勇者が断つ! 作:アロロコン
それから次回への伏線ですな
ヌマセイカの朝は早い。
ここ最近寝なれてきたソファから身を起こして、凝り固まった体を捻って、鳴らして 、解きほぐすことから彼の一日は始まるのだ。
そして次は、部屋の奥に設置されたベッドの確認である。
キングサイズよりも更に一回り大きいそのベッドに眠るのは、数日前から面倒を見ることになった三人娘の姿。
最初の方こそ、野良猫のように常に気を張っていた三人だったが、対照的に締めるところはキッチリ締めるが基本的には緩いヌマセイカに毒気を抜かれて今では揃って穏やかな寝息を立てて眠っていた。
寝相の良いルナはそうでもないが、常に元気の有り余っているファルとその隣で眠るエアは時折掛けられた布団がずり落ちている事が多い。正確にはファルが蹴っ飛ばして、その煽りをエアが受けている形だ。
今日も今日とて腹を見せてグースカ眠るファルとその隣で丸くなり、ルナへと密着しながら寝ているエアの二人に布団をかけ直したヌマセイカはリビングへと戻り、寝巻きのジャージ擬きを着替え、槍を片手に部屋を出た。
彼が目指すのは訓練場だ。
強者は一日にしてならず
それが彼の座右之銘であり、鍛練を欠かすことはない。
そして、その鍛練とは真剣を使ってのイメトレのみ。筋トレは全くしない。
理由としては、実戦専用の筋肉をつけるためだ。筋トレは基礎には向いているが、発展の戦闘となると少し別である。
筋トレや型の練習は基礎作り。そして一定の段階まで進めば、そこからは実戦用の体を作るべきだ。
彼がイメージする相手は基本的に、今の自分よりも上の自分である。
塵外刀を片手に、変化も釵ノ型も使わずに、純粋な技量の勝負。
全長凡そ九メートルという化物刀を振り回して幻想の相手と刃を交えていく。
大型の近接武器、というのは振るうだけでも腕力だけでなく技量が必要となる。
某バーサーカーを別の読み方した漫画の鉄塊の様な剣の重量は推定125キロだ。塵外刀はそれに比べて薄いが、四倍近く長い。重量も比例して重いことは容易に想像できる。
だからこそ、腕力だけでなく技量が必要なのだ。
振り回されないための重心移動。的確に相手に致命傷を与えられる距離の知覚。周りの空間把握。
巨大であり、切れ味に優れた塵外刀は振り回すだけでも十分に脅威だ。しかしそれだけでは格上には勝てない。
長大な刀身は危険種には効果的だが、人間という小さな的には当てづらい。そして、帝具使いは総じて、危険種よりも危険種している化物じみた者が殆どだ。
ドSしかり、思考停止野郎しかり。
少なくともこの二人は超級危険種を引き合いに出しても、お釣りが来るレベルで強すぎる。
互角には持ち込める。しかし、その先には行けない。
ぶれた思考によって体が一瞬だけ鈍り、その隙を突いた幻想がその刃を首筋へと宛がっていた。
ため息をついて目を開ける。
訓練場は惨状となっていた。
空間把握等とカッコいいこと言ってはみたが塵外刀の刃は石壁程度ならばそこらの木と変わらず手応え無くスパッといける。
まあ、つまり
「……………………やっちゃったぜ」
無惨にも切り刻まれた天井やら、壁やら、床やら、とにかく酷い有り様だ。
やっぱり森でやるべきだったな、と頷きながら、緊急回避。
間髪入れずに、粉砕される訓練場の床。仮に避けていなければ、ミンチ待ったなしの破壊力である。
「また貴様か、ヌマ・セイカ」
「…………はっはー、誰かと思えばおっさんじゃネェか。朝の空気が汚れてくらぁ」
バチバチと火花を散らして睨み会う二人。帝国最強の二枚看板、その相方を務める、巌のような男、ブドー大将軍その人の降臨である。
その両腕には最強クラスの帝具が装備されていた。
雷神憤怒 アドラメレク
雷を内包した鉄芯を持つ籠手型の帝具である。
その特性として、雷を自在に操り、ブドー本人の力量も相俟って帝具でも指折りの破壊力が更に倍プッシュされていた。
