【デレマス×ゼノグラシア】アイドルマスターゼノグラシア・sideシンデレラガールズ 作:擬態人形P
『あの映像は何だね!?IDOLにあんな能力があるなんて知らないぞ!?』
「私もですよ。………とんでもない日本の隠し玉のせいで、キャシー『少佐』を始め、多くの同胞を失ってしまいました。」
旧中華共和国の日本海沖に浮かぶ『アルフォンシーノ』では、提督が上官からの通信答えていた。
その表情はいつもと違い、憮然としている。任務失敗でキャシーを始め、多くの兵を失ってしまった事に責任を感じているからだ。しかし、画面の奥に映る上層部の面々はそんな心情など知らず喚きたてる。
『のんびりとしている場合かね!?あの『全力』を振るわれたら我ら帝国のIDOLでも太刀打ちできるかどうか分からないんだぞ!?何の為にこの10年間、君に『指導』させてきたと思っている!?』
「『指導』ですか………。」
『教え子』達の話題に触れた事で、提督の表情が更に険しくなる。正直目の前の男達をぶん殴ってやりたい気分であったが、それは『今』ではない。とにかく、深く息を吐くと提督は進言を始める。
「では、太平洋側に派遣している松尾千鶴少尉、岡崎泰葉少尉の2人のIDOL達を攻撃に参加させましょう。」
『何を言っている!?日本のあのIDOLが東京に舞い戻れば………!?』
「電磁ネットでパイロット自身もダメージを負っているはずです。すぐさま秋田基地から東京まで帰還はできないでしょう。」
『だが、他のIDOL達が隠し玉を持っていたら………!』
「最初からあの『隠し玉』が使えるのならば、奇襲でヘレン大尉を始め、我が部隊を全滅させる事も可能でした。」
提督は湧き上がる怒りややるせなさを押し殺しながら淡々と呟く。
自分達が今こうして生きているのは、あのIDOLの切り札が常時自由に使えるわけでは無いからだ。つまり、日本側もあの現象は『予想外』の事であったに違いない。
「断言します。他のIDOLも能動的にあの力を発揮する事は出来ないと。」
『………もし、『偶然』他の日本のIDOLもあのような力を発揮したら?』
「その時はその時ですね。『偶然』を気にしていては、戦争は出来ませんから。やられる前に戦果を上げるしかありません。」
『分かった………。その提案を進言しよう………。』
通信が切られる。
ようやく静かになった艦橋で、提督は深く息を吐いた。その後ろでは、ヘレン達が佇んでいた。それぞれ表情は多種多彩であったが、キャシーの事を憂いているのは同じだった。
「すまないな。無茶な作戦に付き合わせて。」
「い、いいえ。『日本のIDOLの捕獲』は上からの指示ですから提督さんは悪く無いですよぉ。」
「そうネ。キャシーの事は残念だったけれど、また出ろと言うのならば、私達は貴方に従うワ。」
「そう言ってくれると本当に有り難いよ………。」
提督は頭を下げる。
本来ならば、自分よりも立場が下の者に………しかも属国の者にやってはいけない行動だ。しかし、そんな下手なプライド等、かなぐり捨ててしまえというのがこの提督の考えだった。彼女達を危険に晒し、キャシー達を犠牲にしてしまった。司令官の立場で考えればこの責任は重い。だからせめて謝罪はしたかったのだ。そんな提督にヘレンは言う。
「貴方の誠意は伝わったから、頭を上げてちょうだい。世界レベルじゃないわ。」
「私は世界レベルを名乗る資格は昔から無いよ。」
「だとしてもよ。いい男がいつまでもうじうじしていたってキャシー達は喜ばないわ。」
「そうだな………。」
ヘレンの言葉を聞き、ようやく提督は頭を上げる。
次はこうはいかない。そう思った彼に対し、ヘレンは別の話題を聞いてくる。
「でも良かったの?教え子達を戦わせるような進言しちゃって。嫌なんでしょう?増してや他の日本のIDOL達があの世界レベルの力を発揮したらどうするの?」
「そろそろ本格的な手柄を取らせないと、それこそ帝国側は彼女達を更に『強化』する方針を考えてしまうだろう。特に千鶴にこれ以上の処置は危険だ。その前に何としても日本のIDOLを討つチャンスを与えなければいけないからな………。」
見ているだけの自分は歯がゆいがな、と最後に提督は付け加えた。
――――――――――
「聞いた事が無いぞ、そんな事!?」
『にゃはは、やっぱり晶葉ちゃんもそう言うと思った。』
東京基地に残った晶葉達は、通信で志希から裕美の言っていた事をすべて伝えて貰っていた。秋田基地での戦いの映像は即日届いている。それだけでも驚きだったというのに、オーバーロード等、開発部門の晶葉も知らないような言葉が飛び出してきて、頭がパンクしそうになった。
『一応聞いておくけれど、美羽ちゃんに晶葉ちゃんが秘密を教えていたってのは………。』
「無い。というか、仮に美羽だけが知っていたとして、あの娘が他人に隠し事が出来ると思うか?」
『それもそうだねー。じゃあ、美羽ちゃん本当に死んでからIDOLの事知ったのかなー?』
