勇者が断つ! 作:アロロコン
ですが止めません。何となく書き始めると止めづらくなりますね。
では、本編を、どうぞ
その日、シュラは機嫌が悪かった。その凶悪な面構えと相俟ってすれ違う者達が顔色を悪くする程の怒気だ。
それもこれも、精鋭として集めた手駒がわずか一晩で3人も殺られたことに起因する。
殺ったのは、ナイトレイド。ということになっていた。
しかし、シュラは知っている。本当の犯人が誰かを知っているのだ。
(ヌマ・セイカ…………!)
ナメたまねをしてくれる、と内心で毒の限りを吐き尽くし、更に機嫌は急転直下の一途を辿る。
だが、責めることは不可能だ。何せ、自身の父であるオネストすらもあの男には一歩引いている。
今回のいざこざも、完全に他人事だ。
何より、ヌマセイカの名前を出した時点でオネストはこの件の擁護を完全に放棄していた。
曰く、眠れる獅子を起こすべからず、らしい。
シュラとて、その実力は身をもって体験している。だが、それを受け入れるかどうかは別だ。
(手柄、そう、手柄だ。アイツよりも上の手柄を立てれば…………!)
彼は失念している。
言ってはなんだが、ヌマセイカの戦果はそれほど良いものではないのだ。
ならば何故、オネストが警戒しているのか。
エスデスの配下だから?否。
戦闘能力の高さ?否。
それは彼の縛られない在り方。政治という矛を正面から潰してくるのがヌマセイカなのだ。
シュラはそれを失念していた。いくら彼が、それこそナイトレイドの捕獲などを行ったとしても、ヌマセイカの扱いには届かないのだ。
◇■○■◇
「……………………えっきし!」
赤くなった鼻を擦り、ヌマセイカは鼻をすすっていた。
ここは帝都を囲む、壁の一角、その天辺だ。
彼の服装は定番になってきた灰色のロングコート以外に防寒具は存在しない。
雪もちらつく気温だ。そんな折にこんな高度のある場所に居れば寒いだろうに、彼は壁の縁に腰掛けて、ポケットに両手を突っ込んで動こうとはしなかった。
北方出身ゆえに寒さに慣れている、というのもあるが、彼の戦場勘が告げていたのだ。そろそろデカイ戦が起きる、と。
そうなればこの風景も見納めだ。
ヌマセイカは知っている。戦場跡地がどうなるかを。そして同族殺しほど惨いものはない、と。
「まるで、竜骨の腐った大船だな」
帝具を作った始皇帝はこんなことを望んではいなかったろうに、と彼は嘲笑う。
どれだけブドーが気張ろうと、オネストが私腹を肥やそうと、エスデスが異民族を駆逐しても、民という竜骨に無理をさせ続けてきたこの国に未来はない。
革命は最早必然だったのだ。遅かれ早かれ、竜骨の腐った船は沈む定めだ。修理も出来ない。
「…………はぁ………」
腹は既に決まっている。後は切っ掛けだけだ。
ぼんやりと灰色の空を見ながら、見知った顔を列挙していき、ある一人でそれは止まった。
彼ならばそろそろ焦れて動くだろう、とあまり交遊の無いヌマセイカにも予想がつく。
「……………………生き残れば、旅にでも出るか」
立上がり、胸の前で握った拳を見ながらそう、呟く。
希望的観測だ。実際のところ生き残れる可能性は五分五分といった所。
まあ、それでも気負いは欠片もないのだが。第一、既に一度終わった命だ。今さら惜しみはしない。
「まあ、手の届く範囲位守ってみせるさ」
○◇■◇○
覚悟を決めて一週間。それは帝都に来てからの日々で比較的マトモな時間だった。
エスデスの無茶ぶりもなく、ワイルドハントの横行もない。ナイトレイドの暗殺も鳴りを潜めて、イェーガーズの仕事は専ら帝都の見廻りだったからだ。
だが、こんな世紀末も顔負けの修羅の国で腑抜けた空気が蔓延し続ける筈もない。
「インクルシオォオオオオオオ!!!」
静かな王宮に不釣り合いな、魂の込められた叫び声。
ここは王宮の真ん中である中庭であり、そこにいたのは今まさにインクルシオを纏うタツミ、傍らには気絶して倒れたラバック。
更にワイルドハントの残り羅刹四鬼最後の一人と将軍格二人が勢揃いしていた。間違いなくナイトレイド側の窮地だ。
完全に詰んでいる。逃げることなど不可能。
「詰みだぜ!そしてこの手柄はシュラ様の……………………あ?」
得意気にポーズをとって嘲るシュラ。だったが、突然その言葉は途切れてしまう。
口の端から溢れる、赤い血潮。視線を下に向ければ自分の左胸を貫通して、背後から幅広の刀身が顔を覗かせていた。
「テ…………メェ…………!」
「悪いな、七光。お前さんはここでリタイアしてくれ」
シュラの背後。そこにいたのは、この刀の持ち主であるヌマセイカ。
いつも通りの死んだ目とやる気の無い表情で、憎悪を込めて睨んでくるシュラを見据えていた。
