勇者が断つ!   作:アロロコン

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今年も今日を残すところで後四日。皆様、やり残した事はありませんでしょうか?
私は、そうですね…………ダイエット、でしょうか。お腹回りが少し、はい

と、とにかく現実から目を逸らしつつ、本編をどうぞ


十一

 睨み合う、というよりは一方的に睨まれているヌマセイカは特に堪えた様子もなくヘラヘラと笑っている。

 対してナイトレイド。特にタツミは気が気ではない。下手すればこの場で全滅の可能性もあるのだ、自然と喉がなり、冷や汗が頬を伝って大地を打つ。

 それは他の面々もそうだ。

 皆が一様に、張り詰めたようなそんな緊張感を全身に漲らせて、一挙一動を見逃さないように目を凝らす。

 そんな中で、ヌマセイカは野生の猫を相手するようにユックリと両手を挙げていく。

 

「まあ、待てよ。オレが用事があるのは、そこの…………………………………………えっと…………」

「師匠、ナジェンダ将軍ですよ」

「ああそうだ、そこのナジェンダ将軍さんにちょっとしたお話があるのさ」

「…………私か?」

 

 何だろう。さっきまで張り詰めていた空気が霧散していくのを感じる。

 そして、ヌマセイカに向けられるのは残念な子を見るような生暖かい視線へと変わっていた。

 

「あんたら革命軍にコイツらを匿ってほしいのさ」

 

 親指で指し示すのは、エア達四人。示された四人は恐縮したように、ヌマセイカの陰へと引っ込んでいる。

 

「…………それが受け入れられると本当に思っているのか?」

「おう」

 

 ナジェンダの問いに、彼は簡潔、且つ殆ど間を開けずに答えた。

 

「オレだって毎日ちゃらんぽらん生きてる訳じゃ──────」

「そうなんですか?」

「ヌマセイカ様は割りとちゃらんぽらんな気が…………」

「…………でも、優しい」

「ま、まあ、ヌマ様の訓練はためになるよね」

「─────生きてる訳じゃねぇから!」

 

 身内から刺されるとはこの事か。既に向けられた視線は生温い処か微笑ましい残念な奴を見る目へとランクアップ?している。

 コホン、と一つ咳払い。

 

「と、とにかく、オレだってちゃらんぽらん生きてる訳じゃねぇから!お前らが暗殺した奴等も調べたから!」

「……………………そうか」

「やめろ!その目は止めろ!と、とにかく、任せたいんだが…………」

「帝国の間者かもしれない者を迎え入れろ、と?」

「ま、そうだな」

「即答だな。その根拠はなんだ?」

「……………………え、勘だけど?」

「あ゛?」

「ちょ、待って、冗談。冗談だからその義手のギリギリを止めてください」

 

 ゴス、と響く鈍い音。

 

「oh…………」

「…………はぁ、何とも調子の狂う奴だな」

「酷いな一方的に殴ったってのに。それから大将首がそんな無防備に敵に近付いても良いのか?」

「殺意の有無程度ならばこちらも判別できるのでな」

「ほーん…………まあ、それは盲信するのは止めたが良いと思うがな。殺意無しでも殺れる奴は殺れる」

「そうかもしれん。が、それは人ではない。機械のソレだ」

「そーかい。ま、頼むわ。帝都に置いとくよりも安全だろ」

「私たちが革命を成せる、と思っているということか?」

「いや、別に。帝国がどうなろうとオレには関係無いし」

「…………力を貸してはくれないんだな」

「生憎、貸す理由は無い」

「その娘達を匿う件はどうなんだ」

「ハッ、断るってんならその時はその時だ」

 

 ガラリ、とヌマセイカの雰囲気が変わる。

 先ほどまでのホノボノとした気の抜けた状況ではない。

 全身の産毛が逆立ち、歯がしっかりと噛み合わず、ダラダラと冷や汗が流れ、ゴクリと生唾を飲み込む面々。

 

「さて、これはお願いなんだ。どうだ?この場で殺りあって死ぬか、ソレともコイツらを引き取ってこのまま平和的に終わらせるか、好きに選べ」

 

 ここで、お前を倒す!と言えないのはその実力差をハッキリと感じ取れたからか。

 

「…………良いだろう」

「話が分かるな。んじゃ、頼むぜ?」

 

 お願い(脅迫)は何とか聞き入れられる事となった。というより、聞き入れさせた。

 

「それじゃあオレは帰る。ソイツ等、本当に宜しく頼むぜ?」

 

 それだけ言い残すと、ヌマセイカは塵外刀を分解して刀身を投擲、その上に飛び乗って、夜空の彼方へと消えていった。

 

『……………………』

 

 ナイトレイドの面々はエスデスに並ぶ勢いで、ヌマセイカの名を自身のブラックリストへと書き込んでいた。

 戦闘面においても、そしてその他の面においても、であった。

 

 

 ★■▲■★

 

 

 朝、活力の朝。希望の朝である。

 

「…………静かだ」

 

 ナイトレイド脅迫を終えたヌマセイカは惰眠を貪っていた。

 少し前までならば、スピアの修行であったり、3人娘の面倒だったり、と色々あったが、今はない。

 託児所さまさまである。

 

「とりあえず、今日は何するか」

 

