Fate/world end ~ソラノハテとリクノハテ~   作:神駆

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ACT.13

 

 

 深夜0時。教会の中では、一人の男が完全に狂ってしまった。

 

 彼の名は、間桐雁夜。バーサーカーのマスターである。彼は遠坂時臣との決着をつけるために言峰綺礼によってセッティングされた時間に教会にやってきた。だが、そこに居たのは、既に物言わぬ死体となっていた時臣であった。

 

 そこへやってきたのが、遠坂葵。時臣の妻であり、雁夜にとって好意を寄せる女性であった。だが、彼女は雁夜には目もくれずただただ時臣を見続ける。しまいには雁夜を罵り始めた。

 

 そこで、雁夜は狂った。

 

 

 

 

 

 ――コノヒトハイッタイダレダ。ナゼボクヲミナイ

 

 

 

 

 

 そんな考えが彼の胸中を満たしていく。元々狂っていた雁夜は、今度こそ完全に狂った。今の雁夜に通常の思考能力は無く、ただ破壊衝動に身を任せるだけだ。

 

「死ね! 死ね!! 死んでしまえ!!」

 

 口をついて出てくる言葉は『死ね』という言葉のみ。葵の細い首に掛けた手は魔術による無意識な強化も加わり、彼女の首は今にも折れてしまいそうだ。

 

 やがて、葵の口からは叫び声すら聞こえなくなり、身体は弛緩していった。ここに至って何故か雁夜は正気を取り戻してしまった。そして、自らの行いを自覚してしまった。

 

「あ……お……俺は……」

 

 葵の生死を確かめようともせず、雁夜は教会から逃げるように走り去っていった。

 

 雁夜が教会から出ていった後、アーチャーの声がどこからか響いてきた。

 

「初めてにしては中々良い劇であった」

 

 扉の影に隠れるように佇んでいたのは、アーチャーと綺礼。教会とはその性質上区切られてはいても話を聞くことが出来る構造をしている。事の始まりから全てをこの二人は特等席とも言える場所から鑑賞していたのだ。

 

「……さて、このまま放っておいては死んでしまうな」

 

 綺礼はそう言うと葵のもとへ向かう。

 

 簡易的な治癒魔術を施し、あとは病院へと送った。

 

 一仕事終えた風な綺礼は、グラスに残っていたワインを飲み干し、新たに違うワインの封を開ける。

 

「どうした、綺礼。貴様にしては飲むペースが早いのではないか?」

 

「……酒がこんなにも旨いものだとは知らなかった」

 

「酒とはな、綺礼。肴によって大きく味が変わるものだ。どうやら貴様も見聞を広げるすべを身に着けたようだな」

 

 アーチャーは愉快そうに笑うと、霊体化して姿を消していった。

 

 

 

 

 

   ◆

 

 

 

 

 

 教会から脱兎の如く逃げ出した雁夜は結界に囚われてしまった。

 

 その事に気付くも時既に遅し。雁夜に出来ることはバーサーカーを呼ぶことくらいだ。

 

「出て来い! バーサーカー!!」

 

 黒い鎧を纏ったバーサーカーが現界する。雁夜には視認出来ないが、バーサーカーには敵サーヴァントの姿が分かっているらしく、その赤い双眸は、一点を見続けている。

 

『ようこそボクの領域へ』

 

 何処か馬鹿にしたようなキャスターの声が聞こえる。バーサーカーの視線の先が歪み、そこからキャスターは姿を現す。

 

 先の一戦でバーサーカーはキャスターを障害として認識している。マスターである雁夜の言も聞かず、突進していく。

 

 予想済みだったのだろう。特に慌てることなくキャスターはお得意の転移魔術で一瞬にしてその場を離れると、バーサーカーを指さしながら詠唱を始める。

 

Ventusu volvens(風は廻る). Ieiuni um acriter(速く鋭く), note ieiunium(尚速く).」

 

「バーサーカー! 詠唱を止めろ!」

 

 危機を感じた雁夜が命じるが、それよりも早く魔術は完成した。

 

Aspera insanient(荒れ狂え)

 

 放たれた魔術は四方八方に広がり、その途上のものを切り刻んでいく。

 

「く、まだ死ぬわけには……いかない!! 令呪を以って命ずる! バーサーカー! 俺を守れ!」

 

 令呪によって、離れていたバーサーカーは雁夜の眼前に移動し、不可視の刃を()()()()で叩きおとす。

 

 その剣が抜かれたせいて、急に魔力消費が増大し、雁夜は思わず膝をつく。

 

「やっとその剣を抜いたね、ランスロット」

 

 刻印蟲の痛みによって喘ぐ中、キャスターがバーサーカーの真名を呼ぶのが聞こえた。真名を看破されたということは、弱点が露呈することと同じだ。

 

「早く殺せ! バーサーカー!!」

 

 雁夜はバーサーカーに司令を出すが、既にその身体は限界を迎えようとしていた。

 

Ignis adolebit ex(火は焼き尽くす)

 

