勇者が断つ! 作:アロロコン
皆様年越しには何をお食べになりますか?
私はラーメンですね。麺類ランキングでソバとチャンポンが最下位争いをしているせいか、どうにも私は蕎麦が苦手なのです
さて、お茶濁しはここまでと致しまして、本編を、どうぞ
宗教【安寧道】の総本山がある街、キョロク。
イェーガーズの面々はドレスコードに適した姿で集合していた。
「……………………ぐぬ」
「副隊長、あまりネクタイを緩めないでください」
「いや、似合わねぇよ、コレ。何だよ、何でスーツなんだよ」
「コレが公的な使節団だからですよ」
「だったら、いつもの鎧で良いじゃねぇか!何だよスーツってナメてんのか!?」
「ま、まあまあ副隊長。落ち着いてください」
覆面にスーツという、人によっては引きそうな見た目のボルスが猛るバカを宥めにかかる。
そんな彼を苦笑いして見守るのは、ナイトレイド戦で共に戦線を張ったクロメとウェイブ。
戦場と日常の落差が大きすぎる。具体的にはエベレストからマリアナ海溝に落ちるぐらい、酷い。
「うぅー…………私もこの格好は少し…………」
「だよな、セリュー。ということでオレ達だけでも衣装変えよう、ぜ!?」
「ダメに決まっているだろう?セリュー、よく似合っているではないか」
「あ、ありがとうございます隊長」
「…………グーで殴るな、グーで。お前、人の膂力じゃねぇんだから。おっと」
パンッといい音が鳴る。打ち合わされるは、拳と掌。
「…………痛い」
彼が鬼と称するだけにエスデスの力は常人のソレを遥かに凌ぐモノがある。
ヌマセイカはソレを正面から受け止めた。腕に衝撃は響くが弾けることもなく、痛い、程度で済む。
つまりは、この男も十分に怪物だということだ。
▲▽▲▽▲▽
今回のイェーガーズの仕事はこの安寧道の教主補佐、ボリックの護衛だ。
その屋敷は、屈指のデカさ。賄賂と悪事によってなされた富によって作られた、もはや城である。
「遠路遥々、ようこそ我が屋敷へ。ふふっ、しかし、大臣に頼んでみるものですな。まさか、帝国最強と名高いエスデス将軍直々に来ていただけるとは」
美女を周りに侍らせたボリックは椅子にふんぞり返って、慇懃無礼な態度で礼を述べる。
周りでは立食式の宴が行われており、ご馳走やら娼婦やらで犇めいていた。
が、それらよりも気になることがあるのか、ヌマセイカは頻りに天井を見上げている。
その視線はキョロキョロと動き回り、時折一点で止まり、直ぐ様動く、その繰り返しだ。
「な、何してるんですか?」
隣に居たボルスが恐る恐るといった様子で尋ねる。
ランやウェイブも彼の姿には違和感を覚えていたらしく目で問いかけてきていた。
「いや、バカデカイ鼠が居やがるな、と思ってな」
「鼠?危険種ですか?」
「んー…………まあ…………」
歯切れが悪い返答。その間にも視線は動き回っている。
ついでに蟀谷に青筋が浮かんでいる事から、彼がこの状況を気に入らないと思っていることも明白だ。
そのまま説明もろくにすることなく、ヌマセイカはエスデスと並ぶように前へと行ってしまった。
「…………なあ」
「ああ、分かっている。だが、手を出すなよ。面倒が起きるからな」
「気に入らねぇな」
「彼方から来るならば盛大にもてなしてやれば良いだろう?」
「…………それもそうか」
ゴキリ、と拳を握る動作で右手を鳴らし、再度ヌマセイカは天井を睨んだ。
「────天井裏の者達を呼んでもらおうか。私とこいつには少々気に障る」
「お気付きでしたか。さすがはエスデス将軍、そして北の勇者よ」
パチリ、と鳴らされる指のスナップ。
同時にボリックの斜め後方に四人の人影が現れた。
「この者達こそ、大臣お抱えの暴力の化身。皇拳寺羅刹四鬼」
「ほう、帝都に居ないと思っていたが、ここに来ていたのか」
どうやら彼らの事をエスデスは知っているらしい口ぶりだ。まあ、デブに近い立ち位置のため当然と言えば当然か。
「将軍様が、来てくださったお陰で、漸くこの鬼達を攻めに回すことができます」
「!ま、待ってください!ナイトレイドとの戦いに帝具無しでは…………ッ!?」
ボリックの言葉に待ったをかけたセリューだったが、その背後に突如として薄紫の髪をした男が現れる。
振るわれる手刀。そのキレはかなりのモノ。人の首すらも容易く落とせるであろう一撃、だったが
「ウチの部下に手を出すのは止めてもらおうか」
ガッチリと手首を抑えたヌマセイカ。そして男の背後では冷たい殺気を滲ませたエスデスが立っていた。
「そら、手刀を引けよ。握り潰される前に、な」
「…………ッ」
「ソレとも串刺しの方が好みか?ソイツは拷問癖があるからお勧めしないぞ?」
男は先程から身を引こうとどうにか頑張っているのだ。でありながら、ピクリとも動けない。
