Fate/world end ~ソラノハテとリクノハテ~   作:神駆

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ACT.16

 

「令呪が消えた……。負けちゃったのね、リク」

 

 椅子に腰かけていたSORAはコトネの右手を見て呟く。そこにはつい先程まで刻まれていた三画の模様は無い。

 

「…………私ももうそろそろ消えるわね。ま、魔力さえあれば出てこれるんだけど」

 

 自分の中の魔力が急激に失われていく。今や形を保つのが精いっぱいだ。コトネが魔力供給をすれば問題ないのだが、今コトネは睡眠中。言付けでも書いておけばいいだろう。そう考えていた。

 

 しかし、そう簡単にこの夜は終わらなかった。

 

 張り巡らされた結界がいち早く異常を察知する。それは火事であった。しかし、明らかに通常のものとは違っている。火に触れた瞬間に家が燃え上がるのだ。

 

「コトネちゃん! 起きて!!」

 

 SORAはなけなしの魔力を掻き集めこの家に防御魔術を掛ける。そしてコトネを起こしに向かった。叩き起こされたコトネは目を擦りながらSORAに問いかける。

 

「…………どうしたの?」

 

「火事よ! 早く避難する準備……を……」

 

 そこでSORAは言葉に詰まってしまった。分かってしまったのだ。既にこの家以外周囲の建物すべてが燃えているのだと。そして、これを引き起こしたものの正体にも気づいた。何故なら彼女の元となる人格にある記憶はこの光景を知っている。

 

「え? なにこれ? わけがわからないよ!!」

 

「拙い! 私の魔術が破られ―――!!」

 

 やはり即興の魔術では長くもたなかった。あっという間にコトネの家も火に包まれる。それでもコトネだけは守れるようにと魔力を振り絞りコトネの部屋に新たに防御魔術を展開する。しかし、それが長くは保たないことも同時に理解していた。

 

 これが本当に()()であるのなら特上のエーテル体であるサーヴァントですら抗うことのできないものなのだ。サーヴァントはおろかその魂の欠片であるSORAの展開した防御魔術など紙のようなものだろう。それでも、リクがコトネに渡した装飾品の魔術が発動するまでの時間はどうにか稼ぐことができた。

 

「ひ……ッ! 助けて!! リクくん!!」

 

 コトネがそう叫びながら、首元のネックレスを掴む。それはリクがコトネに渡したものである。その行動が鍵となり、ネックレスに刻まれていた魔術陣が周囲から莫大な量の魔力を掻き集め、防御魔術を発動した。その魔力吸収の余波に巻き込まれ、SORAは消滅し、コトネ自身も体内の魔力を過剰に吸収され気を失った。

 

 コトネが気を失っても魔術の発動は途切れなかった。魔術陣からは絶え間なく風が吹き出し、周囲から魔力をかき集め続ける。魔力吸収と防御が一体となったこの礼装はこの現象の大元である冬木市民会館にある穴が塞がるまでその効力を発揮し続けた。

 

 

 

 

 

   ◆

 

 

 

 

 

 コトネが目を覚ました時、目の前には一人の男がいた。名は衛宮切嗣。生存者を捜し歩き、つい先ほど一人の生存者を救っている。その目は絶望の淵にあった者が一筋の希望を見つけたような色をしていた。

 

「あなた……だれ?」

 

「僕は衛宮切嗣。さあ、ここから出よう。ここらはまだ危ないからね」

 

 切嗣に手を引かれその場を出るコトネ。ふと後ろを振り向くと、かつて自分の家だったものがそこにあった。そして、そこからはみ出ている黒焦げた足――

 

「い…………いや……いやーーーーっ!!」

 

 それが誰のものか理解してしまったコトネは再び意識を失った。

 

 

 

 

 

   ◆

 

 

 

 

 

 それからコトネは病院に連れていかれ精密検査を受けた。あの火災の中傷一つない身体は医者を不審がらせたが、特に言及はしなかった。――いや、出来なかった。

 

 それはコトネが入院してから3日後のことだった。

 

 切嗣に連れてこられて以来目を覚まさなかったコトネは3日目にしてようやく目を覚ました。コトネが周りを見ると何人もの子供たちがベッドに寝かされていた。恐らくこの火災での被害者なのだろう。

 

