Fate/world end ~ソラノハテとリクノハテ~   作:神駆

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Fate/Zero
ACT.1


 

 聖杯戦争。それは、聖杯によって選ばれた7人のマスターと、剣士(セイバー)弓兵(アーチャー)槍兵(ランサー)騎乗兵(ライダー)暗殺者(アサシン)魔術師(キャスター)狂戦士(バーサーカー)の7体の英霊(サーヴァント)が聖杯を巡り、冬木の地にて繰り広げる戦争である。

 

 本来、選ばれるマスターは魔術師であることが大前提であり、聖杯戦争のシステムを作り上げたアインツベルン、マキリ、遠坂の三家には優先的にマスターであることの証―令呪―が授けられる。

 

 聖杯戦争は今回で四度目となるが、今まで三度も行われていながら、一度も聖杯を受けとったマスターは存在しない。仲違い、聖杯の受け皿の損失などそこにはいくつかの理由があった。

 

 

 

 

 

「えぇーっと、ここをこうしてっと」

 

 最近世間を賑わせている殺人鬼がいる。彼の名は雨生(うりゅう)龍之介(りゅうのすけ)。彼は最近自らの殺しの手口に若干の飽きを覚えていた。どうも目新しいものではなく、『COOL』ではない。そこで彼は住人が寝静まった夜、実家に忍び込み、初めて殺した相手である姉の眠る蔵で目新しいものを探っていた。

 

 そんな中、龍之介はある一冊の古書を手に取った。題名こそ擦れており読めないものの、龍之介はそこに記述されていたあるモノから、儀式殺人という方法を思いついた。それをさっそく実行すべく、古書に記されていた冬木という土地で、龍之介は殺人を開始する。

 

 一度目の行為で完全に虜となった龍之介は犯行を重ねていった。第二、第三の事件が発生し、冬木は恐怖のどん底に叩き落された。夜には警察官が巡回し、夜間の外出は極力避けるように通達がなされている。それにも関わらず未だ龍之介は捕まっていない。

 

 都合四度目である今回の儀式殺人では、前回までの血量不足による魔術陣の未完成が起こらないように、四人家族を狙った。一番年下であろう少年を悪魔への生贄とし、龍之介は嬉々として魔術陣を描いていく。その姿は幼い子供がクレヨンで絵を描いているような錯覚に囚われるほど純粋に見える。

 

閉じよ(満たせ)閉じよ(満たせ)閉じよ(満たせ)閉じよ(満たせ)ーっと。繰り返すつどに四度……いや、五度だっけ? まー、いっか。どうにでもなるっしょ。ただ満たされるトキを破却? する……だよなぁ?」

 

 歌うように召喚の呪文を暗唱しながら、龍之介は魔術陣を描いていく。今回の魔術陣は一分の隙もない古書通りの完璧な出来だった。こう簡単に出来てしまうとどうも張り合いがないと思えてしまうのだろうが、彼にとってはどうでもいいらしい。ただただ自分の描いた魔術陣の完成度に満足するだけである。意味の分からない文字の羅列と幾何学的な紋様はそれだけで彼を虜にする。

 

 その部屋の隅では、縛られ猿轡をかまされ、転がされている少年が、物言わぬ死体となった両親と姉をじっと見つめている。幼い子供にも、この光景の異常さが分かるのだろうか。時々魔術陣を見てはすぐに目を逸らしている。まるで、視界に入れれば死んでしまうというように。

 

「あ! やっぱり五度かー。じゃ、もう一回。閉じよ(満たせ)閉じよ(満たせ)閉じよ(満たせ)閉じよ(満たせ)閉じよ(満たせ)ーっと。はい、今度こそ五度ね」

 

 詠唱の間違いを発見しそれを修正しながら、魔術陣作成で使用しなかった余りの血を、龍之介は絵具にでも見立てたのか、壁に塗りたくる。特にその行為に意味などなく、ただただ壁を赤く染め上げていく。白かった壁紙も今や悪魔が出現するに相応しい色合いとなっている。

 

