【デレマス×ゼノグラシア】アイドルマスターゼノグラシア・sideシンデレラガールズ 作:擬態人形P
1人目の復讐者、松尾千鶴
「東京湾に新アメリカ帝国の部隊が向かっている!?」
「そうだ………多分、前回東京を襲撃した部隊だろうな。」
ブリーフィングルームに緊急招集された裕美達は心やプロデューサーから任務の内容を聞かされていた。
ハワイ諸島から再び新アメリカ帝国の部隊が太平洋を横断してきているという情報が衛星から入ってきた。どうやら一直線にまた東京を目指しているらしい。
「またあの部隊が来るのか………。上等じゃ、今度は蹴散らしてやる!」
「でもおかしくありません?今度はIDOLが5体いる事は相手も分かっているはずですよ?」
意気込む巴に愛海が疑問を提示する。
確かに前回の襲撃は北信越の部隊を囮にする事で達成できたのだ。それなのに今度は正面から仕掛けてくるつもりなのだ。その意味が分からない。
「派遣された部隊の量が特に増えたわけでは無い。あの2機は出てくるとしても、5体掛かりが相手をすれば返り討ちには出来るだろう。………正直上層部も今回の行動には首を傾げていた。」
プロデューサーが言葉を紡ぐが、彼も困惑している様子に見えた。
何か秘策があるのか?それとも単純に日本の部隊が再編される前に何とかしたいのか………。
「とにかく今回の作戦は武蔵も出る事になった。シンデレラガールズは全員出撃。海上防衛隊の第一部隊と第二部隊と共に、迎撃をする。………万が一の為に第三部隊は東京港周辺で警戒させておくから今回は突破される事は無いはずだ。」
レナや久美子の如月部隊も来てくれるというのだ。それに加え、比奈の部隊が今度は街の防衛に参加してくれるのは有り難かった。特に裕美にして見れば、北信越奪還戦で見せてくれた比奈の実力は頼りになると感じていた為、安心感が違う。
だが………。
「だからこそ、余計に今回の新アメリカ帝国の目的が分からないがな………。無駄に部隊を派遣しに来たとも思えないし、何がしたいのか………。」
プロデューサーは最後まで不安を拭えないでいた。軍人としてそれは良く無い事だったが、裕美達も同じ感情を抱いていたからそれは仕方ない。
ただ軍を派遣するだけでも、燃料費などが莫大に掛かるのだ。そこまでのコストやリスクを冒してまでやりたい事は何なのだろうか?
「まあ、考えていても仕方ないな。とにかく巴ちゃん、愛海ちゃん、今回ははぁと達も出るから安心しろ。」
「ああ、前回の借りはしっかり返す。」
「やっぱりみんなと一緒がいいですよね!」
「後、乃々ちゃんは今のシンデレラガールズでは初出撃だし、ほたるちゃんは完全な初戦闘だ。IDOL達がいるから気負いすぎるなよ。そして、生き残れ。」
「はい………わかりました………。」
「りょ、了解です………。」
こないだの戦いといい、実戦慣れしている乃々はともかく、全くのたたき上げの新兵であるほたるは不安を覚えているのが誰にでも分かった。
ほたるはここ数日、ずっとシミュレーターで訓練を続けていたが、一般兵士並の実力を手に入れられるわけが無かった。
「あの、ほたるちゃんはどうするんですか………?」
「私が出る。」
「え?」
裕美の質問に答えたのはプロデューサー。そう言えば、乃々と一緒に『睦月』に乗っていたが………。
「『如月』もある程度扱える。レナ少佐達にも面倒を見てもらうよう頼んできた。後は、艦上から乃々に援護してもらえばいい。裕美、お前の陽炎も今回はほたるのバックアップに回れ。」
「あ、あの!わ、私なんかの為に、そんなに人を割いていいのですか………?」
ほたるが乗り込むのは『如月』一般機なのだ。その為に、ワンオフ機やIDOLすら割くとこの男は言っている。正直過保護とも思える扱いに思わずほたる自身が割り込んでくるが、プロデューサーは気にしなくていいとぶっきらぼうに答える。
「ほたる。お前の存在は乃々と裕美の原動力だ。裕美から大切な友達とも聞いた。………だったら2人の為に生き残ってくれ。」
「は、はい………!ありがとうございます………!」
思わず頭を下げるほたるの姿を見て、裕美は内心初めてこの男を見直す。乃々は相変わらず目を合わせようとしなかったが、それでもホッとしているのは分かった。
「それでは出撃準備に入ってくれ。皆の奮闘と帰艦を祈る。」
それを何処か満足そうに見ていた心が言葉を引き継ぎ出撃準備が始まった。
――――――――――
東京湾に向かっているモーレイの一室は静まり返っていた。簡易ベッドに座っているのはライラとナターリア。そして、奥に新しく入ってきた松尾千鶴が本を片手にパイプ椅子に腰かけていた。
今回の作戦の主戦力になるのはこの3人………いや、もっと正確に言えば千鶴なのだが、ライラもナターリアも話しかけにくかった。この少女は日本人。なのになぜ新アメリカ帝国に付いて日本を攻めに行くのか?司令官のメアリーからは、最重要機密事項だから私の口からは貴女達にも話せないと言われていた。
(何かライラさん達のような事情があるのですかねー。)
ライラ達も属国の民として故郷の為に戦わされているのだ。千鶴にも複雑な事情はあるように思えた。と、そこで千鶴がもう片腕で携帯端末を取り出し画面を弄ると、呟く。
