【デレマス×ゼノグラシア】アイドルマスターゼノグラシア・sideシンデレラガールズ 作:擬態人形P
巴は自販機売り場で腕を組んで寄りかかっていた。
自分は壊れていると思っていた。仲間達が何とか正気を保とうとする中で、自分は復讐心に囚われたまま戦っていた。こんな自分がこれ以上戦いの道を歩んだらその内どうなるか分からなくなる。巴はそれが怖くて仕方なかった。
「うちは………もうチャカを降ろすべきなのかの………?」
『成程、今回の事件はここですか!しかし、どうやら難事件の予感ですね。』
声に巴は振り向くと、そこには赤い影が立っていた。
巴と同じ赤髪のショートヘアで大きな瞳が特徴的の少女。その服装は何故か『探偵』のような格好だった。もしも、彼女が乃々の言っていた事と一致するのならば………。
「お前………『霞』の先代の安斎都か?」
『その通り!私がかの名探偵・安斎都です!』
「迷探偵………と乃々から聞いとるんじゃが………。」
『ええッ!?』
素っ頓狂な声を上げる都に、巴は思わず頭を抱えたくなる。
これでも一応最年長だった故に、リーダーを務めていたと言われる少女だ。それなのにこんな頼りない女だったのかと思わず嘆息してしまう。
「お前は何をしに来たんじゃ?うちを嘲笑いに来たのか?」
『おやおや被害者は大分落ち込んでいる様子。これは捜査が難航しそうです。』
「真面目に聞いとるんかボケッ!?」
思わず声を張り上げた巴に都は一転し真面目な顔で語る。
『貴女は………自分だけがわざと罪を被って『被疑者』になりたい様子ですね。』
「!?」
その言葉に巴は固まる。
違う。それは違うと言いたかった。自分は狂ったように人を殺してきたのだ。わざとじゃない。自分は立派な『犯罪者』だ。『殺人犯』なのだ。
「うちは………。」
『わざとではない。狂っているのは自分だけだ。………仲間を庇いたいという想いは素晴らしい物です。ですが………この罪を抱えて苦しんでいるのは貴女だけでは無いんですよ?』
「当たり前じゃ!無理やり戦わされとる連中ばかりなんじゃぞ!?無理やり殺しをやらされて、良心が痛まない方がどうかしとる!じゃが………うちは違う。」
巴は唇を噛み締める。
そう、自分は復讐を望んでいる者だ。他の仲間達とは違う。戦いを止めたいという想いを自分は持っては………。
『持っていますよ、貴女も。戦いを止めたいという良心を。』
「ウソじゃ………。」
『さっき銃を下ろしたいと言ってたじゃないですか。』
「良心からじゃない。うちが狂ってるから………このままじゃ何をしでかすか分からないから………。」
『それでも貴女が『戦いを止めようと考えた事実』に狂いはありません。』
「……………。」
巴は俯き何も言えなくなる。
自分はどうして欲しいのか。この都に何を言って欲しいのか。それすら分からなくなっていた。このままでは堂々巡りで迷宮入りしそうであった。
「のう………都………うちは………うちにまだ良心が残っているのならば………これからどうすればいいんじゃ?」
『そうですね、真実は1つ!とはよく言いますが、人の心の真実は1つではありませんよ。逃げるのも1つ。戦うのも1つ。他にも道は探せばあるでしょう。』
「でも、うちは選べん。最低じゃ………こんな状況になってもまだ………。」
『1つだけ言える事があります。』
「何………?」
顔を上げた巴に対し、都は微笑むと喋り始める。
『貴女の犯した罪は霞の犯した罪、つまり私の犯した罪でもあります。そして、貴女の仲間達が犯した罪でも。だから、貴女1人が悩むべき問題では無いのです。』
「お前………じゃあなんじゃ?うちが戦うと言ったら………。」
『その時は地獄の果てまで付き合います。私ももう血塗られた手ですからね。探偵が罪人というのも嘆かわしい話ですが………。』
そう言うと、一瞬何とも言えない顔をして都は言う。
『シンデレラガールズは皆、一蓮托生なのです。間違えた時は、その時に誰かが諭してくれます。それが仲間ですから。』
「うちは………。」
一瞬だけ目を離してしまった。
そしてもう一度見つめ直せば、そこに都はもう存在していなかった。しばらく1人で黙る巴。そして、彼女は呟く。
「のう、都………。うちはバカじゃ。でも、そんなバカでも………同じバカ同士付き合ってくれるならば、1つ頼まれてくれんか?うちは………色々想いはあるけれど、やっぱりシンデレラの仲間でありたいんじゃ。それが『狂った』道だとしてもな………。」
巴は静かに握り拳を作り、力を込めた。
――――――――――
肇は病室の窓から外を見ていた。
自分はリーダー失格だと思っていた。シンデレラガールズのIDOL達を纏めないといけないのに、戦死者を出した挙句、皆をバラバラにしてしまった。それだけでなく、10年前に誓った想いも砕けてしまっている。これでは魔法が解けた醜い灰被りだ。
