ソードアート・オンライン 〜少年よ〜   作:ちゃーもり
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EP.7 ビーター

「なんでや!!」

 

喜びあってたセイジ達はその怒鳴り声の方向を見る。

そこには怒りを顕にして震えているキバオウの姿。

 

「なんでディアベルはんを見殺しにしたんや!!」

 

「見殺し?」

 

キリトの呟きにキバオウが血を吐くように叫ぶ。

 

「せやろうが!!自分はボスが使う技知っとったやないか!最初からあの情報伝えとったらディアベルはんは死なずに済んだんや!」

 

情報、ガイドブックと違ってボスが取り出したのは刀だった。だからそれを知らなかったディアベルは死んだ。その情報を言わなかったキリトのせいでディアベルは死んだのだとキバオウは叫ぶ。だが、キリトもその寸前までボスの武器が刀に変更されてたなど知らなかった。

 

「そうだ……」

 

「確かに………」

 

キバオウの発言に空気はガラリと変わり、周りのプレイヤー達も便乗してヒソヒソと批難を零す。

 

「きっとアイツ元βテスターだ!」

 

その言葉が波紋となり、次々とプレイヤー達の怒りがキリトへと向けられる。

 

「他にもいるんだろ!?βテスター共は!出てこいよ!」

 

 

「お前もβテスター何じゃないのか!?」

 

「俺じゃねぇよ!」

 

「俺でもねぇよ!」

 

あちらこちらで口論が湧き上がり、空気は最悪のものとなった。

 

「まずいな…………このままだと……」

 

「ディアベルさんは皆の為に戦ったのに………これじゃ台無しになっちゃうよ……」

 

このままだとβテスター達へとビギナー達から憎しみを向けられ被害を負うことになる。

そして、プレイヤー達の希望を作ろうとしたディアベルの意思も水の泡となってしまう。セイジとレイはそれが心配だった。

 

その最悪な事態をどうにか避けたいと考えるキリトは自分の目の前に現れているウィンドウを見てゴクリと唾を飲む。

 

「おい………お前……」

 

この場を鎮めようとエギルとアスナ、リザがキバオウ達の注意を試みるが、それは一人の少年の笑い声によって遮られた。

 

「クハ…クハハハハハハハハ…ハハハハハハ!」

 

この場で突如聞こえた笑い声に対して、皆が一斉に振り向く。

その先にはゆっくりと立ち上がるキリト。

 

「元βテスターだって?俺をあんな素人連中と一緒にしないでくれないか」

 

「な、なんやと!」

 

キリトの発言にキバオウは怒り混じりの疑問の言葉を投げかける。

ゆっくりとキバオウ達の元へと

 

 

「SAOのβテストに当選した千人のうち、そのほとんどがレベリングのやり方も知らない初心者だったよ。今のアンタらの方がよっぽどマシさ」

 

その言葉に、言葉を失いながらキバオウ達はキリトを見つめる。

キリトはセイジ達の横を通り過ぎ、キバオウ達の前に立つ。

 

「でも、俺はあんな奴らとは違う。俺はβテスト中に他の誰も到達できなかった層まで登った。ボスの刀スキルを知ってたのはずっと上の層で刀を使うモンスターと散々戦ったからだ」

 

キリトの言葉を聞いて、セイジはある事を思い出す。正式サービス開始前にフランが言っていた、『8層まで行った奴がいる』。それがキリトだった。

 

「他にも色々知ってるいるぜ。情報屋なんか問題にならないくらいな」

 

不敵な笑みを零しながらキリトはそう告げる。

8層まで行けばそれなりの情報を得ることが出来るのは当然だ。その情報を自分は色々持っているのだと。

 

「な、なんやそれ。そんなんβテスターどころやないやんか!もう、チートやチーターやろそんなん!」

 

チーター────ゲームなどにおいて不正行為を行う者の名称だ。

 

「そうだ!そうだ!」

 

「チーターだ!」

 

再び怒りの、言葉がキリトへと飛び交う。

 

「βのチーター!だからビーターだ!」

 

「ビーター……いい呼び名だなそれ。気に入ったよ」

 

軽蔑の名を、いい呼び名だと言うキリトに周りのプレイヤー達は驚きの顔を隠せない。

 

「そうだ。俺はビーターだこれからは元βテスター如きと一緒にしないでくれ」

 

キリトはウィンドウを操作し、先程のボス戦のLAアタックボーナスで受け取った黒いロングコートを身に纏う。

 

セイジはキリトの自分を犠牲にして他の元βテスターを庇おうとしていることを見抜く。

 

(キリト………)

 

セイジがキリトを止めようとするが、それを今まで黙っていたフランが右手で制止する。

 

「待て。俺に考えがある」

 

そういうフランは左手を現実だったら血がにじみ出そうなくらいに握りしめていた。

そして、フランはキリトの横へと歩み寄り、小さく息を吸う。

 

「何も……ビーターは1人じゃねぇぞ?俺もその名前で呼んでもらおうか?」

 

フランはニヤリと笑みを浮かべ、他のプレイヤー達を見下したように見つめる。

 

