やはり夜に書くとこうなりやすい最近の私は、朝の間に書いておいた方が良さそうだと改めて痛感させられた次第でありまする。
『トーナメントは事故により中止となりました。ただし、今後の個人データ指標と関係するため、全ての一回戦は行います。場所と日時の変更は各自個人端末で確認の上――』
「ふむ。シャルルの予想通りになったな」
「そうだねぇ。あ、一夏、七味取って」
食堂のテーブルに時間ギリギリで滑り込んで晩飯を食べていた俺とシャルルは、テレビに帯として告知されている学園側の公式発表内容をチラ見しながら、相方の予想したとおりの結果に終わった事にホッと一安心して肩を撫で下ろしながら美味い晩飯に舌鼓を打っていた。あー、食後の茶がうめぇ~。
――あの後、暴走したISによって黒く染まり俺に敗れたラウラが担架で運ばれていき、その直後にハイドがいつも通りに暴走してシャルルに向かって襲いかかってきて返り討ちされる演技を見せてから担架で運ばれていった後。
俺たち二人は教師陣から事件の当事者として事情聴取を受けさせられて、こんな時間まで教室の一室に監禁されて今になってからようやく解放されて晩飯を食べる事ができているという次第。
戦った当事者たちの中で意識ある事になってるのが俺たちしか残ってないから、先生たちが俺とシャルルの口から詳しい事情を聞きたがってた気持ちもわからなくもなかったんだけれども。
・・・何も知らないんだよなぁ、今回の俺たちって・・・。
当事者とはいえ俺は戦って倒しただけで、今回の事件の裏面は何一つ知らないし解らないし、なに聞かれたところで『知らない、解らない』としか答えようがなくて要領を得ずに、こんな時間までズルズルと無駄な話し合いもどきを続ける羽目になっちまった・・・。
シャルルに至っては、家の事情以外だとハイドに絡まれて殴り飛ばして倒した事にされちまったぐらいしか関係してないし、実家の事情はトーナメントの事件と関係あるのかないのかよく解らないし、ハイドに関しては多分ハイド本人さえあんまし解った上で行動してない気がするから聞くだけ無駄な徒労に終わるだけな気さえする・・・・・・。
――疲れた! オマケに虚しい・・・。よく考えてみると、最近の俺ってあんまし寝てない気がするんだよな・・・。
クラスメイトで二十四時間三百六十五日元気ハツラツで活動し続けられそうなクラスメイトが夜中に押しかけてくること多かった上に、叫んでツッコミばっかり入れてたせいで夜にテンション上がってしまって睡眠時間が結果的に不足するようになってた気がする・・・。
今日は久々にハイドが気絶したフリをしたまま帰ってきていないからユックリ出来そうだし、本当のご不幸があったわけでもない今日ぐらいはノンビリ過ごしても罰は当たらないだろう。
そう思い、気が抜けたような気分になってた俺は、さっきまで騒いでいた女子たちが急に大人しくなって帰って行く事にも気にしていられる余裕もなく、食事が終わって疲れた体を引きずるようにして席を立ち。
「・・・ん? どうした箒?」
「ぴくっ」
一人だけ残っていた女子生徒の幼馴染みである篠ノ之箒に声をかけ、茫然自失してたらしい相手にわずかな反応を認めてから、俺はふと先月に箒と交わしてた約束について思い出す。そう言えばなんか言ってたなとか、そんな感じで。
「そう言えば箒。先月の約束だけど、付き合ってもいいぞ」
「――。―――、なに?」
「だから、付き合ってもいいって・・・・・・おわっ、い、一体全体どうしたんだ?」
心身ともに疲れで気の抜けていた俺の胸ぐらを掴みあげて、バネ仕掛けのように動き出した箒が慎重さもお構いなしに締め上げてくる・・・。く、苦しい・・・疲れてる今は、余計に脳の酸素が減るぅぅ・・・っ。
「ほ、ほ、本当、か? 本当に、本当に、本当なのだな!? なぜだ? り、理由を聞こうではないか・・・・・・」
「そりゃ幼なじみの頼みだからな。付き合うぐらいはするさ」
「そ、そうか!」
「買い物ぐらいでいいならな」
「・・・・・・」
ぴきぃっ! と箒の表情がこわばったように感じたが・・・・・・それをどうこう思う余裕が今の俺からは失われつつあったせいか、上手く意識できないままにボンヤリした思考のままで箒との会話を続けさせていってしまったのだった。
「・・・・・・だろうと・・・・・・」
「おおぅ~・・・?」
「そんなことだろうと思ったわ戯け者――って、うおわぁぁぁぁっ!?」
何やら通り過ぎていった背後で、ドンガラガッシャーン!と盛大な音が鳴り響いている気がするけど、なんかあったのかな?
