【デレマス×ゼノグラシア】アイドルマスターゼノグラシア・sideシンデレラガールズ 作:擬態人形P
アイドルレッスン
「あのー、心艦長………。」
「はぁとと呼べ。」
「心艦長………。」
「お前、結構頑固だな。………で、なんだ?」
「正直疑問に思っているんですが………。」
シンデレラガールズとして初めて迎撃戦に出撃し、仲間との絆を深めた関裕美は、訓練中、隣で指導を行っていた佐藤心に思わず問いかける。
「何で私達、『ダンス』レッスンとかやってるんですか!?」
訓練メニューにも慣れて来た事で、今日から新しく追加されると聞いてはいたが、それは裕美の予想の範疇を超えていた。やり始めたのはビジュアル、ボーカル、そしてダンスの3つのレッスン。艦長こと心の指示の元、シンデレラガールズの『全員』がトレーニングスーツに身を包み、体を動かしていた。
「頭悪いなぁ、お前。はぁと達が戦闘後にライブ開いているのは知ってるだろ?」
「いや、知っていますけれど………。」
あの激しい迎撃戦を繰り広げた後もシンデレラガールズはライブを開いた。その時のセンターは美世。彼女は、新アメリカ帝国に占領された北信越地方も取り戻すと声を張り上げていた。それを裕美はプロデューサーと一緒に舞台裏から眺めていたのであるが………。
「あ、あのまさか………次は私もあの舞台で踊れとか………。」
「当然だろ。」
「えぇッ!?」
裕美は困惑する。テレビを見ていてあの輝く舞台に憧れた事はあったがとても自分には務められる大役とは思えない。だって………。
「私………笑えないです………。」
「え?でも裕美ちゃんっていい笑顔をしますよね?」
汗を拭いながら愛海が言う。彼女を始めシンデレラガールズの仲間達は裕美の笑顔を何回か見ている。裕美自身が気づいていないが、他の人から見てみれば、その14歳の少女らしい笑顔は大変魅力的に見えたのだ。ただ、問題なのは裕美にその自覚が無い事と、意図的に作る事ができない事である。
「いつもしかめっ面をしている私なんかが笑ってみたところで………。」
「大丈夫ですよ!あたしが保証します!裕美ちゃんの笑顔は素敵ですって!」
「でも………。」
「あたし達と一緒に舞台に立つの、嫌ですか?」
「……………。」
愛らしく問いかける愛海の言葉に裕美は俯く。この仲間達とは大分打ち解ける事ができてきた。だが、だからと言ってすぐに一緒の舞台に立ってアイドルをやれと言われて出来るものでは無い。何故なら裕美は………。
「ゴメン、愛海ちゃん。私、友達やクラスメイトにIDOLの事、秘密にしているから………。」
ほたるに乃々。大切な友達である彼女達にウソを付いているのだ。シンデレラガールズとして踊る以上、そうなれば全国中継で皆にその姿を披露する事になる。そしたら彼女達は真実を知る事になってしまうだろう。
「おーい、プロデューサー。こっちの事情に巻き込んでいる以上、裕美ちゃんのここら辺の扱いはハッキリした方がいいんじゃないのか?」
心が壁際に寄りかかっていたプロデューサーを睨みつける。シンデレラガールズのメンバーと打ち解けてきたとは言ったが、裕美はこの男とはまだなかなか話す事ができない。立場上仕方ないとはいえ、裕美や両親を脅すような男なのだ。それは仕方ない。
それに、彼自身も、何処かアイドル達とは距離を離しているような印象を受けた。だから、彼の言葉には感情が籠っていない。それは今回もそうだった。
「上層部からの指示だと、いい加減新型の陽炎の正規パイロットの姿を披露したいという思惑があるらしい。私はこのまま機密事項にした方がいいと進言したが、彼らは国民の印象操作の方を重視したいらしくてな………。日本を救うニューヒロインの姿として裕美を大々的に公開したいんだろう。」
「あの、その言い方じゃ………、もしかしなくても、私は………いえ、シンデレラガールズのみんなの事、『道具』としてしか見られていないんじゃないんですか?」
「否定はしない。」
裕美の疑念にプロデューサーはあっさり答える。思わず目の前の男を睨みつけてしまう。軍とは卑怯な物だと父は言っていた。上層部と言うのは最前線で必死に戦い、慰安ライブを行うアイドル達の事を何だと思っているのだろうか。思わず怒りの感情が湧いた。
「許せない………。」
「裕美ちゃん。怒ってくれてありがとうございます。でも、私達は今の道を受け入れました。」
横から肇が笑いかけてくるが裕美は納得がいかない。
「………みんな脅されて受け入れるしか無かっただけなんじゃないんですか?」
「確かにシンデレラガールズの中にはそういう方もいます。でも、みんなこのアイドルとしての活動は続けるべきだと思っています。」
「どうしてですか?軍の操り人形なのに………。」
