ソードアート・オンライン 〜少年よ〜   作:ちゃーもり
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ヒロイン登場です。そして今回から三人称に変わります。


EP.2 別れ、出会い、旅立ち

思いもしなかった最悪な状況に貶められたセイジは頭に流れてくる現状の情報、不安、困惑といった物に脳の処理が追いつかずその場に立ちすくむしかできなかった。

 

(最悪だ……)

 

セイジの様に中央広場に立ちすくむ者もいれば膝を付く者、泣き出す者、あるいはいち早くこの広場から去っていく者達もいた。後者の者達は恐らく元βテスターだ。彼らはこの世界での戦い方を知っている。それは彼らにとってアドバンテージであり、ビギナーとの大きな差だった。

そんな中、立ちすくむセイジの手を取り、引っ張り出す者がいた。彼の実の兄であり、この世界においてはセイジが最も信頼のできる人物、フランだった。

 

「セイジ…来い」

 

その言葉をきっかけにセイジは我を取り戻す。

 

「どこ行くんだよ兄貴」

 

「いいから黙って付いてこい」

 

フランは黙り込んだまま、ズンズンとセイジを引っ張りながら中央広場の出口を目指す。

 

そして、ただ引っ張られるセイジの瞳に一人の少女の姿が目に入った。その姿は絶望し、今にも崩れそうな程に脆く悲しく見えた。

 

(あぁ、そうか。この世界には俺みたいに誰かが一緒にいるわけじゃなく一人だけの奴もいるんだ…)

 

こんな最悪な状況の中でもセイジにはフランという家族がいた。しかし、彼とは違いたった一人でこの世界に残された者もいる。

その点で考えればセイジは報われている方だ。

 

ただ無言のまま中央広場を出て、ある程度開けた場所に着くとフランは手を離し、セイジの方へ向き直る。

 

「あの広場に立ち止まってるだけじゃ何も変わらない。だから俺はこのまま次の村へ向かう。だからお前もついてこい」

 

フランはこの世界で戦う選択肢を選んだ。フランの言う通り、立ち止まってるだけじゃ何も進まない。なら進み続けるしかない。この先はただのゲームじゃない。本当に死ぬかもしれない死と隣り合わせの戦場だ。

そんな所に弟を連れていきたくない。弟を死なせるかもしれない。それはフランもわかっていた。しかし、セイジと共に戦うというのはセイジをあの場所に置いていくことなんてできないからこそフランが下した決断だった。

 

───────が、セイジは黙って首を横に振った。

 

「セイジ……?」

 

「悪い…兄貴。先に行ってくれ」

 

(兄貴はこの世界での生き抜き方を知っている。けど俺はそれを知らない。このまま一緒に行けば俺はきっと足でまといになる…それに……)

 

自分のせいで二人とも死んでしまうかもしれない。そんな最悪なパターンを避けるためにセイジは敢えて別行動を取りたいと申し出る。それに、セイジはさっき見た少女の姿が脳から離れなかった。

 

「おい……この状況でお前を置いて行けってか?…馬鹿か!茅場の言葉が本当ならHPがゼロになった瞬間、俺達は死ぬんだぞ!?そんな危険なゲームで単独行動がどれだけリスキーなことなのか分かってるのか!?況してやお前はビギナーだ。俺ら元βテスターとは違ってこの先のモンスターの戦い方を知ってるわけでもない。そんな弟をみすみす置いてけぼりに出来るわけねぇだろ!」

 

しかし、セイジの答えは変わらない。これだけは譲らないと言いたげな真っ直ぐな瞳でフランを見つめる。

 

「わかってるさ。けど、このままじゃ俺は後悔することになるかもしれない。だから……先に行ってくれ。必ず追いかけるから」

 

フランはセイジのその真っ直ぐな瞳を見つめ返す。

そこには昔のようにずっと自分のあとを追いかけてきていた幼い弟の姿はなかった。それどころかそこにいるのはもう自分で物事を決め進もうとしている成長した少年の姿。

 

(いつの間にか……強く成長したもんだな……)

 

その姿に嬉しさを感じるもののどこか寂しさをフランは感じた。

 

「はぁ……勝手にしろ。俺は先に行く。第1層の迷宮区から一番近いトールバーナっていむ街がある。そこで合流だ」

 

「あぁ、絶対に追いつくから、待っててくれ」

 

その力強い返事を受け取ると、フランは踵を翻し、最後に一言だけ告げる。

 

「絶対に………死ぬなよ」

 

それだけ言い残してからフランはその場から駆け抜ける。

セイジはどんどん遠くなってゆく兄の背中を見送り、見えなくなると中央広場へと走り戻る。

 

◇◆◇

 

(さっきの子は……どこだ……)

 

中央広場へと戻ってきたセイジだが、さっき少女がいた場所にはその少女の姿はなかった。

少女の姿どころか少し前まで人で溢れていた中央広場にはちらほらとしか人がおらず、静けさを醸し出していた。

 

(もうどこかに行ってしまったのか……?変なことを考えて自殺なんてしてなければいいけど…)

 