 それから縛ってある少年の反応を伺おうと顔を覗き込んでみたものの、その目は龍之介を映しておらず、ただただ頭と胴体の分かれた両親と姉を見ていた。しかし、筋肉が麻痺してしまったのか顔に何の表情も浮かんでいない。それでも体の震えはおさまっていないことから恐怖心が無くなったわけではないことも分かる。

 

「ねー坊や。悪魔ってさ、本当にいると思う? まあ、別に俺は宗教を信じてるわけじゃないんだけどさー」

 

 龍之介は両腕を広げ、芝居がかった仕草でそう問い掛けるも、猿轡をかまされている以上、少年の返答は望むべくもない。ただその身を恐怖で震わせるだけである。だが、返答はなくとも、血を見たこと、加えて魔術陣が遂に完成したことによって普段より饒舌になっている龍之介はさらに話し掛ける。

 

「世間じゃ俺のこと悪魔だーとか言ってるけどさ、でも本当に悪魔がいたらさ、失礼なんじゃないかな? ほら、俺が殺したのってさ、両手両足の指で足りちゃうんだよね。そこんとこスッキリしなくてさー。で、確かめてみようと思ったわけ」

 

 ますます上機嫌になる龍之介は、血だらけの部屋を歩き回りながら話し続ける。どこかその様子は信者に熱心に教えを説く伝道師のようにも見えてしまう。悪魔という不明瞭な存在を語ることもそれに拍車をかけている。しかし彼が伝道師であるならば、その教えを聴く聴衆は3つのモノと化した遺体と、怯え、そして精神的な圧迫によって何も耳に入っていない様子の少年だけ。少年からすれば彼は伝道師などという崇高な者ではなく、まさしく悪魔であった。

 

「でもさ、こっちから呼んでおいて何の準備も無しってのは失礼じゃん? だからね、坊や。もし悪魔が本当に出てきたら、COOLに殺されてもらえないかな?」

 

 龍之介の発言の異常さは、幼い子供にも理解できた。それゆえ、少年は、くぐもった悲鳴を上げながらなんとかこの場を逃れようとする。のたうちながら逃げ出そうとするも、思うように体は動いてはくれない。物理的な拘束もそうだが、精神的な拘束によっても子供の動きは阻害されていた。

 

「あれ? 逃げようとしてるの? ダメだよ、坊やには殺されてもらわなきゃいけないんだから。……痛ッ!」

 

 逃げようとしている少年に近づこうとした龍之介の右手の甲が痛みを発する。そこには入れ墨をしたかのような紋様が浮かび上がってきていた。盃の周囲を囲むように二本の剣のようなものが描かれているそれは、まさに芸術だった。

 

 それだけではない。先ほど描いた魔術陣が黒い光を放ち始めた。その光は黒という明るさとは程遠い色にもかかわらず、時間を増すごとに徐々にその光量を増していき、ついには目も開けられないほどになった。

 

 それが収まったころには、魔術陣の上に何者かがいた。服装はローブを羽織っている以外特に変わり映えはしないが、龍之介はそれを予てより会うことを望んでいた『悪魔』だと思い、ゆっくり近づいていく。

 

「えーっと、悪魔サン……だよね?」

 

「………………」

 

 龍之介が声を掛けるが、返答は帰ってこない。やはり生贄が必要なのかと、声にならない悲鳴を上げ逃げようとする少年を手早く捕まえ、龍之介は『悪魔』へと差し出す。そもそも日本語が通じていないかもしれないということに、彼は気づいていない。

 

「あのー、これ、生に」

 

 龍之介の言葉は途中で途切れることとなった。

 

 龍之介が少年を差し出した途端、何か見えない圧力を感じ、次の瞬間には少年の姿はその肉体の一片も残さず、文字通り跡形もなく消えていたのだ。そこに何かがあった痕跡などまるでない。彼が魔術師であったのなら残留している魔力から何らかの魔術を使った結果であると分かるのだが、生憎と彼は魔術回路を持って生まれた一般人だ。詳細など分かるはずがない。

 

「…………ごちそうさまー」

 

