FGOの切り裂きジャックちゃんがモデルの主人公です。
1話だけしか出来てないのを入れるため、番外席次みたいな扱いの場所を作っておきました。
空ってホントは、青いんだって。
分厚い岩盤と高い天井しか空を知らない私には、おっきな空いっぱいに広がってる青色なんて想像できないけど、ISはもともとその青い空を飛び回るために造られた物なんだって、今日あったメンセツカンさんが教えてくれたの。
でもISって、拳銃やサブマシンガンで武装した群衆を嗤いながら撃ち殺したり、着飾った大人の人たちが見に来て高値で取り引きするための物なんでしょ? なんで人を殺さないのに空を飛びたがるんだろうね? 変なの。
でも、面白い。
私と違うのは面白い。
違ってるのは面白い
知ってたことと違うのは面白い。
知らなかった人を殺すのは面白い。
殺したことがある人と違う人を殺すのは面白い。
私が殺したことがない人の中には何が入っているのか見てみたい。
他の人たちみたいにピンク色の臓器をしているのかな? それとも昔殺したボウコクキギョウって名前の人たちみたいにグッチャングッチャンにしてからでないと見せてもらえないのかな?
それともあるいはもしかしたらーーお母さんと同じように何も入ってない空っぽで、私が戻れるくらいに大きな中身を持ってる人がいたりするのかな・・・?
六月頭の火曜日。
今日から私は、私の知らない私になる。
IS学園1年1組に転校してきた帰国子女になる。
そんな私の名前は『霧夜シュナイド』。
学園島の地下に広がるIS産業の排泄物のゴミ捨て場『アンダーグラウンド』で生まれ育った人の廃棄物で、人を殺した経験のあるIS操縦者。
そして「楽しければそれで良い」がモットーの、殺人鬼ーー。
「皆さん! 昨日に引き続いて今日も新しいお友達がやってきました! 安全保障の観点から身元の確認とかモノすっごく大変なのに、それが三人も続いて正直先生テンパっちゃってます!」
朝からテンション(異常に)高く、IS学園1年1組の副担任山田摩耶は充血しきってウサギのようになっている真っ赤な双眸をギラつかせながらも教師として許される範囲はギリギリで越えはしなかった。
本人の自己申告通り、かなりテンパっているようで、いつもののんびりフワフワした印象がまるでない。飢えた野獣が如きギラついた眼差しでもって、ただただ純粋に嘘偽りなく睡眠をこそ欲している。
人間にとっての三代欲求を今日こそ心行くまで満たしてやろうと心に決めて、山田摩耶副担任は肝心の転校生の紹介を始める。やはり、どこまでも果てしなくテンションは高いままで。
「それでは、ご紹介いたします! 帰国子女で国籍は日本。見た目はとっても可愛らしいですが、IS適正はなんと驚きのA判定! 入学試験の時には先生、恥ずかしいことに負けちゃいました! テヘッ☆
期待の超大型転校生さんです! 霧夜シュナイドさん! どうぞー!」
「はじめまして、霧夜シュナイドです。今日からよろしくお願いしまーす♪」
『か、カワエエエェェェェェェェェェェェェェェっ!!!!!!!!!!!』
「はぁ・・・」
昨日とは異なる理由で頭痛を感じ、頭に手をやりながらため息を付く1年1組担任教師の織斑千冬。
徹夜明けだからなのか、徹夜続きだからなのか、後輩の副担任がおかしなテンションになってしまっているのも気にはなったし、またそれ以上に気になる今週に入ってから三人目の転校生について『今のところ害意は見受けられない』と認識を新たに付け加える。
(・・・クラスの生徒たちとは違うタイプの幼児性を持っているようだな。やや束と似たものを感じさせるが、アイツとも少しだけ異なっている。束のように露悪的な部分や作為的な偽装は感じられないし、素で楽しんでるのが分かる、
ーーだが、それなら何故だ? どうして先程から私の身体は震えが止まらない? 右腕には鳥肌が立つなど、剣を教えてくれた師匠とはじめて真剣で立ち会ったとき以来だ。
見た感じ、それなり以上に腕は立つし、体つきから得意とする獲物が刃物であることも推察できるが、私が恐れを抱くほどの存在ではない。
なのに何故・・・?)