 天蓋付きのベッドを見上げ本日の予定を立てていく。

 だが、悲しいかな。趣味の無いこの男、鍛練と散歩しか浮かばなかった。

 そんな自分に軽く死にたくなりつつ、起き上がった彼は塵外刀を片手に部屋を出る。

 愛用の槍を餞別として渡してしまった為にアホみたいにデカイこの刀を持ち運ばねばならなくなったのだ。

 そこで思い至る。そうだ、新しい槍を造ろうじゃないか、と。

 

「というわけで、ちょっと出てくる」

「却下だ」

 

 朝の鍛練を終えた、ヌマセイカとエスデスの初っ端のやり取りである。にべもなく却下されていた。

 

「お前、この前出ていって帰ってくるのに二日掛かったのを忘れたのか?」

「ちょっと素材を採ってくるだけだぞ?」

「その刀だけで良いだろう?」

「街の中丸腰で行けってのか?」

「素手でも十分だろう」

 

 話は平行線である。

 ここで、普通なら姿をみていないスピア達の話にもなりそうなのだが、生憎とエスデスは普通ではない。

 確かに四人とも強くはなっていたが、真の強者たるエスデスに牙を届かせるか、と問われれば首を振らざるをえない。

 第一、噛み付く前に叩き潰され、仮に牙が届いても刺さる前に牙がへし折れる事だろう。それくらいの差があった。

 

「というより、お前は暇なのか?」

「まあ…………暇っちゃ暇だが…………」

「ならば、来い。仕事だ」

「えー…………」

 

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 ジャラリと軋む鎖。

 

「塵外刀“釵の型”『砕氷』」

 

 円ノコのように縦回転した塵外刀の刀身が駆け抜け辺り一帯を切り刻んでいく。

 

「エゲつねぇ…………」

 

 遠目から見ていたウェイブは引いたようにその光景を表した。

 イェーガーズの面々は現在、帝都近辺に現れるようになった新型の危険種の討伐にあたっていた。

 

「こっちは片付いたぞ。そっちはどうだ?」

「あ、終わりましたよ。作戦通り、数体を隊長の方に逃がしましたし」

「そうか。んじゃ、帰るか」

 

 言いながら、ヌマセイカは塵外刀をバラして刀身を少しはなれた森の中へと投擲する。

 断末魔が聞こえたことからどうやら危険種の生き残りが居たらしい。

 

「…………スゴいっすね、ヌマさん」

「なにが?」

「いや、俺全然気づかなかったすよ。そこに危険種が居たの」

「慣れの問題だろ。ウェイブは海軍出身じゃねぇか。内地の索敵が苦手でもおかしくないさ。まあ、追々な」

 

 年が近いが頼もしい背中を見送りつつ、ウェイブはあることに気が付く。

 自分はあまり副隊長の事を知らない、と。

 まあ、今まで聞くこともなく、彼自身が語ることも無かったために当たり前と言えば当たり前だが。

 そんなこんなで仕事を終えたイェーガーズ。

 エスデスは捕獲した危険種の引き渡しに向かい、セリューとランはその付添い。

 部屋にいるのはチェスをしていたクロメとウェイブ、少しはなれて刀の手入れをしているヌマセイカ、お茶の用意をしているボルスの四人だ。

 

「…………」

 

 チェスは片手間に、ウェイブは頬杖をついて、片手で塵外刀を持ち上げ床と水平になるように刃を検分するヌマセイカを観察する。

 

「ウェイブ君、クロメちゃん、それから副隊長。お茶がはいりましたよ」

「ありがと」

「いつもすんません」

「気にしないで。好きでやってることだから。副隊長もどうですか?」

「おーう」

 

 塵外刀を床に寝かせたヌマセイカも含めて四人が席につく。

 傍から見ると結構シュールな絵面となる。

 

「で?ウェイブ、さっきから見てたろ?何か用事か?」

「ぶっ!…………ゲホッ!えほっ!」

 

 不意の言葉にウェイブは吹き出す。ついでに、気管に入ったのか酷く噎せていた。

 

「…………えっと、ンンッ、なんのことっすかね」

「はぐらかすならソレでもいいさ。だがまあ、見られてるってのはあんまり気分の良いものじゃあないんでな」

 

 言外に語れ、と言われれば、部下は語らずをえない。

 暫く考え込んだウェイブは渋々口を開く。

 

「…………俺達、ヌマさんの事を何も知らないな、と思ったんすよ。ほら、うちの部隊って誰も自分の事を言わないじゃないですか」

「ま、言わない、てよりも、言えないってことの方が多いだろ。な、ボルス」

「…………そう、ですね。確かに部隊の話は私もあまりしたくない、かな」

「…………」

「…………まあ、オレはお前らほど重い過去は無いけどな」

 

 シンミリ、と空気が萎んでいく。

 話題ミスった、と内心で頭を抱えるウェイブ。

 この空気を誰かに変えてほしい、とぼやく中で救世主は現れる。

 

「こんにちはー」

「パパー!!」

 

 入ってきたのは、目を引く美人と元気一杯の少女であった。

 真っ先に反応したのはボルスだ。

 目で他の3人が問えば。

 

「えっと、妻と娘、です」

 

 二人ほどメンタルが抉られたのは内緒である。




革命軍は託児所です(震え声)

…………正直な話、助けた時点で私が満足したのが今回の結果を呼び込んでますね

ハッピーエンド大好きっ子にダークファンタジーは重いです(戒め)

そして改めて思うこと
ワイルドハント、死すべし!!!!

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