用件を伝えて、先月に言われてた約束にも返事をして、箒の方も俯いて黙りこくったみたいだから話し終わったんだと思って横を通り過ぎていったばかりだったんだけど・・・・・・なんか不味いことしてたのかな? 俺って。
「一夏って時々、わざとやってるんじゃないかって思う時あるけど、こういう方面でも使えちゃう時あったんだねぇ」
「・・・? なんの話だ? それ・・・どういう意味の言葉なんだ?」
「さあね。聞かない方が一夏のためだとだけ教えておいてあげるよ」
少しだけ意地悪そうな笑顔を浮かべてシャルルはクスッと笑ってソッポを向く。
なんなのかよく解らないまま食堂を出て、寮へ向かって寝るために歩いていると、遠くの方から山田先生がコッチに近づいてきてる姿が視界に入ってきてた。
「あ、織斑君にデュノア君。ここにいましたか。さっきはお疲れ様でした」
「山田先生こそ、ずっと手記で疲れなかったですか?」
「いえいえ、私は昔からああいった地味な活動が得意なんです。心配には及びませんよ。なにせ先生ですから」
俺の言葉に、えへんと胸を張る山田先生。ただでさえ大きすぎる膨らみが重たげにゆさっと揺らされる光景を目にすることは、今の俺にとって非常に危険なものだったのかもしれなかったが幸いと言うべきなのか何というか、今回は続く俺の言葉で避けることの出来た危険な未来の可能性だったらしい。
「そうなんですか? だったら良かったです。“知らない”“解らない”ばっかり答えちゃって、同じ単語ばかりを書き残さなくちゃいけない大変な役割をやってもらっちゃったなって、結構気にしてたものですから」
「・・・・・・そうですね・・・・・・。実はそこだけは本音を言うと少しだけちょっと・・・・・・スゴく辛すぎて投げ出したい気持ちになってしまった瞬間が結構ありましたね・・・・・・たしかに・・・」
『・・・・・・・・・・・・本当にすいませんでした』
重苦しい沈黙と共に、一瞬にしてドヨ~ンとした暗いムードと陰の縦線にまとわれたような雰囲気に変貌した山田先生に対して、ごく自然に心からの謝罪と敬服とを抱きながら一礼して頭を下げるしかなくなる俺たち事情聴取の役に立たない当事者二人組。
山田先生は、頭下げてる俺たち生徒には見ることが出来ない頭上の先で涙でも拭き取ったような音と気配を発してから気分を切り替えるように明るい声と表情とを表に現しながら俺にとっては嬉しい情報を教えてくれた。
「そ、それよりも朗報ですよ織斑君! なんとですね! ついについに今日から男子の大浴場使用が解禁です!」
「おお! そうなんですか!? てっきりもう来月からになるものとばかり」
素晴らしい! 正直、トーナメントが始まる前からず~~っとトラブル続きだった疲れを湯船に浸かってしっかり落としてしまって癒やしたいと思っていたところだったのだ!
