Fate/world end ~ソラノハテとリクノハテ~ 作:神駆
昼前に行動を開始したが、追跡がかからないように遠回りしながら移動したせいで、夕刻になってようやくアインツベルン城からの移動は完了した。
住宅地にある新しい拠点はまさに日本の屋敷という趣であった。しかし、魔術的な観点からすれば閉鎖空間が少ないため、工房が作りづらいという難点も抱えていた。それは土蔵に工房を作ることで無事に解決し、アイリスフィールは自分が敷いた魔術陣の上で休息を取っている。
切嗣は舞弥が放っていた使い魔からの情報でライダーのマスターの拠点を割り出し、すぐさま監視に向かっていった。
そんな中でもセイバーはふさぎ込んだままだ。移動中も一言も喋らず、ただそこにいるだけという感じだった。
そんなセイバーを見かねたのかアイリスフィールは声を掛ける。
「ねえ、セイバー。切嗣がライダーの拠点と思われる場所に向かったの。着いて行ってあげるかしら?」
「…………あなたを守る役目はどうするのですか」
「私は大丈夫。舞弥さんもいるのだから。……セイバー、少しは気分を変えるべきよ」
後半部分が本音だったのだろう。そんな気遣いをさせてしまうほど自分は落ち込んでいるのかとセイバーは思う。しかし、その気遣いを無碍にすることは出来ないセイバーは一言礼を言うと外に出て行った。
当然、セイバーが離れたことによりアイリスフィールの体調は悪化していく。今までは魔術陣の上で座っていたのだが、それも無理をしていたようでついには横たわる。
「マダム、またサーヴァントが脱落したのですか? 昨日より悪化していますが……」
「いいえ、違うわ。ただ、私の中にあった『
本来であれば、サーヴァントが一体でも倒れれば、アイリスフィールの体調は今よりもずっと悪くなっていたはずである。それを食い止めていたのが、『
「それよりも舞弥さん。あなたは何で切嗣に従うの? 一度聞いておきたかったのよ」
僅かな沈黙のあと、舞弥は語り始める。
「切嗣は私の全てだからです。私は、親の顔も、自分の名前ですら覚えていない。気づいた時には既に戦場に居ました。この久宇舞弥という名も、切嗣が作った偽造パスポートの名です。私が戦場で切嗣に拾われたその時から、私の全ては切嗣のものです」
「……そう、なの。……舞弥さんは願いとかはないの?」
「ありません。私は切嗣が願いを成就するための装置ですから」
その答えにアイリスフィールは沈黙する。自分のことを装置という舞弥はどことなく自分に似ている気がするのだろう。
『願いがないなんて嘘だよ。少なくとも、ボクはそう思うよ?』
突如響く声。この声には聞き覚えがある。キャスターだ。
切嗣に連絡を取ろうとした舞弥は風の魔術による拘束で身動きが取れない。そんな中、キャスターは姿を現した。
「別に君たちを襲いに来たわけじゃないからそう警戒しないでよ。マスターでもない君たちを襲ったところでボクに得はないんだから。怒り狂ったセイバーなんか相手にしたくないよ」
心底嫌そうな声を出すキャスター。やはりセイバーの対魔力は苦手なのだろう。
「ボクの今日の目的はお話だよ。前は戦闘中だったし、セイバーもいたから話せなかったんだけどね。アイリスフィール・フォン・アインツベルン。今代の聖杯の器と話したかったんだ」
「それで、何を話したいのかしら?」
「いやいや、大したことじゃないさ。ちょっと聞きたかっただけ。その
「不完全? いったいどういうこと?」
「そのまんまだよ。たかが英霊の一体や二体が入っただけでヒトとしての機能を失ってしまう器なんて不完全だよ。……尤も、完全な器が出来上がるのは次の世代なんだけどね」
後半部分は早口であったためにアイリスフィールは聞き取れなかったが、確かに納得できるものではあった。
今回の聖杯戦争では、前回のように器が戦闘中に破壊されることの無いようヒトの中に入れることで自衛本能などで器の破壊を防ぐことが目的のはずだ。しかし、実際アイリスフィールは動けなくなってしまっている。これでは確かに不完全といわれても納得できる部分がある。