この状況で、敵味方揃って動きを止めた。
確かにシュラの建てたワイルドハントは帝都に仇を成した。処罰対象でもある。
しかし、この状況でシュラを攻撃するということは
「貴様、ナイトレイドに加担するつもりか?」
眉間に深々とシワを寄せたブドーが彼を睨む。
そう、この場で帝国側の人間を攻撃するというのは、つまりそういうことになる。
だが、
「何寝惚けたこと言ってんだ?オッサン」
心底不思議、といった様子でヌマセイカは首をかしげた。
「オレが何時帝国に帰順した?」
「何だと?」
怒気の増したブドーを気にすること無くヌマセイカは肩を竦める。ついでにその反動で塵外刀が揺れてシュラは血反吐を吐き出した。
「オレは成行きとはいえ確かにイェーガーズの副隊長だが、別に帝国の為に動いてた訳じゃねぇさ」
「…………」
「第一、こいつみたいなチンピラが警察やれた時点でこの国は終わってる、だろ?」
言いながら、ヌマセイカは柄に力を込めた。
「な…………にを…………」
「こいつは吸獣斬界 塵外刀ってな。危険種を吸収できるのさ。それでな?」
刀身が言葉に呼応するように脈打った。
「“獣”ってのは何も危険種だけじゃない。生物を、て意味なのさ」
「……………………!?ま、まさか…………!」
「察しが良くて嬉しいぜ」
「止め─────」
「太秦は神とも神と聞こえくる───────」
「ガッ!?」
祝詞に合わせて刀身に血管のような模様が浮かび、それはシュラの肉体にも伝播していく。
「──────常世の神を討ち懲ますも」
「ァアアアアアアアアア!?!?」
絶叫を響かせてシュラは刀身に飲み込まれていった。
彼は永劫。それこそこの塵外刀が風化しこの世から消滅するまでこの中で危険種の怨念に全身を貪られながら発狂の生き地獄を味わい続けるのだ。
未だにドクリドクリと脈打つ塵外刀を肩に担ぎ、ヌマセイカは周りを見やる。
「あー、タツミ?さっさとソイツ連れて逃げろよ」
「…………へ?」
「早くしねぇと真っ二つにするぞ?」
ほんの一瞬だけ出された殺気。だが、それだけで十分だ。
タツミはラバックを担ぐと人のいない場所、目掛けて駆け出した。
当然、回りはそれを追いかけようとする、が。
「まあ、行かせんわな」
ドロテア、スズカの二人は思わず飛び下がる。
たった一人でありながら、その圧力は万の兵にも匹敵する重圧を全身から垂れ流し、ヌマセイカがその肩に塵外刀を担いでそこに居た。
「分かるだろ?さっさと死なせるのも相手の為なんだぜ?」
静かに語られる声。既にドロテアは戦意を喪失していた。シュラが目の前で死んだこともそうだが、素手ですら敵わないのに帝具のような剣を持たれては逃げることすら難しい。
ドロテアは腰が抜けてその場にへたり込んでしまう。
彼女とは違い、イゾウはその刀を抜いていた。前回は抜く間もなくやられた。ならば今回は初めから抜いて、この刀身に血を吸わせる。
「その意気は、良し」
ヌマセイカとイゾウの二人が交差し、離れる。
残心。そして血潮が吹き出す。
「おお…………江雪…………」
刀身が真っ二つに叩きおられた愛刀を胸に抱き、イゾウはその上半身を斜めにスライドさせながら、崩れ落ちた。
だいたい、如何に妖刀といえども、塵外刀を受けるには強度が足りなかったのだ。
次に突っ込んだのはスズカ。彼女は皇拳寺出身のドMだ。嬉々として強者に挑んでいく。
「カッ!?」
その鳩尾に深々と塵外刀の柄頭が突き刺さった。
一瞬の硬直、その肢体は吹き飛び壁へと叩きつけられて沈黙した。ドMの耐久力をもってしても耐えられない威力だったらしい。
「アンタ等はどうする?オレは殺り合うのも構わねぇよ?」
「…………」
無言でブドーは纏っていたマントを脱ぐ。
「アンタは?」
「……………………ふっ、お前との戦いは一対一ではなくてはな」
「そうかい」
エスデスは踵を返し歩み去る、前に問う。
「お前は何者だ?」
少し振り向き投げ掛けられた声。
「無所属、ヌマ・セイカ」
「イェーガーズ隊長、将軍を務めるエスデスだ」
それだけを交わして、彼女の背は夜闇に消えた。
残るはヌマセイカとブドー。他にも生きている者は二人居るが、既に戦える状態ではない。
チリチリと空気がはぜて両者が睨み会う。
夜はまだ、明けない。
遂に離反したヌマさん。ですが、彼は言うなれば第三軍。どちらにも噛み付く無所属です
シュラさんは犠牲になりました。モチーフはムシブギョーで調子こいてた才蔵さんですね
そして、タツミの強化イベントを潰してしまいました。
いえ、原作やアニメを見て思うわけですよ。彼とマインは元気なままで結ばれてほしいと私は思うわけですよ
では、皆様、次のお話でお会いいたしましょう