「ありがとうございます、山田先生!」
感動の余り、寝不足でローテンションだったのが一気に反転して深夜テンションみたいになっちまいながら山田先生の手を握って振り回した後、俺は急に風邪引いたのか「ゴホゴホ」やってるシャルルを引き連れて大浴場へと向かい、風邪も疲れも風呂に浸かれば全部治るとばかりに風呂へと飛び込み、肩まで浸かってゆ~~~~っくり暖まって心身ともに疲れを癒やされる・・・・・・。
「ふうぅぅぅぅぅ・・・・・・・・・あー・・・・・・生き返る~・・・・・・」
る~、る~、と大浴場らしいエコーを響かせながらノンビリと湯に浸かり、いっそこのまま眠ってしまいたい、このさい溺れ死んでもかまわな――いや待て落ち着け俺。流石にそれはダメだ、いくら疲れてるからってそこまで行くと人として終わっちまう。主に人として生きる人生の灯火が。
「ふぁぁぁぁ~~・・・・・・って、あれ? なんか入り口から音がしたような気が・・・・・・」
カラカラカラ、と。シャルルが気を利かせて俺が風呂でゆっくり疲れを癒やせるよう寮の部屋で待っていてくれる道を選んでくれたから誰も入ってくるはずのなくなった更衣室の扉が開かれる幻聴が聞こえた気がして振り返った俺の視線の先に。
ぴたぴたぴた、と。
濡れたタイルの上を綺麗な足が歩く足音まで聞こえてきて――――全裸の金髪青眼美少女がバスタオル一枚だけ当てて、俺のすぐ目の前に姿を現してきたのだった。
「お、お邪魔します・・・・・・」
「・・・っ!? な、なっ、なぁ!?」
「・・・あ、あんまり見ないで。一夏のえっち・・・・・・」
「!! す、すまん!!」
慌てて俺はソッポを向いて視線を外して、相手の美少女・・・全裸のシャルル・デュノアの肢体を見てしまわないよう視界の外まで追放される!!
「ど、ど、どうしてシャルルが!? いや、確かに俺も入浴を勧めたけど、それは俺が入らない場合であって―――なぜにどうして、やってきたよシャルルさん?」
「ぼ、僕が一緒だと、イヤ・・・・・・?」
「いやけしてそういうわけではないんだけれども!」
イヤとかそういうのではなく、強いて言うなら困る! 俺とて健全な男子十五歳で、人並みに異性には興味があるし、性的な興奮がないと言えばウソになる!
「そ、その、話があるんだ。大事なことだから、一夏にも聞いて欲しくて・・・」
「わ、わかった・・・・・・そ、そういうことなら仕方がない・・・か?」
微妙に流されてる気もするが、大事な話と言われたら聞いてあげるが世の情け。・・・ダメだ、やはりまだ混乱している。冷静に対処できる心理状態とはとても思えん。ここは大人しく頭に上った血が降りてくるのを待つしかないか・・・・・・。
「その・・・前に言ってたこと、なんだけど・・・。僕ね、ここにいようと思うんだ。僕はまだここだって思える居場所を見つけられてないから・・・。
それに一夏が、ここにいろって言ってくれたから。そんな一夏がいるから、僕はここにいたいと思える気になれたんだよ・・・」
「そ、そうか・・・・・・」
「うん・・・。本当はハイドにもお礼と一緒に伝えないと行けないことだと思ったんだけど、今はまだいないから一夏から先に・・・ね?」
「お、おぅ・・・」
シャルルの言葉と、少しだけ色っぽくて心なしか誘惑してきてるようにも見えなくもない仕草に目を引かれそうになる心を賢明に押さえつけながら、俺は邪な下心という煩悩を心の中から追い出すためシャルルから言われた言葉を深くまで精査し続ける。
俺にとってはなんでもない言葉だった上に、ハイドのせいで色々と台無しにされた言葉でしかないものになっちまってたけども、シャルルにとっては思いやりの言葉としてちゃんと伝わってくれてらしい。本当に良かった。そう思い、心の底から安心している俺がいる。
ちゃぽーん、と水滴が大浴場に満たされているお湯の上に落ち、俺たち二人の会話を一瞬だけ途切れさせて、互いに互いの体を見てしまわないよう背中合わせに相手の心と見つめ合っていた、その次の瞬間に―――!!!
「――美しい。少年少女たちの穢れなき純粋なる青い春のごとき恋心とは斯くも美しきものなのだ・・・・・・さすがは織斑君!
どこまでも偽善を貫く君の心は、フル鋼の錬金術を操る者よりも尚、偽善の錬金戦士として蝶!美しいのである! 感動したぞ! まさに蝶!感動!であるな! ハッハッハ♪」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!?」
「何故またお前がいつの間にかすぐ近くにいるハイドぉぉぉぉーッ!?」
何時ものように! 何時ものごとく! 気づいた時にはそこにいる! 瞬間移動してきたかとしか思えない束さん以上に理屈不明な移動手段を持つ友人少女のシュトロハイド・フォン・ローゼンバッハが、今日も今日とて風呂場の中で俺たち二人が背中向け合って話し合ってる隣で等距離に眺めてきながら見物しながら手ぬぐい片手に顔拭きながら! 一緒の風呂に浸かった姿でそこにいた!!
