勇者が断つ!   作:アロロコン

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そろそろ物語が終盤近くなってきましたね
まあ、特に言うことも無いので、本編を、どうぞ


二十二

「というわけで、釣りに行くぞ」

 

 それは唐突だった。割りと常識を外にポイしているヌマセイカ。彼の行動は時折突飛である。

 だが、今回に関してはその括りではない。一瞬呆けた3人だったが直ぐにパタパタと動き出す。

 まあ、彼の手に塵外刀が握られている時点で何を釣るかはお察しなのだが。

 

「あ、ウェイブとクロメは警護を頼むな?」

「「!?」」

「釣りはオレとランの二人で行く」

「な、何でですかヌマさん!!」

「私もお役にたてます!!」

 

 詰め寄ってくる二人に、少し仰け反りながらヌマセイカは空いている手の指をたてた。

 

「ローグとマリアの護衛に行ってほしいのさ。釣りは帝都の外でやる。もしもの時、あの二人に何かあったらボルスに申し訳ねぇからな」

 

 そう言われれば口をつぐまざるをえない。二人とてあの親子には幸せになってほしいのだ。

 黙った二人の頭に手を置き、ヌマセイカはガシガシと荒く撫でる。

 

「そう、不貞腐れるなよ。頼りにしてんだから」

 

 歳が近いはずなのに、この余裕と包容力。だから、ローグにおじちゃん等と言われるのだろう。

 撫でられていた二人は彼から離れるとこそこそと口を開く。

 

「ヌマさん、アレだよな」

「うん、ちょっとおじさんっぽい」

「でも、18なんだよな」

「年齢詐称…………?」

「ビールとか一気呑みするよな」

「絡みがオジさん」

「あー、確かに」

「聞こえてるからな?」

 

 顔付き合わせていた二人の後頭部を掴むと、ヌマセイカはその掴んだ手を動かした。

 ゴスッ、と小さな音が鳴りぶつかった二人は声もなく突っ伏してしまった。

 

「戦う前からダウンさせないでくださいよ」

「言うがな、ラン。お前は少し肩の力を抜け。最初から力んでたら肝心なところで死ぬぞ」

「……………………ふぅ、落ち着いていたつもりだったんですがね」

「目が血走ってたぞ」

 

 ランの背を軽く叩き、ヌマセイカは扉を押し開けるのだった。

 

 

 ○◇▲◇○

 

 

 帝都の郊外。その更に外側。城壁の外。

 

「甘露、甘露。こいつは当たりだな」

 

 革袋に口をつけて、ヌマセイカは中味を煽る。

 現在彼は地面に塵外刀を突き刺し、木に登って月見酒と洒落こんでいた。

 そんな無防備な背中を狙う影がある。

 

「ッ……………あの野郎…………!」

 

 己の鳩尾を抑えたエンシンはギリッと歯軋りする。

 その目には憎悪の炎が燃えたぎっている。

 

「でも、良い男だよねぇ。死ぬ前にヤっちゃおうかなぁ~」

「…………コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスゥウウウ!!!」

 

 彼の隣には舌舐りするコスミナとバーサクスイッチの入ったチャンプの姿。

 3人が睨むのは、悠々と酒を煽るヌマセイカの首。因みに独断である。

 

「野郎の首を獲らなきゃ、こっちも収まりがつかねぇんでな」

 

 チャキリ、と満月の元、シャムシールの刀身が妖しく煌めいた。

 この帝具は月齢によって威力が変動する。そして、満月の時、その鋭さは最高潮を迎えるのだ。

 

「あの時は邪魔されちゃったけど。今回は私の歌を聴いてもらうからね~♪」

 

 コスミナは大きく息を吸い込み溜める。

 

「クソは焼却だァアアア!!」

 

 チャンプが取り出すのは六つの球で構成された帝具。

 

 快刀乱麻 ダイリーガー

 

 それぞれに属性が付与されており投げると発動。そして自動的に手元に戻ってくる。

 当然、そんな帝具の使い手なのだ。コントロールだけでなく、肩の強さにも自信があった。

 

「オオッラァ!!」

『フルパワーーーーーッ!!!』

「シネェ!!!」

 

 剣閃、超音波、投擲。その全てが、ヌマセイカの背へと向かい

 

「下手くそが」

 

 そんな呟きは、3人には届かなかった。

 爆発、斬撃、圧力。それら3つがぶつかり、炸裂する。ヌマセイカの座っていた木も刻まれ、へし折られ、爆散してしまった。

 その光景に気をよくする3人。だが、所詮はこの程度。

 

「塵外刀“釵ノ型”」

 

 避けられるギリギリを狙われた一撃が空から降ってきた。

 狙い通り、回避する3人。だが、二対一に分断されてしまう。

 

「んじゃ、ラン。約束通りくれてやるよ、ソイツ」

「…………ええ、感謝します副隊長。お気をつけて」

「お前も油断すんなよ。首はねて殺れ」

 

 ここまで全て、この二人の作戦通りだった。

 ヌマセイカとラン、二人がそれぞれ相手に書類を突きつける。

 

「海賊エンシン、魔女コスミナ」

「シリアルキラーチャンプ」

「お前らに逮捕状だ」

「まあ、名ばかりの処刑状ですがね」

 

