その一滴を極めるまで   作:恋塚灰羅

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日記その四

〓月Φ日 晴れ

 選抜に出す料理はひとまず完成、かな。長かったけれど自信作ではある。あの葉山くんに勝てるかは分からないけれど(たぶん無理だけど)、全力で頑張ろう。

 それにしても先輩には感謝が尽きない。先輩のあの言葉のおかげでこの料理が出来たのだから、ほんとありがたいことこの上ないよ。あとでお礼しなくちゃね。

 

 

〓月Ц日 晴れ

 今日は選抜があった。私の出したカレー料理は好評で、なんと90点の大台に乗ってくれた! すっごい嬉しい! ……とは言っても予選突破は出来なかったんだけどね。やっぱり今年の皆はすごいなあ。聞いたところによると例年なら80点後半取っていればまず予選突破できるらしいのに、今回は最低ラインが91だって。

 遠月の十傑に入るにはこの予選を突破しなくちゃいけないって言うし、やっぱり玉にはなれなかったのかな。まあ石でも玉に磨かれれば輝けるんだよって証明できたし、ひとまずは満足ってことにしておく。うん。

 選抜が終わった後にタクミくんと話していたらその場のノリで極星寮のお祝い兼お疲れ様パーティーに参加することになった。悠姫ちゃんとは授業でペアを組むこともあって親しかったから、まあすっごくアウェーみたいにはならないと思いたい。うん、そろそろ行かなくちゃね。

 それにしても、うん、悔しいなあ……。

 

〓月Ч日 晴れ

 朝帰りって書くと少しエッチな響きがあると思う。一晩中皆で飲んで食べて騒いでいただけなんだけどね。

 皆疲れてたのもあってかぐっすりと眠ってて、私の方が早く起きることになった。せっかくだから皆の分の朝御飯も作っちゃおうかなって厨房を借りに行くと、一色先輩がいた。そういえば何か用事があるみたいなこと言っていたなあって思いながら、簡単なコンソメスープと洋風きんぴら、アスパラのベーコン巻きを作った。一色先輩にも食べてもらって、一色先輩からは炊き込みご飯と秋刀魚の塩焼きを頂いた。さすが第七席、美味しかったです。

 少し遅れて幸平くんと恵ちゃんが起き出してきて、三人が出かけてからたぶん一時間くらいたってから皆が起きた。幸平くんたちにも悠姫ちゃんたちにも食べてもらって好評をもらえた!

 

 それと少し覚え書き。まだ二ヶ月は前なんだけど、先輩から学園祭のお手伝いを頼まれた。去年はそんな話無かったから、少しは認められたのかな。板場に立つ練習しておこう。

……先輩の言っていた「お主ならスタジェールも抜けられるであろうしな」という言葉が怖い。期待が怖いのもあるけど、スタジェールって抜けられなかったら退学、とか? ……ありそう。

 

〓月Щ日 晴れ

 選抜は終わったけれどお仕事は終わらない。出張料理に行ってきた。なんというかもうそこそこ慣れてきたし、評価もしっかり頂けているからか退学を言い渡されることもない。

 今日のご依頼はお昼のママさん会のカジュアルなフレンチ。コースほど格式ばったものじゃないけれど他のママさんたちにしたり顔出来るような小綺麗な料理という依頼だった。曖昧なのはまあ私の説明文のせいもあるから仕方ない。

 いつものように数日前に事前に決めて伝えておいたメニューを作って食べて頂いた。相変わらずというかシェフとしてママさんたちの前に顔を出した時には驚かれた。息子さん娘さんに私と同じくらいの年齢がいるというママさんもいて、すごい可愛がりを受けた。(受けざるをえなかった?)

 

〓月Ы日 晴れ

 私の選抜は終わったけれど選抜は終わっていない。つまり今日は選抜本戦の一回戦だった。

 一試合目はアリスさん対幸平くん、二試合目は黒木場くん対恵ちゃんで、どっちも見応えのある試合だった。食材の質は言うまでもなく調理技術は目を見張るものばかりだったし、何よりも料理の発想が素晴らしかった。アリスさんの冷製手毬寿司、幸平くんの三段海苔弁当、黒木場くんのポワソンラーメン、恵ちゃんのこづゆベースの野菜ラーメン、どれも美味しそうで涎が止まらなかった。

 特にラーメンの二人はすごい! 出汁って一時間程度で取れるものもあるけれど、ものによっては八時間かけて取ることもあるし、一日じっくり煮ずに水出しして風味を馴染ませることもある。正直に言うと事前に用意したスープストックを使わないなら選抜の時間じゃ全然足りないし、事前に用意したものだと生半可なものでは味が落ちちゃう。行儀よく纏める程度なら時間内でも出来るけど強いコクと風味を出すのは相当の難行だ。それを――いつお題を出されたか知らないけれど――最長でも一週間、短ければ一日とかけずに仕上げるなんて、ほんとにすごい!

