勇者が断つ!   作:アロロコン

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さてさて、原作もそろそろ終盤に差し掛かってきましたね
これは三十話行く前に終わるのではないでしょうか?(希望的観測)

何はともあれ、本編をどうぞ


二十一

 ボリック暗殺から暫く経った頃。

 

「…………あー…………終わらねぇ」

 

 頭から蒸気を上げるヌマセイカは机に突っ伏していた。その傍らには書類の山が出来上がっている。

 更にその隣ではランが目の下に隈を作って、書類を処理していた。

 現在、イェーガーズはその仕事を帝都の見廻りと書類に固定していた。

 というのも、隊長のエスデスが西の反乱の討伐に駆り出されたからだ。

 その、付き添いとしてボルスが向かい、見廻りをクロメとウェイブ、そして書類をランとヌマセイカの二人が担当していた。

 

「…………」

「大丈夫かー、ラン。面が死んでるぞー」

「副隊長こそお休みになられては?書類仕事、慣れていないでしょう?」

「少なくとも、ウェイブとクロメよりは出来るさ」

「…………あの二人は実働部隊ですから」

 

 ランは眉間を揉みながら苦笑いしてそう言った。

 実は最初は四人でやっていたのだ。

 だが、クロメは甘党ゆえにお菓子片手に書類に向かい、ウェイブは一枚に掛かる時間がランの3倍、ヌマセイカの2倍掛かった為にクビとなっていた。

 

「…………せめて、ボルスが居りゃあなぁ…………」

 

 ここで、エスデスの名前が出ないのは、まあ、お察しである。

 逆にボルスはその真面目さも相俟って大抵の仕事はそつなくこなす。

 まあ、二人が辟易しているのは何も書類のせいだけではない。

 壁にかけられた時計が正午過ぎを知らせる頃、それは起きるのだ。

 ピクリ、と野生で鍛えられたヌマセイカの耳がその音を拾った。

 露骨に顔をしかめることは無いが、どこか困ったようなそんな表情。それに気付いたランも似たような表情を浮かべた。

 

「ヌマおじちゃーん!ランせんせー!」

「こんにちはー」

 

 今日もやって来た小さな乱入者。

 ヌマセイカが椅子ごとそちらを向けば、鳩尾に頭突きが叩き込まれた。

 当然ながら腹筋に力を入れれば岩のように固いため力を抜いて受けることとなる。結論、結構痛い。

 

「じょ、嬢ちゃん?いつも言ってるよな?飛び込むなって」

「おじちゃん肩車して!」

「……………………はいはい」

 

  ヌマセイカは言っても無駄か、とため息をついて椅子を降りると腰を下ろした。

 嬉々としてローグは、折られた膝を足掛かりにヌマセイカをよじ登り、ムフーッと満足げな様子でその肩に収まった。

 その様子を並んだランとボルスの妻であるマリアが微笑んで見ている。

 これはボルスが自分の妻子を思っての取計いの結果だ。

 ここ最近の帝都は前にも増して治安がクソになっている。警備隊でも手が回らず、ウェイブとクロメでもすべてをフォローすることはできない。

 ボルスは覚えていた。自身の心情を吐露したとき、自身の副隊長が頼れと言っていたことを。

 現にヌマセイカはその件に関して二つ返事で了承した。

 それはもう、土下座を敢行しようとしたボルスが拍子抜けするほどにアッサリと了承したのだ。

 迎えは兵士に行かせ、帰りはイェーガーズの誰か、もしくは全員で護衛して家まで送る。

 過剰な反応にも見えるが、マリアはそれだけ美人であり、何よりその娘のローグと彼女に何かあればイェーガーズの面々は罪悪感でメンタルがへし折られかねないほどお世話になっているのだ。

