Fate/world end ~ソラノハテとリクノハテ~ 作:神駆
その夜は何処か異常な夜だった。冬だというのに空気は生暖かく、体に纏わりつくような不気味な気配。魔術師ではない一般人にもその感覚は感じられた。
当然、魔術師ともなればその感覚は一層強く感じられた。
『今日、聖杯戦争は決着する』そんな予感がマスターたちにはあった。
詳しく聞かされていないコトネは、その事は分からないが、その空気の異常さは、同年代の誰よりも鋭敏に感じとっていた。
「ねえ、SORA先生、この空気何?」
「分からないわね。但し何か起こるかもしれないから、私は今日はずっと出てるわ」
コトネの本に宿るSORAは、今夜ずっと外に出ているという言葉を聞いて、少しは安心したのか、ようやく布団に潜るコトネ。
SORAは探査魔術を家に掛け、椅子に腰掛けた。
◆
セイバーは、一日中街でアイリスフィールを探していた。昨日の夜にアイリスフィールを見失って以来、不眠不休で歩き続けた。
途中、マスターである切嗣の下を訪れたが、特に会話も無くセイバーが一方的に話しただけだった。どうやら切嗣はアイリスフィールよりも、目先の戦いにその気持ちを向けているようだった。
セイバーとてそれが正しいとは分かっている。だが、騎士としてアイリスフィールを守れなかったことが、彼女を諦めるという選択をさせない。
いつの間にか空は暗くなり、何やら重い空気が立ち込めていた。
セイバーは、郊外の森で少し身体を休めることにした。休んでいる暇は無いと心は訴えるが、それ以上に身体を休ませなければならないと、自らの直感が告げていた。
「……一体何処にいるのですか…………。それに、サー・ランスロット……」
信号弾が打ち上がったのはそんな時だった。
意味は分からずとも、切嗣がその信号弾が打ち上がった場所へと移動したということは、そこにサーヴァントがいるのだろう。それにもしかしたらアイリスフィールも。
セイバーは、黒いスーツから鎧へと着替え、森を抜けようとする。だが、その背に向かって声がかけられた。
「勝負だよ。アルトリア・ペンドラゴン」
その声は、やけに響いていた。
◆
ウェイバーが信号弾が打ち上がったのを見たのは、マッケンジー宅であった。
「今のは……『達成』と『勝利』? 聖杯戦争が終わったってのか?」
「いいや、違うな。あれは謂わば宣戦布告。ここに来いというな」
ライダーはそれだけ言うと、窓を開け放ちそこから飛び降りた。ウェイバーにそれが出来るはずもなく、ウェイバーはマッケンジー夫妻を起こさぬように静かに玄関から出ていく。
ライダーは既に準備万端であるらしく、
「……ウェイバー・ベルベットが、令呪を以って命ずる。ライダー、絶対に勝て。負けなんて認めない」
手の甲に刻まれた令呪が一画消える。それを見ずに、ウェイバーは続ける。
「重ねて令呪を以って命ずる。ライダー、聖杯を掴め。失敗なんて許さない」
これで二画消費した。残った令呪を名残惜しむようにして暫し見たあと、ウェイバーは告げる。
「更に重ねて令呪を以って命ずる。ライダー、世界を掴め」
そこまで言ったウェイバーは、ライダーに背を向ける。それは、ウェイバーからすればライダーへの決別の合図だった。だが、ライダーはウェイバーを掴み上げると、御者台に乗せる。
「おい! なんで乗せるんだよ! 僕はもうお前のマスターじゃないんだぞ!」
ウェイバーは分かっていた。自分が一緒に居るせいで本気を出して戦えないのだと。だがらその憂いを断とうとした。
「何を言っとるか。余と様々な戦場を駆け回った貴様はもう余の
「……分かった。僕も行く。いや、行くぞ! ライダー!」
「おうとも!!」
◆
信号弾の打ち上がった場所、つまり冬木市民会館に一人の姿があった。言峰綺礼である。
彼が信号弾を打ち上げたのは、衛宮切嗣に居場所を知らせるためであった。