全裸でな!! コイツの場合はバスタオル当ててることさえ期待できない、正真正銘のマッパで風呂入りに来てるとしか思えないところがイヤすぎるから本当にイヤなんだ! 本当に!!
「って言うか、お前張り紙見てこなかったのかよ! 大浴場の入り口に張ってあっただろうが! 今日は俺たち男子二人だけが使っていい男子使用中の札が貼ってあっただろうがー!!」
「うつけ者めがッ! 何度も何度も言わせるでない! 私は、体は女で心は男の魂的には漢であると、一体何度言わせたら気が済むのかね織斑君!?」
「知ってるし覚えてるよ!? だけど今の俺が言ったのは体の話だけなんだよ!! 魂は漢でも身体が女のヤツは男子使用中の風呂に入ってきたりしちゃいけないんだよぉぉぉぉっ!!」
俺、全力で叫ぶ! 結局は今日もまた全力で叫ばされる羽目になる!
クソゥ! 疲れてるのに! 疲れ癒やしに来てるはずなのに! なんでコイツに関わり合うと俺はいっつも全力ツッコミに命かけてるみたいな男にならなければいけない気になっちまうんだよー!?
「はっはっは、これはまた異な事を。年頃の同級生、表向きは男子生徒で体も心も乙女な美少女と同じ湯船に浸かりながら青春の甘い匂いを吸い合っていた思春期真っ盛りの青少年とは思いようもない発言であるな。いやはや、愉快愉快!」
「それを言うなよーッ!?」
チクショウ! 言われちまった! それ言われちまったら今の俺は何も言えなくなっちまう指摘を、コイツにだけは言われたくなかったのに言われちまったぜ! コンチクショウ!!
・・・だが、しかし! 俺にだって譲れないものぐらいある! 今日の俺はハッキリ言ってやる!
当たり前の常識として、年頃の女子がみだりに男に肌を晒すのはよくないことなんだと!
よく『減るもんじゃない』なんて言うヤツがいるが、それは大いなる誤解だ! とんでもない勘違いなんだ! バカの意見だ!!
女の子が男に肌を晒してしまえば――減る。女子の尊厳が、その高貴さが、確実に、減る!
そもそも女を守る立場にある男が、その相手をおとしめるような真似をしてどうするんだ! それこそ箒じゃないが『恥を知れ』ってヤツでだな―――ッ!!!
「さて、と。湯船に浸かる前のマナーとして身体は洗ったものの、髪はまだだったのでな。シャンプーを使わしてもらいに行ってくる故、しばしの間ご免」
「やめろー!? 年頃の女子が湯船から上がって平然と全裸を晒しながら男に尻を向けて歩いて行こうとするな! あと桶使って隠すところが違う!
そこも隠さなくちゃいけないところだけど女の子にはあと二つ隠さなくちゃいけない大事なところがあるうが! 何で隠さない!?
両手を腰に当てて歩くな! 気持ち悪い歩き方をするな! お前は一体どこのなにを隠すべきポイントだと勘違いしまくっているバカなんだー!?」
やめてくれ! やめてくれ!! 女子の尊厳が減る! その高貴さが減る! 減らされちまう! たった一人の変態バカ美少女のせいで俺の中の女子に対する尊厳と高貴さが削られまくって激減されてってしまってるー!?
「・・・む、たしかに。隠すべき大事なものを隠せていなかったな。これを付けねば大浴場に入っていることにはならぬ。さすがは織斑君、よく見ておるし解っておるようだな。
それでこそ元世界最強剣士の弟として心眼を継承せし者・・・・・・これからも精進するが良い! ハーッハッハッハーイド!!!」
「違う! そこじゃないしそれじゃない! 髪洗ってる時に顔は出したままでいいんだ! ってゆーか、なんだその変なお面は!? どこで売ってた!? そして何故、風呂場にもって入ってきてる!?」
「うぬぅっ!? しまった! 目に毒が! おのれシャンプー! 私に一撃を与えてくるとは・・・・・・その度胸気に入ったぞ! 名を―――名を聞いておきたい!! 私が君の名を決して忘れないために!!」
「シャンプーだろう!? 自分で今そう言ってたじゃん!!」
いきなり現れて全部持って行き、控えめなシャルルにはもはや付いていくことすら出来ないマイペースすぎるハイドの超ハイペース。
これが五反田の言っていたハイスピード学園ラブコメってジャンルのペースって奴なのか!? だとしたら確かにこんなもん付いていける速度じゃねぇぞ!?