そんな時だった。路地裏からある少女の叫び声がセイジの耳を貫いた。

 

「やめてください!」

 

まさかと思い、セイジはその声のした路地裏方へと走る。

 

「いいじゃんかよ。どうせ俺らはもう帰れねぇんだ。だったら死んじまう前に俺らと楽しい事しようぜ?」

 

駆け付けてみればそこには腕を掴まれ壁に押し付けられているさっきの少女の姿があった。

そしてその周りを数人の男が囲んで、汚らしい笑い声を上げている。

 

(こんな時にでも………ろくな事を考えないクソ野郎はいるもんだな)

 

そんな事を考えていたら、気づけばセイジは一番近くの男の頬を殴り飛ばしていた。

 

「ふぐぁ!?」

 

殴り飛ばされた男は言葉にならない声を出しながら地面を転げる。

 

「あぁ?誰だテメェ」

 

「通りすがりのただのプレイヤーだ。その声……嫌がってるだろ。離してやれよ」

 

取り込み中の所を邪魔された男達は不機嫌な目付きでセイジを睨み、またセイも睨み返す。

 

「お前には関係ないだろ。俺達のお楽しみの時間を邪魔するなよ」

 

「なら力づくで彼女を解放させてもらう」

 

「やれるもんならやってみやがれ!」

 

リーダーらしき男の言葉で取り巻き達はセイジを囲むように広がる。

セイジは右腕をすっと上げ、人差し指で男達を指さす。

そしてセイジは昔憧れていたヒーローの一度は言ってみたい思っていたある決めゼリフを決める。

 

「さぁ…お前たちの罪を数えろ」

 

「ほざけぇ!!!」

 

男達は一斉にセイジ目掛けて突っ込むが、セイジはまず一人目、二人目そして3人目の攻撃を容易く躱す。

 

「大きく腕を振りかぶりすぎ。それじゃ、簡単に動きなんて読める」

 

続いて四人目が殴りかかってくるが、セイジは冷静にその腕を掴みその勢いを利用して床にその男を投げる。

 

「やりやがったな!!」

 

先程簡単にセイジにあしらわれた男の一人が再びセイジに突っ込んでくる。

 

「だから…動きが単調なんだって」

 

そう言ってセイジは足を振り上げそのまま、振り下ろされてくる腕とは反対方向から男の顔面に回し蹴りを放つ。

その男の影からもう一人の男が現れ、下から腕を突き上げるがセイジはバックステップで避け、その男の股間に蹴りを入れる。

 

「ぐぼぁっ」

 

このSAOには痛覚はない。だからどれだけ殴られようが腕を切り落とされようが痛みを感じることはない。が、その代わり違和感は残される。男にとっては第二の心臓とでも呼べるその部位を蹴られれば痛みこそないが違和感は残る為、その感覚はセイジ自身も考えるだけで恐ろしい。

そして、圏内と呼ばれる街の中等ではダメージを食らうことない。ただ攻撃を受けてもノックバックが発生するだけ。

つまり、こういう輩を懲らしめるには充分というわけだ。

 

「テメェ………ふざけた事をしやがって!」

 

怒りを露にしたリーダーと思われる男は両手斧を構え、少しずつセイジへと近づく。

他の男達も各々の武器を手に取る。

個々撃破ならまだしも、こうなっては部が悪い。

そう判断したセイジがとった行動は───────逃げる。

 

 

「走るぞ!!」

 

男達の間を潜り抜け、少女の手を取り、路地裏から走り抜ける。

 

「えっあっ!?ちょっと!」

 

「待ちやがれ!!この小僧!」

 

セイジはとにかくAGI全開にして猛ダッシュで男達から逃げる。

走り続ければ見る見るうちに男達の影は小さくなり、今だと言わんばかりにセイジは近場の宿に逃げ込む。

 

「ふぅ…何とか逃げ切った…それにしても大丈夫か?」

 

「う、うん。助けてくれてありがとう」

 

初めてセイジは少女を正面から見た。そこにいるのはショートカットが似合う小顔の女の子。綺麗や美しいよりも可愛いという言葉が似合う少女だった。

そんな彼女はまだ恐怖が残っているのかまだ震えていた。

 

「落ち着くまでこの宿にいればいい。俺もこの宿に泊まるから何かあれば呼んでくれ」

 

見知らぬ少女と同じ宿に泊まることに多少の抵抗はあるが、彼女を一人にさせるわけにはいかない。それがセイジの考えだった。

とりあえずここに居れば一安心だろうとセイジはNPCの元へ二人分の料金を払いに行こうとする。しかし、くいっと後ろに引っ張られる力によって遮られた。

セイジが振り返れば少女が彼の服を掴んでいるのが見て取れた。

 

「えっと……もう少しだけ一緒に居てくれない?一人になるのはちょっとまだ怖くて……」

 

「わかった。とりあえずそこの席に座ろっか」

 

二人は宿のフロアに置いてある丸テーブルの椅子に向かい合い腰を下ろす。

数分の沈黙が続いた後、やっと少女が口を開く。

 

 