「無力な人達すら守れない………。私は………弱く脆い存在ですね………。」
『そう落ち込んでいては折角の顔も台無しれす~。サバオリ君も悲しむれす~。』
肇は病室に置いてある椅子を見る。そこには青い影があった。
青いウェーブの髪で同じ色の瞳を持つ明るそうな少女。手には目玉が飛び出した魚のぬいぐるみを持っていた。
「………貴女が浅利七海ちゃんですか?」
『そうれすよ~。実際に会うのは初めてれすね~。宜しくれす~。』
笑顔で答える少女の顔を見た肇はこの子が『時雨』の先代パイロットであり、幼い乃々を庇って戦死した子なのだと知る。
そんな肇を見た七海は問いかける。
『随分辛気臭いれすね~。そんなにライラさんを殺した事がショックれした~?』
「はい………。私が殺した女の子は、故郷を守る為だけに無理やり戦わされていた子でしたから。あの子もまた、私が守らなければならない子だったのです。」
『それは辛いれすね~。でも、今の帝国は属国が多い以上、『復讐者』を名乗る日本の面々も合わせて戦わされている人は多いと思うれすよ~。』
「……………。」
顔に似合わず、真実をずけずけと言ってくるこの少女に肇は黙ってしまう。
戦っている以上はそういうパイロット達と出会うだろう。いや、これまでもずっとそうだったのかもしれない。故郷の悲劇を繰り返さない為に無慈悲に戦ってきた肇にしてみればどうしてもやりきれない想いがあった。
「私は………どうすればいいのでしょうね?」
『簡単れす~。パイロットを殺さないように戦えばいいのれすよ~。』
「不殺というものですか?そんな器用な真似ができていればもうとっくにやっていますよ。………私にはそんな神がかった才能は無いですから。」
『当然と言えば当然れすね~、七海だって無理だったれすから~。』
殺さず相手を無力化する事ができるのならば、戦争で悲劇は起こらないだろう。だが、実際には殺さなければ殺されるのは自分か仲間なのが現実なのだ。後悔する道を取らない為に、みんな顔も知らない相手を殺す。それが当たり前なのだ。
「贅沢ですよね………。殺したくないと思うだけで、戦いから逃げるなんて………。」
『それは仕方ないれすよ~。誰だって逃げたい感情はあるれす~。でも、肇さん、大事な事を忘れてないれすか?』
「え?」
『貴女が殺さなくても、その分、仲間を含めた他の人が人を殺すれす。』
「ッ!?」
それまで何処か穏やかだった七海の顔はいつの間にか真剣な表情になっていた。
そう………自分が戦わなければその分戦いは他の者達の間で起こる。そして、その結果、大切な存在が失われる可能性だってあるのだ。
「みんなが………私の分まで戦って………そうなったら………。」
『いつかはみんな死ぬれすよ、七海達のように。IDOLですら無敵じゃ無かったのれすから。』
乃々の事を肇は思い出す。彼女は自分が油断した事や抜けた事を今でも後悔していた。そのせいで七海、都、清美は死んだと思っているからだ。その苦々しい想いを知っているだけに、肇も考えてしまう。自分もああなるのではないかと。
『肇さん………七海は厳しい事を言うれす。肇さんが誓っていた事は何だったのれすか?』
「力の無い人達を守る事………。故郷のような悲劇を繰り返さない事………。みんなを………守る事!」
『その約束を自分からふいにして後悔する道を取ろうとしているれす。肇さんにとってそれは逃げる事以上に後悔する道では無いれすか?』
肇は気づかされる。
いつの間にか自分は自ら破滅の道を歩んでいた。仲間の誰かが失われたら後悔するに決まっているのにその事実に目をつぶって。でも、それならば………。
「だったら………だったら、相手を殺すしか道は無いのでしょうか………?これからも、ずっとずっと………!」
『全てを守ろうとするのが傲慢なのれす。人1人に出来る事なんて限られてるれすよ。』
肇は七海を見る。
堂々とした声だと思った。きっとこの少女も背負ってきた道なのだろう。いや、彼女だけでなく先代パイロット達が。そして、今の仲間達が。その業から自分だけが逃げていいわけが無い。
「私は………残酷な道を取るしかないのですね。」
『………踏みにじっていいのれすよ、七海の言葉なんて。』
「いえ………。」
肇は目を閉じる。
自分はまだシンデレラ達のリーダーなのだ。その自分が出来る事を果たすならば、それは1つしかないだろう。
「私は………『狂います』。自分の誓約の為に、皆さんを守る為に。仲間と共に、全ての罪を受け止め、背負っていきます………。」
七海は居なくなっていた。
肇は静かに手ぬぐいを取ると頭に巻いた。
第18話 完