呑気に言う志希だが、晶葉も今回の事に関しては同じ想いだった。
後ろに並んでいる肇、芳乃、巴、愛海の4人のIDOLパイロットはというと、それぞれ何かを考えているようであったが、やはり心当たりは無さそうだった。
「プロデューサーや乃々も分からなかったのだろう?」
『『先代』の頃はこんな現象無かったって言ってたよ?IDOLが生きているってだけでもビックリなのに、美羽ちゃんが奇跡を起こして不思議過ぎて更にもうビックリだよね。』
「そもそもIDOLが生命体だっていうこと自体、時々見せる仕草でやっと判明したくらいだからな………。美羽は何をどうやって知ったのだか………。天才に分からない事を知るなんておかしいぞ!?」
『美羽ちゃんは超天才だったとか?』
「それは無い。」
晶葉はありとあらゆる可能性を考えたが、やはり納得のできる答えは見つからなかった。しかし、裕美の見た夢がただの白昼夢だとも思えない。
「他に美羽に何か特徴はあったか?」
「あの、晶葉ちゃん、思ったのですが………。」
「どうした、肇!何だっていい!ヒントになりそうなことは何でも言ってくれ!」
「美羽ちゃんは、『陽炎』のパイロットだったのですよね?つまり、陽炎に認められたパイロット………。」
その肇の言葉に、晶葉も志希も固まる。
そう、美羽も裕美と同じく、陽炎と適性があったパイロット。晶葉の頭に1つの言葉が浮かぶ。
「まさか、IDOLは………人の『魂』を………死んだ適合者の魂を自分の物にするのか?」
『陽炎は死んだ美羽ちゃんを取り込んだって事?だとしたら………結構物騒な話になってくるねー。』
志希の声のトーンが落ちるのが分かる。
開発陣が人の魂とか語るのはおかしいかもしれないが、この場合、そうでも考えないと辻褄が合わない。しかし、そこで巴達が疑問を提示する。
「じゃが、だとしたらおかしい話じゃ。乃々の話が正しければ、うちらの機体にも『先代』の魂が宿っているということになる。」
「あたし達、その人達の声なんて聞いた事ないですよぉ?」
「そもそもー、『雪風』に至っては、前に乗っていた乃々殿が、適合しなくなったと聞きますしー。」
乃々から、先代のパイロットについては聞いていた。
『時雨』には浅利七海という少女が。『霞』には安斎都(あんざい みやこ)という少女が。『吹雪』には冴島清美(さえじま きよみ)という少女が。そして、雪風には森久保乃々が乗っていたのだ。
肇達には、その者達の声が聞こえた事は無い。
『芳乃ちゃんのパターンはともかく、他のみんなは、赤の他人だったから今まで聞こうとしなかっただけなのかもね。』
「確かに裕美と美羽は関わりが深かったと聞くからな………。だが、オーバーロードだったか?この現象、この予測が正しければ雪風以外はどの機体も使える事になるでは無いか………。」
機体に宿った死者の想いが力を貸す現象。
それがオーバーロードの正体ならば、陽炎に限った機体が出来る話では無い。そして、これは恐らく新アメリカ帝国のIDOLも出来ないだろう。そこまで考えた所で、晶葉はそっと呟く。
「………この通信回線は?」
『シンデレラガールズ固有の秘匿通信だよ。消去しておくね。』
「ああ、頼む。」
この予測が上層部に伝わったらどうなるか分かった物じゃ無い。そう思った晶葉は、志希に証拠隠滅をお願いした。
――――――――――
上層部では長官がじっと席に座り、周りの様子を眺めていた。
司令官達は会議の中で色々な事を呟いているが、よくよく聞けば、己の保身ばかりだ。
(日本も腐ってしまったものだ………。)
何十回目の心の呟きになるだろう。いつものように冷静に会議を眺めながら長官は自分に話題が振られるのを待つ。1人の司令官が彼に意見を申請してきた。
「長官!やはり秋田基地のIDOLの発揮した潜在能力をもっと解析するべきです!あの力は将来、我々の国土を守る為に必須になります!」
「その為にIDOLを稼働状態に出来ないのは『今の時点』では危険だ。それに、関裕美少尉の話が正しければ、常時使えるものでも無いらしい。」
「あ、あんな娘の世迷言を信じるのですか!?絶対に何かからくりが!?」
「では、拷問をして吐かせるかね?貴重なIDOLの適合者を?」
「い、いえそれは………。」
司令官は何かぶつくさ言いたげに席に座る。それを涼しい目で見ながら長官は腕を机の上で組む。
この長官は感情に任せて何かを行うのは下策だと思っている。増してや国土の戦力が限界に近付いてきている状況なのだ。常に綱渡りの状況を打開するには、冷徹であってもより『現在』と『未来』を重視した戦略を取らなければならないと考えている。だからこそ、IDOL達の新装備開発の申請を最低限しか受理せず、『アレ』の開発に従事しているのだ。
「我々は確実な道を取らなければ生き残れない。現在進行中の『プラン』に変更は無い。」
そこで、指令室に警報が鳴り響いた。ざわざわと音を上げる司令官達を横目に、長官はそろそろ『敵軍』が来る頃合いかと思った。