勇者が断つ!   作:アロロコン

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新年まで残すところ後僅か。いかがお過ごしでしょうか?

さて、一日に二話目ですからね挨拶はそこそこに
本編を、どうぞ


十六

「……………………」

 

 夜、一人でキョロクの街を見廻りという名の散歩に出ていたヌマセイカは不意に視線を感じた。

 距離は凡そ50メートルといった所。

 流石にキョロクでは、塵外刀をおおっぴらに持ち運べないため素手だ。

 やっぱり槍が欲しい、とか考えつつ彼は曲がり角を直角九十度で急転換しながら何度も曲がっていく。

 上手くいけば撒けるだろうし、それが出来ずとも距離を態と詰めさせる事が出来る。

 更に、少しずつだがその足が速く前へと進む。

 その後、数分と掛からずにヌマセイカはダッシュしていた。忍者もビックリの速度である。

 土煙を巻き上げるような走りではない。地面を爪先で蹴りながら、跳ねるような動きだ。

 何より特筆すべきは、音。まるで猫が駆けているかのように音がしない。

 いつのまにか、場所は移り、キョロク郊外まで出てきてしまっていた。

 その一角である墓地。墓石こそあるが、障害物も少なく見通しが良い場所。

 ここで漸く、ヌマセイカの足は止まった。ザリザリと地面で靴底を削りブレーキを掛け、振り返る。

 

「野郎のストーカーはお呼びじゃないんだがな」

「へっへ、そう言うなよ。天国に連れてってやるぜ?」

「野郎はノーサンキュー。失せな」

「連れねぇこと言わねぇでくれ、よ!」

 

 瞬間、イバラの両手の爪がいきなり伸びた。その速度は弾丸のソレ。

 いつもならばその程度は塵外刀で切り払うのだが、生憎と今は手元にない。

 故に、隠し玉その一、発動。

 

「畳返し、てな」

 

 思いっきり地面に掌を叩き付け、衝撃をコントロールし地盤の一部を起き上がらせる。

 これは即席の盾、と同時に目眩ましだ。

 

「チッ、味な真似をしてくれる…………だが!そんな土壁で俺を止められると思うなよォ!!」

 

 見た目、変態でも皇拳寺の出だ。その体術は一撃で大岩を砕く。

 繰り出される跳び膝蹴り。同時に関節を外して両腕を鞭のように振り回した。

 腕は貫手の形を象っている。掠っただけでも、人体に容易くダメージを入れるイバラの十八番だ。

 果たして、土壁の先にヌマセイカの姿はなかった。

 

「は…………?」

 

 慌てて気配を探るも、この静かな月夜でなぜかその動きは捉えられない。

 不意に影が差した。

 

「上…………!」

「遅い」

 

 気付いたときには、イバラの上には前後逆に肩車の体勢となったヌマセイカの姿。

 彼はそのまま斜めに反り返りながらイバラの頭を足で挟んで捻り落とした。

 プロレスを知るものがその場で見れば分かる大技、フランケンシュタイナー炸裂である。

 辺りに地響きを響かせて、イバラの頭が地面へと突き刺さった。そしてその場をバク転しながら引くヌマセイカ。

 死んではいないだろう、というのが彼の見立てだ。

 地面が硬い、岩場や舗装された道路などならば即死級の破壊力を叩き出せるが、今回は柔らかい土。衝撃が吸収されてしまう。

 

「…………へっへ………随分と派手な技じゃねぇか。危うく石榴になるところだぜ…………」

「なっちまえば良かったんじゃねぇか?」

 

 相変わらず、覇気の無いヌマセイカ。

 確かに皇拳寺の面々は常軌を逸した鍛練を積んで人殺しを極めていくのだろう。

 しかし、相手が悪い。

 

「人間一人殺すのに、複雑な曲芸は要らねぇんだよ」

 

 ゴキリ、と鳴る右腕。一瞬だけ膨張した筋肉が一気に圧縮され血管が太く浮き上がる。

 交差は一瞬。気づけば、イバラは視界の半分を失っていた。

 

(な、にが……………………)

 

