その一滴を極めるまで   作:恋塚灰羅

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日記その五

∮月∀日 晴れ

 明日からスタジェールだ。私の派遣先は都内のホテルの厨房で期間は一週間。頑張ろう。

 

∮月∃日 晴れ

 スタジェール初日だった。なんというか予想外?だった。まさか向こうの料理長が私のことを知っているなんて、そんなこと思いもよらないよ。話を聞いてみると同じ出張料理のサイトに実は登録してる方で、私の年齢もあって頭に残っていたとのこと。そんなこともあっていきなりある程度料理を任せてもらえることに。

 実際の現場は次々とタスクが舞い込んできて大変だったけどなかなかしっかりこなせたかなと思う。

 

∮月∠日 曇り

 二日目。今日は昨日と同じ感じだった。終わり。

 じゃない。いやまあ今日のことは終わりなんだけど、明日から比較的ゆっくりできる昼だけじゃなくて夜にも入るようにお願いされた。本当ならそんな予定は無かったけれど、実力は充分あるし手際もいいからとのこと。認められたみたいで嬉しかった。頑張ろう。

 

∮月⊥日 曇り

 大変だった。最低限の仕事は出来たと思いたいけれどほんとその程度だけ。足を引っ張っているんじゃないかなって不安になるくらい動けなかった。

 それと今更だけれど目に見える成果を出せていないって気付いた。目に見える成果……、売り上げとかじゃないだろうし何だろう。劇的な変化?

 

∮月⌒日 晴れ

 少しずつ動けるようになってきた。少し余裕が出て回りを見る時間が出来た気がしなくもない。他のシェフの方々とも馴染めてきてアドバイスを気軽に聞けるようになった。遠月の学生さんだから凄いんだよねみたいに言われたりもしたけど、まだまだ若輩者の私なんかより丁寧な仕事ぶりの皆さんの方がすごいです。うん、すごく勉強になりました。

 ところでもう折り返しだって。危機感で胃が少し痛くなってきたかも。

 

∮月∂日 晴れ

 料理長さんと少しバトルした。内容はとある料理のルセットについて。美味しいよ。料理長さんのルセットでもすごく美味しいんだよ? でも私だったらこうしたいってのがあって、料理長さんも興味津々でどんどん白熱していった。それで最終的にお互いのルセットで競い合おうみたいになった。料理対決の開催は明日の22時30分、審査員は厨房にいる全員になった。

 書いてて思ったけど、最初のバトルは言い過ぎだったかも。お互い改善案を出すのに楽しんでいたし。とはいってもお互いダメ出ししあったりもしたからバトルなのかも。

 

∮月∇日 晴れ

 勝った。第三部、完。

 少し前の出張料理の時にテレビから聞こえたセリフなんだけれど言いやすくて好き。アニメの内容は知らないけれど。

 まあそういうことだ。レギュレーションとしては単価1500円以内のスープメニューで、ここのコースのスープのアレンジであること(つまり食材を元から変えすぎないこと)、そしてフレンチであることだった。選抜前に先輩に言われて改めて分かったことだけれど、こんな玉に届かない私にも武器はあるみたい。だからそれを全力で凝縮して出してみた。もちろん特別高級な食材は使っていない。料理に使わない廃棄予定の白身魚のガラを朝からじっくり煮出して作った特製ブイヨンとかそんな感じのを使ったくらい。とにかく頑張ってみた。

 

∮月≡日 晴れ

 今日でこの厨房でのスタジェールも終わりだった。お仕事中は特に何も無かったけれど、仕事が終わってから料理長に呼び出しを受けた。内容は新メニューの試し刷りを見せてくれるってことで見せてもらったけれど、ぱっと見た感じあまり変わってなくて何で見せてきたのか分からなかった。それでまあそう言うと、よく見るようにって言われた。ざっと見た時には気づかなかったけれど、改めて見て、うん。スープのメニューが変わっていた。

「昨日のあれを少し上品に整えたメニューだ。もしもお前さんが許してくれるんならこの新しいメニューでいきたいと思ってるんだがどうだ?」

 なんて言われたら頷くしかないでしょ。

 別れ際に連絡先を頂いて、卒業後に行くところ無かったら連絡してくれって言われた。うん、とってもいい経験だった。

 ……目に見える成果出せてるのか不安だったけれど、新メニューのあれがそうみたい。いきなり退学にならないで良かった良かった。まだまだスタジェールは続くんだけどね

 

 

∮月≒日 晴れ

 スタジェール二ヶ所目は『志絡鮨』という鮨屋だった。年若い者や女子は板場に立たせないという旧来の方針のままの鮨屋もあると先輩に聞いていた通り、私を見た途端に露骨に嫌そうな空気を見せてきた。私だってまだまだ粗削りだって分かっているけれど、板場に立ってもいいって先輩に言われたのだから少し不満。私が軽く見られるのは構わないけどなんだか先輩まで見下されてるように感じてしまった。

 とはいえ変に問題を起こして退学になったらそれまでだ。先輩に学祭のお店に誘われた以上退学は絶対に避けておきたいから、今日は無難にあまり逆らわないように頑張った。

 

∮月√日 曇り

 ……今日も無難に頑張れた。うん、今日も無難に頑張れた。大丈夫、大丈夫。掃除して仕込みを少しだけ手伝って掃除して、うん頑張った。

 明日からはある程度仕込みを任されるみたい。念のため私の包丁も持っていこう。あと白衣も。お店の借りて済ませられればいいけれど、他のお弟子さんたちの表情的に、まあうん。最悪の事態にならないといいのだけれども。

 




次の日記は飛んでスタジェール後になる予定です。

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