思考に耽りながらも千冬は霧夜シュナイドへの監視を緩めてはいない。
不振な素性を持つ生徒には機械人間を問わず、監視役として常に誰かが目を光らせている。霧夜シュナイドの素性がまともでないことなど先刻承知のことだ。
世界で唯一のIS操縦者育成機関であるIS学園において、この程度の異分子など日常茶飯事と言っても過言ではない。
あまり大きな声で言えないことだが、IS学園は3年生のダリル・ケイシーを筆頭に身元が不確かな生徒を多く抱え込んでいる。
ただでさえIS発祥の国に建てられた世界で唯一のIS操縦者育成機関だ。他国の工作員や企業スパイ、ちょっかいを掛けたがる連中には事欠かない。いちいち身元確認を取っていたら切りがなくなる。
それに何よりやっかいなのは、そういった身元不審者たちが必ずと言っていいほど国家代表候補か専用機持ちか、どこかの国のお偉方による直々の推薦状を携えてくる事だった。
外国からの軍事的圧力によって開校が決定させられたIS学園は、IS委員会常任理事国に認可された操縦者候補の受け入れをIS運用協定『入学に際して協定参加国籍を持つ者には無条件に門戸を開く』により、原則として拒否できない。
だから抜け穴を活用するしか道がなかった。
同じ協定内にある『当機関内におけるいかなる問題にも日本国は公正に介入し、協定参加国全体が理解できる解決を進めることを義務づける』が、それである。
日本が嫌がる物を無理矢理造らせておいて「公正に介入」も糞もない。実質的には何の介入も出来ない日本国政府だが、逆に言えばIS学園内で何が起き、誰が消えようとも介入した事実さえなければ後始末さえしていれば良いという解釈も成り立ちはするのだ。
無論、暴論である。筋は通っていないが、この際に重要なのは日本国が通すべき筋ではなくて、諸外国がIS学園建設を求めた理由『利益の独占を許さない』についてだ。
早い話、日本を含むあらゆる国々がIS技術を独占していられても国家主権者たちとしては困るのである。
だからこそ、他国のスパイが消えたところで喜びはしても怒りはしない。体面上、演技として怒ってみせるだけである
当初はなかった校則特記事項を後から付け足したのもこの為なのだ。
(希に、こういう面倒くさそうなのが紛れ込むのだけは難だがな・・・。まったく、今度はどこの組織から送り込まれてきたのやらだ)
無意味なデータ照合のせいで寝不足の山田先生には悪いが、先週の時点で転校生たちの裏データを調べ尽くしてある千冬の頭の中では既に霧夜シュナイドは『自分の教え子たちに危害を与えうる敵』として認識されていた。
年端もいかない少女をぶちのめすのは決して彼女の本意ではない。
だが、時として人は大事な人を守るために戦わなくてはならない事を千冬は実体験として思い知っていた。
そして、誰かがやらねばならない汚れ仕事を他人に押し付ける利己心と保身は、千冬と生まれつき縁遠い。すこぶる悪い相性と性根故に切り捨てるより他に道はなかった。
愛する生徒を守るため、彼女は今日も人知れず戦っている。
その為の敵情視察を怠ることなどあってはならない。
今も彼女の目は、年齢不相応に幼い容姿の転校生に固定され続けており「どうすれば可能な限り傷つけることなく撤退させられるか?」について、頭の中で思考を巡らせ続けていた。
誰も斬らない、殺さない。
不殺の信念こそ、彼女が至った剣の極意であり極地。
無論、それは敵とて例外ではない。
敵であるから殺す。その様な無法を彼女の剣は許容できない。する気もない。
だから千冬は、可能であるなら霧夜シュナイドにも普通にIS学園で大過なく過ごし、卒業していって欲しいと心の底から願っていた。
どんな事情を抱えていようと、学園内に迎え入れられたからには子供であり少女なのだ。
健やかに育ち、幸せな将来が訪れることを願うのは大人として当然の義務だと千冬は信じているし、貫き通す覚悟もしている。
「自己紹介は終わったな? ならば射弖はボーデヴィッヒ・・・そこの銀髪眼帯小娘の隣の席に着け。HRを終えて授業を始めるぞ」
「は~い」
てててっ、と小走りに歩んでいく小さな後ろ姿を見送りながら千冬は次の算段を考え始めた。
長い物には巻かれてしまえ・・・? そんな逃げ口上など糞食らえだ。
コミュ症の生徒はコミュ症同士でぶつかり合って対人経験を積んでこい。
男のフリして女子校に来た奴には、望み通り男同士の部屋に入れてやる。
気位の高い苦労知らずのお嬢様には、当て馬としての役割を自発的に押し付けてやる。
ものすごく頭の悪い脳筋思考の超スパルタ思想を持つ彼女は、素直な態度で指示に従ったシュナイドから一瞬だけ意識を外しまう。