 対するキャスターは、火の魔術を放つが、バーサーカーの剣によって防がれる。それすら予想通りというように、キャスターは様々な属性の魔術を放つ。どれも魔術的には初歩のものではあるが、英霊の放つものとなれば、人一人殺すには十分な威力を誇っている。しかし、それもとてもバーサーカーとは思えない絶妙な剣技によって防がれていく。

 

 だが、キャスターの顔に焦りの色は無かった。

 

 バーサーカーは先ほどの令呪によってマスターである雁夜を守らなくてはならない。それをキャスターは利用し、バーサーカーと雁夜が一直線になるよう誘導、そこからあえて直進系の魔術を放つ。そうなればバーサーカーは避けることが出来ず、剣でもって防ぐしかない。そして、バーサーカーが剣を振るうたびに雁夜は消耗していくのだ。

 

「そろそろキツイんじゃないの? Ventus concidito sculpes(風よ切り刻め)

 

 とどめとばかりに風の魔術を放つキャスター。それを辛うじてバーサーカーが防いだところで、雁夜の魔力は尽きてしまった。既に指先一つ動かせない状況で、今すぐにでも死んでしまいそうだ。

 

「私は……消えるのか……」

 

 バーサーカーが明確な言葉を発する。消滅の間際になって狂化が解けたのだろう。

 

「……私は、裁かれたかったのだ。……王の手によって……」

 

「それは傲慢だよ、ランスロット。自らの罪は自らが清算すべきなんだ。他人に裁かれるなんて、そんなものただの『逃げ』だよ」

 

 バーサーカーの独白にキャスターが答える。いつもより大人びているその言葉は、バーサーカーに響いた。

 

「だが、それでも……私は王に……」

 

「それは君が弱いからだよ。意思が弱い。ギネヴィアを助けにいったんだったら、王を殺す覚悟で行くべきだった。王の判断を仰がなければ何もできない君の弱さが原因だよ。もしかしたら、滅びの運命も変わっていたかもね」

 

「…………」

 

 バーサーカーは沈黙する。キャスターから言われたことは『ブリテンの滅びはお前のせいだ』ということに他ならない。自分ではわかっていたものの、他人から言われるというのは初めてのことだった。

 

「まあ、今更どうにでも出来ないことで悩む必要はないよ。それは全て()()の出来事なんだから」

 

「…………」

 

「過去に囚われたままじゃ前に進めない。ボクもそうだったし、セイバーやランサーだってそうさ。……いや、聖杯戦争に呼ばれる殆どの英霊はそうか」

 

 容姿と合わないあまりにも大人びた言葉。一体キャスターの過去には、どれだけのものがあったのだろうとバーサーカーは思う。それが口に出たのだろう。

 

「……あなたは、強いんですね」

 

「ボクは弱いよ。聖杯なんてものに頼らざるを得ない」

 

「それでも私よりずっと強い。私はあなたに初めて言われました。『ブリテンの滅びはお前のせいだ』と。私はようやく自分の罪と向き合うことが出来たように思えます」

 

 もうバーサーカーの身体は殆ど消えている。現界していられるのもあとほんのわずかだろう。

 

「最期に……あなたの名前を教えて頂けないだろうか」

 

「……ボクの名は、リク・チェラーシス。彼女と一緒に決めた名だよ。でもボクの最初(起源)の名前は違う」

 

 キャスターは指を鳴らす。すると、今まで黒かった髪は色が抜けていき、綺麗な銀髪に、同様に黒かった目は赤に染まっていく。その姿はまぎれもなく――――――

 

「これがボクの本当の姿。名は、ツェーン・()()()()()()()

 

「……感謝する。私はランスロット。あなたに会えて良かった」

 

 最期にそう言ってバーサーカーは消滅していった。

 

『――――――』

 

「うん。行こうか」

 

 キャスターは誰かと会話すると、結界を解き姿を消した。

 

 

 

 

 

   ◆

 

 

 

 

 

 雁夜は辛うじて生きていた。どうやって辿り着いたのか、今となっては思い出すことが出来ないが、雁夜は今、間桐家の蟲倉にいた。

 

 雁夜は夢を見ていた。葵と凛と桜が公園で遊んでいる。

 

 とても幸福で、一つの悲劇もない世界。

 

『あなたは掴んだのです。あなたの望んだ世界を』

 

 そして雁夜は自らの夢に旅立った。雁夜にとってこの夢が現実のものとなったのだ。

 

 最期に響いた声の主。それがキャスターによって仕掛けられた、自らの心の声を聞かせる魔術だとは、終ぞ気づくことなく。

 

 ある意味、雁夜はこの第四次聖杯戦争で最も幸福な終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おじい様に逆らうから……」

 

 佇む桜の袖を掴む雁夜の手。それを、桜は払い落とす。その目は、雁夜を見下している。

 

「私はこんなにも自由なのに」

 

 桜が手をかざす。その動きに連動して蟲達が雁夜に群がり、喰らい始める。

 

「さようなら。哀れな雁夜おじさん」

 

 雁夜が一片も残さず蟲達に喰らいつくされるのを冷淡な目で見届けると、桜は蟲倉を出て行った。

 

 

 

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