 ようやく『悪魔』が発した声は、少年とも少女ともとれるような声だった。だが、その言葉の内容から龍之介はこの『悪魔』がしたことが容易に想像できた。ただ殺しただけではない。『喰らった』のだ。辛うじて黒いものが動いたことは見えたが細かいところまでは理解できなかった。それでも龍之介にとっては問題ではない。自分の知らない『殺し方』が見れただけでも一生ものの感動なのだから。そして、感動の次に来るのは『欲求』。自分も同じことがしてみたいというものだ。

 

「ク……COOLだよッ!! あんた、すげーよ!!」

 

「あなたがボクのマスター?」

 

「マ……マスター? 何の事だか知らないけどよろしく!! あ、俺、雨生龍之介っていいます!!」

 

 本当の『悪魔』を召喚できた。このことは龍之介を舞い上がらせるには十分な出来事であった。今にも踊りだしそうな勢いで自己紹介をする龍之介。実に不釣り合いな敬礼のようなものまでしている。そして、彼の心はこの古書に書かれたことは間違っていなかったんだと感傷に浸っている。

 

 対して、召喚された『悪魔』は不思議なものを見るような表情で、それを見ている。

 

「い……今のどうやったんだ!? ねえ、教えてくださいよー」

 

 テンションが最高潮である龍之介は次々に問い掛けていく。だが、それに対する答えはない。相変わらず『悪魔』は黙ったまま龍之介を見ている。その様は、龍之介という人間を隅から隅まで観察しているようにも見え、何も理解していない幼子のようにも見えた。

 

「え……えーっと、あの、俺、何か気に障るようなことでもしちゃった?」

 

 『悪魔』はその問いを首を横にフルフルと振って否定する。

 

 コミュニケーションは可能だと理解した龍之介は先ほどまでのように自らが一方的に話し掛けるのではなく、『悪魔』の希望を聞くことにした。

 

「じゃあ、なんかして欲しいこととかあります?」

 

「……いただきまーす」

 

 今度は正体不明の圧力が龍之介に襲い掛かる。その圧力によって、龍之介は一歩も動くことが出来ない。何かに縛られているかのように手足は動かず、言葉を発しようにも喉が正常に動いてくれない。ただただ思考だけが加速し体感時間を引き延ばす。

 

 『悪魔』が自分のほうに歩いてくるのを見て、龍之介は自分の死を悟った。逃れようのない絶対的な死が迫っているにも関わらず彼は子供のような無邪気な笑みを浮かべている。

 

 龍之介が最期に見た光景は、腰まで届くような長い黒髪に黒い目をした少年のような、少女のような『悪魔』の影が自分に喰らいつこうとしているところだった。

 

「はは……これが……悪魔……。さいっこうにCOOLだぜ」

 

 人生の終わりに龍之介は自分の求めていたものを知った。彼が求めていたCOOL(殺し)は自分の常識外にある異常な現象による一方的な殺し。それをもっと探求してみたいという欲求もあったが、それ以上に彼は自らのCOOL(殺し)の答えを知って満足してしまった。

 

 彼の得た答え。殺しの終着点。彼自身が望み幾つもの志向でもって作り上げてきた芸術(さつじん)の終着点。それは―――自らの死だった。

 

 

 

   ◆

 

 

 

「……ごちそうさまー。でもあんまりおいしくないや」

 

 龍之介から『悪魔』と呼ばれていた存在は、龍之介の『(魔力)』をそう評すると、既に物言わぬ死体である先ほど喰らった少年の両親とその姉を平らげていく。『悪魔』自身は身じろぎひとつしていないが、足元で蠢く影がそれらを捕らえ、消し去っていく。

 

「うーん。やっぱり死体はおいしくない。でも、まだまだお腹空いてる(魔力足りない)しなぁ。……そだ。お金お金ーっと」

 

 『悪魔』は先ほど摂取した死体から記憶を抜き出し、まるでここが自分の家であるかのように迷わず引き出しを開け、そこにあったお金を財布ごとポケットにいれると、この家を出て行った。出て行くときに少しだけ振り返り何かを呟いた。『悪魔』が再び歩き出すと、その家は音もなく消え去って行った。

 

「えーっと、確かコンビニっていうやつが近くにあるはず」

 

