勇者が断つ! 作:アロロコン
では、最後の本編を、どうぞ
「これが、人のやれる事なのか?」
革命軍の誰かが呟く。
「オオオオッ!!!」
「ハハハッ!もっと上げてこい!!」
最早人の速度ではない。
ぶつかる白黒と蒼氷。それだけで大地が抉れ、空間が軋む。
「“釵ノ型”『砕氷』ッ!」
頭上で振り回していた極式塵外刀の刀身を円ノコのようにしてエスデスへと叩きつける。
流石に大技が過ぎたのか、かわされるが、地面にぶつかると同時に大きく地面が抉れ吹き飛んでいた。
「フハハハハッ!抉ってやろう!」
巨大な氷柱に大量の刃の枝を付け、回転するその一撃。
当たらずともそばにいるだけで、人間はおろか危険種ですら挽き肉へと変えられる威力を誇る。
回避択一の攻撃、しかしヌマセイカは退かない。
「─────型式“万雷”」
切っ先を向かってくる氷へと向ければ刃の側の鍔が二又に割れて地面へとアンカーとして突き刺さる。
バチバチと刀身に薄く纏うだけだった紫電がその量を増し、切っ先へと光球として顕現。
「“バースト”ッ!」
言葉をトリガーとして、放たれるは電磁砲。それもブドーの放っていたソリッドシューターよりも一回り大きい。
氷柱と電磁砲。正面から衝突する両者。
盛大に爆発四散した。高密度エネルギーとぶつかった影響か天高々と蒸気が舞い上がる。
普通ならばここで衝撃から身を守ろうとするかもしれないが、少なくとも今、天変地異もかくやという激戦を繰り広げる二人は普通ではない。
ドゴンッ!!!
と盛大な衝撃が走り、舞い上がっていた蒸気が切り払われ、その中央では化け物が二人切り結んでいる。
どちらも見据えるは、相手のみ。いや、相手の命のみ。
ただ、斬るだけでは既にどちらも致命傷、ひいては死なないということを二人は本能的に理解している。
故に体を全て消し飛ばす。骨の一片はおろか、髪の毛一本残さないという気概で互いが互いを食らい合うのだ。
超級危険種の殺し合いをも超える天災のぶつかり合い。
その舞台となっている帝都はたまったものではない。
既に帝都の二割が消し飛んでいる。
そこから運が良いと言えるのか、帝都から離れつつ、天災はぶつかり合っていた。
徐々に離れていく、ぶつかり合いを見ながら、ナジェンダは遠い目をしてタバコを吹かせる。
帝具使い10人以上。精鋭五万以上。
それがエスデスを倒すために立てられた算段だった。
しかし、どうだ。既にエスデスもそして、ヌマセイカも単なる帝具使いが相対するには心許ない化け物へと成り果てている。
「…………」
自然と義手となった右腕や光を失った右目へと手が伸びる。
今、心底安堵していた。あんな化け物達と相対する結果を呼び込まなくて良かった、と。
空まで駆ける稲光や天を突く氷山、炎の津波や、吹き上がる蒸気は他の場所からも確認できた。
「す、スゲェな…………」
若干引きながらタツミは遠目に見える天災に舌を巻く。
「当然だろ?うちの隊長と元副隊長だぜ?」
隣で腕を組んだウェイブは何処か誇らしげだ。
シコウテイザー。正に至高の帝具であったそれは無惨にも二人と、そして二つの天災の余波によって全壊していた。
何というか、世紀の決戦であった筈なのに、その心意気というか覚悟というか、全てを持っていかれた気分を両軍は味わうこととなる。
突如、空が弾けた。
▲▽▲▽▲▽
さて、全てを文字通り持っていった二人は、というと丁度フェイクマウンテンの近くまでその戦闘域を拡大していた。…………人間のぶつかり合いで山が吹き飛ぶとかどうかしているのではなかろうか。
切り飛ばされた山の天辺、そこで二人は睨み合っていた。
「…………」
「まだまだ行くぞ」
エスデスの体は更に侵食が進んでいた。
竜のような蒼の鱗を持つ尾が生え、両手足の氷の爪は更に禍々しく相手を引き裂く形に特化してきている。
だが、それと同時に体にガタが来ていた。
元々インクルシオのように適応力に特化した能力など持ち合わせてはいない。吐く息は白く染まり、体の節々が急激な強化で悲鳴を上げる。
だが、それはヌマセイカも同じこと。
何故、一歩が詰めきれなかったのか。
使用者の精神を擂り潰さんと押し寄せてくる怨念と、無理な身体強化によって関節はズタボロ、筋繊維もブチブチと嫌な音をたてていた。
今の二人は精神が肉体を凌駕した状態。
故にここまでの無茶が利き、逆に少しでもその状態から元へと戻ってしまえば、その時点でアウトだ。
それでも二人は止まらない。
飛び出してノーガードのインファイトを繰り返す。
ピシャリ、ピシャリ、と彼らの周りが鮮血で彩られ始める。
(っ、足場が…………!)
