【デレマス×ゼノグラシア】アイドルマスターゼノグラシア・sideシンデレラガールズ 作:擬態人形P
量産型IDOL
最悪の襲撃から数日後、自宅でシャワーを浴びた佐藤心は寝間着に身を包みながら苛立ちを募らせていた。
幸いにも『時雨』の破損は幸いすぐに修復できる物で、メカニック班が徹夜で頑張ってくれた。肇自身も今病院で入院しているが、古傷が開いたくらいで命に別状はない。………だが、今回の被害で各パイロット達が負った心の傷は大きすぎた。
「ライブをする余裕も無かったし………。全くあの上層部はどれだけ無茶を強いれば………。」
ぶつくさと呟く心は居間へと歩み、テレビを付ける。そこでは、評論家が、被害や世論がどうのこうのと色々好き勝手語っていた。
心は複雑な心境になるが無理もないとも思う。あんな残虐な行為で被害が拡大したのだ。毎回襲撃に怯える事になる民間人の感情は限界を迎えているような気がした。
「一体、どうやってこの状況を打開する気でいるんだか………。何とかしろって言うんならば、武器開発の申請くらい通せって感じで………。」
だが、そこでテレビの画面が変わる。
緊急ニュースかと思った心は新アメリカ帝国の更なる襲撃に思わず身構えるが、そこにはいつも指令室で座っているはずの長官が立っていた。
「な、なんだぁ………?」
『この度は、先日の新アメリカ帝国の残虐なる侵攻の犠牲になった方々に追悼の意を表明します。』
長官は頭を下げると、カメラのフラッシュが一斉にたかれる。どうやら緊急会見らしい。だが、この情報を心は知らない。彼女が知らないならばプロデューサーも知らないだろう。そんな心の疑念を無視し、長官は話し始める。
『皆さんはIDOLという存在をご存知でしょうか?無尽蔵な力を振るい、今まで日本の要として戦ってきた戦乙女達。時に鬼神のように力を振るい、時に慈母のように笑顔を振るい、日本の民を明るくさせてきた存在。ですが、近年急速にそのパワーバランスは変わりました。新アメリカ帝国は対IDOLの為の切り札を開発し、あろうことか、帝国側もIDOLを投入してきました。』
画面内でどよめきが聞こえる。帝国のIDOL………即ち『復讐者』の事は最重要機密だ。それを何故今、暴露するのか?佐藤心の中に嫌な予感が広がって行く。
『ちょ、長官!では、日本のIDOL達では、もう太刀打ちできないという事ですか!?』
『否定はできません。彼女達の奮戦も空しく、帝国は更に力を付けてきています。その中で日本のIDOLが1機破壊されたという情報は皆様も御存じでしょう?あのIDOLも帝国のIDOLに破壊されたのです。』
『で、では先日の襲撃も、IDOLの力が無かったから………。』
『あのような大惨事になった。それは間違いないでしょう。日本のIDOL達はもう、嘗ての栄冠は保ってはいないのです。』
取材の言葉に長官は淡々と答えていく。
それを見ながら固まる心。
『な、ならば………!IDOLが役立たずになってしまっては、日本はもうお終いじゃないですか!?』
『そうですね。少数精鋭のこの体勢自体が無茶だったのです。ですが、ご安心下さい。我々も何も策を講じていなかったわけでは有りません。』
長官の言葉に背後のモニターに多数の緑の機体が映る。
その機体は、心も見たことが無かった。
『これは………!?』
『質で劣るならば、量を確保すればいい。我々はIDOLのデータを参考に、高出力を安定させ、特別な適性を必要としない『量産型IDOL』を開発する事に成功しました。』
おお!?っと会場にどよめきが走る。それを一通り聞いた長官は話を続ける。
『この量産型IDOL『夕雲』があれば、帝国のIDOL達にも太刀打ちできます。これからは、一部の選ばれた者が活躍する時代では無い。多くの戦意を持った者達が力を持ち日本を守る為に力を振るえる時代になるのです。』
