勇者が断つ!   作:アロロコン

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クリスマスディナーをカツ丼とうどんでおさめた私でございます。
皆様はチキンなど頂きましたでしょうか?美味しゅうございましたか?それはようございました。

では、本編始まりにござい




 基本的に表だけの薄っぺらい活気を持つ帝都。

 本日、その一角では何度と無く歓声が上がっていた。

 

「つまらん試合だな」

「いや、頑張ってる所見てやれよ。欠伸すんな」

「ヌマセイカ、ちょっとそこに一槍入れてこい」

「シラケるだけだろうが。ランに頼めよ。元文官だが、動けるだろ」

「…………一応、私はまだ文官のつもりなんですけど」

「諦めろ。ここに配属された時点で実働部隊確定だ」

 

 一番高い席から闘技場を見下ろすように並ぶ3人。

 椅子に座るエスデス、床に直座りのあぐらをかき頬杖を立てるヌマセイカ、エスデスの斜め後ろに控えて書類の束を持ち完全に秘書なランの3名だ。

 闘技場では人当たりの良いウェイブが進行を行っており、他の面子はそれぞれこの場の警備に散っている。

 

「お、お侍が勝ったか。まあ、一般人なら上出来だろ」

「明らかに鈍らだ。鍛えた所で屑鉄にしかならんな」

「打ち手次第じゃ玉鋼も屑鉄になるがな」

 

 軽く交わされる会話のドッジボール。キャッチボールではない。どちらも相手の隙を抉るような言葉を交わしているのだ。

 傍らのランは笑みの奥で胃の痛みが起きそうな錯覚を覚えた。

 その感覚から必死に目をそらしていれば、次に闘技場に現れるのは二人の影。

 少年と、対面するのは牛頭の筋骨隆々とした男だった。

 

「これは…………」

 

 組み合わせを間違ったのではないか、とランは言おうとするもそれは結局紡がれることはなかった。

 

「…………」

「…………」

 

 恐らく自分の見てきた強者の中でもトップを張れる二人が揃ってその試合に集中していたからだ。

 ウェイブの紹介によって二人の注目する大男─────ではなく少年の名が発覚する。

 

「タツミ、ね。随分と若い鍛冶屋も居たもんだな」

「…………素材は悪くないな」

「材質は玉鋼。ま、研磨処か焼き入れもしてないみたいだがな」

 

 まだ、始まってもいないというのにかなりの高評価だ。

 そしてその裏付けは直ぐにとれる。

 瞬殺である。体格差をものともせず、かといって完璧には無視しない的確な攻めと守り。

 最後は相手の体勢を崩してからの跳び廻し蹴りを顔面へと叩き込み、勝負ありだ。

 

「逸材だな」

 

 呟くエスデス。異論は無いのかヌマセイカも揚げ足を取ることもない。

 そのまま、椅子を立ち降りていく彼女を見送る二人。

 

「強かったですね、彼」

「オレと同じか少し下っぽいよな」

「…………そういえば副隊長はおいくつなのですか?」

「いくつに見える?」

「……………………20代後半、でしょうか。落ち着いておられますし」

「残念、18だ」

「………………………………」

「ハハハッ、ランは文官の割りには顔に出るな。ポーカーフェイスは磨くに越したことはねぇぞ」

 

 へらへらと笑うヌマセイカ。精神年齢を数えれば中年も良いところの年であるため、見た目不相応に老け込んでいたのだった。

 

 

 ▲★■★▲

 

 

「という訳で、イェーガーズの補欠となった、タツミだ」

 

 時間は流れて、王宮、イェーガーズに割り当てられた部屋にて、椅子に鎖で縛られた少年がエスデスにそう紹介されていた。

 なぜかその首には首輪が嵌められており、メンバーは全員一歩引いている。

 

「あの、市民をそのまま連れてきちゃったんですか?」

「何、不自由はさせんさ。それに補欠だから連れてきた訳ではない」

 

 ボルスの言葉に応えたエスデス、その表情は花も恥じらう乙女の顔であった。

 

「こいつは私の恋の相手かもしれないからな。一から手塩にかけて育てようと思う」

「それで、どうして首輪がはまってんです?」

「…………愛しくなって、つい」

「ペットと同じ扱いに見えますね」

「そんなつもりはないが…………」

「だったら取ってやれよ。恋人と家畜は違うぞ」

 

 ウェイブ、ラン、ヌマセイカの3人の指摘に逡巡したエスデスはやがて、タツミの首輪を取っていく。

 そして、何故か取った首輪をヌマセイカへと差し出した。

 

「……………………おい」

「お前は私のモノだ。ならば首輪のひとつでも着けておくものだろう?」

「ぶち殺すぞ、クソアマ。誰が好き好んでお前の首輪なんぞ着けるか!!」

「お前との殺しあいか…………ふむ、それも面白そうだ」

 

 地雷踏んだ。ヌマセイカはそう判断して眉間にシワを寄せた。

 渋々差し出された首輪を受取り、その手で玩び始める。

 

「そういえば、この中で恋人が居たり、既婚の者は居るか?」

 

 エスデスが問えば挙がる手は一つ。

 上半身半裸のガチムチ良心、ボルスであった。

 皆の視線が突き刺さる。

 

「ほお、お前かボルス。人は見た目によらないものだな。既婚か?」

「は、はい。かれこれ六年目です」

 