 目を覚ましたコトネは看護師に連れられて診療室に向かった。そこでいくつかの検査をし、医師と会話しようとした時のことだ。何度話しかけても医師が反応しない。懸命に口を開き大声を出しても医師には聞こえない。

 

 埒が明かないのでコトネは医師の白衣の袖を引っ張る。そこでようやく気付いたのか医師がコトネの方を向いた。

 

「――――――――――」

 

「……もしや、喋ることができないのかね?」

 

 そんなことはない、とコトネは口に出したはずだった。しかしそれは音として医師に伝わっていない。コトネ自身の中では声は聞こえているし出ているのに。

 

「火災のショックで喋ることが出来なくなってしまったのか……」

 

 違う! と言いたかった。しかし、伝わっていないことが理解できてしまった以上何もコトネに出来ることはなかった。

 

 そして、彼女は診療室を飛び出した。

 

 どこに向かっているのかはコトネ自身分かっていない。ただ、その場にいたくなかった。無我夢中で走り続け、コトネは黒いコートを着た人物にぶつかってしまった。

 

 すいません、と言うことすら出来ないことにコトネは涙が出てきた。

 

「ああ、ごめんね。……君は」

 

 どこかで聞いた声だ、とコトネが顔を上げると自分を助けてくれた人が目に入った。

 

「覚えていないかもしれないけど、僕は衛宮切嗣。君の名前は?」

 

 話すことのできないコトネは落ちていた木の枝を拾うと、地面に『さくらう ことね』と書いた。

 

「コトネちゃん。うちで暮らさないかい? 君が嫌だというならそれでもいい。ただ、僕は君を放ってはおけないんだ。……身勝手でごめんね。出来れば考えておいてくれると助かるよ」

 

 切嗣はそれだけ言うと病院の方に向かっていった。コトネが喋ることができないことに関しては何も言わなかった。それでもその声色からは本当に心配しているということが伝わってきた。

 

 

 

 

 

 ――そして、一週間後。コトネは切嗣に引き取られることとなった。

 

 

 

 

 

   ◆

 

 

 

 

 

「よ。目が覚めたか?」

 

「ん? ここはどこ?」

 

「ここは聖杯の中だ。お前、俺と同じなんだろ?」

 

「同じってなに? ボクは君みたいに体中に入れ墨なんてしてないんだけど?」

 

「そうじゃねえよ。お前は俺と同じ呼び名で呼ばれたんだろ? なあ、この世全ての悪(アンリマユ)

 

「……ああ、そう呼ばれたこともあったっけ」

 

「そうそう。んでさ、ちょーっとお願いがあるんだ」

 

「なに?」

 

「ああ。――――――ってこと、してくれねえか?」

 

「いいよ」

 

「じゃ、ゆっくりしてけよ。どうせ次の聖杯戦争まで暇なんだからな」

 

 

 

 

 

   ◆

 

 

 

 

 

 ~五年後~

 

 

 

 

 

 それは月の綺麗な夜だった。

 

 衛宮切嗣は縁側に座り、ただただ月を眺めていた。傍らには、赤い髪の少年。

 

 名前は士郎。あの火災の中、切嗣が助けることが出来た二人の内の一人だ。もう一人の少女、琴音は既に床に就いているのだろう。

 

「……僕はね、子どもの頃正義に味方に憧れてたんだ」

 

「いきなりどうしたんだよ。それも憧れてたって、諦めたのか?」

 

 士郎の中で、切嗣の存在は大きなものになっていた。彼の中にある、自己犠牲と正義の心は、どうやら切嗣の存在が大きいらしい。彼は切嗣が過去に行ってきたことを知らない。もちろん、切嗣も知らせるつもりは無かった。

 

 しかし、切嗣はついに士郎に自分の歩んできた道のりがいかに間違っていたのかを諭すことが出来なかった。

 

 そして、琴音。彼女を助けたとき、振り向かせてしまった。切嗣も、そこに死体が、それも琴音の家族であろうものがあるのは分かっていた。だからこそ、切嗣は強引にでも後ろを振り向かせないように琴音を引っ張るべきだったのだ。

 

