捻くれぼっちの筈の彼の死は、何人もの心を締め付ける。   作:あなさ

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更新、思ったよりは速く出来ました。
それではご覧ください。


由比ヶ浜結衣と雪ノ下姉妹 【後編】

【雪乃side】

 

私は、言葉を発することが出来なかった。

と言うより、言おうとした言葉を詰まらせてしまった、というのが正しい表現なのかもしれない。

 

私は、『あら、由比ヶ浜さんもそんな冗談を言うのね、脳がレベルアップしたのかしら?小学生に。』と言おうとした。

 

でも、それは恐らく逃げないという約束を破ることになる。

つまり私は、虚言をはいたことになってしまう。

そんな事は絶対に認めない。

 

それと、それを言おうとした瞬間の、電話の奥から聞こえてきた音のせいでもあった。

 

そうそれは、私が答える前の、由比ヶ浜さんの、はしたないようだけれども、鼻水を『ズズッ』と啜ったような音。

 

単なる鼻風邪かとも思ったが、特に彼女の声は鼻声でもないし、夏風邪ならば、わざわざ誰かに電話するような頭に響く事はしないだろうし。

 

ということは………

 

雪乃「由比ヶ浜さん…あなた、泣いているの?」

 

こういうことかしらね。

 

結衣『っ…あはは、やっぱ分かっちゃう?これでもさっきスッゴい泣いたんだけどね……』

 

ヒックと、泣くときの人特有のしゃっくりが由比ヶ浜さんから聞こえた。

 

ということは、やはり、本当なのね。

 

雪乃「そう…本当に比企谷君は……」

 

何だか、身体の半身をもがれたような気がした。

心の中の核のような、中心の半分が急に虚無に消えたような、今までにない感情が湧き上がる。

 

でも、彼女の前でこの感情をさらけ出してはいけないと思った。

 

何故かと問われれば、直感としか言いようが無いのだけれど。

 

今までの彼女と過ごしてきた、甘く、苦い時間。

そこからの経験と言うべきなのかどうか迷うところだけれども、何となく、私の頭に浮かんできたのだ。

 

ーーー由比ヶ浜結衣は、今私が泣いたら、取り乱したら、罪悪感に潰されてしまう、と。

 

 

 

 

───由比ヶ浜結衣は優しくて、強くて、でもつい空気を読んで他人と自分を傷つけないようにして来た、弱い女の子だ────

 

───それは、私達奉仕部の中でも変わらず、というわけでも無く、彼女は彼のおかげで『本物』に近づいてからは本当の本心を話すようになった───

 

───欺瞞に溢れた虚偽(いつわり)の言葉ではなく、欲にまみれた本心を───

 

───少し言い方が悪いかも知れないが、それが本心というものだ───

 

───しかし、それでも稀に、偽物の彼女の顔が覗く─

 

 

 

 ─────怯えて震える、弱い彼女が、──────

 

 

 

 

恐らく彼女は、奉仕部の仲間として伝えねばならないという強い使命感と、傷付けたくないという感情が、頭のなかでせめぎ合っている感じなんだろう。

 

ならば、せめて私だけでも、

 

雪乃(平静を保たなければならないわね…)

 

そう、思った。

 

そうしなければならないと。

 

例えそれが欺瞞で、私の大嫌いな虚ともなろうとも、彼女を傷付けないための最善の策を演じなければ、と。

 

心の底から、自分を嫌悪する感情が湧き出る。

これではまるで、私が、私達が最後まで否定し続けた、彼のやり方じゃない。

 

なにが、『アナタのやり方、嫌いだわ』よ。

今の私がそれじゃない。

 

でも、やっぱり彼も嘘つきだったのね。

 

私も、あなたの言葉を借りるなら、ぼっちというものだけれどもーーーー

 

 

ちっとも、大丈夫じゃ無いじゃないじゃない。

 

でも、彼はやり抜いた。

私も、やり抜かないといけないわね。

 

例え、由比ヶ浜さんと先程交わしたばかりの、逃げないという約束を破ることになろうとも。

 

雪乃「そう、比企谷君の御家族様もご愁傷様ね。彼が死んでしまったのは何時なのかしら。まぁでも、事件に巻き込まれた訳じゃないだろうし、死亡時刻もわからないわよね。それにしても、彼は一体どのように死んでしまったのかしら?いつもいつも死にそうな顔をしていた彼がどのように『ゆきのん』……ごめんなさい、失言だったわ。」

 

由比ヶ浜さんは、何時もとは違う、少し威圧感のある声色で私の言葉を遮った。

 

そして、

 

結衣「あの……なんていうか、その、ゆきのんが私のことを心配してくれてるのは嬉しいんだけどさ…そのせいでゆきのんが辛いの我慢するのも、私的にはちょっと辛いかな‥?」

 

今度は優しいというより、悲しみの割合の強い声色で、そう言った。

 

……ふふ

 

由比ヶ浜さんには、私のことはお見通しね。

ちょっと悔しいけれど……

 

その時に私はまだまだだとおもった。

彼女の真の優しさ(こころ)を、読み取れなかったのだから。

でも、どんなに泣きたくても、姉の前で弱さを見せたくない自分がいた。

いつもいつも追いかけてばかりの背中に、弱さを晒したくはなかった。

 

雪乃(そうね……姉さんには席を外して貰いましょう……まさか、自分が泣くために姉を追い出すなんて、甘い理想を抱くのね、私も。……傲慢ね。)

 

雪乃「姉さん、悪いのだけれど席を外して貰っても…っ!?」

 

そこまで言った所で、姉さんが私に抱きついてきた。

そして─

 

陽乃「雪乃ちゃん、ごめんね?お姉ちゃん話全部聞いちゃったの。だからさ、雪乃ちゃん…無理せず、弱さを見せてくれないかな?」

 

そう言ってきた。

 

姉さんに弱さを晒す?

冗談じゃないわ。

そんなことしたら、また、姉さんから突き放されてしまう。

 

 

大体ーー

 

そんな考えを遮って、姉さんは、私が想像しなかったことを口走った。

 

陽乃「私も、雪乃ちゃんに、弱さを、見せるから……だから、今の気持ちを、殺さないで?」

 

そこまで言われると、なんだか、耐えている自分がちっぽけに思えて、途端に、秘めた感情が膨らんで、もう、ダメだと思った。

 

そしてーーー

 

雪乃「姉さん……ちょっとだけ、胸をかして貰えるかしら?」

 

陽乃「うん、その代わり、私も抱き締めさせてもらうからね…」

 

雪乃「えぇ……構わないわ」

 

ギュッ

 

陽乃「……っう」

 

雪乃「……ぁあ…」

 

そして、この日二人は、まるで仲の良い兄弟のように、いや、悲しみを分かち合う親友のように、永く、永く、悲しみのまま、泣いていたーー

 

部屋には、携帯から聞こえる微かなすすり泣きと、二人の姉妹の泣き声が、静かに、響き渡ったーーー

 

 




どうでしょうか?
あ、長く、長くを永く、永くに変えたのは、そっちの方がより長い時間を表現出来るかなぁと思っての事なので、誤字では御座いません。

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それでは皆さん、どうぞご贔屓に~

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