 行って二人はクルクルと丸めると懐へとそれらを直した。そして構える。

 

「…………何寝惚けたこと言ってんだ?俺達は────」

「ワイルドハント、貴殿方はやり過ぎたんです」

「言っとくが、こいつは大臣も認めたことだ。弱い手駒は要らないらしいな」

 

 そう、オネストは自身の足を引っ張るモノは必要ない。それが息子の部隊であっても、だ。

 如何に相手が危険種よりも危険種している勇者であっても、素手相手に負ける帝具使いなどお話にならないのだ。

 とはいえ、今のところ逮捕状と言う名の処刑状はこの3人のモノしかない。仮にこの3人以外が釣れれば適当に煽るように半殺しにして更なる挑発に使おうとヌマセイカは考えていた。

 

「んじゃ──────」

「──────行きましょうか」

 

 これ以上の問答は不要。二人は前へと飛び出した。

 

 

 ○◇■◇○

 

 

(クソが………!帝具を投げる隙がねぇ!)

 

 そのデップリとした体型に似合わず、チャンプは思いの外機敏だった。

 今もランの放つ羽の攻撃を辛うじて避けている。

 だが、その逃げ場は意図して彼の開けた場所だ。

 その気になればランはチャンプを瞬きの間に羽玉に変えることが出来る。

 暫く、逃げる追うのやり取りが続き、いつのまにか廃墟の中へとチャンプは入り込んでいた。

 その一歩目、何かを踏む。

 

「な、ギャアアアアアアアッ!?」

 

 響く絶叫。見れば、チャンプの右足、膝の少ししたに凶悪な歯を備えたトラバサミが食いついているではないか。

 思わず前に倒れ込んでしまい、また、触れる。

 

「ァアアア!?」

 

 今度は左の肩口に矢が突き刺さった。

 

「な、何でだ!?何で矢の一本がこんなに痛い!?」

「…………罠には全てある花の花粉を塗りつけてあります」

「花ァ!?」

「ええ、私の隊長が育てているモノでしてね。数株譲り受けたんですよ」

「だ、だからそれが──────」

「その花粉は傷口に触れることで拷問にも使えるほどの激痛を触れた相手に与えるんですよ」

 

 言いながらランは羽を飛ばしてチャンプの足をズタズタにしていく。

 片足には錆びたトラバサミ、そしてもう片方の足にはザクザクと羽が突き刺さってしまい彼の機動力はその9割を削がれてしまった。

 後は両腕だが、生憎と左腕は肩に刺さった矢によって指先を動かすだけでも激痛が走る。

 実質右腕だけなのだが

 

「ギャアアアアアアア!?お、俺の腕ぇエエエエエエ!!」

 

 ランが手元に張られていた糸を断ち切れば、天井辺りから降ってきたギロチンによってチャンプの右腕、肘から先が切り落とされた。

 だめ押しに、密着する刃には件の花粉が塗り付けられており、発狂しかねない程の激痛が彼を襲っていた。

 

「言っておきますが、まだまだ序の口ですからね?」

 

 この廃墟は言わば拷問室も兼ねた処刑場。

 帝都からも距離があり、どれだけ騒ごうとも誰も気付くことはない。

 彼だけの城。

 彼だけの復讐は、終わらない。

 

 

 ◇◇■◇◇

 

 

 ところ変わって、ヌマセイカはというと。

 

「…………夜は寝るもんだよなぁ」

 

 地面に塵外刀を刺し、鍔の辺りに腰掛けて欠伸をしていた。

 側に転がるのは辛うじて生きている、エンシンとコスミナの二人。

 既に帝具は彼らの手にはない。どちらも、ヌマセイカに没収され彼の手の内だ。

 正直な話、戦闘にすらならなかった。

 シャムシールの強みは斬撃を飛ばせること。

 ヌマセイカはそれを、塵外刀でやって見せた。

 ヘヴィプレッシャーの強みは超音波による圧倒的な圧力だ。

 ヌマセイカはそれを、音は波だと彼理論を展開しながらぶった切った。

 危険種よりも危険種している変態副隊長の面目躍如である。

 後は素手でタコ殴りであった。因みにタコ殴りとはタコを調理する際にボコボコに殴って柔らかくすることから来ている。

 つまり、あくまでも二人は生きている、だけ。

 骨は砕かれ、皮膚は裂かれ、至るところから血が流れ、むしろ生きていることが辛い、という状態だ。

 しかし、殺さない。

 ヌマセイカの中で、ワイルドハントはそれだけ気に入らない相手だったらしい。

 不意に、彼の野生動物顔負けの聴覚が野太い男の気持ち悪い悲鳴を拾った。

 彼は少し顔をしかめて、酒を煽る。

 

 夜空の月と星だけがこの日の惨劇を知っている

 

 ワイルドハント、残り3人




悪いな、チャンプ。屠殺に情は要らないんだ。
さて、ワイルドハントを蹂躙させていただきましたね
因みに一番酷い死に方をするのはシュラですので、あしからず

皆様の感想は常に楽しんで読ませていただいています。
時折返答も返しますので今後ともよろしくお願いいたします

では、皆様、次のお話でお会いいたしましょう

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