 義理は通すのが彼らである。

 因みにエスデスもその事は黙認している。というか、護衛の兵士はエスデス自らが選抜した者達だ。

 彼女は珍しくもマリアを気に入っていた。何というか包容力と言えば良いのか、仮に彼女とその娘に手を出す輩が居ればイェーガーズ総出で叩き潰される事は確定である。

 危険種よりも危険種している副隊長を筆頭に、元暗殺部隊の精鋭、ドS隊長に完成された強さを持つと言わしめた元海軍、そして頭の回りはピカ一であり一歩引いてすべてを見れる元文官。

 そしてその四人全員が帝具使い(一人は擬き)。皇帝の護衛も越えるほどの超警戒体制である。

 まあ、得てしてそういうときに限って問題ごとは舞い込んでくる。

 

 

 ◇▲▽▲◇

 

 

「いや、駄目だろ」

 

 交渉(物理)で集めてきた資料を机に置いたヌマセイカは椅子の背凭れに体を深く沈めて頭を掻いた。部屋の隅ではローグとクロメが戯れ、それをマリアが微笑ましそうに見ている。

 対して机についた男衆は苦い表情だ。

 

「シリアルキラーに海賊、元魔女に人切り、錬金術師と大臣の息子、ですか」

「治安維持とは名ばかりのチンピラ集団じゃねぇか」

「けど、大臣の息子って所で誰も言えないみたいっすよ」

「終わってんなー、この国。末期癌だぜ、コリャ」

 

 明らかに非国民のような発言だが、ウェイブもランもそこは突っ込まない。

 元よりヌマセイカの忠誠心の無さっぷりは周知の事実なのだ。

 というより、ランは資料の一つから目を離せなかった。

 それはシリアルキラーのピエロのモノだ。

 

「…………」

 

 内心で燻る、憎悪の炎。その激情は筆舌に尽くしがたいものがある。

 当然、まあまあな時間を共にしてきた二人が気づかないはずもない。

 

「ラン」

「……………………!は、はい、何でしょうか」

「無駄死には許さねぇって言ったよな?」

「…………復讐をやめろ、とは言わない方でしたね」

「完全には肯定しないがな。オレだって人間だ、感情論も認めてる」

「でしたら─────」

「その前に、だ。今後の方針、というか、まあ決めたことを話しとこうと思ってな」

 

 ランの言葉を遮り、ヌマセイカはニヤリと笑った。

 

「オレは────────」

 

 語られる、方針という名の決定事項。

 衝撃的な内容だった、しかしある意味では納得の内容だ。

 現に、ウェイブにもランにも、そしてクロメにさえも、動揺のどの字も無い。

 

「─────ま、こんなところだ。ボルスには既に伝えてある」

「…………まあ、何というか」

「予想通りでしたね」

「うん」

「おう、オレはお前らがオレのことを少なからず理解してくれて嬉しいぜ」

「では、直ぐにでも?」

「んー…………そりゃ未定だな。相手次第だ。それまでは、ランも堪えてくれ。少なくとも…………コイツら何てったか?」

「ワイルドハント、ですね」

「……………………その何たらが派手に動けばナイトレイドも動くだろ。そこで漁夫之利を浚うような進言をして、デブにこっちの動きを黙認させる」

「それまでは…………」

「いつも通り、見廻りと書類のデスマーチ続行だな」

 

 その直後、ヌマセイカとランの二人はフッと笑い目が死んでいくのだった。

 

 

 ◇▲▽▲◇

 

 

 ワイルドハント。彼らの横行は留まることを知らない。

 

「…………」

 

 カタカタ、コツコツ、と止まらない貧乏揺すりと、机とぶつかり続ける指先。

 

「ヌマさんッ!」

「落ち着け、バカ。暇ならローグの相手でもしてやれ」

「ウェイブお兄ちゃんあそんでくれるの?」

「おう、ローグ。アイツの髪毟ってやれ」

「はーい!」

「手伝う」

「え、ちょ、何でクロアァアアアアアアアアアアーーーーー!!??」

 

 野太い男の絶叫が響き渡った。

 

「……………………はあ、やっぱウルセェ」

 