 せっかくだから私も「私だったら」のラーメン作ってみようかな。明日も選抜二回戦目があるから、ひとまず明日の朝までで一区切りにしよう。

 

〓月Ю日 晴れ、少し曇り

 今日の選抜は新戸さん対葉山くんと、タクミくん対美作くんの二試合だった。うん、まあどっちの試合も衝撃的だったかな。前者は葉山くんの武器が炸裂して、後者は美作くんのパーフェクトトレースがやっぱりすごかった。

 というか美作くんが悪役ぶっているのがびっくりだった。私の時はそんなに悪役感無しで正々堂々戦ったし、自分のアレンジに自信を持ってて向上心もあるしゃんとした料理人だったから少し違和感。

 試合の後で美作くんに一回戦突破おめでとうって言ったら驚かれた。前もそうだったけど、別に私は包丁取られて怨めしく思ってるわけじゃないし、選抜予選で抽選で負けたのも仕方ないくらいにしか思っていないしね。それからあの時のリゾットについてだったりあの時渡したあの子についてだったり色々と雑談した。

 準決勝も頑張れってことで試作のラーメンを振る舞った。いや、ひとまず形にしたから助言と感想が欲しかったってだけなんだけど。

 

 

〓月Ж日 曇り

 イサミくんと同じ授業(集中講義。選抜組は免除されてるみたい。出てもいいらしいけど)だったからタクミくんのこと聞いてみると、やっぱり負けたことがすごくショックだったようだ。今も塞ぎこんでしまっているみたい。んー、確かに全部先回りされて負けちゃうのはだいぶくるところあるから仕方ないのかな? 私みたいに玉には勝てないやなんて諦めてるわけでもなし、むしろ自分こそ玉って自負で戦っているなら相当辛いだろう。私も経験あるから分かるんだ、うん。

 きっとここがタクミくんの分水嶺になるかな。私はあの時ぽっきりいったけど、タクミくんはどうだろう。食戟一回くらいしかしてない知り合い程度の仲だけど、きっと立ち直るって思うよ、うん。タクミくん強いし。

 イサミくんは少し安心した表情だった。それから「兄ちゃんに伝えておくね! それともし良かったら後で直接言ってあげてね」とお家へのお誘いを受けた。明後日はちょうどフリーだったし何か手土産持って行こうかな。

 

 

〓月Й日 晴れ

 タクミくんたちのお家にお邪魔させてもらった。もうある程度落ち着いたみたいで、いつもの調子で歓迎してくれた。のんびり話して、それからキッチン借りてリボッリータを作った。もともと見舞いの品ってことで作らせてもらう予定だったし。ミネストローネの余りで作るのが本場風だからそれにあわせて私も秘蔵っ子パート12を使うことにした。普通のブイヨンじゃ旨味が足りなさそうだからって思ったけれどやっぱりその通りだった。

 

 

〓月Л日 晴れ

 選抜準決勝戦だった。幸平くんは美作くんに勝って、黒木場くんと葉山くんは異例の引き分けになった。うん、どの料理もすごかった。

 再来週が選抜の決勝かあ。やっぱり決勝だけあって試行錯誤の時間は長いみたいだ。三人がどんな秋刀魚料理を出してくるか楽しみだ。

 

 

〓月Ъ日 晴れ

 今日は悠姫ちゃんに呼ばれて一緒に料理して、ついでに幸平くんの試行錯誤のお手伝いを(成り行きで)することになった。といってもそこまで出来ることなんてなかったけど。熟成は私の専門じゃないし、それこそ焼物にするなら私の出番なんて殆ど無いようなものだしね。煮物鍋物なら任せて――そんなに強気で言えるほどじゃないけど――なんだけどね。

 

 

〓月Э日 晴れ

 幸平くんに呼び出された。ある程度料理の形はまとまったみたいで少し手伝ってほしいということだった。秋刀魚の炊き込みご飯は確かに、うん、少しなら手伝える料理だ。基本的に料理を考えるのが私であってはいけないから、いくつか基本的なことを教えるだけだったけど。基本的な旨味の相乗作用は意識的にすることが無い(だいたい無意識にやってる気がする)からその再確認と、効果的な旨味成分の引き出し方、それと噛み合う食材の例をいくつか紹介した。実際に飲み比べもしてみたから、きっとある程度分かってくれたと思う。

 

 

〓月Я日 晴れ

 豆乳ベースに味噌とチーズ、それに予めご飯に入れておいたカリカリ梅で酸味と食感を合わせてくる。うん、ずるいと思ってもいいよね。あの発想力はすごいよ。出汁を強くするには、コクを出すには、単調にならないようにするには。色んな試行錯誤を繰り返したんだろうけれど、それでもたった三日だよ? なんでそんなに洗練された料理になるの?

 うん、ちょっとした愚痴は終わり。幸平くんだけじゃなくて黒木場くんも葉山くんもすごかった。どれも傑物ばかり、きっと三人とも将来的には十傑入りするんだろうなあ。

 




選抜終わり。早いでしょう? 早いんです。
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