勇者が断つ! 作:アロロコン
で、でもこの子達にも救いがあって良いと思うんです。
ぶっちゃけ、アカメ達ヒロインズよりこの子達やサヨが好きだったりします
帝都は中に住まねばその汚さは分からない。それ故に多くの出稼ぎの田舎者が夢を見てこの街を訪れて、そして夜闇に紛れた悪意によって消えていく。
昨日笑いあっていた友人が次の日には路地裏で冷たくなっていたりする。
そんなクソったれがこの帝都の現状だ。
「…………やっちまった」
帝都に店を構える、ファミレス店にて、四人掛けのボックス席を一人で占拠したヌマセイカはゲンドウポーズでぼやいていた。
軟禁生活もつい先日解除され、街を一人でブラブラしていた彼は遅めの昼食、というか早めの夕食というか、とにかく微妙な時間帯に空腹を覚えてこの店を訪れた。
そして、そんな彼を待っていたのは店員の営業スマイル─────ではなく、少女の悲鳴と下卑た男達の笑い声だったのだ。
黒服の多数の男達に、少女達の前に座る優男。端的に言って犯罪臭しかしない絵面であった。
人攫いの一つや二つ、この街ではありふれている。そして、その対処法は見て見ぬふりだ。
彼は知らないことだが、この店オーナーが変態らしく、リョナやらグロやら、キメやらのマニアが時偶少女達を食い物にする店であった。
触らぬ神に祟りなし、と踵を返そうとしたヌマセイカ。だが、その瞬間を見てしまい、足は止まる。
優男のそばに現れた、見るからに頭のイッてしまってる男が部下に命じて、少女の内の一人の目をアイスピックで潰そうとしたのだ。
何者もどうでも良いと思っているヌマセイカではあるが根底にあるのは日本人気質の見て見ぬふりが出来ないお人好し。
反射的に背負っていた槍を抜き、気づけば全力の投擲を行っていた。
彼の膂力は巨大な危険種を投げ飛ばせる程度に、強い。
そんな彼が放つ槍は、控え目に言って、大砲である。
そして、至近距離で大砲を受けた人体の未来に待つのは、グチャミソミンチであった。
数十人の男達がその体を挽き肉へと変えられ、槍はそれでも止まらず壁をぶち破って外へ。幸いにも通行人には当たらず、かなり離れた石壁に石突ギリギリまで突き刺さって止まっていた。
酷かったのはそこからだ。ヌマセイカは手刀のなんたるかを披露して見せたのだ。
極限まで研ぎ澄まされた手刀をもって、首を跳ねていくその姿は有り体に言って危険種よりも危険種していた。エスデス様もニッコリである。
そして場面は冒頭辺りに戻る。
数分で店を血塗れへとモデルチェンジさせたヌマセイカはその数分前の自分へと呆れた物言いを内心で垂れ続けていた。
現在、店内に居る生きている者は彼を含めて四人。残りは全て肉の塊へと変貌して血の池に沈んだ。
「…………やっちまった」
再び呟く。どうしよう、この状況、と。
アンサーとして、どうしようもない。大人しく警備隊の縛につく他、無い。
とりあえず、槍を回収しに行こうと、彼は立ち上がった。
「随分と派手に散らかしたモノだな」
「げっ…………」
ぶち破られた壁の向う側、夕日を背に立つのは青髪の麗人。カツカツとヒールを鳴らし、瓦礫を踏み砕きながら店内へと入ってくるとそう溢した。
「ソレほどの価値が、この娘達に有ったのか?」
「…………さてな。気付いたら槍投げて虐殺してたさ」
そう言って、バツが悪そうに頭をかくヌマセイカ。
エスデスは彼から目を離すと、この惨状の原因とも言える三人の少女へと目を向けた。
その視線は品定めをするような、捕食者のような目だ。ネットリと熱を持ち、肌の上を蛇がのたうつような、そんな不快な視線。