「ライラ少尉、ナターリア少尉、お聞きしてもいいですか?」
「あー、ライラさん達は一応階級同じですし、年も変わらないですから、呼び捨てタメ口で構わないですよー。」
「じゃあ、ライラさん、ナターリアちゃん。聞いてもいいですか?」
呼び名だけ崩して千鶴は話しかけてくる。
「前回戦闘した時、IDOLはどのような強さでした?」
「そうですね。ライラさん達の『パラキート』は強襲型として加速性能が高いですが、それについてこれるくらいの性能と熟練度を持っていましたです。」
「ナターリアが戦った丸いピンクの機体は水の中にも潜れたナ。後、ビットを飛ばしてきてビックリしたゾ。」
「ライラさんが戦ったトゲトゲしたのは実弾重視でしたが隠し武器を持ち、バーニア出力に優れていましたです。」
「ありがとうございます。次の戦闘に役立てたいと思います。」
一通り真剣そうな顔つきで聞いた千鶴は携帯端末にそれらの事を入力し、メモしていく。それを見ながら、ライラは気まずそうに呟く。
「あのー、チヅルさん。ちょっと聞いてもいいですか?」
「何でしょうか?」
「さっきから凄い真剣ですが………故郷と戦う事になるのに大丈夫なんですか?」
「ご安心ください。故郷は捨てました。」
さらりと答える千鶴にライラ達が首を傾げる。故郷を捨てたというのはどういう事なのだろうか?そんなライラ達を見た千鶴は表情を変えずに答える。
「そうですね。多分、この先、私と同じ『復讐者』の部隊の仲間と話す機会もあるでしょうから説明しておきますが、全員『日本』という故郷は捨てています。………捨てられたと明言した方が正しいでしょうか?」
「す、捨てられたのカ?というか、そんなペラペラ喋って大丈夫なのカ?」
「あくまでメアリー少将の口から言えないだけで、私達当事者が喋る分には問題ないので。」
「そ、そうカ………。軍も複雑なんだナ………。」
ライラもナターリアも思う。故郷を愛する気持ちは誰だって同じ。そう思うのは間違いなのかもしれないと。少なくとも目の前の少女はそこら辺の価値観が違うらしい。
「他に聞きたい事はありますか?」
「いや………ナターリア達、これ以上、詮索するのは止めておくゾ。チヅル達にも深い事情があるみたいだしナ。」
「そうしてもらえると有り難いです。」
「でも、ライラさん達は一応これから仲間の扱いですから何か有ったら頼って貰えると嬉しいですよー。」
「分かりました。では、これからご指導ご鞭撻宜しくお願いします。」
千鶴は最後まで表情を崩す事は無かった。
――――――――――
旧中華共和国の日本海沖上で、提督はモニターを見ていた。
そこには衛星から、太平洋側でもうすぐ始まろうとしていた戦いの映像が流れていた。出撃しようとする機体の中に青と白、黄と緑の『パラキート』の他、赤褐色の機体………『クウェイル』と呼ばれる新アメリカ帝国自慢の新機体の姿も映っていた。それを見た途端、提督は心が痛むのを感じる。
「遂に………彼女達もお披露目か………。」
「軍上層部では、随分話題になっているらしいわね。新アメリカ帝国の新しい歴史の始まりだって。」
艦橋にキャシーを連れ立ったヘレンが現れるのを提督は見る。キャシーの方は敬礼をするが、ヘレンの態度は相変わらずであった。
「貴方、本当はあの『教え子達』を戦場に送りたく無いんでしょう?」
「送りたくないさ。彼女達の経歴を考えれば………な。」
「でも、仕方ないわ。『あの機体』はどういう事か『日本人』しか乗れないもの。」
「この世界に神がいるのならば、運命のいたずらというのを呪いたいものだ。」
提督はそこまで話し、ヘレンの後ろで複雑そうな顔をしているキャシーを見る。
「君も何かいいたいかね、キャシー中尉。」
「いえ………自分は詳細を知りませんが、提督も複雑な経歴を持っているのだなと。」
「世界は誰かが闇を背負わなければやっていけない事もある。その闇を抱える人物に階級も性別も民族も年齢も関係無いのさ。」
「……………。」
提督はそこまで言い切ると遠いような目で画面を見つめる。
ヘレンやキャシーもそれに倣い、映像を見つめた。
――――――――――
『クウェイル出撃準備完了しました。発進どうぞ。』
「了解、松尾千鶴、発進します。」
千鶴はクウェイルのバーニアを吹かすとモーレイから飛び立つ。その後にライラとナターリアのパラキート、更に『イーグル』、『ダック』の部隊が続く。
『チヅルは操縦には慣れてるのカ?』
「はい、ですから、今回は私に任せて下さい。ナターリアちゃんとライラさんは私が指示した時に援護してもらえると有り難いです。」
『わかりましたですよー。ライラさん達もばっちこーいです。』
2人に指示を送りながら千鶴は前を見る。
遠くに見える護衛艦の群れと巨大な飛行戦艦。あの中からIDOL達が出てくる。今回の自分の働きは今後の『復讐者』の仲間達の評価にも直結する。故に絶対に失敗するわけにはいかなかった。
(私に残されたのは、もう『みんな』だけだから………。)
だからこそ、失敗するわけにはいかない。
そして許す訳にはいかない。あの日本を。
千鶴はフットペダルを踏み込むと、迷うことなく戦場に向かって突き進んだ。