諸君、グーテン・モルゲン!! ハイド帝国初代皇帝シュトロハイド・フォン・ローゼンバッハである!!
先日、我らが愛する母校IS学園は夏休みを迎え、今日はその記念すべき臨海学校が始まる日である。
海・・・全ての人類の故郷である蒼き大海原に、各国から選び抜かれた精鋭たる国を守りし防人たちが所属を超え、怨恨を超え、想いを一つにして絆の元に団結して同じ円卓へと集う場所・・・・・・それこそが臨海学校の待つ海なのである!
今、若人たちの熱き血潮を我が血として守るべきものを守らんがため円卓へと集った勇者たちに躊躇いの吐息を漏らす者は一人もおらぬ! たとえ幾万、幾億の敵怪獣が海より現れ東京目指して進軍を開始しようとも必ずや我らが日本を防衛してくれようぞ!!
繰り返し心に聞こえてくる、祖国の民の名誉と、青き海の星に住まう全ての者たちの意思よ我らの元へ・・・・・・テラ・イズ・マイホーム!!
テラ・イン・マイガァァァァァドであぁぁぁぁぁるっっ!!!
「・・・で? ハイド。お前さっきから一人で何をやってるんだ・・・・・・?」
「む? 織斑君か。見ての通り我らの真実の戦いを後の世の人々へ伝え残すために記録を取っているのだよ。栄光ある我らIS学園生徒たちが熱き夏休みをどう過ごしていたのか、真実の記録をな!!」
「ただの黒歴史ノートだよソレは! 間違いなく!! 絶対に!!」
いきり立って織斑君が叫び声を上げ、宿泊先へと向かっているバスの中へと彼の声は木霊する。フフ・・・滾っておるようだな彼も。
だが無理もあるまい。トンネルを抜け、白銀の銀世界ならぬ、紺碧の大海原が見えてきたばかりなのだから、これで熱くテンションを上げぬようでは男に非ず! 日本男児に非ず!
海とは常に、来る者皆バーニングへと変えてしまう魔力を持っているものなのだからな!!
「ああ・・・クソッ! なんで俺はコイツの隣以外の席に座らせてもらう権利と資格が認めてもらえないんだよッ。シャルロット! 頼むから少しだけ変わって貰うことって出来ないかな!? 流石に朝からずっとだと疲れてきたんだが・・・」
「う、うん・・・ごめん一夏・・・。替わってあげたい気持ちは山々なんだけど、ボクだと多分、三秒で潰れちゃうと思うからちょっと無理そうかなーって・・・」
「ぐぬぬ・・・は、反論できない正論が微妙に辛い・・・」
バスで私の隣の席になっていた織斑君が、更にその隣の席に座るシャルル・デュノア君あらためシャルロット・デュノア君の楽しそうに談笑し始めたようだ。
先日の一件で保護者の方々に対する蟠りも多少は解けたとはいえ、まだまだ状況は厳しく過去の遺恨はそう簡単に消えてくれるほど易くはない。
現に今もこうして、ぎこちなく強ばった笑みを浮かべて返事をするのが精一杯の心境らしく、織斑君への返しにも申し訳なさが纏わり付いているように見える。
いつか彼女の心に曇る闇を晴らせる日が来るのであろうか――? それは誰にも解らないが、もし来させることが出来るとしたら私は協力を惜しまないことを、ここに表明しておくものである!
「まったく、ローゼンバッハさんは相変わらず朝からご機嫌そうですわね。――いえ、むしろ普段よりも更にご機嫌そうに見える程ですわね・・・」
通路を挟んだ向こう側の席より、イギリス代表候補のセシリア・オルコット君が若干ムスッとした表情をして、そんなことを言ってきていた。
その表情は、どことなく疲れているようにも見え、ムスッとして見せている表情にも体調の悪さが見え隠れしている。うむ、車酔いかもしれぬな。後ほどバファリンを渡しておいてあげるとしよう。
優しさで半分が作られているバファリンを飲めば、あらゆる難病もたちどころに愛と友情と絆で回復することが出来ることは疑いない。私もまたバファリンのおかげで切れた腕を生やした経験があるので間違いあるまい。
その時に戦っていたマオウくんという中国人男性から『ば、化け物か!?』と称されるほどの回復力を秘めた万能薬、エリクシルにも勝るバファリンさえ飲めば全て上手くいく。絶対にである!!