「綺礼、
霊体化を解いたアーチャーが、綺礼の横に立ち問い掛ける。
「ライダーを迎え撃て。それに、ここで暴れられては聖杯自体が危うい。アーチャー、ライダーとお前が戦えば加減などしないのだろう?」
「当然だ。我が財宝を荒らすものに加減など不要。まあ、確かにここで
「その時は令呪を使う。いいか?」
「許す。まあ、その場合聖杯は保証せぬがな」
「まあ、その心配はないだろう。今現在、セイバーとキャスターは戦闘中のようだからな」
そう言って綺礼が目を向けた先では、通常有り得ない現象が起こっていた。木が倒れ、水が弾け、時折風が倒れた木を上空へと吹き上げる。確かにそれはサーヴァント同士の戦闘の余波だろう。
「ならば、迎え撃つとしようか。ではな」
アーチャーは霊体化し、橋の方へ向かっていった。一人その場に残った綺礼は、ただ衛宮切嗣の登場を待ち受ける。
◆
キャスターは、その空気に混ざる雰囲気から、今日が決着の日であるといち早く気付いた。
そのため、持ち金すべてを使い、飲食物を買い漁り魔力の補充を行っていた。
「ん、これはいまいちだったなー。失敗失敗」
『――――――』
「分かったよ。味覚だけ共有すればいいの?」
『――――――』
昨日、ライダーが休息を取っていたまさにその場所で、キャスターは食事を摂っていた。自分の内にいるもう一人と会話しながら、手を止めることなく食べ進めていく。
「これはうまい!!」
『――に――――!!』
「次はこれにしようかなー」
『――早く!』
今まではキャスターが一人で話しているように見えていたのだが、魔力が充足していくにつれ、もう一人の声も聞こえるようになっていた。その声色は少女のそれであり、コトネの持つ本から出てきたSORAと同じものであった。
「あ、これ最後の一つだ」
『ちょ、ちょーっと待ちなさい!! 身体交換して!! 私が食べる!!』
「いやだ」
キャスターは声を無視して食べようとしたが、口に入れる直前でその動きを止める。
『どうしたの?』
「いや、どうも聖杯の器が聖杯の受け皿として機能し始めたらしいね。ボクには感じられる」
『ふーん。ま、どうでもいいじゃない。ほら、さっさと私に身体の主導権よこしなさい!!』
「だが断る」
キャスターは手に持っていたシュークリームを一口で頬張ると、同時に手を打ち鳴らす。すると、食べ散らかっていたものが一つにまとまり、炎の魔術でまとめて焼却された。
『あーーー!!』
「いいじゃん、別に。聖杯取ったら出てこれるんだしさ」
『でも!! でも!!』
「それよりもさ。ボクはこの後どう動けばいいと思う?」
食べたり会話している内に、すっかり辺りは暗くなっている。そしてキャスターは声と相談を始める。
『多分、ライダーとアーチャーが戦うわよね。そしたら残るはセイバー。色々精神的にやられてるはずだし、セイバーから狙えば?』
「確かにそうなんだけどさ。対魔力がどこまであるか分からないからなー」
キャスターのマスターはコトネである。つまり、ステータスの透視などしているはずもなく、キャスターは敵サーヴァントのステータスが全く分からないのだ。
『そうなのよねー。でもあくまで対魔力だし、直接攻撃すればいいんじゃない?』
「キャスタークラスで呼ばれたボクにそれをしろと? 無理無理。ソラみたいに魔力放出ないし」
『じゃあ、あれやりましょうよ』
「やっぱりあれしかないかー。…………ん? 結界に何か引っかかった?」
キャスターはここら一体に仕掛けていた探知結界に何者かが引っかかったのを感じた。目を瞑り、意識を集中させる。そこに居たのはセイバーだった。
「セイバーだ。ちょうどいいや。行こうかソラ」
『そうだね。リク』
キャスターと内なる少女ソラは戦場へと向かった。
「勝負だよ。アルトリア・ペンドラゴン」