Fate/world end ~ソラノハテとリクノハテ~ 作:神駆
焼き払われた森。
そこには嘗て■■が住んでいた家もなく、優しかった動物たちもいない。
残されたのは、齢15程の男女のみ。いや、女の方は虫の息だ。その傍らには、生きている男以外にもう一人の男がいる。彼は既に死んでいる。女はその男を守っていたのだろうか。
「……ああ、もう私もダメみたいね…………」
「…………」
「……ねえ■■。あなたに私の総てをあげるわ。力も知識も……魂も」
「…………」
「だから、お願い。奴等を……」
暫し無言の時間が訪れる。
「……何当然のこと言ってるんだよ! ボクがこのまま大人しくしている訳がないだろ! 父さんも! 動物たちも! ■■も! 皆殺られて! ……でも、僕だけじゃ出来ないよ。だから、■■! ボクの中で生きてくれ。ボクにも君にもそう出来る力はあるんだから」
「……そうだね。私、少し弱気になってたわね」
ややあって、女が返答する。その眼は先程までの諦めたような眼ではなく、意思を強く持った眼。覚悟を持った眼。
「始めるよ」
それだけで十分だった。優しい黒が女を包み込んでいく。そして、女の身体はこの世界から消滅した。
『成功みたいね』
何処からか頭に響く声が聞こえる。それを聞き、男は笑みを浮かべる。
「さあ、始めようか。この世界に対する反逆を」
この時より、彼らの復讐は始まった。目標は――――――魔術師。
◆
時臣との通信を終えた綺礼は何者かの気配を感じ、後ろに振り向く。そして、溜め息を一つ。
ここ数日、時間が空けば必ず訪れているアーチャーの姿がそこにあった。
「どうだ? 貴様の求めるものは見つかったか?」
アーチャーは口元を歪め、綺礼に問い掛ける。
「未だに分からない」
そう言いつつも、綺礼は自分の父を見たときに浮かび上がってきた「ナニカ」を自然と思い出す。
「おいおい、綺礼。お前は今笑みを浮かべているぞ? 気づかないのか?」
「私が……笑みを浮かべているだと? 何を言っているんだ」
「本当に気づいていないのか? では、聞こう。今、お前は何を思い浮かべていた?」
まるで自分には分かっているとでもいうようなアーチャーの態度。そして、綺礼の脳内では、父の死の光景が繰り返し流れていた。
――アア、自分ノ手デ■■タカッタ
――モット■■■テミタイ
「バ……バカな!! これが私のはずがない!!」
「おいおい、否定するなよ。それが紛れもなくお前なのだ」
綺礼の脳内では、様々な光景が浮かんでは消えていった。
父の死体。雁夜の惨めな姿。妻の死に際。
「それがお前の愉悦の形だ。受け入れるがよい。さすれば世界は違って見えるぞ?」
アーチャーの赤い目は喜びで細められ、まるで蛇のようだった。
◆
「セイバー、あなた大丈夫? さっきからずっと顔色悪いわよ?」
アインツベルン城の一室にアイリスフィールとセイバーは居た。先ほど切嗣への連絡を終え、この部屋に戻ってきたアイリスフィールだったが、セイバーの顔色が一向に回復していないのを見て心配になった。
「……すみません……」
「あなたらしくないわよ?」
「…………」
アイリスフィールの問いかけにまともな返答が出来ないセイバー。どうも先刻の戦闘が影響しているということは分かるのだが、それ以上のことは分からない。なにせ身の安全のために一定以上の距離を開けていたのだから。
原因として考えられるのは、キャスターとバーサーカー。キャスターのあの妙な戦闘方法なのか、バーサーカーの鎧が砕けたことなのか、その判断がつかない。
「……はあ。セイバー、今日はゆっくり休みなさい。私の護衛は舞弥さんがやってくれるから」
「……」
ついに返答すらなくなってしまった。仕方なく話し掛けるのを諦め、自室へと向かうアイリスフィール。