「と言うか、正直言って暑苦しいのですけれど・・・・・・もう少しだけでいいですので、テンションを下げて貰うことって出来ませんかしらね・・・?
わたくしの国イギリスだと、気候的に日本ほどジメジメとした暑苦しい夏は送ってませんでしたので、少しキツいのですけれども・・・」
「うむ、夏だからな! 致し方なし」
「・・・昨日も一昨日も一昨昨日にも、同じようなお願いをして、同じような答えを返されたような記憶があるのですが・・・」
「うむ、昨日も一昨日も一昨昨日も夏だったからな! 答えが同じになってしまうのも、また運命! 致し方なしなのである」
「・・・・・・もういいです。本当の本気でもう良いです・・・疲れましたので、わたくし少し寝かせて頂きますわね。おやすみなさい・・・」
そう言ってシートを傾け、顔の上から帽子を被せたオルコット君は、臨海学校に到着する前に仮眠を取る姿勢を取ったようであった。
休めるときに休んでおくこともまた、優れた戦士に必須の条件。いざ戦いが始まったとき、全力を出せぬは武士の恥というもの。
つまりはオルコット君もまた、海での戦いに備えて静かに闘志を滾らせていると言うことであるな! ふふふ・・・頼もしい限りだな、我がクラスメイツ戦友オルコット君よ!!
「おい、ラウラ。おーい?
「・・・・・・」
「お前は一応ハイドと同じドイツ人で、ドイツ代表候補同士でもあるんだろ? だったらコイツの相手を少しだけでもだな――」
「は、話しかけるな馬鹿者! お前個人ならともかく、そいつの問題に私をこれ以上巻き込もうとするんじゃない!」
「ぬぐわっ!?」
何やら席に座って黙り込んだまま反応を返そうとしなくなっていたボーデヴィッヒ君の目の前に両手を振って見せて気を引こうとしていた織斑君が、照れ隠しなのか全力で顔を近づけすぎて遠ざけられてしまっている。
やれやれ、相変わらず素直ではない少女であるな。これはまた私の出番が近々訪れる可能性大といったところか。
友の恋路を応援するためならば、このシュトロハイド。幾億、幾兆、無限係数の那由他の彼方にある大軍勢を揃えた宇宙怪獣の群れを突破してこようとも必ずや駆けつけて力になることを今ここに誓おう。それこそが友情であり絆というものだからな!ハッハッハ♪
おお、そうだ。今日は普段あまり話すことのなかった相手と話しかけてみることにいたそう。臨海学校はクラスメイトのみと遠出をする学生同士だからこそ味わえる特別なイベントでもあることだし、丁度よい機会というものであるだろう。
「篠ノ之君! 見たところ君は泳ぎが上手そうだが、どうかね? 海はいける口なのかね?」
「な、なに? あ、ああ・・・そうだな。昔はよく遠泳したものだったからな。――一夏と二人きりで(ボソッ)」
「ほほぅ!? 遠泳とは、また古風な!」
私は今時珍しい、古き良き文化を愛好しているらしい篠ノ之君の趣味の良さに感服させられ、『いやお前が言うなよ!? その言葉を言う資格おれ以上にお前にはないだろ絶対に!?』――と、遠くで何かを叫んでいるように聞こえたはずの織斑君の言葉が篠ノ之君の話に興味を引かれすぎて上手く聞き取れなくなってしまった程である。これはいかんので後でもう一度聞き直しに行くとするか。
「では此度は私も共に参加して泳がせてもらうとしようか・・・・・・いざ行かん! ドーバー海峡横断トップの栄光を我らの物とするために!!」
「い、いや私は一夏と二人だけで泳ぎた――って、え!? ど、ドーバー!? どこだそこは!? どこのことを言っているのだ貴様は!? 道婆とは妖怪の名前かなにかなのか!?」
「箒・・・お前まで変な様子に付き合わなくても良いんだぞ・・・? バカが移されるだけだから・・・」
