勇者が断つ!   作:アロロコン

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二十六

 白刃と白刃が何度も何度もぶつかり合い、その度に世界に火花が散る。

 

「塵外刀―――釵ノ型『飛水』!」

 

 ジャラリと塵外刀の柄が分解され、鎖で繋がれた姿となり、刀身が放たれる。

 狙いは、空中で空飛ぶ氷により滞空したエスデス。

 もっとも、放った当人であるヌマセイカ自身も当たるとは思っていない。

 

「甘い!」

 

 案の定、長大な刀身は真下からの鋭い蹴りによって空へと打ち上げられてしまった。

 

「“ヴァイスシュナーベル”ッ!」

 

 鎖に引かれる形で、右手をあげた体勢のヌマセイカを囲い尽くすように無数の氷の刃が現れる。

 食らえば、針鼠確定だ。

 

「塵外刀変化――――」

 

 刃が殺到する直前、塵外刀が一度大きく脈拍した。

 迫る氷刃。完全にヌマセイカの姿はその向こうに消え、

 

「――――型式“鍬形”!」

 

 二刀流となった姿で飛び出してくる。

 この型式の特性は、互いが引き合うこと。単純に引き戻すよりも、より強く引き寄せる事が出来る。

 そのまま、左手の小刀を逆手に持ち直し、右手には順手の大刀。

 

「ゼアッ!!」

 

 全てを切り裂く竜巻と化して、ヌマセイカはエスデスへと襲い掛かった。

 時計回りのその一撃は、上段から下段への振り下ろし。

 

「くっ…………!」

 

 飛んでいたエスデスは、受けることこそ成功したが、浮遊に用いていた氷が威力に耐えられず、敢えなく地上に降り立つこととなった。

 

「塵外刀変化――――」

 

 着地の硬直を見逃すほど、ヌマセイカは甘くない。

 ここが街の中ということも無視して、大火力をぶつけにかかった。

 

「――――型式“兜”ッ!」

 

 長大な刀身は、最早天を衝く山のごとし。

 振り下ろす、というよりは最早落とすと表する方が正しいと思われる一撃。

 更にその巨大さで鈍重に見えるが、持ち主であるヌマセイカには、元の重量程度の重さでしかない。

 故にその速度は、全く衰えない。

 ズガン、と帝都の一部を割り砕き巨大な塵外刀よりも更に高く粉塵が巻き上がった。

 

「“グラオホルン”」

「危なっ!?」

 

 直後、粉塵を突き破り、数十本の巨大な氷柱が、彼を穿たんと襲い掛かってきた。

 間一髪、柄より片手を離したヌマセイカは身を翻して氷柱を躱す。しかし、体勢が崩れ、ついでに塵外刀の変化も解除され頭から真っ逆さまに地面へと落ちていく。

 

「こちらだ」

「やっぱ来るよな……」

 

 落下していく彼を狙って、放たれていた氷柱の一つに乗ったエスデスが肉薄する。

 放つ、強靭な脚力による蹴り。ご丁寧にもその足には氷による鎧を纏っており、破壊力は平時の数倍は下らない。

 

「塵外刀変化――――」

 

 だからこそ、ヌマセイカとてやられっぱなしとはいかない。

 

「――――型式“揚羽”ッ!」

 

 攻防バランスの良い、揚羽へと切り換えて黒丸による、防壁を張った。

 ギシギシと軋みを上げて、ぶつかる両者。

 数秒、鍔迫合いのように押し合っていたが、やがてどちらともなく離れ、そのまま地面へと粉塵上げて降り立った。

 

「フッ!」

「ラァッ!」

 

 同時にその中より飛び出してきた両者。

 互いに得物を振りかぶり、振り抜く。

 ぶつかり合った余波だけで、周囲の街並みは消し飛んでいく。

 だが、凶悪的な状況にも関わらず、戦う二人はまるでダンスでも踊っているかのように流麗に駆け回っていた。

 周りの被害は、 最早瓦礫の山を通り越して、更地に成りかねない。

 

「貴様らァアアアアア!!!!」

 

 それを見咎めるは、皇帝及びシコウテイザー。

 その巨躯を活かして、目の前の羽虫を押し潰さんと動く。

 

「この皇帝を無視するなど――――」

「失せろ!!」

「邪魔すんな!!」

 

 黒丸が大量に襲い掛かり、追従するように氷の刃がその甲殻に突き刺さる。

 穴だらけになった巨躯は、直後に顔面に交差する斬撃を叩き込まれ、大きく仰け反った。

 これには、どうにか突破口を探そうとしていたタツミと増援として現れたウェイブも目を剥くしかない。

 そんな外野など知らぬとばかりに、二人は戦闘を再開した。

 

「行けっ、黒丸!」

 

 数多の黒丸。その速度は、弾丸。破壊力は、砲弾だ。更に接触と同時に形態を刃物へと変化させる為、その威力は単純にぶつかるよりも強かった。

 

「甘い!甘いぞ!ヌマセイカ!」

 

 だが、エスデスの前に出現した氷山によってその攻撃は阻まれる。

 

「ぬおっ!?」

 

 それどころか、彼の足元に突然氷筍が現れ、急速に育ち、鋭利な先端が穿たんと迫っていた。

 反射的に塵外黒鱗刀にてガードしたヌマセイカ。しかし、踏ん張れずに空へと押し上げられてしまう。

 

