【デレマス×ゼノグラシア】アイドルマスターゼノグラシア・sideシンデレラガールズ 作:擬態人形P
「美世さん、沙紀さん………。レナさんがやられたって………。」
『どんどん不利になっていくっすね………。司令部の目は節穴っすか?』
『敵IDOLが5体も出て来ちゃ無理もないとは思うけれど………!』
睦月に乗った由愛は沙紀や美世と共に、レール砲で近づくイーグル達を撃破して回っていた。後ろの建物には裕美達のIDOLが置かれている。それを破壊されるわけにはいかなかった。
「みんなの機体………守らなきゃ………!」
『うわッ!?』
しかし、そんな由愛の隣にいた沙紀機の片足が爆発を起こし倒れる。
見れば、緑と黄のナターリアのパラキートが『ビームガン』を撃ちながらこっちに迫ってきていた。
『クッ!やられたっす!』
『あの機体を睦月で………ええい、やるしか!』
盾を構えながらレール砲を撃ちまくる美世機だが、経験が違う。あっという間に近づかれると蹴り飛ばされてしまった。
「み、美世さん!」
反射的に『近接用振動ナイフ』を取り出す由愛であったが、パラキートは『ビームソード』を取り出しそのナイフを器用に両断してしまった。
あっという間に無防備にされてしまった由愛は歯をガチガチ鳴らす。
『IDOLの居場所を教えるんダ!そうしたら、ナターリア、命までは奪わないゾ!』
マイクで叫んできたナターリアの声を受け、命の危機に陥った由愛はどうするべきか本気で迷う。
逆らったら自分は死ぬだろう。命は惜しい。だが………だが………。
(ここで………ここでみんなの機体を売り渡したら………。)
自分はシンデレラガールズでいられなくなるだろう。
しかし、そんな事でまだ13歳という幼さの命を散らすのもおかしい。素直に命乞いをしたって罰は当たらないはずだ。心の底から響いてくる声に、由愛の口が動く。
「………です。」
『何ダッテ?』
「イヤ………です。私………みんなを売りたくありません………。」
『………ナターリア、もう冗談は言わないゾ?』
「イヤです!だったら殺してください!!」
『ソウカ………。』
ナターリアのパラキートがビームソードを振り上げる。
由愛は涙を流し、目を閉じた。後悔は無い。絶対に………。
ボゴッ!!
だが、突然の異音に由愛の目は見開かれる。
見れば、壁の中から白銀の手が伸び、パラキートのビームソードを掴み上げ、握りつぶしていたのだ。
「ど、どうして………?」
由愛は困惑する。
突如乱入したIDOL………陽炎は、無人だったからだ。
――――――――――
「な、何ガ起こってるんダ!?」
武器ごと右手を握りつぶされたナターリアは困惑しながら後退する。
見れば、壊れた壁からIDOLが次々と姿を現し、さっきの少女の機体を守るように4機が立ちはだかった。
「ここがIDOLの保管場所だったのカ!?」
パイロット達が隙を伺っていたのかと思ったナターリアは左手でビームソードを構えようとするが、その前に陽炎が右ストレートを放ち、左腕も破壊される。
残った『ビームヘッド』だけでこれだけの機体を相手に出来るはずが無い。撤退するしか無かった。
「ゴメン、ライラ。ナターリア、次頑張るカラ………。」
肩を落としながら、ナターリアは機体を後退させた。
――――――――――
「これは一体………。」
車で倉庫に赴いていたプロデューサー達は、正に由愛が討たれそうになる所に出くわしていた。だが、そこに陽炎、『時雨』、『霞』、『吹雪』がそれぞれ勝手に動いて彼女を守ったのだ。不可思議な現象に彼の思考は固まる。
「………美羽ちゃんだ!」
「何!?」
「美羽ちゃんが由愛ちゃんを助けてくれたんだ!」
後部座席で裕美が喜ぶのを聞き、プロデューサーは思わず叫んでしまう。
また美羽が奇跡を見せたというのだろうか?