 それが切っ掛けなのだろう。琴音は声を失ってしまった。学校での会話は筆談で行い、家では魔力を用いた『声』を使う生活を送っている。医者によれば精神的なものであるため、回復する余地はあるというのだが、それを聞いても全く慰めにはならなかった。ただ後悔するだけである。

 

「……そうだね。正義の味方っていうのは、期間限定だったんだ。そんなこと、もっと早く気付けばよかったんだ」

 

「そっか、それじゃ、しょうがないな」

 

「ああ、本当に、しょうがない」

 

「うん。しょうがないから、俺がなってやるよ」

 

 士郎は言った。かつて自分が諦めたものになってくれると。そして、思い出す。初めてそれを口にしようとしたときのことを。

 

『ケリィはさ、どんな大人になりたいの?』

 

 確かに、その声を聴いた気がした。彼女(シャーレイ)が切嗣に掛けた問い。今、この気持ちでなら嘘偽りなく彼女に言えるのだろう。

 

「任せろって。爺さんの夢は、俺が受け継ぐ」

 

 士郎の誓いの言葉が聞こえる。

 

「そうか。ああ―――安心した」

 

 そして、切嗣は眠るように息を引き取った。嘗て、初恋の女性であったあの人に言えなかった言葉を胸に抱いて。

 

 

 

 

 

   ◆

 

 

 

 

 

 ~10年後~

 

 

 

 

 

 穂群原学園に、衛宮士郎、桜卯琴音は通っていた。二人は名字は違えど、同じ養父のもとで育ったため、本当の兄妹のようだ。

 

「あ、先輩。おはようございます」

 

「ああ、おはよう桜」

 

 琴音は喋れないため、頭を下げる。それを見るたびに士郎は心が痛む。正義の味方になると言っておきながら、最も近い琴音すら救えていないということが、彼にとっては悔しい。

 

「お、琴音じゃないか」

 

 そう言ってこちらに歩いてくるのは間桐慎二。クラスメートである。

 

 琴音は慎二の姿を見つけると、走り寄って行く。士郎の知らぬ間にこの二人は仲良くなっていたのだ。今ではよく家に遊びに来ている。

 

「そうだ、慎二。美綴がもうそろそろ部活に来いだってさ」

 

「は! 嫌だね」

 

 しかし、琴音が睨んでいるのに気付くと、慎二は自分の言を撤回する。

 

「い、いやまあ、たまには出てやるか」

 

 背中に冷たい汗をかきながら慎二は答える。慎二は琴音のこの目線に勝てないのだ。それは初めて知り合った中学二年のころからだ。

 

「あのー、先輩? 早くしないと遅れちゃいますよ?」

 

 気づけば時間は遅刻間際。遅刻すると冬木の虎が五月蠅いので、見とがめられない程度に走って教室に向かう。

 

 しかし、こんな平穏な日々は続かなかった。

 

 

 

 

 

『……?』

 

「どうしたんだ? 琴音」

 

『ううん、何でもないよ。士郎』

 

 何でもないと言いつつ右手を隠す琴音。そこには、嘗てそこにあったものと同じ模様が浮き出ていた。

 

 令呪。聖杯戦争のマスターの証。魔術の鍛錬を怠っていなかった琴音は、遂にあの魔導書を最後まで読み進めている。令呪を授かるには十分な実力がある。そして、触媒も、この本を使えばいい。

 

 琴音は楽しみだった。リクにまた会うことが出来るのだから。

 

 しかし、それは恋愛感情ではない。どちらかといえば、よくできたと褒められたい、そんな感情なのだ。

 

 何せ、彼女の恋愛感情は、間桐慎二に向いているのだから。

 

 

 

 

 

『ごめんね。こんなものに付き合わせちゃって』

 

「気にするなよ。僕だってサーヴァントを見てみたいんだ。それに、もしかしたら僕にも令呪が宿るかもしれないだろ?」

 

『…………』

 

「何か言ってくれよ。僕だって魔術師の家系だ。可能性が無いわけじゃない」

 

『……でも、魔術使えないじゃん』

 

「う…………」

 

 琴音は慎二と共に夜の市民公園で召喚を行うことにした。嘗て住宅街だったその場所は、10年前の大火災によってほとんどの家屋が焼け落ちたため、今はその犠牲者の追悼碑とともに公園となっている。

 

『始めるよ』

 

 そして、召喚の儀は始まった。

 

 

 

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