勇者が断つ! 作:アロロコン
お年玉?バイトを初めてから一度も貰っておりませんよ
固い挨拶は抜きにして、皆様、肩の力を抜いて片手間に本編を、どうぞ
ぶん……ぶん……、と風を切る音が朝の空気に響く。
「戻った、か」
ズシリ、と重い音が響くとそんな呟きが小さく聞こえた。
音の出所は、朝日を浴びるヌマセイカ。上半身は黒のインナー、下は裾の絞られたカンフーパンツ、それに素足だ。
彼は右手一本で塵外刀の素振りを行っていた。
筋肉痛が治まるのに一週間、そこから更にリハビリに数日を要して、漸く元のポテンシャルを取り戻しつつある。まあ、二百キロを超える重さの代物を片手で振るえるだけ十分すぎると思うが。
「ま、こんなもおぉ!?」
とりあえず、ここで切り上げようと塵外刀を肩に担ぎ、同時に緊急回避。半拍おいて、先程まで彼の立っていた位置に氷の刃が複数突き立つ。
「ほお、十分に戻ったようだな」
「…………確認のために不意打ちは止めろ。その大きさだと人は死ぬぞ」
氷の刃の刃渡りは50センチを越えていた。
筋肉質だが、胴の薄いヌマセイカならば確実に貫通する長さだ。
「つーか、お前は朝の挨拶でサヨナラを採用してんのか」
「弱者に朝日は必要ないだろう?」
「…………さいで」
もうやだ、こいつ。といつも以上に目を殺しながら、ヌマセイカは長大な柄で降り注ぐ氷の刃を弾き、逸らし、いなし、砕いていく。
それは最早試す、等というレベルの攻撃ではない。下手な危険種では針鼠へと変えられ、人間なら細切れミンチだ。
「なあ、多くね?」
「そんなことはないぞ。ほら、追加だ」
「えぇー…………」
追加された氷柱は太さだけでも人の胴ほどもあり、その鋭い先端はキラリと怪しい輝きを放っている。
冷気の影響だけとも言えない冷や汗がヌマセイカの頬を伝った。
何せ、氷柱の数は一つではなかったのだ。
それこそ、空を覆うと表してもいい数。その切っ先全てが彼へと向けられていた。
「…………正気か?」
一応、問う。その取り繕った外面の中には罵詈雑言が見え隠れしている。
「この程度ならば問題無いだろう?」
返答は予想通り。そして、最悪のものだった。
エスデスの鳴らしたスナップに呼応して、降り注ぐ氷柱達。
対するヌマセイカの動きは早かった。
「塵外刀“釵の型”『風壁』」
柄を分解して振り回すことで球形に近い斬撃の壁を形成していた。
ドガガガッ、と削れていく氷柱達と、無傷の鎖。
最後の一つが砕けたとき、ヌマセイカの周囲は水蒸気で真っ白になっていた。彼の姿も外から見えない。
「──────『飛水』」
だが、言葉は届く。
同時に水蒸気の幕を突き破り塵外刀の刀身が飛び出してきた。
見えてるのか、と思えるほどに正確な一撃は、エスデスを完璧に捉えていた。
「やけくそでは、当たってやれんな」
しかし、超人的なエスデス。正確に塵外刀の峰を見切り、そちらへと回転しながら前進。
その推進力をのせながら抜剣しながら長大な刀身をカチ上げた。
弾丸やスポーツカーにも言えるが、高速で直進する物体は、すべからく横からの一撃に弱い。
角度とタイミングさえ合えば、弾丸も観葉植物の葉で逸らされる。
今回は少し違うが、見切ったエスデスの一撃によって刀身は大きく朝の空へと弾き飛ばされ、一定の高さまで上がると勢いよく蒸気の向こうへと消えていった。
「…………チッ、串刺しになれば良いのによ」
「本気ではない一撃など貰う筈も無いだろう?」
不敵に笑うエスデスを見ながら、ヌマセイカは頭をガリガリと掻く。
そんな二人を、建物の影から覗くイェーガーズの隊員達。
「やっぱ、ヌマさんもエスデス隊長もスゲーや」
「…………ムグムグ」
「あの戦闘力は素晴らしいですね!正義の鉄槌を悪に叩き込むには私もあれぐらいにならなくては!」
「良かった、副隊長の腕も治ったみたいで」
「彼が抜けるのは私達の戦力ダウンにも繋がりますしね」
誰も、自分達の隊長、副隊長が朝から殺りあっている状況に突っ込まない不思議。
どうやら彼等も順調に染まっていっているらしかった。
▽▲▽▲▽▲
2週間。それがアカメとヌマセイカの接触、もといナイトレイドがこのキョロクに入ってきて経過した日数だった。
その間に羅刹四鬼の内、3人が殺られるという事態(一人は味方にやられた)もあったが今は膠着状態である。
ナイトレイド側は密偵が大量に殺られ、身動きが取れず、イェーガーズは情報不足でこちらもまた大きく動けない、何より今回は護衛任務だ。
「まあ、組手ばっかりだがな」
「ハッ!」
「甘ーい」