 声は紡がれず内に木霊するのみ。彼の意識はそこで途切れた。

 

「良かったな。認識する前に死ねて」

 

 体の右半分を失ったイバラを振り返りつつ一瞥したヌマセイカはそう呟く。その右手には夥しい血と、肉片や骨の名残がこびりつていた。

 何をしたのか。簡単だ。反応されない速度で動いて、イバラの右半身を腕力で引き裂いたのだ。

 皮膚も筋肉も臓器も骨も関係無い。たった一撃で引き裂いてみせた。

 帝具にも奥の手があるように、これはある意味ヌマセイカの奥の手。タイミングによっては、危険種の甲殻すらも一撃で引き裂ける破壊力を誇っている。問題点は

 

「イッテェ!?…………はぁ、ヤダヤダ」

 

 半端無い筋肉痛。それも、指先一つピクリとも動かせないほどの、重度の筋肉痛だ。

 困った、と腕を擦りながらヌマセイカはチラリと近くの森へと目を向けた。

 

「隠れるのは構わねぇが、もう少し巧くやれよ」

「…………普通は気付かないと思うがな」

 

 投げ掛けた声に応えるのは黒髪の少女。

 

「意外に早い再会だな、ナイトレイドのアカメ」

「…………」

「そう警戒するなよ。とって食いはしねぇさ」

 

 ヘラりと左手のみを挙げる。右手はダラリと下がり、プルプルと小刻みに震えるのみだ。

 仮に今ここでアカメと殺り合えば十中八九右腕がお荷物となって死ぬことだろう。

 そして、アカメとしても目の前の男の障害としての高さは認識しているが、生憎とまだ革命軍からの指名手配リストには入っていない為に殺すのは躊躇われる。

 何より彼の立ち位置が微妙すぎた。

 一応、エスデスの部下のような立ち位地だが彼自身が汚職に手を染めている訳でもなく。

 何より帝都においてもそこまで悪評はなく、むしろ助けられた、という声もあるほどだ。

 だが、その戦闘力は無視できない。

 何せ、ナイトレイド全員を相手にしても恐らく善戦してくる。下手したら負ける。

 自然と鯉口に手を掛けていた。

 

「物騒な奴だな。やる気は無いんだがな」

 

 出来ればさっさと右腕を冷やしに戻りたいところなのだ。

 羅刹四鬼を仕留めてしまったが、仕掛けてきたのは相手からだ。何より強ければ死ぬこともなかった。

 その思考に至った際に、オレもエスデス化してる、とショックを受けたのは内緒だ。

 不意に、ある音が彼の耳を掠める。

 

「ん?…………じゃあな」

 

 同時に地面を思いきり踏みつける。

 突然の事態、注意が散漫となっていたアカメはその動きに反応できない。

 巻き起こる土煙。その天辺付近から、一つの影が飛び出した。

 

「悪いな、ラン。回収なんざ頼んじまってよ」

「それは別に構いませんが…………右腕、どうされたんですか?」

「筋肉痛だ。五日はマトモに動かんな」

「何やってるんですか」

 

 ヌマセイカの左手を掴んで空を飛ぶラン。その背には翼型の帝具がある。

 

 万里飛翔 マスティマ

 

 飛行を可能とし、攻撃手段の羽は人体の貫通も可能だ。

 彼の仕事は空中というその機動力を買われた、偵察が主となる。

 そこで今回の一件を空から見ていたのだ。

 つまりは、自身の副隊長が羅刹四鬼の一人を仕留める姿を見ている。が、その上で彼はエスデスへの報告をあげるつもりはない。

 

「まあ、皆からの追撃は甘んじて受けてくださいね」

「気が重くなること言わんでくれ」

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

 余談、というか今回のオチ。

 

 ヌマセイカの右腕が氷漬けにされ、羅刹四鬼の内、3人が殺られるという結果となった。




ヌマさんが本格的に人を辞めてきた件について
ついでにこの男、素手でも十分に強かった
イバラは犠牲になったのだ。噛ませ犬の噛ませにな

そろそろ本格的に場が荒れてきますね
はてさてどうなることやら

では、次のお話でお会いいたしましょう

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