長官が立ち上がり手を開き腕を肩まで上げる。
『ここに誓いましょう、今日が日本の新しい日になると。これからは、この夕雲が『日本の要』になると!』
そう最後は大声を張り上げた長官に、カメラのフラッシュが集中し、歓喜の拍手が巻き起こる。
それを見た心はわなわなと震えていた。
「な………なんだ!これはーーーッ!?」
そう言うと、テレビを消す事も忘れ、自室へと駆け足で上って行った。
――――――――――
東京基地の指令室の扉が乱暴に開かれる。
その音に驚く司令官達を無視し、佐藤心はつかつかといつものように腰かける長官の元へと向かっていく。
「長官………アレはなんですか?」
「アレとは?夕雲の事か?それとも………。」
「会見の事です!」
心は両手で机を叩く。しかし、その音に周りの司令官達はともかく、長官は涼しい顔をしたままだ。彼は心を見ながら静かに呟く。
「見ての通りだ。我々は量産型IDOLの開発に成功した。機体の量産化も順調に進んでいる。日本の戦力もこれで充実するだろう。今まで力不足を嘆いてきた者達も、喜びの声を上げるに違いない。」
「………あの会見の言葉を聞いていると、私達『シンデレラガールズ』が今までの被害の原因だと言っているように思えましたが?」
「事実だろう。」
怒気を隠さない心の言葉に、長官はさらりと言った。
指令室の中の空気が重苦しくなっていく。しかし、それにお構いなしで、2人の会話は進む。
「事実………?IDOLのパイロット達の力に助けられていたのは誰ですか!?」
「それも事実だ。だからこそ、その現状を打破する為の夕雲の開発を行った。」
「その為にシンデレラガールズの武器強化申請を却下し続け、現装備で無茶を強い続けたと………?」
「『睦月』や『如月』に比べれば十分な武装は与えていたはずだ。無茶を強い続けたと言うのならば、むしろ、そちらの勇士の方々では無いかね?」
「貴方が………貴方がそんな無茶を強い続けたせいで、依田芳乃大尉は死んだのですよ!?棟方愛海少尉も藤原肇中尉も負傷して………!」
「それは君達の力不足だろう。むしろ、貴重なIDOLを破壊してしまった事は日本にとって大きな打撃となった事を反省して欲しい物だ。」
心は無意識の内にわなわなと震えだした。
この男は………いや、この上層部がやりたかった事は………。
「私達シンデレラガールズは………貴方達にこき使われるだけ使われて、都合が悪くなったら………世論のはけ口として汚名を被って捨てられる立場だったのだと?」
「そうだ。」
バンッ!!
殴りつける音が聞こえた。心が思いっきり拳で長官を殴っていたのだ。
わなわなと震える心に対し、殴られた長官はそれにも関わらず涼しい顔だ。殴った事に対する軍規違反を問おうともしない。
「佐藤心大佐。本当は君が一番この展開を望んでいたのではないのかね?」
「何を………。」
「シンデレラ達は前線で戦い神経をすり減らし疲弊している。この状況を打開したいと心の底では思っていたのではないのかね?」
「………………。」
長官の言葉に心は反論したかった。だが、反論できなかった。
シンデレラガールズの皆が疲れてきているのは目に見えていた。当たり前だ。15前後の少女達が戦うなんて酷なのだ。だから、内心、彼女達をもう戦いに巻き込みたくないという想いがあったのは確かなのだ。
「だけれど………その為に、世間の悪評を受けろだなんて………!」
「それが組織としての運命だ。この量産型IDOLのプランも今はまだ真っ白だが、いずれすすまみれになるだろう。私は数年しない内には黒ずみ、退役を迫られるだろうな。」
「私達は………人は………おもちゃじゃない。」
「だが、世論は所詮、人も道具のような扱いだ。だから大佐、今までご苦労であった。」
「ッ!?」
「シンデレラガールズは解体する。」
固まる心に長官は静かに告げる。
「灰にまみれた『灰被り』は、ここまでだ。」