殴りかかるボルスの拳を逸らしながら脇腹に蹴りを叩き込む。
その後ろから飛び出してくるのはウェイブだ。
「オオオッ!」
グランシャリオ状態でも決め技に位置付けている跳び蹴りを敢行。
この状況で、ヌマセイカはボルスを蹴っ飛ばした反動で完全にウェイブに背を向けていた。
が、世の中そこまで甘くない。
「ほい」
繰り出されるのはソバット。それも下からカチ上げるような軌道で振るわれた足は正確にウェイブの蹴り足を捉えて蹴りあげていた。
「うおあ!?」
上に蹴りあげられたことでウェイブの体は天地逆転する事となる。
そこでヌマセイカは飛び上がった。そしてひっくり返ったウェイブの胴へと腕を回す。
「ゴヘッ!?」
くり出されたパワーボム。ウェイブの上半身は予め柔らかくしてあった地面へと埋まってしまう。
さて、派手な技が決まったところで、そのタイミングを狙っていた者達が居る。
「…………」
「ハァアアア!!」
蛇のように低空から襲い来るクロメの貫手とその反対から飛びかかるセリューの二人だ。
セリューの熊手はまだ対処しやすいが、クロメの貫手はそうも行かない。
掌で止めようものなら下手すれば貫かれる。
「セリューはもう少し殺気を消すべきだな。荒すぎ。クロメは流石暗殺部隊出身だ」
腰を落とした状態で、ヌマセイカは腕を交差させるように突き出し、熊手は手を掴むように、貫手は指の間に自分の指を割り込ませて止めていた。
そして、彼女達の手を掴むと腕を戻してその場で大・回・転。
「よいせー!」
二人の足が地面から平行に浮き上がるまで回るとヌマセイカはバンザイと両手を振り上げた、同時に手を離す。
当然空へと投げ出される二人。
結果、地面に大の字で仰向けに目を回して倒れるセリュー、THE犬神家状態のウェイブ、ふらつきながら膝をついたクロメ、脇腹に手を当て肩で息をするボルス、という散々な状況が出来上がる。
「カッカッカ、まだ負けてはやれねぇな」
そんな彼らの前で腰に手を当て、ニヤニヤと笑うヌマセイカはそんなことを宣う。
今回の組手の目的は帝具無しでどこまで戦えるか、というもの。
発端はウェイブの手合わせから始まった。そこから、イバラに背後をとられた事を気にしていたセリューが加わり、帝具に頼りきりではいけないとボルスが加わり、3人がやるなら私もとクロメが加わり、今に至る。
後はここにランが加わるのだが、生憎と今はボリックとの接待将棋の真最中。エスデスもそちらの付き添いで席を空けていた。
「ほれ、立て。時間は有限だからな」
「副隊長、ウェイブが気絶してます」
「水でもぶっかけろ」
ウェイブの扱いなどこんなものである。
仰向けになった泥だらけの顔に桶いっぱいの水がぶちまけられた。
「ブハッ!?な、何だ!?敵襲か!?」
「よう、起きたか」
目を覚ました時に野郎の面が見える、というのは存外萎えるものがある。
ウェイブも例に漏れず、起き抜けざまに野郎の面を見て、ゲンナリとした顔となった。
「そう嫌そうな顔すんなよ。ほれ、掛かってこい」
言うと同時に顔の横に迫った蹴りを腕でガード。
「いや、お前じゃないから」
「そう差別をするものじゃないぞ、ヌマセイカ。私の相手をしてくれても良いだろう?」
「…………お前、素手でも強いから、ヤダ」
「そう言うな」
バッと離れ向かい合うエスデスとヌマセイカ。
両者自然体で構えはとらない。
それは実戦を想定している為だ。いつでも相手が待ってくれる事などありはしない。
二人はそのまま自然体のまま適当に歩き出す。
都合3歩までは普通に歩み、四歩目で二人の姿が掻き消える。
直後、ドンッ、と右フックと右ハイキックがぶつかり合っていた。
パワーでは腕は足に勝てる要素はない。故にこの場合のアドバンテージは手先の器用さ。
「む………」
エスデスのブーツの表面を滑るようにヌマセイカの指先は動き拳が開かれ鷲掴みとなる。
そして、ガッチリと足を掴んだまま彼は体を開きつつ腕を大きく振るって左回転。エスデスを投げ飛ばす。
これが殺し合いなら全力で近場の岩にでも叩きつけている所なのだが、生憎と今は手合わせだ。加減せねばならない。
上着の裾を抑えたエスデスはふわりと地面に降り立った。
「戯れはここまでだ。見回りに行くぞ」
夜の帳がすぐそこまで来ていた
そろそろイェーガーズの誰かが死にそうな気配。
はっきり言って彼らの場合、生き残らせ過ぎると最後の戦争で少し詰むんですよ(主に正義厨)
嫌いじゃないですよ?綺麗な正義厨さんとかいいと思いますよ?
だが、ワイルドハント、テメーらは綺麗だろうが汚かろうが、ダメだ