そしてこの二人、異常なほどに仲が悪い。
人としての波長が合わないのだ。
「帝具を城で使うのは許さないんじゃなかったのか?」
「陛下の安寧のためだ。貴様を消せば私も引こう」
「城が壊れるぞ?」
言いながらもヌマセイカに引く気は無い。城が壊れようとも、それで皇帝が死のうとも関係ない。心残りはエア達だが、三人の居場所は把握している。被害が出ないように立ち回り、最速で斬り殺すのみである。
「一撃だ」
「…………」
ピリピリと張り詰めていく空気。
「…………ッ!」
仕掛けたのはヌマセイカ。逆手に塵外刀を持ち一足で空いていた距離を踏み潰す。
同時にブドーも動き始めていた。カウンターをとるように拳を振り上げ、振り抜く。
硬質な鋼の音、そしてそれらが擦れる音。
そして、爆風が辺りへと一気に駆け抜け、ただでさえ刻まれていた天井が木っ端微塵に吹き飛んでいた。
「どうした、殴り潰さないのか?」
「貴様こそ、私の首を刎ねないのか?」
剛風が晴れると、修羅二人がその中央で睨みあっていた。
ブドーの首筋には塵外刀の刃が、ヌマセイカの顔の前には熊手に開かれた籠手の掌がそれぞれギリギリの所で止められている。
「…………フン、ここまでだな」
「あんたも飽きねぇよな、オッサン。殺し合いたいなら適当な所に呼び出せば良いのによ」
同時に二人は退く。
宣言通り、ブドーは一度しか手を出す気は無かったのだ。
そして、相討ちでなければ本気でヌマセイカの頭を叩き潰す気でいた。
仮にどちらも本気ならば、この帝都は焦土と化してしまうだろう。
とにかく、ぶつかり合うのは一発のみ、そして相打ちならば拳と刃を引く、というのがここ最近の流れだ。
ブドーとしては不穏分子であるヌマセイカは亡き者へとしたいのだが、本気で行うと自身の忠義の元である陛下へと被害が及んでしまう。
ヌマセイカとしてはこの思考停止野郎を殺すことには躊躇は無いのだが、相討ちで相手は止まるのに自分だけ動くと負けた気がする、という理由で手を下してはいなかった。
因みに、一番の被害を被っているのは、毎度全壊一歩手前までぶっ壊される訓練場を一日で直している、大工とその予算を考えているオネストだということは全くの余談である。
▲★■★▲
「拡縮獣、ねぇ」
資料を見ながらヌマセイカはフム、と顎へと手をやる。
ここ最近の彼の悩みを解決する一助になるかもしれない魅力的な名前であった。
というのも、対怪物戦では比類無き圧倒的な力を発揮する塵外刀ではあるが、いかんせん持ち運びに難が有りすぎる。
お陰で朝の鍛練以外は部屋の置物と化しているのが現状だった。
「ついでに、怨念抑えられるのが居れば良いんだがなぁ」
大きさもそうだが、その点も困っているところだ。
要塞都市では皆が分かっていた為に誰も塵外刀を触ろうとはしなかった。
だが、この帝都では、隙あらば塵外刀を盗もうとし、命を散らすものが少なからず居る。
アホだな、と思うが今はエア達が居るのだ。従者が誤って触り血を噴いて死にました、とかそんな事態は彼としてもノーサンキュー。
とりあえず、狙うは拡縮獣である。日常的に持ち運べるならば、威嚇にもなる。
「というわけで、ちょっと出てくる」
「何がというわけだ。お前、私の所有物という自覚が薄いんじゃないか?」
「薄いとかじゃなく、皆無だがな。だいたい、お前に全てを捧げてる立ち位置には三獣士が居るだろうが」
「アイツ等は部下だ。そしてお前は私の所有物だからな」
「せめて人扱いしやがれ。ちょっと出てくるだけだから良いだろうが。お前が立ち上げようとしてる、警備隊は集合まで時間あるんだろ?」
「一週間ほどだな」
「今日の昼には帰ってくるから良いだろうが」
「どこまで行くつもりだ?」
「あん?ここだが?」
ヌマセイカが渡した資料。
書かれていた地名は
フェイクマウンテン、であった。