 ワイワイと盛り上がる面々。そのなかでタツミがオズオズと手を挙げ、セリューに撫でられる、という場面があった。

 少し離れて見ていたヌマセイカは気づく。固く握り締められた両の拳とほんの一瞬だが髪の隙間から覗く、憎悪の瞳。

 

 ──────仇か

 

 彼はその目をよく知っていた。

 正義感が強く、仲間を心の底から大切にする熱血漢の目。

 さて、更に彼の思考は先へと進む。イェーガーズの面々の前所属は書類で知っている。そしてセリューは警備部隊の出身だ。

 彼女はナイトレイドとの戦闘の際に両腕を切り落とされたが、鋏型の帝具を持つナイトレイドをコロに食い殺させている。

 

(タツミはナイトレイド所属、若しくは革命軍、か。賊の生き残りの可能性もあるが、それなら大会みたいな大舞台には出ねぇだろうし、な)

 

 そこまで思考し、彼は考えるのを止めた。

 第一彼が帝国に残っているのは行く宛が無いからだ。忠誠心等、糟ほども持ち合わせてはいない。

 

(向かってくるなら、殺すが。まあ、今はいいだろ)

 

 ヒョイヒョイと、首輪とそこらにあった灰皿、ペンなどをジャグリングしながらそんなことを考えていた。

 

「何してんすかヌマさん」

「見りゃわかるだろ。ジャグリングさ」

「えぇー…………」

「それよか何のようだ?」

「仕事です。話聞いてました?」

「聞いてないから、聞いてるんだろ。これだから、ウェイブだなんて呼ばれんだよ」

「俺の名前はそんな悪い意味じゃ使いませんからね!?」

 

 

 ▲★■★▲

 

 

 ギョガン湖。何でもその近くには悪人の駆け込み寺となっている。

 

「オレ要らなくね?」

「副隊長が初仕事をサボるとはいただけないな」

「お前が勝手に据えたんだろうか」

(てか、剣デカ!?あんなの振るえるのか?つーか、帝具、だよな?)

 

 部隊6名が砦に突撃するのを見ながら、タツミを含めた残り3人は後方に待機していた。

 

「おおー、セリューは改造人間だな。つーか、帝具を改造するとは」

「あの程度は出来てくれねば困る。帝具を振るうならば一人数十人はかたいな」

「ま、筋は悪くないわな」

 

 タツミはそんな二人の会話を聞きながら戦慄する。

 はっきり言ってここから見える範囲、6人ともかなりのレベルであることが窺えるのだ。少なくとも、自分達と互角。

 そんな彼らを統率する二人は

 

(どれだけ…………強いんだ?)

 

 はっきり言って今の自分では勝てない。

 

「良い動きだよなぁ。オレ、やっぱり要らなくね?」

「殺戮能力ならばクロメはなかなかだな」

「スタイリッシュの尖兵もいい感じか。私兵がどの程度居んのか分からんが」

「補助型ならでは、だろう」

「後は、ウェイブか。強いのは分かるんだが…………」

「安定感が無いな。あれは精神的な所だろう」

「ボルスとランは平均的か。仕事として割り切ってる連中だしな」

「セリューは帝具と兵装の使い分けがなっている…………が、あれは先走りすぎるな。クロメも似たようなものか」

 

 白熱する冷静な分析。タツミは少しでも多くの情報を持ち帰ろうと、逃げようにも逃げられない。

 そうこうしている内に、逃げるものはランに仕留められ、城内の残りもクロメとウェイブに片付けられ、セリューとボルスが残党を処理。周辺の調査をスタイリッシュが終えて、賊討伐は終了となる。

 

「ヌマセイカ」

「ん?」

「後片付けをしてもらおう」

「……………………まあ、塵外刀の能力は知ってもらうべきか」

 

 最後の締めとして後頭部を掻きながら、ここ最近掛けっぱなしの塵外刀変化を解除するヌマセイカ。

 突如グニャリと歪んでただでさえ大きい塵外刀が更に大きくなったことに皆が驚きの目を向けた。

 

「塵外刀変化──────」

 

 ここに来るまでに予め危険種を吸収したストックによって奥の手の発動。

 

「──────型式“兜”」

「なっ!?」

「こ、これは…………」

「スゲェ…………」

 

 夜空を突く、巨大な刀。

 イェーガーズはおろかタツミもあまりの規格外の大きさに開いた口が塞がらない。

 

「もう少し下がってろ。巻き添えでミンチになってもオレは知らんからな」

 

 それだけ言うと、彼は化け物刀を軽々と横薙ぎに振るってみせた。

 ぶち壊れる砦の上半分。

 

「──────返しの太刀」

 

 普通の刀を振るうように、巨大さに振り回されること無く、ヌマセイカは振り抜いた塵外刀を反対へともう一度振り抜いた。

 それにより瓦礫と残っていた砦の下半分がキレイに消し飛んでいた。同時に変化も解かれ、元の塵外刀の姿へと戻る。

 

「こんなところか。塵外刀変化─────型式“変獣”」

 

 更に皆が見慣れた大きさへと塵外刀を縮めたヌマセイカはそれを地面へと突き立て、刀身の腹を背にもたれ掛かった。

 

「ま、何れはこれくらい出来るようになってもらうからな」

 

 ──────無理

 

 恐らくエスデス以外の面子の心が一つになった瞬間だった。




暫くぶりの塵外刀変化ですね。この話は少し前からやりたいと思っていたシーンでした。

因みに私はこの変化ならば、揚羽が好きですかね
黒刀はロマンです

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