それが原因で彼女は、霧夜シュナイドという少女の異常性に最悪の形で気づくことになる。
運命か必然か、はたまた単なる相性の悪さ故だったのか。
教科書も開かず胸の前で腕を組んで千冬の一挙手一投足を見つめ続けていたラウラ・ボーデヴィッヒの隣に座り、
「どーも。お姉さん、はじめまして霧夜シュナイドです」
と、朗らかで敵意のない満面の笑顔で挨拶してくる彼女を、千冬以外のすべてが眼中にないラウラは黙殺した。
そんな彼女の横顔をーーただしくは横合いから見えている右目だけをジッと凝視して、視線を外そうとしなくなる。
敵を見定める戦士の目ではない。
端金のため戦場を求める傭兵の目でもない
人を殺して悦に入る、理性を放棄した変質者の目では絶対にない。
強いて上げるとするなら『ドクター』と呼ぶのが最も近いだろう。
分析して解析して処置する方法、処置しようがない切除すべき部位を判定し、適切な手套で患部を切り出し摘出する、人体構造を熟知した身体に関してのプロフェッショナルたち。
人を救うため人体知識のすべてを知りたいと渇望する熱狂的な人道医師のそれと、彼女の持つ眼は若干ながら共通事項を持ち得ていた。
貪欲なまでに知りたいと願う、知識欲。
人の体を切り開く際に他者から非難を浴びようと、躊躇うことなくメスを入れる強い意志。
人の上に立つには利己心が乏しく、自分が助かるよりも人の体に手を入れることで助けられるものなら助けてやりたいとする利他心。
それら全てに該当する『反転した』意志を持って生まれ育ったのが、霧夜シュナイドという狂った少女の価値観であり感性だったのだ。
「あはっ」
朗らかに、明るく無邪気にシュナイドは笑う。
悪意はなく、善意もなく。ただただ楽しそうに朗らかに。
悦しみたいから殺すのではなく、人を殺すことで悦しみを得る殺人鬼として生まれ落ちて育てられた幼い見た目の少女は、「ドイツの冷水」にも容赦なく分析と解析と評価を下す。
あなたは私に殺されるだけの価値はある?
あなたを殺せば私は愉しいと感じられるのかなぁ?
「あなたって、雨の日に置き捨てられて泣いてる子犬みたいな目をしているね。とってもカワイイ! 私、そういう目の人だーい好き!」
「ーーーーっ!!」
「ねぇねぇ。あなたはどうしてそんなに弱いのにISなんて乗ってるの? 危なくないの? 怖くないの? 死にたいの? 殺されたいの? それとも・・・切り刻まれて死体を川に投げ込まれたいのかな?」
ラウラ・ボーデヴィッヒは、声を出すことなく慟哭した。
悪意もなく、他意もなく、傷つける意志など毛頭無いまま放たれたシュナイドの無自覚な言葉の刃は、ラウラにとって心の一番傷つきやすい箇所をズタズタに切り裂いて心臓を抉り出されるほどの激痛を瞬時にして味あわされるのと同じ意味を持っていた。
激高した彼女は昨日とは違う場所に隠し持っていたナイフを抜いて、霧夜に切りつけようとした。
それを視界の隅に捉えた千冬は迷いのない致命の斬撃に思わず声を上げ掛けて、人が死ぬのも女の子が傷つくのもみたいない織斑一夏は反射的に白式を喚び出そうとブレスレットに手をやり、シャルロット・デュノア、セシリア・オルコット、篠ノ之箒と言った一夏と縁のある、もしくは持つことになる実力者たちも同様に何らかの行動を起こそうとしたが間に合わない。
刃がシュナイドの首筋に届くまで、残り時間コンマ3秒。
周囲が反応するにも、自らが刃を納めるにも短すぎる極小の短時間。
白銀に輝く刃が、細くて白い小さな首筋に赤い軌跡を描き出そうとしたその瞬間。
キィィィィッン!
カラン、カランカランカラン・・・・・・。
ナイフは宙を舞って床に落ち、金属質な音だけを空しく響かせる。
ラウラ・ボーデヴィッヒは握っていたナイフを打ち上げられて痛む右手首を気にする余裕を与えられぬまま、自分の首筋に微かに差し込まれている木工用カッターの切っ先に痛みを感じて短いうめき声を上げさせられる。
(今の瞬間・・・こいつは一体、なにをした?)
ラウラの頭を占拠しているのは疑問の言葉。
自分の方が先に抜いたはずなのに。自分の方が先に切りかかっていたはずなのに。自分が切りかかっていった時、相手はまだ何の反応も見せていなかったはずなのに。
どうしてどうしてどうしてどうしてどうして・・・・・・・・・
無限に続く疑問の言葉に、応える声は無邪気そのもの。
むしろ彼女の方こそ不思議そうにラウラを見つめて、疑問の声を投げかけてくる。
「あれ? 抵抗しないの? 刃が首筋に少しだけど差し込まれてるんだよ? このままだとあなた死んじゃうよ? あなたは死んでも平気なの? 殺されても気にしないの
だったらーー私がこのまま殺しちゃっても良いのかな?」