【デレマス×ゼノグラシア】アイドルマスターゼノグラシア・sideシンデレラガールズ 作:擬態人形P
病院で裕美は通路を歩んでいた。
肇や巴達の会話を聞くまで人を殺す意味を今まで彼女はあまり考えていなかった。考える余裕が無かったと言ってもいいだろうか。何せ文字通りたたき上げの新人だったのだ。生き残る事に精一杯で、敵の事なんて考える余裕なんて無かった。
だが、今は違う。戦闘にも慣れて来て色々余裕も生まれて様々な事が考えられるようになってきた。そこで降りかかってきたのが、自分の奪ってきた命に対するケジメだ。
「私は………殺人をしてるんだ………。」
改めて呟き、寒気を覚え、身を震わせる。
戦争じゃなければ、自分もまた狂っている人の1人だろう。仲間の為とはいえ、人間の命を奪って賛美されていたのだから。
そんな自分に上からはもう止めてもいいって言われた。捨てられる形であったが、それでも逃げられる道。肇も、愛海も、そして多分巴も望んでいる道。けれど………。
「本当にこれでいいのかな………。ほたるちゃんも乃々ちゃんもまだ戦うって言っているのに、私だけ逃げて………。」
『戦う力を持っている自分が真っ先に逃げる事が許せない………それが笑えない理由かな?』
「え?」
声に顔を上げれば、そこには白い影が立っていた。
黒髪を後ろで束ねている少女。………矢口美羽である。
「美羽ちゃん………。うん、そうだね。私、自分が許せないんだ。」
今更美羽の亡霊が出てきた所で裕美は驚かなかった。
自分と美羽はIDOL『陽炎』で繋がっている。それはもう秋田基地攻略の時にハッキリしていたからだ。だからこそ………恐らく裕美の起こしてきた罪全てを間近で見ているこの少女に問う。
「美羽ちゃんは、人を殺してきた私を見てどう思った?残酷だと思った?気持ち悪いと思った?」
『そうだね。多分、その言葉に対して私が何を言っても裕美ちゃんは納得しないと思うよ。というか、裕美ちゃんが乗らなかったら、私が負っていた業だし。』
「そっか………。」
確かに美羽に慰められても責められても事実が変わるわけではない。自分が残酷だと思えば残酷だし、気持ち悪いと思えば気持ち悪いのだろう。言霊に出してしまうという事は、少なからず自分はそう思っているという事だ。そして、それで気づく。こうして戦いの事について色々と呟いてしまう自分はまだ………。
「変だよね………。こんな私でも、やっぱりまだ戦いたいって心の底では思っている部分がある。戦い続ければどうなるか分かっているのに………。」
『でも、それは裕美ちゃんの優しさだよね。友達や仲間のみんなを守りたいっていう。』
「優しさかどうかは分からないけれど………守りたいって気持ちは本物………。だってみんないい人達ばかりだもん。」
初戦闘で自分を助けてくれた肇。訓練を始めたばかりで戸惑っていた自分に語りかけてくれた巴。自分を信じて協力して強敵を撃破した芳乃。自分にアイドルとしての大切さを説いてくれた愛海。IDOLのパイロット達だけでもこんなに優しい人達なのだ。
だから、彼女達が思い悩んでいる時くらいは、自分が何とかしたいと思った。
「でも、その為にまた私は人を殺す。お父さんやお母さんはそれを望まないと思う。けれど、そうしないと私の望む世界は守れない。」
『そうだね。今は戦わなければ何もできないからね。裕美ちゃんの選択肢は間違っていないと思うよ。』
「正しいとは言わないんだね。」
『本当に正しいものなんて多分無いから。』
美羽の言葉に裕美もそうだと思う。
選択には無限の可能性が存在するかと言われれば多分ウソだろう。人はこうして時に茨の道しか突き進めない時もある。その中でどうせ後悔するのならば、思い切った選択を選ばなければならない時もあるのだ。
「美羽ちゃん………多分、私、もっと『狂う』と思う。守る為にって言って、これからも人を殺して………でも、それでも付いてきてくれる?私と一緒に、陽炎を駆ってくれる?」
『それが裕美ちゃんの望みならば付いて行くよ。私も………多分ほたるちゃんも乃々ちゃんも、ずっとずっと友達だって思っているから。』
「ありがとう。」
裕美は笑った。
そこに美羽の影はもう居なかったが、裕美はもう迷わなかった。
――――――――――
愛海は病院の通路の隅で膝を抱えて座っていた。