「え、えーっとね、ハイド・・・・・・いま一夏にも言ったばかり何だけど、僕この学校に残ることにしたんだけど・・・・・・」
「聞いていた。ここ以外には自分の居場所と思える場所がない故、いてもいいと言ってくれた織斑君の好意に甘えて居候の身を継続するという話であったのであろう?」
「う、ぐ・・・・・・ま、まぁ間違いではないんだけれども・・・」
相変わらず容赦もなければ悪意もないハイドの反応に、意思が挫けそうになりながらもシャルルは勇気を出して何か大事な思いをハイドと・・・・・・そして俺にも聞かせるために思いを口に出そうとしていて・・・・・・ついにその言葉を外に出す。自分以外の他人にも聞こえる外の世界へ、彼女なりの精一杯の思いを込めて。
「僕のことは二人にはこれから、シャルロットって呼んで欲しいんだ・・・・・・。二人だけの時と、三人集まったときだけは・・・・・・」
「シャルロット・・・・・・それがシャルルの本当の・・・?」
「そう、僕の名前。お母さんがくれた、本当の名前。シャルロット・デュノア」
精一杯の勇気を込めて、色々なものを今までの苦しかった頃の記憶と一緒に置いてきて、彼女が一人の女の子として新たな人生を踏み出す決意を固めた証として。
「わかった―――シャルロット」
「ん」
俺が初めて彼女の本当の名前を呼ぶと、嬉しそうにシャルルは―――いや、シャルロットが返事をして子供のような無邪気さで笑いかけ、あのいつもの屈託のない表情がすぐに想像できるようになり。
「そうか。了解したぞ。これからもよろしく頼もう。
我が朋友となった新たなる盟友、シャルロット・デュノア君よ!!!!」
「・・・・・・・・・・・・うん、よろしくね。ハイド・・・・・・」
そして、その直後にテンション下がって少しだけ意気消沈しながら、もう一人の友人からの友情のこもりまくった熱い返事に曖昧な表情で答えを返すことしかできなくなってしまってるシャルロット。
俺も今さらになって、ようやく思い出した事だったのだが・・・・・・
ハイドからシャルロットに対するときの態度って、出会った瞬間から今までずっと名前以外には特になんも変わったこと無いんだよなぁー・・・・・・という価値観の違いすぎる相手との異文化コミュニケーションの難しさを実感させられた。
そんな学園別トーナメントの中止された開催一日目の夜の出来事。
これが今回の事件のエピローグである。
・・・・・・やっぱり疲れただけだった気がしなくもない、今このときの夜な俺・・・・・・。
……PS。
これは余談になる話なのだが、この翌日にさっそくハイドは自分の機体に(勝手に)装備させてたらしいガンカメラを使った映像を編集してネット配信して好評を得て、フランス政府とドイツ軍から査問委員会による裁判の呼び出しと、最低でも二年の監視がつけられるという厳しい調子の勧告が届けられたそうなのだが。
ハイドが一時帰国して日帰りで帰ってきた頃には、全て無かったことになっていたらしいという伝説がIS学園の七不思議の一つに加えられることになるのは少し先の話である。
この件に関して俺は詳しい事情は何も聞かされていないが、ただ一言、帰国した直後のハイドがこう呟いているのを耳にした事だけは記しておくべきだと思ったので書いておく。
「ふぅ~む。最近の若者と国家代表選手は歯応えがなくていかんな。国防を担う最後にして最強の矛として今少し自覚と根性を持てぬものか。困ったものだ」
IS。それは男尊女卑が一般的だった旧世界を圧倒的力の差で黙り込ませて自分のルールに従わせた束さんの造り出した現代世界の最強戦力。
そんな圧倒的存在を、国家に従わない自国民に与えてしまった国家というものはどういう未来を齎してしまう存在になるのだろうか?
それは国家が黙って語らず、事実も公表しよとしないので多分永遠に分からない。
つづく