人にとっては面倒くさい存在だった。

 

 

 尚、言うまでもない事ですけど、ハイドが好きなガンダムに登場する勢力は《デラーズ・フリート》です(苦笑)




*今話ラストのハイドにも一応の計算があり、シャルルと一夏でドイツ軍機が起こした問題を解決して救い出せば貸しが出来て、シャルルを救うのに役立つだろうと考えたが故に役を譲ったという側面を持っていました。

元々が地獄に大乱を起こした本人であり、それを収めて統一を果たした善意のマッチポンプ征服王だったため戦いでの貸し借りは道徳にも倫理にも背くものではないと考えています。所詮、一夏達とは価値観が違う女の子主人公でッス。


……書くまでもないかと思って書かなかったのですが、一応の補足として念のために。
(主人公の性格的に誤解されても仕方ないと思いましたのでね…)

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