「私達は操り人形のつもりはありませんよ。この日本には私達のライブを待ってくれている方々がいる。そうした方々の力になりたいと思うから私達は『シンデレラ』として舞台に立つんです。」
「……………。」
シンデレラガールズとはこうあるべきだと言われたような気がした。でも、裕美はやっぱり納得できない。善意で皆を元気づけようとしている人達の想いを利用して、上から指示を出すだけの存在がいる。それが裕美の中の反骨心を刺激していた。
「やっぱり、こんなのアイドルじゃないよ………。」
「まぁ、お前の感情もよく分かるがな。とりあえず、最低限、歌って踊れるようにはなっておけ。」
心の言葉でレッスンが再開する。裕美の中には、いつまでも黒いモヤモヤとしたものが渦巻いていた。
――――――――――
成長期の体とは凄まじい物で、最初は体内時計が破綻するかと思っていたIDOLとしての訓練と日常生活の日々の繰り返しにも、徐々に対応出来てきた。最初こそ、授業中の居眠りが増えてほたるや乃々に心配された裕美も、何とか起きているまでには体を鍛える事ができた。
「何か裕美ちゃん、逞しくなった?」
「え?」
放課後、ほたるに言われた言葉で裕美は思わず目を丸くする。
「だって、何か最近体育の授業の成績も上がったし………。筋肉付いたような………。」
「き、気のせい!気のせい!!」
基礎訓練の影響でマッチョになったのだと言うのならば裕美にとってはたまった物じゃ無い。彼女にも乙女としての心は残っている。
(うう………IDOLって辛い………。)
心に傷を負った裕美は落ち込む。それを見たほたるが慌てて何度も何度も謝ってくる。乃々は相変わらず目をキョロキョロさせて落ち着きが無い。
「ほ、本当にゴメンね!何か………裕美ちゃん変わった気がしたから。」
「あ………。」
ほたるの言葉に裕美は思わず俯く。
そう、自分は変わってしまった。IDOLという超兵器を駆るパイロットになったのだから。最近ではたまにこの学校でのいつもの自分ではなく、シンデレラガールズとしての自分の方が本体だと錯覚してしまう事もあるほどだ。
「………ねぇ、ほたるちゃん、乃々ちゃん。」
「え?」
「な、何でしょうか?」
「私達、友達だよ………ね………。」
『?』
当然の事だと言わんばかりに首を傾げる2人に裕美は思わず全てを喋りそうになった。喉元まで言葉が出そうになる。だが、裕美はぶんぶんと首を振ると手を合わせて謝る。
「ゴメン!今のは忘れ………。」
カランッ!
そこで裕美は気づいてしまう。ポケットから緑のアクセサリのような物が………IDOL起動の為の『コアユニット』が落ちてしまったのが。
「これ、何………?」
首を傾げてほたるが拾うと裕美に渡す。裕美は急いでハンカチを取り出し手を覆うと『素手』で触れないようにしながらそれを受け取る。
「あ、あはははは!私、アクセサリ作りが趣味だから!新しいのを試したくて珍しいのを買っちゃって………!」
冷や汗が出た。この秘密を知られてはいけない。あの時の美羽の時みたいに。絶対に!
「………なんで?」
だが、そこで別の声が響き、『コアユニット』を渡したほたるも、受け取った裕美も振り向く。見れば、乃々がバランスを崩し、机に寄りかかっていた。
「な、なんで………ひ、裕美さんが………それを………?」
その言葉に顔を見てみれば表情は青ざめており、ガチガチと歯を鳴らしている。全身が細かく震えており、いつも明後日の方向に背くはずの目は『コアユニット』を凝視していた。
「の、乃々ちゃん………?」
「う、う………う………。」
乃々は自分の体を抱くようにうずくまり、震える手で自分の荷物を掴む。
「うわああああああああああああああああああああああああああああああッ!?」
「ど、どうしたの、乃々ちゃん!?」
普段の乃々からは想像もつかないような悲鳴を上げながら彼女は教室を飛び出す。ほたると裕美は慌てて追いかけようとするが、そこで裕美の携帯端末が鳴る。見れば、プロデューサーからの『緊急招集』のメールだった。
「こ、こんな時に………!」
「わ、私、乃々ちゃんを追いかける!」
荷物を持ってほたるが飛び出して行く。それを見て本当にゴメンと心の中で思いながら、裕美は校門の前に駐車してある車へと走って行った。
――――――――――
「石川基地を始めとした北信越奪還戦が始まる。」
裕美が何かを言う前に、プロデューサーは本題を切り出す。だが、ミラーで見たその顔は髪に覆われていたが、口元が憮然としているように思えた。
「上層部の作戦内容を確認したが、無理難題なんだ………。」
「えぇ………?」
君の負荷も大きくなる、と言ったプロデューサーの言葉に、裕美は完全に乃々の事を話す機会を失ってしまった。