その一滴を極めるまで 作:恋塚灰羅
▽月#日 晴れ
一日目終わった。疲れた。詳しいことは後で書こう、ちょっと余裕ない。今日はいきなり堂島先輩のクラスだった。それとたくさんのステーキ。あと、いちめんのきんにく。いちめんのきんにく。いちめんのきんにく。
寝る。
▽月$日 晴れ
二日目終わり。筋肉祭はちょっとだけ余裕があった。心構えが出来ていたからかもしれない。
今日の担当は乾先輩だった。なんとか先輩の課題をクリアできた。(詳しくは後で書く)
今日もまたたくさん調理する課題があったけど、心構えが出来ていたからか意外とあっさり終わらせれた。せっかく余裕があるから秘蔵っ子パート27の研究をすることにする。調理場は借りれた。
追記
霧の女帝を垣間見た。優しげでとっつきやすい雰囲気と違って鋭い刃のような先輩だった。それでも退学にされなかったから、及第点は貰えたのだろう。すごく疲れたけどだいぶ勉強になった。
▽月&日
時間割きたくないからメモだけ。今日の担当はドナート梧桐田先輩だった。なんとか合格できた。明日の朝食の草案は出来たから少しだけ休憩中。すぐに再開しなくちゃ。
▽月¥日 晴れ
ぎっりぎり。なんとか茶碗蒸しは合格点貰えたみたい。平凡と侮るなかれ、即席で用意したパート7を混ぜたからすっきりした強い味を出せたのだ。充分驚きがある一品だろうと褒められた。よし、残りも頑張る! それはそうと午後の課題の前に少し寝ます。疲れた。
▽月£日 晴れ
天国とはこのことだろうか。何とか課題をすべて終わらせた私たちに、先輩たちは腕によりをかけたフルコースで祝福してくれた。敢えて書く必要も無いだろうけど、めちゃくちゃ美味しかった。このフルコース、いったい何十万するんだろうか。遠月学園の高等部に進級出来て良かったと強くおもった。
それはそうと、使わないという厨房を少し借りることが出来た。パート24もそろそろ完成ってことにしてもいいと思う。ここまで手間をかけたんだから美味しくなっていてほしいものだ。これから試作して色々と試してみたい。それに、今日の先輩たちの料理を一通り作ってみないとね。たぶんあの料理は先輩たちからの宿題だから。
▽月§日 快晴
ちょっと待ってちょっと待ってちょっと待って!思い出すだけでもう何も言葉が出てこなくなる。やばい、すごく嬉しい。ありがとう、乾先輩。うんめっちゃ嬉しい。
落ち着こう。えっと何から書こう、何から書けばいいんだろうか。そうだ、書く書く書いてたし、最初から振り返ろう。たぶんそれで少しは落ち着くかも。落ち着くよね、たぶん。落ち着いてほしい。っていうか待って、やばい、嬉しすぎる。
(以下しばらく蛇がのたうったような文字)
合宿一日目。堂島先輩のクラスで出された課題は『メインの肉料理』。コース料理のメインを張る一品を仕上げるのが課題だった。私も聞いて少し拍子抜けしたし、たぶん周りもそうだったと思う。元十傑を納得させる品にしなければならないのは大変だが、課題の内容としては平凡極まりなかった。このお題に合う料理はこれまでの授業で何度もやってきた。
でもそんな生温いことは無かった。続けて堂島先輩が言った言葉には思わず耳を疑った。
「調理時間は30分。材料はここから持っていってくれ。当然のことだが、時間がいくら短いと言っても評価基準を緩めることは無い。それじゃあ始めてくれ」
メインの肉料理と言ってすぐに浮かぶのはローストビーフだけど、じっくり焼き上げるのに少なく見積もっても30分はかかってしまう。いくらか工程を省略して火も強くすれば短縮は出来るだろうが、それじゃあ不合格になるのは目に見えている。
煮込み料理も時間が厳しい。ソテーなら間に合うだろうけれど、そこまで行き着くのは皆同じだ。皆が皆、同じ料理を作ってしまったら、一つ一つの印象が薄れてしまうに違いない。それにソテーするにしても、肉を事前にマリネしてやれないから、これまで授業で作ったそれよりも味が落ちる。メインに求められるのは強い味だ、そんな薄味は許されるわけがない。
私が選んだのはポワレだった。いつだったかシャペル先生が授業でポワレについて教えてくれたことがある。今でこそ表面をかりっと焼き上げることを指しているのだが、元来のエスコフィエの定義は違うのだという。私の仕上げるポワレはまさしくエスコフィエのそれだ。
時間はぎりぎり間に合うかどうか。手順はシャペル先生の話を聞いてから何度も練習したから問題無い。味も保証できる程度には作れる自信があった。
果たして結果は合格、なんとか退学を免れたと一安心した。まあそのあとステーキ50食の課題が来て死にかけるんだけどね。
合宿二日目。乾先輩からの課題は分かりやすく、そして厄介だった。
「おはようございます。皆さんは一日目の課題を潜り抜けた優秀な方々と聞いています。気を抜かずに無事に合宿を終えることを期待しています。さて今日の課題ですけれど……」
乾先輩が私たちをくるりと見渡して、面白いことを思い付いたとでもいうように柏手を打った。
「今日は人数が少しだけ少ないみたいですし、一品と言わず三品作ってもらうことにしましょう。懐石料理の基本の構成要素から、向付、煮物、焼き物を仕上げてみてください。制限時間は二時間とします」
向付――すなわち刺身――、煮物、焼き物。今までの授業では二時間かけて一品だったところが三品だ。単純に時間の配分が厳しかった。それに単に美味しい三品ではなく懐石料理としての三品、どこで主張してどこで引くか、バランスも考えなくちゃいけない。
何を作るかにもよるが、一番時間がかかる煮物と焼き物をほぼ同時に調理し、頃合いを見て向付を作るのがいいだろう。あまりしっかり見れてないけど確かみんなそんな感じで取り組んでいた。だけど私は少し順序を変えた。煮物のための出汁取りを最初に、
ところでその日の夜、調理室で研究をしていたら乾先輩が覗きに来た。消灯忘れのチェックらしい。せっかくだからと私の作っていた煮物を食べ比べてもらえたのだけど、改善点がぼろぼろと出てくる。目つきはきつかったしなんだか纏っているオーラも変わった気がする。
出汁に合わせた野菜への味付け、野菜の切り方、煮込む時間、煮込む温度、何から何まで改善案を出された。何が辛いって、どれも的確で私には思い付かなかったものだということ。こうなると少し精神にくる。嬉しくもあったけどね。
この会は一時くらいに終わりになった。最後の完成品はタッパーに等分して詰めて持ち帰った。
合宿三日目。っといつの間にかこんな時間だ。少し一気に飛ばそう。時間があったら後でまたまとめる。
まあ三日目もなんとか課題をクリア、四日目五日目もそんな感じで六日目――つまり今日。帰り際に乾先輩に呼び止められて、連絡先の交換をお願いされた。これだけでも嬉しいのに、さっき審査と二日目夜の試食のお礼のメールを送ったら、なんとこのあとの連休に何も予定が無ければ霧のやに来ませんかと誘われたのだ! ちょうど定休日らしく、特別価格で料理してくれるらしい。実際格安だったから二つ返事でお願いした。凄く嬉しい!