全校生徒の大半がうら若き乙女たちばかりという事情から、姦しいバス旅行となってしまった臨海学校行きのバス移動。
それもそろそろ終わりを迎えるらしく。
「そろそろ目的地に到着する。全員ちゃんと席に座れ」
『はーい』
織斑教官からの指示を受けて、車内にいた全員がさっとそれに従いシートベルトを締め直し、出して遊んでいた荷物をリュックサックの中へと戻す姿が散見されていた。
もうすぐ到着するのだ・・・海に。新しき我らの戦場に・・・・・・ッ。
感慨が胸底の奥深くより湧き出てきて、私は思わず自然な感情の発露と共にその思いを言葉にせずにはいられない心地へと誘われるのだ・・・・・・。
「海よ・・・優しさと夢の源である愛しき我ら全ての生命の故郷よ・・・・・・我らは記憶を辿り、母なる海へと帰ってきた・・・。
海よ! 大海原よ! 君と愛する祖国を守らんがため、私たちは故郷へと帰ってきたぞぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!!」
「五月蠅いわローゼンバッハぁぁぁぁッ!!!!
危ないから席に座れと命令しているのが聞こえんのかぁぁぁぁぁぁぁッ!!! むぅッ!?
こ、これは・・・変わり身の術!?」
「フハハハハ!! どこを見て、何を攻撃しているのだ織斑君! 私はここだ! ここにいる! 君の倒すべき敵はここにいるぞぉぉぉぉぉぉッ!!!」
「くぅッ!! いつもいつもチョコマカと逃げ回りおってからに!! 今日こそ貴様とは決着を付けてやる! 行くぞーッ!!!」
「応さッ! 望むところよ! 私は何時どこであろうと誰の挑戦でも受ける! 私の漢の魂、震わせれるものなら震わせてみるがよい織斑教諭君!! ずおりゃぁぁぁぁぁッ!!!」
「でぇぇぇぇッい!!!!」
カキンカキンカキンバキィィィィィッン!!!!!
「お、織斑センパ・・・先生―――ッ!? 席! 席に座って下さい危ないですから!? 私たちが主に危ないですからね!? お願いですからバス移動中の限定空間で戦闘始めないで下さい! 到着してからやって下さい! 逃げ場所ないですから! 本当に死んじゃいますからね!? 誰か助けてバス止めてくてくださぁぁぁいッ!?」
斯くして、我らがIS学園一年生生徒全員は目的地へである旅館に無事、到着することが出来たのであった。
危機は去ったとはいえ、第二、第三の危機が現れないとは限らない。
我々の住む、この日本という国は絶えず様々な海からの危機に晒されてきた由緒正しい歴史を持つ国なのだから・・・!
日本! このシンボルを戴く国を揺るがずにしないためにも、我々IS学園専用機のりたちは戦い続けるであろう!
そう・・・今回の我々の戦いは、まだ始まったばかりなのだから・・・・・・ッ!!!
打ち切り最終回のノリで終わりながら続きます。
オマケ『この回の幕間のほほんさん』
*「布仏さん、大丈夫? 病み上がりなんだから無理しないでいいんだからね?」
ホ「たはは~、だいじょうぶだよ~。もう、のほほんさんは完治したから大丈夫なのだぁ~」
*「本当に? 辛かったら言ってね? 私たちに気を遣わなくて良いんだよ?」
ホ「たはは~、だーいじょうぶダイジョウブ~。のほほんさんはご飯さえお腹いっぱい食べれば元気いっぱいで回復できる子なのだ~♪」
*『本音ちゃん・・・ッ! 大事な試合を休んでまで治療を優先した病気が治ったばかりなのに、皆に心配かけまいとして・・・・・・のほほんさん、恐ろしい程に気遣いが出来る優しい子!!』
ホ「たはは~♪ ・・・誰かのほほんさんの話を聞いて欲しいのだ~・・・・・・(ショボン)」