 カリカリと指で頬を掻いたヌマセイカはローグとクロメに絡まれるウェイブにため息をついた。

 あの日から数日、ワイルドハントの横行が止まらず、特にウェイブはそのストレスを溜め込んでいた。いや、それはイェーガーズ全員がそうなのだが、その中でも感情が表に出やすいウェイブが派手なだけだ。腸が煮えくり返りそうなのは皆同じ。

 

「あの、ヌマセイカさん」

「…………ん?帰るか?」

「ええ、そろそろ」

「んじゃ、今日はオレが送っていこう」

 

 ヌマセイカが椅子を立てば、目敏くその事に気付いたローグが突撃してきた。

 

「おじちゃん!おうち来るの?」

「…………送ってくだけさ。それとおじちゃんじゃ…………」

「おじちゃん、肩車!」

「…………はいはい」

「すみません、娘がワガママを…………」

「気にせんでくれ。ボルスにも言ったが、子供の駄々を許すのが大人の仕事だ」

「しゅっぱーつ!」

 

 

 ◇▲▽▲◇

 

 

 夕暮れの町を行く3人。そんな彼らの行く手を阻む、6人の影。

 

「マリアさん、ローグ、オレの後ろに。離れるなよ」

「は、はい…………」

「おじちゃん…………」

 

 二人を庇うように前に出たヌマセイカは拳を握った。

 

「へぇ…………いい女じゃねぇか」

 

 顔に大きな傷のある男、シュラが舌舐りする。その目には、ヌマセイカの姿など映っていない。彼こそ、大臣オネストの息子だ。

 

「うぅ…………」

「アアアアアアアアアア!!!」

 

 異常さを幼いながらも感じ取ったローグがほんの少しだけ顔を覗かせてヌマセイカのコートの裾を掴む。

 途端に、デブピエロが奇声を上げて駆けてきた。単純に言ってその姿は、気持ち悪い。

 男の名はチャンプ。ロリショタ限定のシリアルキラーである。変態である。

 彼の目にもヌマセイカは映らない。ただ、邪魔であるため殴り壊すだけだ。

 そして

 

「寄るな、豚が」

「ぶぎぃ!?」

 

 そのピエロの面にヌマセイカの拳が深々と突き刺さった。

 さて、この男はっきり言ってやる気は無く、目も常に死んでいるが、血の気は結構多い。

 そして目の前に立つのは秘密警察の皮を被ったチンピラ集団。更にローグとマリアを怖がらせた。

 ギルティである。

 

「テメェ…………!俺たちが誰だか分かってんのか…………?」

「親父の威光におんぶにだっこの七光チンピラだろ?」

 

 ピキリ、とシュラの蟀谷に青筋が浮かんだ。精神が子供でプライドばかり高いこの男にとって他人からの挑発は看過できないものなのだ。

 

「殺れ」

 

 命令は短文にして簡潔。背後の四人が一斉に動き出す。

 最初に接敵したのは着物姿の男、イゾウ。帝具使いではないが刀の扱いに長けた生粋の人切りだ。

 振るうは神速の抜刀術。鯉口が斬られ抜かれ───────なかった。

 

「なに…………!?」

「刀剣使いは抜かせなきゃいい。常識だぜ?」

 

 抜き手を抑えたヌマセイカは少し仰け反ると、彼の顔面にヘッドバット。怯んだ所で、延髄に跳び廻し蹴りを叩き込む。

 着地の硬直。そこを狙ったのは曲刀の帝具を持つ、海賊エンシン。

 

 月光麗舞 シャムシール

 

 効果は振るうことで真空の刃を飛ばすことが可能だ。

 

「死ねヤァ!!」

 

 二連撃。だが、ヌマセイカは焦らない。

 

「借りるぞ」

 

 気絶したイゾウより彼の愛刀を回収し抜き放つ。

 構えは右手一本による渾身の突き。某剣客漫画の悪を即行で斬る男の必殺の構えに似ていた。

 エンシンは嘲笑う。普通の刀で帝具の攻撃を無効化出来るものか、と。

 果たして、

 

「──────フッ!」

 

