勇者が断つ!   作:アロロコン

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そろそろ前書きでも書くことのなくなってきた今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか
挙げるならばアレですね、正月のファミレスはヤバイ、位でしょうか(主に店員の仕事量)

では、肩の力を抜いて、本編を、どうぞ


二十

 いつもならば静謐な空気を内包した大聖堂。しかし今は、そんな空気を叩き壊して激戦が巻き起こっていた。

 

「ヌルイぞ!この程度か!」

 

 1対4。優勢なのは1であった。

 エスデスはデモンズエキスによる氷の生成と圧倒的な戦闘能力でナイトレイドを蹂躙していく。

 その再生能力に目をつけられたレオーネは文字通り刻まれ、それを防ぎに入ったインクルシオは蹴りによって壁に叩きつけられ沈黙。

 スサノオは全身を氷に閉じ込められ、ナジェンダは当て身を食らいダウンしていた。

 

「…………えげつない」

 

 その光景を巻き込まれないように引いて見ていたヌマセイカはまさにドン引きといった様子でそう呟いた。

 お前が言うな、と言われそうだが彼は相手を甚振るぐらいならば瞬殺してやる主義だ。

 さて、大聖堂で起きる激戦。それは外でも同じだった。

 

「仲間は殺らせねェ!!」

 

 グランシャリオを纏ったウェイブが気炎を上げてナイトレイド三人を相手しながら圧倒していた。

 アカメの村雨は鎧の強度で無効化。マインの狙撃はここ最近で鍛えられた勘と反射神経でかわし、ラバックの糸も同じく捌いていく。

 心は熱く、思考はクールに。その捌きは的確だ。

 

「何で当たらないのよ!?」

 

 マインからの狙撃。前までの彼ならば数発は被弾していた事だろう。

 だが、今のウェイブはひと味違う。

 

「ヌマさんの拳の方が速い!!それに強いぜ!」

 

 比較対象がおかしい。

 そも、人類の拳と弾丸が同格なのがそもそもおかしい。まあ、パンプキンは衝撃波を打ち出すモノだがそれにしたって、ねえ?

 だが、ウェイブからすればヌマセイカの拳は一種のトラウマレベルらしい。

 まあ、拳で帝具の防御ぶち抜かれれば誰しもトラウマかそれに近いものは患うのも無理からぬ事かもしれない。

 

「遅いッ!!」

「ガッ!?」

 

 ウェイブの蹴りがラバックを捉えて蹴り飛ばす。

 彼が鍛えたのは足を重点とした格闘能力。それは単純な攻撃力だけではない。

 常に格上の相手と戦い、衝撃の緩和や受け方を学び、そしてバネのような足腰を手に入れたのだ。

 蹴りの破壊力は増し、耐久性は更に増した。

 だが、彼らナイトレイドにとってはここは死力を尽くす場では無い。

 

「二人とも先に行け!」

「ッ!行かせ何ッ!?」

 

 ラバックが帝具の糸によってウェイブを押さえ付けると二人を先へと進ませる為に叫んだ。

 当然、ウェイブとしては糸を引きちぎって追おうとする、がこの糸はそんじょそこらの強度ではなかった。

 

 千変万化 クローステール

 

 両手装着の糸の帝具であり、ラバックの器用さも相俟ってそのポテンシャルは高い。

 そして今、ウェイブを縛るのは奥の手である界断糸と呼ばれるモノ。これは素材となった危険種の毛のなかでも急所を守る為に生えていた部分だ。まず、切れない。

 その糸を自身が叩き付けられた木に縛り付け、そこでラバックは限界を迎えたらしく倒れてしまった。

 

「く………そ………!とれねぇ!」

 

 鎧のお陰で刻まれる事はないが全くもって拘束が外せない。

 その間にもアカメとマインの二人は駆けて進んでいく。途中で帝具使いのチンピラが居たのだが、能力を発動すること無く村雨の前に沈んでいった。

 

 さて、場面は戻って大聖堂。再生するとはいえ傷の深いレオーネはダウンしてしまったが、スサノオの奥の手を発動して天叢雲剣でエスデスを狙ったところだ。

 

「当たらん、か」

 

 何枚もの氷の障壁が床から突き出て、剣はその壁を破ること無く途中で止まってしまった。

 剣の衝撃で、ボリックを狙ったのだが、そこにはヌマセイカが居る。塵外刀で衝撃は阻まれ届いてはいなかった。

 

「無事か、クロメ」

「…………はい。問題ないです」

 

 クロメの返答を聞き、ヌマセイカは再び目の前の戦いに目を戻した。

 熱戦、というかナイトレイドにとっては死力を尽くして戦う場なのだが、イェーガーズにおいてはそうでもない。特に、隊長、副隊長の人外コンビからすれば護衛戦というのはやりづらくてしょうがなかった。

 特にヌマセイカはいい加減終わらないか、とか思っている。

 

「ん?」

 

 不意に差す影。見上げればいつの間にやら奥の手発動中のスサノオが目の前に居るではないか。

 3種の技のうち、高速移動を可能とする八尺瓊勾玉である。

 相手をしっかりと見ていたスサノオは気付いていた。今一、ヌマセイカはこの戦闘に身が入っていなかったことを。

 

────とったッ!!!