「他は………先代の方々ですね。」
「どういう………ことだ?」
助手席で頷く肇の言葉にプロデューサーは、都、清美、七海の姿を思い浮かべる。
正直、彼には理解が追い付かなかった。そして、更にIDOL達は驚くべき行動を見せる。
近づいてきた車を見ると、それぞれが膝を付き、コックピットハッチを開き、手を差し伸べたのだ。
「本当に………お前達なのか?」
車を止めたプロデューサーの問いかけには答えない。
だが、パイロット達は車を降りると、迷うことなくそれぞれの愛機の手の上に乗る。
すると、全機がハッチの部分まで手を持ち上げた。そして、適合者達がそれぞれ乗り込んだ。
――――――――――
『よし、武装は全部そのままのようじゃな。管理体勢が杜撰じゃが、今は有り難い。』
『何か随分待たせちゃった気がするね………。それでもまだ認めてくれて嬉しいな。』
『それでは皆さん参りましょうか。守ってくれた人達の期待に応える為に。』
「うん。美世さん、沙紀さん、それに………由愛ちゃん。」
裕美は通信を繋ぐと由愛達に微笑んだ。
「信じてくれてありがとう。」
その言葉に美世は笑顔で応え、沙紀は照れくさそうにし、由愛は思わず泣いた。
そして、裕美達はそれぞれ飛び立った。この乱戦をどうにかする為に。新たなる覚悟を決めて。
――――――――――
「………痛ッ。腕折れたかしら、コレ。」
墜落した夕雲のコックピットの中でレナは苦い顔をしていた。幸い機体の負ったダメージは浅かった為、命に別状は無い。しかし、腕が折れていてはこれ以上の戦闘は無理だった。
「参ったわね………。まだみんな戦ってるのに………ん?」
そこでレナは気づく。コックピットハッチの近くにほたるが心配そうに覗きこんでいる事に。彼女は片手でキーボードを操作し、ハッチを開いた。
「大丈夫ですか………?」
「命はね。でも、腕が折れちゃったわ………。どうしようかしら………。」
「……………。」
ほたるはしばらく考える様子を見せると、徐に夕雲の内部を見渡し、被害を確認する。
「ほたるちゃん………?」
「夕雲って如月乗りでも扱えますか?」
「ま、まさか………。」
「今、レナ少佐が戦線を離脱すると指揮系統が混乱します。」
ほたるはそう言うと、コックピットハッチを閉める。
「ほ、本当にやる気なの?」
レナは席こそ開けたがほたるの事を心配する。
別に今のほたるの操縦技術が下手だとは思っていないし、彼女の言っている事も正しいとは思う。だが、ぶっつけ本番で扱えるものだろうか?
「如月よりは余程いいはず………。レナ少佐が良ければ、やってみます………!」
「全く………部の悪い賭けが続くと感覚がマヒしてしまうわね。………いいわ、やってちょうだい。」
「ありがとうございます………!」
ほたるはそう言うと、夕雲の身を起こし、飛び立った。
――――――――――
「長官!これはどういう事なんですか!?」
「我々の圧勝に終わるはずでは無かったんですか!?」
司令部では長官に司令官達が問答を続けていた。
形勢はこちらに大きく不利。防衛線も崩れ、市街戦になっているのだからある意味当然だろう。
一方の長官はその問いかけを黙って聞きながら戦況を確認していた。
(限界があった………力及ばずか………。)
内心で彼は思う。
結局の所、相手の方が数枚上手だったという事だ。出来る限りの事はしても、それが実るかどうかは結局の所は時の運だ。今回は爪が甘かったのだろう。
「咎を受けるタイミングは重いの他早かったな。それもまた、私への罰なのだろう。」
「罰って!貴方はこの事態にどう責任を持つつもりなんですか!?」
「責任だと………?」
そこで初めて長官は表情に出して笑った。
その凄みに司令官達は後ずさる。長官はそんな彼らを見渡しながら言う。
「責任とはまた甘い言葉を使う。そんな安い物でこの対価が払えると思っていたのか?」
「な、何を………?」
司令官達の言葉は続かなかった。司令部の外に拡散ビームボウガンを構えたアイビスの姿が映ったからだ。全員の表情が固まる中、長官だけは手を広げ答える。
「もしも対価を払うとするならば………それは我々の命を持って償わねばな!」
その言葉と同時に、東京基地の司令部は炎に包まれた。
第19話 完