 家を出て、ついでに消し去った『悪魔』は、裸足のまま道を歩いていた。いくら深夜であり、外出を避けるように通達されていても人通りがないわけではない。奇妙なものを見る目で見られていることに『悪魔』は気づいた。遠巻きに見られていることに多少の不快感を覚えたのでその原因を探る。

 

「あ、靴って履かなきゃいけないんだっけ。忘れてたよ。それにローブなんて着てる人いるはずないし」

 

 自分の恰好の異端さに気付いた『悪魔』は一旦路地裏に入りどこからともなく靴を取り出し、それを履く。それと同時に、目立っていたであろうところどころ赤い染みのあるローブも脱ぎ、今度こそコンビニを目指す。

 

 十分ほど歩いたところに目的のコンビニはあった。既に深夜、外出自粛が為されている中でコンビニが営業しているかどうか分からなかったが、客こそ一人もいないもののどうやら営業していたようである。『悪魔』はそれに躊躇することなく入って行く。

 

「甘いもの甘いものー。あ、これおいしそう。…………彼女も一緒に来れたらいいのになぁ」

 

 買い物かごの中に、気に入ったものを片っ端から入れていく子供という光景は奇妙だったのだろう。店員はこの子供は家出か何かだろうと思い、親切心から警察を呼ぶことにした。こんな状況で容易に子供に家出をさせる親の気がしれない、と店員は心の中で呟く。

 

 『悪魔』が一通り店内を見終わり、会計しようとしたころ50代半ばの警察官が一人やってきた。

 

 訳も分からぬまま呼び止められ、警察官によって店内の事務所に『悪魔』は連れて行かれ、そこで警察官の説得を聞かされていた。その説得は「今は危ないよ」や「どうしたの?」といった子供を心配する心情に溢れていたが『悪魔』は聞く耳を持たない。

 

「親御さんも心配しているよ? お家はどこ?」

 

「………………」

 

 何回聞いても『悪魔』は何も答えなかった。そもそも聞いてすらいないのではと警察官は思うも、当然、そういう反応を返されるのも承知済みとばかりに、警察官の説得は続く。

 

「……いただきまーす」

 

「ん? 君は一体な」

 

 『悪魔』は警察官を喰らった。当然、一般人である警察官では反応の仕様がなく、瞬く間に『悪魔』によって喰らい尽くされてしまった。おそらく何も感じる時間はなかっただろう。あの少年や龍之介を喰らった時よりも数段速い魔術の行使であった。

 

「うえー。マズーい。口直ししたいなぁ……。あ、確か聖杯戦争って秘匿しなきゃいけないんだよね。あー、めんどーだよ」

 

 先ほどの時と同じように(魔力)をそう評価し、口直しを求める。しかし会計が済んでいないのでかごの中の物を食べるわけにもいかず少し落ち込む。そして、聖杯戦争の決まりを『悪魔』は思い出し、頷くと、足で床を叩いた。そこから魔術陣が広がっていき、やがて店を覆い尽くすほどの大きさになった。

 

「うーん……とりあえず……記憶よ、消えちゃえ!」

 

 『悪魔』の言葉に呼応するかのように魔術陣が一瞬輝き、すぐにその姿を消していった。詠唱は何とも適当なものであったが、既にその場に魔術を使った痕跡はほとんどなく、後から見ても筋力強化くらいの魔術だっただろうと推測をつけるに留まるレベルだ。

 

 そして、警察官がいた痕跡が防犯カメラ、店員の記憶から抜け落ちていた。それどころか、再び店内に戻ってきた『悪魔』を見ても、店員は先ほどのように家出か何かとは思わず、普通に業務をしていた。記憶の改変だけではなく人心操作も含まれていたのだろう。しかし、機械にも通用する魔術など存在しているのか怪しい。

 

 『悪魔』は何事もなかったかのように、先ほど買い物かごにいれた商品をレジに持っていき、会計を済ます。

 

「ありがとうございましたー」

 

 店員のやる気のない声を聴きながらコンビニをあとにした『悪魔』は、両手にレジ袋をぶら下げ、満面の笑みで夜の闇にその姿を消していった。

 

 

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