「あの……さっきはありがとう。私今のこの状況が受け止められなくて、一人ほっつき歩いてたらさっきの人達に捕まっちゃって………怖くてたまらなくなって動けなくなっちゃったんだ……」

 

「別に俺はただアイツらが気に食わなかっただけだよ」

 

あの男達が気に食わなかったのは事実ではあるが、悲しそうな彼女がほっとけなかったという言葉を敢えてセイジは伏せた。

 

「私ね………友達に誘われてこのゲームを始めたんだ。けど友達は用事があるから先にログインしててくれって言われて迷わず私はログインしたの」

 

少しずつ言葉を紡ぎながら彼女は語りだし、セイジは黙ってそれを静かに聞く。

 

「そしたら突然あの広場に集められて………あんな話を聞かされて、あの時………友達を待っていればこんな事にならなかったのかもしれないって思っちゃって………死ぬかもしれないっていう現実が怖くなって仕方がなかった」

 

「そっか……」

 

頑張って心の中の気持ちを表す彼女はだんだんと涙を浮かべ始め、そして涙を零した。

そんな彼女になんて言ってあげればいいのかセイジにはわからなかった。

 

「ごめんね。変な事に巻き込んじゃって」

 

「気にするな。俺が君を助けたのもなにかの偶然だ。それより今日は色んな事があって疲れてるだろ?もう寝た方がいい」

 

「そうだね…ありがとう」

 

感謝の言葉を受け取るとセイジは椅子から立ち上がりNPCに宿代を払った後、自分の部屋へと入る。その後を追って彼女も自分の部屋に入っていった。

 

 

◇◆◇

 

SAOが死のゲームと化してから一つの夜が明け、一つの朝を迎える。

 

自然と目を覚ましたセイジはゆっくりと体を起こし、辺りを見回す。

そこは現実の自室ではなく昨晩泊まった宿の部屋。

目が覚めれば現実世界に帰れてるんじゃないかという微かな淡い期待を抱いていたセイジは改めて自分はこのゲームに閉じ込められたんだと現実を叩きつけられる。

 

(普段なら制服を着て学校に行くところだけど………不思議だな)

 

セイジは身支度を済ませると1階へと降りてゆく。

1階に降りると昨日二人が話をした所に少女はポツンと座っていた。

 

「おはよう」

 

「あ、うん。おはよう」

 

ぎこちない挨拶を受けながらセイジは少女の対面に座る。

 

「君に言うべきことと聞きたいことがある。俺はこの世界を攻略するために戦う道を進もうと思っている。そこで君に聞きたいのは…俺と一緒に来ないか?」

 

セイジはフランと同じように戦う道を選んだ。

彼が聞いたのは共にこの世界で戦おうという申し出だった。

このゲームはもうただのゲームじゃない。一人で立ち向かうにはとても危険な世界だ。だが二人となれば生存率は飛躍的にあがり、攻略が幾分か楽になる。

 

「この世界にはモンスターが沢山いるんだよ………?それに死んじゃうかもしれないんだよ」

 

「わかってる。けどここで待ってたって助けは来ない。茅場の言う言葉が正しいならね。それなら前に進むしかない。俺はそう思う」

 

茅場晶彦の言葉通りならナーヴギアの取り外しは不可能。外部からの救助の可能性はゼロに等しい。

 

「そんな………なんで私達…こんな目に合わなくちゃいけないの……?君は…怖くないの?」

 

「俺も怖い。死ぬのが怖くない奴なんていない」

 

「君は強いね………私はそんな強くないよ………」

 

か細い声で言葉を紡ぐと少女の瞳からポツポツと涙が溢れ出す。

 

「私一人じゃ…とても前に進むめないよ……」

 

セイジは少女の涙に心を揺らがされ、少女の前に立つと膝を付いて少女の瞳を見つめる。

 

「君は一人じゃない。一人になんてさせない。俺が君のそばに居る。俺は君を死なせない。約束する」

 

そう言ってセイジは少女の前に右手の小指を差し出す。

 

「約束……?」

 

「あぁ。何があろうと君を守る。絶対だ」

 

その言葉を聞いて少女はどこか安心したような顔をして自分の右手の小指をセイジの小指に結ぶ。

 

「約束だよ?」

 

そう言って彼女は初めて笑顔を見せた。その時の笑顔がセイジの中でとても印象的なものとなった。

 

「そういえば……君の名前を聞いてなかったな」

 

「私はレイ。えっと…君は……」

 

「俺はセイジ。よろしく」

 

自分の名前を告げるとセイジは右手を差し出し握手を求める。

その意図を察した少女は細く小さな手で握り返す。

 

「よろしくね!セイ(・・・)!」

 

「いきなり愛称かよ……」

 

「別にいいじゃん!それより早く行こ!」

 

セイジの前にいるのは涙を流していた少女ではなく本来の明るさを取り戻したレイの姿。これが本来の彼女なのだろう。その明るさに釣られて自然とセイジも笑顔が零れる。

 

そうして二人はたわいも無い話をしながらこれから始まる戦いへの第一歩を踏み出す。

 

 

 

 

 




なんか駆け足な気がしなくもないですが申し訳ありません。

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