そして、扉が閉まる音と共にセイバーは崩れ落ちた。
一方、アイリスフィールは自室に戻ると、セイバー、つまりアーサー王関連の書物を開く。勿論目的はセイバーがああなってしまった原因を見つけることだ。
「んー、キャスターになりそうなのはマーリンくらいよねぇ……」
マーリンとは、アーサー王伝説に登場するアーサー王の助言者のことだ。彼は強大な魔術師であり、また万能であった。だが、その最期は愛した女に騙され、塔の中に幽閉され死んでしまう。その辺りから、聖杯戦争に参加する動機もありそうである。
だが、あまりにも今回のキャスターとはかけ離れている。彼はどの伝説においても老人の姿で描写されているのだ。ただ、セイバーという前例がある分、否定しきれるものではない。
しかし、マーリンが居たからといってあそこまでセイバーが動揺するだろうか。それに、動揺するタイミングがやはりバーサーカー寄りな気がするのだ。
「舞弥さん、ページ、捲ってくれる?」
アイリスフィールは既にヒトとしての機能を失い始めていた。セイバーが近くに居れば問題はないのだが、いったん離れてしまえば、歩くことすら困難なのだ。
だからこうしてページを捲ることすら人に頼まなければならない。
「バーサーカーになりそうな人物なんてアーサー王伝説にいるのかしら?」
「しかしマダム。バーサーカーは指定が可能なのですよね?」
「ええそうよ。その方法で召喚されていれば特定は難しいわね。セイバーだったら円卓のどの騎士がバーサーカーとして召喚されていても動揺するでしょうしね」
結局考えはここで行き詰まってしまった。バーサーカーが原因であろうことはほぼ確定したが、そこから先はやはり本人でないと分からない。戦略的な面で見ても、真名が分かるというのはそれだけで大きなアドバンテージを得ることになる。だが、当のセイバーがあれでは望み薄だろう。
「今日はここまでにしておきましょうか。じゃあ、舞弥さん。今日はよろしくね」
「はい」
夜は更けていく。そして、激動の時間はすぐそこまで迫っていた。
◆
そこは世界でも有数の都市だった。それゆえ、隠れ住んでいる魔術師も多数いた。
「く、来るなッ! いったい俺が何をしたっていうんだ!!」
「別に君が何かしたわけじゃないよ。君が魔術師なのが悪いのさ。
「ひ……ぎゃあああぁぁぁ……」
「これでこの街にいるのはあと一人、か。面倒だし、街ごと燃やしちゃおうか」
『それでいいんじゃない? どうせ最後にはこの街ごと消さなきゃいけないんだしさ』
足元でバラバラになった魔術師には目もくれずに、■■は誰かと相談する。
『あー! たまには私にやらせてよー』
「はいはい。じゃ、■■、頼んだ」
■■の身体が不自然に輝き、その姿を変えていく。背は縮み、体型も変わっていく。数秒後には、まったく違う背格好の人物になっていた。
「さーて、久しぶりだしおっきいのいきましょうかねー」
■■は空に浮かび上がると、両手を使って魔術陣を描き出していく。その際、袖の隙間からわずかに見えた腕には、びっしりと魔術陣が刻まれていた。
「うん。これぐらいでいいでしょ!」
そう言って周囲を見回す■■。魔術陣はこの街全てを覆うような壮大な規模になっていた。
「
……
……
発動した魔術は一度天高くで太陽のように球の形を取り、その後一直線に街へと向かう。
そしてそれが着弾した直後、猛烈な光が周囲を照らす。
その光を魔術で防御した■■は街を見て頷くと、その場を去って行った。
街だったその場所は、その高温で硝子状の物質になってしまった。おそらく住人は何があったかすらわからずに蒸発してしまったのだろうことは想像に難くない。
その街の名は、ニューヨークといった。