「俺はお前らみたいな雑魚とは違う。情報量も技術も全てにおいて格が違うんだよ。だから雑魚は引き下がっていろ」

 

フランは自らキリトと同じように悪役を演じる事で、キリトを1人にさせまいとする。その意図をセイジ達は察した。

 

「んだよ……それ。ふざけるなよ!!」

 

一人のプレイヤーが激昇して怒鳴りながら、拳を握り殴りかかろうとフランに向かって走る。

 

だが、フランは軽く身体を動かして最小限の動きで躱すと、その腕を掴んでプレイヤーの足を払う。

足を払われてバランスを崩したプレイヤーは床に突っ伏すように倒れ込み、フランは掴んだ腕をプレイヤーの背に押さえつけ、動きを封じる。

 

「いいか?この世界で生き抜くのに必要なのは情報だけじゃねぇ。必要なのは情報、金、武器、装備、そして………力だ」

 

「ぐっ………」

 

押さえつけられているプレイヤーは怒りの瞳でフランを睨みつけるが、フランは何食わぬ顔で話を続ける。

 

「この世界は力の無い奴から死んでいく。理不尽も関係ない。弱いから強い力の渦に飲み込まれて死ぬ。それがこの世界のルールだ。ディアベルだってそうだ。アイツが弱いから死んだ…ただそれだけだ」

 

そのフランらしくない攻撃的な言葉に、彼が自分を悪者に仕立て上げる事でキリトだけじゃなく他のβテスターへの被害を防ごうとするその姿を見てても何も出来ない自分を歯がゆく思もいながらセイジはフランを見つめる。

 

(俺にはあんな真似はできない。その選択肢すら持っていなかった………)

 

憤怒、憎悪の矛先が一瞬にしてフランへと向き直される。

 

(そうだ。これでいい)

 

自分の思惑通り、プレイヤー達の矛先が自分になり他のβテスターへの被害は最小限に抑えられるだろうとフランは安心した。

 

「先に行って、2層のアクティベートはやっておいてやる。こっから先はこの層とは比べ物にならなんぞ?死ぬ覚悟がある奴だけ登ってこい」

 

そう言い残し、フランはくるりと踵を翻し2層へと続く道をキリトと共に歩いていく。

 

「待って」

 

途中で声をかけられた二人は一瞬立ち止まるが、フランはその声の主が誰なのかを悟るとキリトを置いてゆく。

 

「アスナか…………どうした?」

 

「貴方達………戦闘前から私の名前を知ってたでしょ?」

 

「ごめん。呼び捨てにして………それとも呼び方違った?」

 

キリトは決して振り返ることはしないまま彼女に尋ねた。

 

「どこで知ったのよ」

 

「この辺に…自分の以外に追加でHPゲージが見えるだろ?その下になにか書いてあるはずだ」

 

キリトは左上を指さしながらアスナに教える。

 

「キ……リト……フラン……セイジ……レイ………リザ?これが貴方達の名前?」

 

アスナは自分達のパーティーメンバーの名前を読み上げる。

昨夜、共にいたレイとリザの名前は知ってたが、セイジ、キリト、フランの名前は一致していなかったアスナは改めて確認を問う。

 

「あぁ。フラン達は前からパーティ組んでたみたいだから、君の名前がわかったんだ」

 

そして、突如アスナはクスッと微笑みを零した。

 

「なんだ……こんなところにずっと書いてあったのね…」

 

その笑顔が眩しく感じたキリトは彼女を遠ざけようと言葉を残す。

 

「君は強くなれる。だから、もしいつか誰か信頼できる人にギルドに誘われたら断るなよ。ソロプレイには絶対的な限界があるからな」

 

キリトの言う通り、アスナの剣さばきには見入ってしまうように美しいものだ。それは彼女の才能であり、彼女の武器となりうるものだ。

ソロプレイには助けてるれる仲間がいるわけじゃない。それは極めて危険な道だ。だからこそ、その才能を無駄にしないように、いつかギルドに入れとキリトは残す。

 

「なら……貴方は?」

 

「俺は…………一人だ」

 

自分は一人だと言い残し、独りで上へと続く階段を登り始める。

 

一方でフランは先に進もうとするフランは途中であとを付いてきている三人に気づき、足を止め振り返って尋ねる。

 

「俺はこのまま2層に登る。おまえらはどうする?」

 

フランの視線の先にはセイジ、レイ、リザの姿。

 

「俺は兄貴について行く。土台のねぇ俺に行き場所は無いからな」

 

「私もついて行く!フランさんとセイジの二人だけだと心配だしね」

 

「私もついて行くわ。貴方に助けてもらった恩をまだ返してないもの」

 

迷いのない三人の顔を見て、フランは歩みを続ける。

 

「ふ…………馬鹿達が…」

 

そう呟き2層へと続く階段へと歩みを進めるフランだが、その顔はどこか嬉しそうだったのを三人は見逃さなかった。

 

フランの後を追って、次なる戦いへの道をセイジ達は往く。

 

 

 

 




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