 小さく息を吐くと同時に放つ突きは、周りの空気を巻き込むように突き進み、真空の刃に当たると同時にその中に巻き込んだ空気を流し込んでいた。

 真空状態だからこそ刃として効果があるのだ。ならばそこに空気を流し込んで元に戻してしまえば良い。

 言うは易く、行うは難し。しかし彼はその絶技をやって見せた。

 

「二人目」

 

 エンシンには何が起きたのか分からない。ただ、激痛と同時に意識を手放した。

 何の事はない。呆けるエンシンの隙をついて、ヌマセイカが距離を詰め蹴りを鳩尾へと叩き込んだだけだ。

 指先を纏め、ピンと伸ばされたその一撃は人の肋を容易くへし折り、内臓にダメージを与える。

 ヌマセイカは止まらない。次の標的は、ウサミミを着けた、眼鏡の女コスミナ。

 

 大地鳴動 ヘヴィプレッシャー

 

 マイク型の帝具であり、これを通して発せられた超音波は相手の全身の骨を折り砕く力がある。

 彼女は息を吸った。そうせねば帝具を使えないため。

 

「ッ!?」

「隙だらけだ」

 

 ヌマセイカは熊手で構えた掌底を彼女の喉へと叩き込んだ。これで、声が出ることはない。

 パクパクと金魚のように口を動かすコスミナを無視して、その胴にめり込む程の威力の拳を見舞う。

 ギシリ、と体が軋み捻り突き出す拳によって彼女の体は吹き飛び、近くの壁へと叩きつけられめり込んでしまう。

 

「テメェエエエエエエヨクモォオオオオオオッ!!!」

 

 そこで復活したチャンプ。怒り任せにヌマセイカへと飛び掛かる。

 そして、気付けば顔面に靴底がめり込んでいた。

 

「雑魚は引っ込んでろ」

 

 足を振り上げたヌマセイカに撃墜されたチャンプは再び泡吹いて伸びてしまう。

 残るはシュラとそのとなりのロリババア、ドロテアのみ。

 

「おい、どうしたよ七光。テメェは来ないのか?」

「…………ッ!!」

 

 安っぽい挑発。しかし、シュラは動けない。

 自分の選りすぐったメンバーは歯が立たず、尚且つこの男、素手だ。

 ここまで来てシュラは漸く誰に喧嘩を売ったのかを理解した。

 元北の勇者 ヌマ・セイカ

 帝国最強と名高いエスデスとほぼ互角の実力者。

 ただの負け犬だとシュラは思っていたのだ。負けて、エスデスの下についた負け犬。自分の敵ではない、と。

 だが、蓋を開けてみればどうだ。帝具使いを素手で仕留め、あまつさえ余裕を見せている。

 

「ッ、俺は大臣の息子だぞ!?この意味が分かって─────」

「知るか」

 

 最後まで言われること無く、あらゆる武道に精通したシュラに一瞬の反応も許さず、その顔面に拳が突き刺さり殴り飛ばされる。

 軽く十メートルは飛び、仰向けに倒れるシュラ。立ち上がることは、無い。

 ヌマセイカは隣のドロテアへと顔を向けた。

 

「お前もやるか?」

「…………ッ!………ッ!」

 

 腰が抜けたのか尻餅をつくドロテア。勝てる勝てないの次元ではない。生殺与奪の権利はこの場において全て目の前の男が握っているのだから。

 彼女の反応を見たヌマセイカは再び起きないシュラへと顔を向ける。

 

「次、この二人に手を出してみろ。その時は、お前ら全員に────最も惨い死に方をくれてやるよ」

 

 星が輝き始めた空の下、勇者は脅す。

 その目は酷く、冷たかった。




ボルスの奥さんって名前何なんでしょうか?
一応、娘はウィキに載ってたんですけどねぇ

因みに言っておきますがワイルドハント死んでませんからね?少なくともクソピエロはランが殺らなきゃいけない相手ですし、ね?

それでは次のお話でお会いいたしましょう

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