ほんの一瞬だけ、ヌルリと滑る血に足をとられる。
瞬間
「カッ!?」
「抜かったな、ヌマセイカ」
氷の五指がヌマセイカの胴を貫いていた。
初めてそこで彼の手が緩み、塵外刀が滑り落ちる。
「存外、決着というものは呆気ないものだな」
急激に全身が凍っていくヌマセイカ。彼の周りは氷山に包まれていく。
数秒と経たずに、そこには氷山と塵外刀ごと凍らされたヌマセイカの姿があった。
▽▲▽▲▽▲
─────しくじった
それが最初のヌマセイカの感想だった。
血を流しすぎた影響か指先には力が入らない。
意識が飛ぶ瞬間、不意に手元へと目がいった。
そして、“目があった”
(塵…………外刀…………)
帝具の素材が生きているように、彼の塵外刀も刀に成り果てようとも素材が生きているのだ。
ヌマセイカという枷が外れかけている影響か、その刀身には夥しい量の目が浮かんでいた。
その全てが彼を見ている。
(………いいぜ………来や…………がれ…………)
心のなかでそう呼ぶ。
世界に黒が満ちた。
▲▽▽▲
氷漬けにしたヌマセイカの前で、エスデスはじっとその姿を眺めていた。
思えば短くも濃密な縁だ。これは最早運命とも言える、そんな巡り合せ。
「…………さらばだ、好敵手よ」
拳を握り氷山ごと粉砕せんと、その腕を引き絞り
「ッ!?」
ゾワリとした感覚に逆らわずその場を飛び退いた。
見れば、氷山の中で塵外刀が元の形へと戻っているではないか。
いや、それだけではない
「黒い…………炎、だと?」
よくよく見れば刀身の色も鋼の鈍色出はなく、刃は毒々しい紫、鎬は黒く染まっているではないか。
そして、瞬く間に黒い炎は氷山を溶かし、ヌマセイカは地に降り立つ。
閉じていた目を開けた、彼の瞳は更に変質していた。左目は紅いが右目は白目が黒く染まり、黒目が黄金に輝いている。
「どうやらオレは勘違いしてたらしい」
静かに彼は語る。刀身の炎が右手に燃え移っているというのに、彼は何も感じていないようだ。
「受け入れる、てのは力だけをもぎ取ることじゃない。その本質まで掴むことだったんだ」
一際強く炎が燃え上がった。
「型式“空亡”。これで終いだ」
刀身を空へと掲げ、その切っ先にはあふれでる炎が巨大な球体を象り集まっていく。
対するエスデスも産み出す冷気の全てをより集めて上空に大氷山を形成する。
「“ゴーザアイスバーグ”ッ!!!」
「“滅ノ理”」
その日、地図の一部が書き変わる。
黒炎と大氷山はぶつかり、この戦いは一端の終わりを迎えるのだった。
▲▽▲▽▲▽▲
「…………テメー、いつまで着いてきやがるんだ」
「さてな。お前がこの旅を止めるまで、か」
どこまでも広がる大砂漠。その中を行く二つの影があった。
どちらも、フードがついたボロボロのマントに全身を包まれており、その姿は見ることは出来ない。が、声的に前を行くのが男、その後を付いていくのが女のようだ。
「…………嫌な女だぜ」
言いながらも男は女を拒絶することなくのんびりと歩を進める。
不意に地響きが辺りに木霊した。
【ギィイイイイイイ!!!】
現れるのは巨大な目の無い大蜥蜴。その体長は軽く20メートルを越えていた。
特級危険種 デザートイーター
ここら一帯を縄張りとしており、この砂漠を横断するキャラバンを襲うため、各国より討伐の手配を出された危険種だ。
普通ならば尻尾巻いて逃げ出すか、もしくは死を覚悟する場面だが、二人は慌てない。
「…………暫く食糧には困らなそうだ」
「血は溢すなよ。貴重な水分だからな」
二人はマントを空へと脱ぎ放つ。
「来い」
男が呟くと、右手に黒い炎が集り、やがて巨大な刀を形成する。
「小手調べだ」
女の頭部には小さいながら、砂漠に不釣り合いな氷の角が生えていた。その手には長いサーベル。
交差は一瞬。ここら一帯の主として君臨していた大蜥蜴は交差する剣によってその命を狩られる事となった。
「取り敢えず冷凍保存しといてくれ」
「食べるぶんはお前が炙っておけ」
塵外の剣士と氷雪の魔王。
その二人はある国では天災として語り継がれる事となる。
そして彼らは世界に名を轟かせるのだ。
曰く、何処からともなく戦場に現れどちらの軍も壊滅させて去っていく。
曰く、彼らの通った後は雑草すらも根刮ぎ死滅する。
曰く、彼らは男女の番であり、燃え尽きた灰のように真っ白な髪の男と氷のように冷ややかな青髪の女の二人組であった、と。
打ちきり漫画のような終わり方になってしまいましたね
最後は色々と有ったのですが、私の好みでこのような終わりとなりました。
別のエンドですと相討ちで死の大地に交差して突き立つ塵外刀とサーベル、というのもありました。
ですが、私はご都合主義が大好きなハッピーエンド厨。最後までご都合主義たっぷりの終わりでございます
では、皆様拙作にお付き合い頂きありがとうございます
皆様のご愛顧に感謝の念が尽きません
それでは、ご縁があればお会いいたしましょう