自分は裏切り者だと思っていた。散々シンデレラガールズで人を殺してきたのに、たった1度死にかかり、立場が違えば自分達が起こしたかもしれない地獄絵図を見ただけで、臆病になってしまった。
「あたし………ダメな女の子………。」
『一周回ってまともになったと思ったらこれですか。』
聞きなれぬ声に愛海は横を見る。そこには黄色い影が愛海と同じように膝を抱えて座っていた。
黒髪の短髪の二つ結びの少女で眼鏡を掛けている。特徴的なのはその左腕で腕章が飾ってあり『超☆風紀委員』と書かれていた。
「貴女は………もしかして………冴島清美さん?」
『そうです。私が超☆風紀委員の冴島清美です。』
「超…風紀委員って………何です?」
『風紀委員より偉い、超☆風紀委員です!』
乃々から『吹雪』の先代パイロットにやたら風紀を取り締まる事をモットーにした人物がいたという事を思い出した愛海は思わず怪訝な顔をする。
この少女、もしかして………。
「あの………頭のネジ飛んでます?」
『貴女には言われたくありません!四六時中『お山』を求める人が!何ですか!その破廉恥な姿勢は!レッドカードです!』
とりあえず天然なんだろうと思った愛海はため息をつく。多分瞳のハイライトは無くなっているだろう。自分の乗る機体の先代パイロットはもうちょっと頼もしい人が良かったなと思わず落胆してしまう。
しかし、清美はそんな煮え切らない様子の愛海を見て逆にため息をつく。
『破廉恥とはいえ、いつもの貴女は何処に行ったんですか?一応はムードメーカーなのですから、もっと周りに気を配りなさい。』
「そんな気力………もう無いです………。」
落ち込んでいる自分の話題を振られた事で、愛海の声のトーンが落ちる。
何と言われようとも、もうダメなのだ。怖い物は怖い。戦いたくない。そんな愛海に、清美は天井を見上げながら呟き始める。
『………少し、昔話をします。』
「昔話………?」
『私の学校には、風紀委員は有りませんでした。』
「え?」
怪訝な顔をして清美を見る愛海。清美は気まずそうな顔で眼鏡を押し上げると言葉を続ける。
『あろうことか設置してなかったんです。仕方なかったので、私は超☆風紀委員を作りました。』
「それってもしかしなくても『自称』………?クラスで浮いてたんじゃ………。」
『黙ってなさい!!』
思わず叫んだ清美は盛大にため息をついた上で、しかし穏やかな顔で呟く。
『確かにクラスでは浮いていました。でも、シンデレラガールズではみんな優しかったです。こんな私を受け入れてくれて………風紀は最悪でしたけれどね。』
「そ、そうなんですか………?」
『都さん、七海さん、乃々さん………思い出しても個性的な面々ばかり。よく怒ってレッドカードばかり出していたなぁ………。』
懐かしむように微笑む清美を見て、愛海も考える。
お山を求める自分もクラスの中では異端な方だ。よく陰口とか言われていたと思う。だが、シンデレラガールズのみんなはどうだったのだろうか?肇、芳乃、巴、裕美、他の面々の姿が次々と浮かんでいく。
「あたし………。」
『認めたくないですが、貴女は私によく似ています。一般的な人達から浮いた異端の存在。そんな貴女は………自分の掴んだ居場所から逃げようとしています。』
「……………。」
『それが罪だとは言いません。でも本当は、貴女は心の奥底ではその人達の存在を失いたくないと思っているのでは無いのですか?』
清美の言葉は愛海の心に刺さった。
確かに言われてみればそうだ。シンデレラガールズという場所は寂しがり屋の愛海にとって安らぎの場所だった。仲間達と共に戦い共に生き、そして、時にお山を求め迎撃されたあの日々。それを捨てたら自分は………。
「あたし………逃げ道なんて無かったんだ。」
『逃げ道はありますよ。ここまで戦ったのだから逃げたって恥ではありません。』
「でも、あたし孤独は嫌い………嫌なの………だから………。」
愛海は立ち上がり、上を見上げて叫ぶ。
「あたしは、まだみんなと一緒にいたい!みんなと戦ってみんなと生きてみんなのお山を求めたい!その為ならば………みんなと『狂う』道を選ぶ!!」
最低な宣言だと思った。でも、それが自分の本心だと分かった愛海は横を見る。
もう清美は居なかった。だけれど、ありがとうと感謝を呟き、礼をすると、パイロットスーツの置いてある自室へと駆けて行った。