「お前は、まだまだ力を隠しているのだろう?」

 

 空へと昇っていくヌマセイカを見上げ、エスデスはサーベルの切っ先を地面に突き立て不敵に頬笑む。

 

「さあ、見せろ。その全てを出し尽くした上で、私はその上を行ってやろうじゃないか!!」

 

 ゴウッ、と冷気が吹き荒れる。それは吹雪へと姿を変え、彼女の全てのみならず、帝都を、いや、大陸全土を極寒へと叩き落とした。

 

「“氷嵐大将軍”ッ!!」

 

 突き上げられる拳よりうち上がった膨大な冷気が天を穿ち、大きく広がっていく。

 同時に極寒の冷気が辺りに満ち、生き物の命脈である熱を根刮ぎ奪っていく。

 エスデスの奥の手。

 勝負の決定打か、と思われるがこの二人の戦いに、それは甘い。

 瞬間、極寒地獄に太陽が顕現した。

 

「塵外刀変化――――」

 

 エスデスが奥の手を残していたように、ヌマセイカにもそれはある。

 打ち上げられていた彼は、その姿が変貌していた。

 真っ黒だった髪は、毛先に残る黒い模様を残して真っ白になっており、その瞳はルビーでも填めたかのように真紅に染まっていた。

 

「――――型式“極”南天炎翼!」

 

 塵外刀は大きくその姿を変えていた。

 まず、その大きさ。兜ほどでは無いが巨大に変貌しており、更にその刀身は揚羽のように漆黒。その周囲には黒丸が複数浮いており、刀身の峰からは一対の炎翼が出現。柄頭には、鍬形のような小刀が出現し、鍔の辺りからは刃側へ2本の棘が伸びている。

 そして今、彼の真上には炎翼が大きく広がり掲げられた塵外刀の切っ先に巨大な炎塊が出現していた。

 

「帝都を吹き飛ばすつもりか?」

「大陸ひとつ冷気で覆ったお前に言われたくねぇよ」

 

 二人の会話。それを聞いた第三者が居たならば、こう言う。

 

 ―――――どっちも化け物だ、と。

 

「凍てつけ!」

「燃え尽きろ!」

 

 太陽と氷河が正面からぶつかり、蒸気に帝都は包まれる。

 

 

 ▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 人々は知るだろう。

 世界には、怪物が存在し、彼等が争うことになれば、その行く末には何も残らないのようなだということを。

 

 

 ▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 響く、剣劇の音。

 粉砕される家屋の数々と、帝都の周りを囲う壁の一部。

 

「塵外刀―――――釵ノ型」

 

 ジャラリと柄が分かれ、巨大な刀身が鎌首をもたげる蛇のようにユラリと揺らめく。

 

「――――『砕氷』!」

 

 掲げられた右手が渦を巻き、それが鎖を伝って刀身へと伝播する。

 

「行けやっ!!」

 

 巨大な円ノコのように刀身が回転し、街が真っ二つに引き裂かれていく。

 

「ナメるな!」

 

 それを迎え撃つのは、連続で出現し、列なった氷山。

 最早山脈と言える規模であり、それを前からではなく横から突っ切るようにして円ノコは突っ込んでいった。

 名の通り、流氷を割り砕き北の海を進む砕氷船のように山脈を切り開いていく刀身。

 だが、氷山四つを越えた辺りでほんの少し勢いが落ちた。

 

「“エイスデアケーフィ”!」

 

 瞬間、刀身はそれより更に巨大な氷に飲まれていた。

 

「“ハーゲルシュプルング”ッ!」

「!」

 

 ヌマセイカの上に氷山が出現した。その裏側には、エスデスの姿が。

 

「――――型式“兜”!」

「やはり、そう来るよな!!」

 

 刀身を巨大化させ、氷から脱出させそのまま振り上げて氷山を砕く。

 だが、それはエスデスの読み通り。

 ゴウッ、と一瞬だけ空気が円状に広がり、

 

「ハァッ!!」

「おおっ!?」

 

 氷の鉤爪の拳が、襲い掛かり、間一髪でガードしたヌマセイカはそのまま後方へと殴り飛ばされていた。

 家屋を数件突き破り、最後に石壁に大の字でめり込む。

 

「…………ッテェ、アイツ危険種だったか?」

 

 めり込んでいた両手足を引抜き、首を鳴らすヌマセイカ。彼もまた、相当人間を辞めている。

 

「まだ行けるだろ?」

「………チッ」

 

 彼の前に降り立ったエスデス。

 その姿は大きく変わっていた。

 美しい青髪の毛先が白くなり、側頭部から天を衝く氷の捻れた角が一対生えており、両手足に凶悪な見た目の氷の鉤爪による手足が出現していた。

 

「オマエ、危険種か?」

「フッ、力の全てを受け入れただけだ。さあ、行くぞ」

 

 異形と化したエスデス。そのパワーは半端ではない。

 そんな彼女を相手に、ヌマセイカは正面から引かない。

 柄で爪を受け、反撃に柄頭の小刀で切り、本命の刀身を叩き付ける。

 

「オオオオッ!!」

「フハハハハッ!!」

 

 暴力のぶつかり合いは、佳境を迎えようとしていた。


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