エスデスの殺気は元より、何よりヌマセイカの握力だ。
動きたくても動けない。血の滲む修練を積んできた自分の体が、線の細い死んだ魚の目をした男の力に劣っている。
その事実が、男、イバラのメンタルを蝕んでいた。そして、それが不味かった。
それは最早反射の領域。
突き出される、捻りを加えた貫手
ほぼ、密着しているといっても良い距離で放たれたそれは、風を切り裂きヌマセイカを穿たんと突き進んでいく。周りが止めようにも間に合わない速度だ。
「!?」
「残像だ」
すり抜けた。というか、そんな所までネタを入れなくても良いのでなかろうか。
同時にヌマセイカの拳がクロスカウンターの要領でイバラの顔面へと放たれる。当然、当てる気は無い。
しかし、態と風を巻き込むようにして放ったその一撃は顔面の直前で寸止めされると同時に荒れた風をイバラへと叩き付けることとなった。
「ほら、どうした?体術に自信があるならこの程度避けるのが普通だろ?」
そしてこの煽っていくスタイル。ニヤニヤとした悪人面は見ていて殴りたくなるモノであった。
「そこまでにしておけ。これ以上事を荒立てるな」
「…………へいへい」
更に煽ろうとしたヌマセイカだったがエスデスに嗜められ、その口を漸くつぐみ、掴んでいた腕も放した。
飛び下がったイバラ。その目には明らかな敵対心が宿っている。
だが、元より仲良くする気の無いヌマセイカとしてはそんなことはどうでも良いというもの。
波乱の初会合はこうして幕を閉じるのだった。
▽▲▽▲▽▲
ヌマセイカ煽り事件(ウェイブ命名)から数日。ここ、キョロクにも不穏な気配が漂い始めていた。
「オオオオオッ!!」
いつものグランシャリオの剣を置き素手で相手に挑むウェイブ。
その相手を務めるヌマセイカは拳のワンツーや蹴りを全て片手で捌いていた。
どうやらナイトレイド戦で思うところがあったらしくこうして格闘戦のレベルアップを図っていた。
「攻めに片寄りすぎだ」
「ブホッ!?」
言いつつ放たれた抉り込むようなリバーブロー。
その一撃は的確にウェイブの肝臓を撃ち抜き悶絶させる。
打撃は吹き飛ばす方が派手で見た目も良いが、その実相手をその場に崩れ落ちさせるモノの方が効果は高い。それは百パーセント打撃の威力が相手に伝わっている証左だからだ。
「前から言ってるだろ。気持ちが走りすぎだ。攻めと守りの比率は5:5が基本。それから相手によって、4:6だったり、7:3だったり変えていくんだ」
「うっ…………ゲホッ!お、オッス!」
返事と同時に仕掛ける。
最初は良いのだ。的確に防御と攻撃を使い分けて攻めてくる。
だが、時間が5分も過ぎれば徐々に攻撃一辺倒となり、10分も経たずにカウンターを貰う、というのが変わらぬ流れであった。
これは偏に帝具の影響だろう。
鎧型の帝具であるグランシャリオは大抵の攻撃は無力化出来る。それこそ、一兵士の武器程度ならば防御姿勢をとる必要もない程度には硬い。
だからこそ、攻撃だけに専念できるとも言える。が、生き残ろうと思うならばソレだけではダメだ。
相手によってはグランシャリオの防御を抜けるだろうし、世の中には鎧通しや兜割りという防御無視の攻撃を扱えるものも居る。
「だから、甘いって」
「…………は?フゲッ!?」
大の字で地面に倒れたウェイブは何が起きたのか理解できない
いや、顎が痛むため殴られたことは事実だ。だが、その結果に至るまでの過程が分からないのだ。
さて、先程何がおきたのかと言えば、ウェイブは顔面に放たれた攻撃をガードしようとした。
しかし、来たのは防御の下から潜り込んで放たれたアッパー。ストレートではなかった。
「な、何したんですか?」
「あん?フェイントだ、フェイント」
「フェ、フェイント?」
「お前、顔面に拳が来るからガードしたんだろ?そこがミソだ」
それは言うなれば殺気による幻影。
拳を振りかぶり、そのタイミングでほんの一瞬だけ殺気を発する。その際に視線でどこを狙っているのかを相手に態と教え、その場をガードさせる。
ガードという防御姿勢をとることで相手は心理的に若干の緩みが出るのだ。
その緩みを狙い撃ちにするのがこのフェイントであった。
「全部が全部、本命でやる必要はネェんだよ。どっちかってぇとどうやって自分の想定通りに相手を動かすか。近距離戦は力だけじゃねぇぞ」
差し出された手をとりながらウェイブはその言葉を反芻する。
成る程とも思う。同時に目の前の男は格闘だけでも自分の数段上。学ぶことが多い。
「も、もう一回お願いしますッ!!」
「うっし、来い」
生き残らせたいキャラが多いです(-_-;)
サブキャラですらアカメは魅力的なキャラが多すぎませんかねぇ…………
だが、ワイルドハント、テメーらはダメだ