田舎で辛くも平和な暮らしをしていた少女たちにとって耐えられる様なモノではない。喉がひきつり、冷や汗が流れ、鼓動が大きく早くなる。
「苛めてやるなよ」
そこで動いたのはやはりこの男。いつも通りの気だるい様子を隠そうともせず、少女達の前にたって視線避けとなった。
「なんだ、ただ見ていただけだろう?」
「お前の視線は変態じみてるからな。一般人には厳しいだろ」
「お前は私と同じ様な者だと思っていたんだがな」
「確かに強いことは正しいさ。けどな、ガキってのはすべからく弱いもんだ。大人の弱者は知らんが、少なくともオレはガキを見殺しにするのは無理らしい」
ある意味、この一点に関しては二人の意見が交わることはないだろう。
ヌマセイカからすれば他人はどうでも良いが、それが子供ならば手をさしのべる。対してエスデスは強いものが正義である為に大人子供関係がない。
とはいえ彼には彼女を言いくるめる術が無い事も無い。
「なあ、エスデス。お前は人を育てたりしないのか?」
「何故そんなことをせねばならない?」
「強いやつと戦いたいなら。育てて食えば良いだろ」
「それが、この娘達、か?」
「さてな。まあ、筋は悪くないだろ」
「ふむ……………………」
本人達の意思をガン無視した二人の会話。
因みに少しして彼はこの発言を撤回したくなる事態が起きることを、まだ、知らない。
▲★■★▲
「エ、エアです」
「…………ルナ」
「ファルよ」
───────どうしてこうなった
目の前でメイド服に身を包んだ、少女3人を見てヌマセイカは拷問所を見たときのように顔が死んだ。
思い出すのは昼過ぎの一件。結局店の対応にエスデスがキレて店ごと凍結、粉砕、という幕ぎれとなった。
元より評判の悪かった店だ。癒着していた貴族達もエスデス、引いてはそのバックであるオネストとの対立を避けて特に文句も上がらない。
役に立たないものや足を引っ張るものを徹底的に切り捨てるオネストだからこその結果であろう。
さて、話を戻すがヌマセイカが助けることとなった少女達は何故かそのまま彼お付きのメイドとして城住まいとなった。
どうしてそうなった、と言われそうだがそれは昼間の彼の発言をエスデスが進言した為だ。
子供に甘い、という点を弱点だと判断したオネストは態と彼の近くにその少女達を配置して首輪にしようと考えた。
つまりは裏切ればこの少女達を人質として、交渉、手元に引き戻す手札ということだ。
因みに補足をすると、彼は敵対すれば女子供も容赦なく殺すタイプである。今回の一件は単に子供が被害者になりそうだった為に助けただけであり、枷になりそうなら結構アッサリと見捨てかねない。
もう一度深くため息をつくと、バリバリと頭を掻いて気持ちを切り替える。
犬であれ、猫であれ、そして人であれ。拾ってしまったものは仕方無い。
根っからの苦労人根性が染み付いた男、それが現ヌマセイカである。
「とりあえず、お前達の面倒を見ることになった、ヌマ・セイカだ。ま、今は無職なんでそこら辺は気にしないでくれ」
「ヌマ様?」
「あ?ああ、いや、別に区切らなくて良いぞ。区切って呼ばれても反応できないしな」
セイカ様等と呼ばれた暁には、鳥肌が立ってしまう事だろう。
「では、ヌマセイカ様、と?」
「……………………まあ、良いか。それで良いぞ」
沈黙が部屋に訪れる。正直な所、この年頃の娘達と何を話せば良いのかヌマセイカには分からない。磨耗しきった過去の記憶に答えは無く、ならば最近の事から照らし合わせてみてもであった面子が最悪だった。
ドS、食い過ぎデブ、傀儡王様、思考停止野郎、顔剥ぎショタ、経験値イーター、心酔ダンディetc.