「ま、そのことはどうでもいいんだよ。で、一体どんな感じ?」
「そうね……体が重くなっていく感じかしら。あとは体が熱く感じるわね。体温は変わらないのに内側だけ熱くなっていくわ」
「ふうん。ようするに魔力過多と同じかあ。ありがと。じゃあボクは行くね。……あ、そうそう。舞弥さん、おねーさんの願いなんてはっきりしてるじゃん」
「私に願いはありません」
「違うよ。おねーさんの願いはたった一つだよ。切嗣に願いを叶えてほしいっていう願いがあるでしょ? それを忘れちゃダメだよ」
言うだけ言ってキャスターは空間転移でその場を去って行った。それと同時に舞弥の拘束も解け、無理な体勢を強いられていた舞弥は少しだけ座り込み、足の痛みを取る。
「私の、願い……」
◆
ライダーの拠点を観察していた切嗣は突然の痛みに襲われた。その痛みを発するのは、舞弥と切嗣に仕込まれてる通信礼装だ。これに反応があったということは、何かが起こったということだろう。
そこからの切嗣の行動は早かった。一瞬の迷いもなく切嗣は令呪を発動させる。
「我が下僕に命ず! アイリを守れ!!」
令呪が発動した瞬間、セイバーの意識は強制的に覚醒させられた。今まで塞ぎ込んでいた姿はそこには無く、ただアイリスフィールを守るためだけに行動する騎士の顔になった。
令呪の強制力により空間を超えたセイバーが目にしたのは、破壊された土蔵だった。
慎重に中に入ると、倒れ伏している舞弥を発見した。
「舞弥! いったい何が!?」
「セイバー……ライダーが……マダムを……」
「わかりました!! あと少しで切嗣も来るはずです! それまで気をしっかり保ってください!」
そう言うと、すぐさまセイバーは屋根に上り遠くにいるライダーの姿を発見する。セイバーはそれを確認すると、屋根の上を伝って追跡を始めた。
切嗣が土蔵に到着したのはセイバーが来てから30分後だった。銃を手に取りながら辺りを警戒し土蔵へと入って行く。
切嗣は倒れ伏した舞弥を見つけると、その手を取る。その刺激でか、舞弥が目を覚ますが、その視線は朧げで焦点が合っていないように見える。
「……ないたら……だめ。まだ……だめ」
舞弥に言われ、自分が泣きそうになっていると初めて気付く。
「舞弥、僕は……」
「……だめ。……あなたは……よわいから。……ないたら……だめ」
舞弥は一生懸命手を伸ばし、切嗣の目元にたまっている涙を拭う。
「なみだは……あのひとのために……。あなたは……いきて。それが……わたしの…………ねがい……」
その言葉が引き金になったのか、切嗣は悲しむ顔を止めた。図らずとも、それが『魔術師殺し』である切嗣の本来の姿を取り戻すきっかけとなった。
「……やっと……むかしのかおに……なった……」
「……舞弥、君の役目はここまでだ」
その言葉を聞いた舞弥は微笑みを浮かべると、その生を手放した。
◆
「おい、これでいいんだな?」
「ああ。しかし姿を変えることが出来るとは。つくづくバーサーカーにしておくには惜しいサーヴァントだな」
とあるビルの屋上に綺礼と雁夜はいた。そのそばには、先ほどまでライダーの姿をしていたバーサーカーと、バーサーカーに抱えられているアイリスフィールの姿があった。
「だが、こんなことに令呪を二画使う意味はあったのか?」
「令呪を惜しむ必要はない。今の私は未使用の令呪を預かる身であるからして、君に令呪を渡すことなど造作もないことなのだからな」
そういうと綺礼は、雁夜の手を覆う。そこから赤い光が迸り、手を退けたときには、令呪が再び三画に戻っていた。
「本当に時臣に会わせてくれるんだな?」
「本当だとも。今夜零時。教会だ。忘れるなよ」
聞くだけ聞き、雁夜はその場を去って行った。十分に雁夜が離れたのを確認し、綺礼は何もいない空間に話し掛ける。
「人払いは済んだ。どのような用件かはしらないが、出てきたらどうだ?」
「ほう。流石に儂に気付くか。元代行者」
ビルの陰から姿を現したのは、間桐臓硯だった。