 

 動きの鈍いヌマセイカとクロメでは距離的にギリギリ届かない。スサノオは拳を握り締め

 

「私の前で全てが凍る」

 

 小さな呟き。

 

「“摩訶鉢特摩”」

 

 バキリ、と空間が軋んだ。

 誰もその場を動かない。というか動けない。

 この場で動けるのはただ一人。

 

「時空を凍結させた。ふふっ、タツミを捕まえるために編み出した奥の手だ」

 

 カツカツとヒールを鳴らして、エスデスは歩んでいき、その途中でサーベルを抜き放った。

 

「今のところは一日に一度が限界だ。しかし─────」

 

 止まったスサノオの背から肉体を貫通するように貫かれた刃。

 

「十分だと思わないか?」

「な…………に…………!?」

 

 スサノオの肉体が瞬く間に氷に閉じ込められていく。だが、今回はそれでは終わらない。

 

「ハッ!」

 

 振るわれた蹴り。エスデスの氷は見た目だけの作用ではない、相手を凍らせることで脆くしているのだ。

 結果、スサノオの体は木端微塵に砕け散り、コアが飛び出し転がる。

 それは無惨にもエスデスによって踏み砕かれた。

 詰んだ。ナイトレイドに打てる手は、この場の面子では持ち合わせていない。

 ボリックが何やら騒ぐなか、ヌマセイカは舞台に腰を下ろしていた。

 舞台の端から足を下ろし、右足首が左太ももに乗るように足を曲げ、その上で頬杖を突き、塵外刀を舞台の下の床にブッ刺す。

 同時に天井辺りのガラスが砕ける。

 現れるのは、アカメとマインの二人組だ。

 

「これは…………!」

 

 倒れ伏す仲間達。しかしアカメは冷静だった。

 反応したエスデスの攻撃をマインが撃ち落とし、その間にアカメがボリックを殺しに動く。

 更に復活したインクルシオがエスデスを抑えにかかり、不用意に動いたボリックをレオーネが捕まえる。

 

「お姉ちゃんッ!」

 

 クロメが迎撃に動くが一歩遅い。ならば、ヌマセイカ、となるがそちらもマインの連続の狙撃を受けて吹っ飛ばされていた。

 完全に気を抜いていたために塵外刀でガードする間もなく吹き飛び仰向けにぶっ倒れたヌマセイカ。モクモクと白煙が上がっている。

 その間にも、村雨の斬撃がボリックの喉笛を掻き切っていた。

 

「!…………任務失敗か」

 

 苦い表情で呟くエスデス。突如、彼女の背後に湧いた大きな存在感。

 振り返れば、先程コアを破壊したはずのスサノオが復活していた。

 

「三度目の………禍魂顕現だ……!!!」

 

 ナジェンダの放ったキーによってスサノオの奥の手が発動したのだ。

 彼女の言う通り三度目であるが、無理な重ね掛けによって発動したためにナジェンダの命を削りきるには至っていなかった。

 

「…………イッテェな」

 

 ナイトレイドは逃げるのみ、というところで最悪が目を覚ます。

 

「嘘でしょ…………帝具の一撃で殆ど無傷だなんて…………!」

 

 顔こそ少し煤けているが致命傷の一つも受けてはいなかった。

 やはり、ヌマセイカ、危険種よりも危険種している副隊長なだけはある。

 だが、ナイトレイドは既に後は逃げるのみなのだ。

 殿として残る、スサノオ。彼は仲間を天井に空いた穴より投げ逃がすと、そこを八咫鏡で塞ぎエスデスと相対した。

 本来ならば追うのが正しいのかもしれないが、戦士には敬意を払わねばならない。

 再び、先程と同じ場所に座り直したヌマセイカは膝をついていたクロメを塵外刀の柄で回収し、脇におき、死闘を見物するのだった。




今回仕事を殆どしなかったヌマさん。
いや、ラスボスクラスを二人同時相手とかナイトレイドでも速攻終わりますし、ね?

そして、次辺りに奴等が来ます。
まあ、未来はお察しですがね

では、次のお話でお会いいたしましょう

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