むしろ大丈夫かこの国、あ、腐ってたわそう言えば、と一人でボケ突っ込みが出来る面子である。むしろ一人として、御近づきになりたくない。
一番マシなのは心酔ダンディである。まあ、顔を合わせればヌマセイカはガッツリ睨まれるが、人当たりは比較的悪くない。
そして、少女達も人の汚い部分をガッツリ見てしまい、いまいち他人を信用できなくなってしまっていた。
主となる青年に初日に変態に引き渡されかけたら、誰でもそうなるというもの。とにかく、彼女達はヌマセイカに猜疑の目を向けていた。
命は助けてもらった。しかし、彼の目的が分からない以上は仕方がない。
気不味い沈黙。コチコチコチ、と時計の針だけが進んでいく。
先に耐えられなくなったのはヌマセイカの方だった。
ソファから立ち上がると備え付けのポットに湯を注ぎ、慣れた様子でコーヒーを淹れていく。
インスタントの安っぽいものであるため、直ぐにカップには黒い液体が満ちる。
一息に啜れば、独特の苦みと仄かな酸味が彼の口の中に広がっていった。
「…………うん、不味いな」
流石安物、超不味い、とぼやきながら彼はコーヒーという名の泥水擬きを飲み干した。
散々文句を言っていたが、嫌いでは無いらしく二杯目を注ぎ始める。
そこで感じる背中への視線。横目でチラリと確認すれば、3人がこちらをチラチラと見ていた。
少し逡巡し彼は追加で三杯のコーヒーを淹れると、器用に二つずつカップをもって、ソファへと戻ってきた。
「砂糖は好みで入れてくれ。まあ、不味い事には変わり無いがな」
不味い不味いと再びカップを煽る新たな主人を見ながら少女達は互いに視線を送りあう。
一つは毒の可能性を考慮してだが、目の前でガブガブ飲まれればその可能性はゼロに近いだろう。
もう一つは信用できない相手の前で無防備な面を晒す事への不安感。
主にこの二つが三人の動きを阻害している理由だった。
とはいえ拙いそんな心の機微等、伊達に代表を張っていなかったヌマセイカにとっては把握することなど容易である。
その上で言葉を掛けない。猜疑心に塗られた相手をほぐすには、自分から寄ってはダメなのだ。
それが主人公とヒロインならば別だが、彼は自分を脇役だと思っており、そしてそんな夢物語は二次元にしか無いという事を知っている。
相手が警戒を解くことを待つ、話はそれからだ。
十分ほどが経過して、コーヒーも少し温くなってきた頃、意を決してエアと名乗った少女がカップへと手を伸ばした。
そして、中身をコクリ、と少し飲み込む。
広がるのは苦味。未だに子供舌の少女にとってはそれしか感じられない。
だが、何故だろうか、仄かに熱をもったカップを手放す気にはなれなかった。
目の前の青年が言うように、お世辞にも美味しいとは言えない、苦いだけのコーヒー。
苦味のせいだろうか、視界がうっすらとボヤけてきていた。
エアに触発されたのかルナとファルの二人もそれぞれカップを手にとって、中身を啜り、一瞬眉を顰めるも、やはりカップを置くことはない。
少女達の頬を、一筋の雫が伝う。そしてポタリとカップの黒い水面へと波紋を落としていく。
苦いコーヒーだ。思わず涙が出てしまう。
そう、この涙はコーヒーのせいなのだ。だから仕方がない。このコーヒーが苦すぎるのが悪い。
いつしか、部屋には小さな嗚咽が三つ流れている。
肩を震わせ、涙を流し、膝を抱えて、こぼれ続ける嗚咽。
ただひたすらに恐怖した。あの男達も、状況も、そしてそれらを全て破壊した目の前の青年も。そしてあの視線を送ってきた女性も。
全てが恐ろしかった
だが、同時に、その女性の視線を断ち切った背中を覚えている。
明確に感じられた、守られている、という感覚。売られた彼女達には馴染みの少ないものだった。
恐怖と安心
少女達の中で相反するように、共存する二つの感情。
それらは涙と共に流れて混ざってカオスとなる。
この日、遅くまで部屋の灯りは消えることは無かったそうな。
…………塵外刀がでかすぎて日常的に持ち運べないという事実
ま、まあ、イエーガーズ結成辺りから有効活用されますしオスシ(目逸らしながら)
ランキング一位とか久々です。皆様のご愛顧に感謝を